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第一章 新しき世界

第6話 巻き込んだ者たち

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「え!? ここはどこ?」

「お、お母さん」

 私はサクラの母親のモミジ。娘が見たことのある男性とぶつかって謝っていると一瞬で景色が変わっていた。驚きながら周りを見回す。
 赤い絨毯に石造りの広間? まるで玉座の間のような場所。西洋の鎧を着た男達が赤い絨毯の両端に並んでる。

「ようこそ我がクーナリア王国へ! 勇者様方」

「クーナリア?」

 ちょび髭の男が声をあげる。この人達が私達をここへ?

「ど、どういうことですか?」

「あなた達は勇者として選ばれたのです」

「勇者?」

 勇者ってゲームやアニメの主人公のことよね? 私やサクラがそれだって言うの?

「わ~! お母さん! これって異世界転移だよ! 今、アニメで人気があるんだよ~」

 サクラは嬉しそうにキラキラと目を輝かせてる。でも、勇者は魔物と戦うものでしょ? サクラが魔物と……そんなのダメ。

「勇者なんて知りません! 元の場所に帰してください!」

「申し訳ありませんがそれはできません。召喚は一方通行なのです」

「そ、そんな……」
 
 こ、こんなの誘拐と同じじゃない。

「悲観することはありません。衣食住は我がクーナリアがお世話させていただきます。王様」

「うむ」

 ちょび髭の男が声をあげると玉座に座っていた王冠を被る太った男が立ち上がる。彼の横にはガタイのいい男の人が立ってる。
 玉座の前の階段を一段一段降りてきて私の前に立った。小さい……。

「儂はグーダラ。このクーナリアの王じゃ! 勇者たちよ。良き働きを期待しておるぞ」

 名を名乗って私の手を握ってくるグーダラ。触られた手から鳥肌が立っていくのが分かる。

「ぷふ~。小さいおじさん」

「さ、サクラ!?」

 その様子に敏感に反応したサクラが失礼なことを呟いた。顔を青ざめてグーダラを見ると顔が赤くなっていくのが見えた。

「この者を処罰せよ!」

 怒り狂ったグーダラの声に赤い絨毯の両端で並んでいた兵士達が動き出す。長い槍がサクラへと突きつけられる。

「グーダラ王! 勇者を傷つけてはいけません! 今までの苦労が水の泡となります」

「ぐははは。冗談だギリル大臣。しかし、冗談も一度限りだ。小娘、お前が勇者だろうが何だろうが私を馬鹿にすることは許さんぞ。お前もだ女! 少し容姿がいいからと調子に乗りおって」

「父上。いらなくなったら処罰なんてせずにこのダラクにくださいよ。あれだけ容姿がいいんだからいい声で泣く。今の奴隷は泣き声をあげないからつまらないんです」

 ちょび髭の大臣、ギリルの声で留まるグーダラ。それを追いかけて嫌な声をあげているのは息子なのかな? 私たちを睨みつけると玉座の後ろの扉へと入って行く。

「勇者様方。グーダラ王は短気な方です。口を慎むように。王子であるダラク様の奴隷になるのはお勧めできませんからね」

「ちびだから我慢も出来ないんだね~」

「勇者様……」

 ギリルさんの声にサクラが悪態をつくと彼は呆れて首を横に振る。
 私達はギリルさんに色々教えてもらう。この世界の成り立ちや魔法、魔物の話。常識なんかも教えてくれて、この世界が地球じゃないのを再確認させられた。

「あのおじさんはどうなったのかな?」
 
 勉強をひとしきりさせられて寝室へと通された。ベッドに横たわってサクラが呟いてる。
 あの男性はどこかで見たことがあった。

「どうしたのお母さん。お腹痛いの?」

「ううん。あの人のことを考えていたの。どこかで見たことがあったのよね」

 心配するサクラの頭を撫でて答えると再度考え込む。確かにどこかで見たことがある。ん~、ここまで出ているんだけどな。

「あのおじさんもここに来てるのかな~」

「ギリルさんが言うには選ばれた人しか来れないって言ってた。あの人は来れてないのかもね」

 サクラの声に答えるとなぜか残念な気持ちでいっぱいになる。何だろうこの気持ち。

「あの人ずっと謝ってたね~。お母さんと一緒に頭を上下させてて面白かったな~」

「ふふ、そうね。……どこかで見たことがあると思ったら、そうかあの時の」

 サクラの声で思い出した。あれは私が小学生のころ。サクラの木にぶら下がった少年たちが枝を折ってしまっておじさんに怒られていた時。

『ごめんなさいごめんなさい』

 少年のグループの一人がずっと謝っていた。仲間はすでに逃げていたのに少年だけが謝っていた。

『なんで逃げなかった? 怒られて嫌な思いをすると思わなかったのか?』

 怒っていたおじさんが少年に問いただす。すると少年は涙を流しながらこう答えたの。

『僕が友達を止めることが出来なかったのがいけなかったから、そんな弱い僕のせいでサクラが傷ついちゃったから僕が謝ります』

 少年の言葉に私もおじさんも思わず顔を見合ってしまった。知り合いでもないのに私達が顔を見合ってしまうほど、心の綺麗な少年。確か名前は、

「ユアサ マモル……」

「え? なに? あのおじさんの名前?」

 本当にあの人の名前かは分からないけど、なぜか確信めいていた。サクラが首を傾げて聞いてくるけれど、笑顔で答えることしかできなかった。なんで今まで忘れていたんだろう。私の初恋だったのに。
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