社畜おっさんは巻き込まれて異世界!? とにかく生きねばなりません!

カムイイムカ(神威異夢華)

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第一章 新しき世界

第4話 冒険者

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「今日も【エールで柔らかファングディアの一口ステーキ】!」

「は~い。皆さんも好きですね。私も好きですけど」

 ティシーさんへ注文を飛ばす冒険者さん。注文が入る前にすでに焼き始める私。初めてこの料理を出した時から三日も経つのに注文が止みません。私は大変なものを作ってしまったみたいですね。

「ダルクさん。ファングディアを解体してもらえませんか?」

 調理場で料理を作っているとそんな声が受付の方から聞こえてきました。フライパンを持ちながら受付の方を見ると大きな鹿を引きずってもって来ています。あれがファングディアですか。

「今さっき仕留めたのか?」

「はい。町の近くまで逃げられて」

「なるほどな。だけど残念だな。今丁度解体士が外に出ててな。もう少し後になる……いや、マモルさんなら出来るか?」

 料理を仕上げて皿に盛っているとダルクさんの視線を感じて見るとウインクしています。鹿の解体なんてやったことないんですが……。

「あれ? あのファングディア、光っています?」

 ファングディアのお腹や首辺りが光っているように見える。なぜでしょうか、切る順番が頭に入ってきます。

「よっこらせ。マモルさん、どうですか?」

「不思議ですが出来ない気はしません。むしろ自信しかありません」

 ダルクさんが自分よりも大きなファングディアを調理場に持ってくる。目の前にあると手がうずうずしてくる。これもスキルの効果でしょうか?

「勝手に手が動きます!」

「おお、凄い凄い。カシムの言っていた通りだ」

 包丁を持った手が勝手にファングディアを解体していく。肉を切っている感触ではありません。これは水を包丁で撫でるかのような感触、抵抗が全くない。

「剥ぎ取りの極意とは解体に特化したスキルってことだったんですね」

「ああ、カシムはそう予想していて、俺に解体するものが来たら任せて見てくれって言っていたんだ」
 
 ファングディアの解体を一瞬で済ませてダルクさんに聞く。やはりカシムさんは優秀なリーダーですね。

『レベルが上がりました』

「え!? 解体でもレベルが上がるんですね」

 解体をしただけでシステム音声みたいな声が聞こえてきた。

「ああ、魔物だからな。そう言うこともあるな」

「え!? 魔物ですか? 確かに大きな動物ですが……」

 魔物……ということは私達は魔物の肉を食べていたんですね。なんだか不思議な感覚。

「動物に魔素、魔法を使う上で使うMPってやつだな。それが溜まると魔物になるんだ。動物は極力狩りをしないで魔物を積極的に狩るんだ。それを食べたりすると経験値も手に入って子供でも10レベルまで言ってるやつもいるんだぞ。まあ、それは貴族や王族だけどな」

 なるほどなるほど、そうすることで個体数も維持できて自然にも優しいというわけですね。一石二鳥どころの話じゃないですね。素晴らしいです。ダルクさんの話に頷いているとティシーさんが調理場の外から睨んできています。

「ちょっとダルクさん! マモルさんにタダ働きさせないでよ! 先にお客さんもいるんだからね!」

「うお! す、すまないマモルさん。ちゃんとお金は払う。それとみんなすまん!」

 ティシーさんの声にダルクさんが謝って受付に帰っていく。私も急いで料理を仕上げなくては。

「マモルさん。魔石もとれたんだね。これは高く売れるから頼んだ人も喜ぶよ」

「え? 魔石ですか?」

 ティシーさんが解体したファングディアを見て声をあげた。拳程の石を指さしていますね。そんなに貴重なものなんですね。

「マモルさん。このお肉全部買い取ろうよ」

「そうですね。新鮮な方が美味しいですし。いい案です」

 ティシーさんの提案を受けてファングディアを持ってきた冒険者さんに提案すると快く承諾してくれた。魔石を取り出せたからかなりの儲けになるようです。解体してそんなに喜んでもらえるとこっちも嬉しくなりますね。

「んん!? 今日の【エールで柔らかファングディアの一口ステーキ】はいつもよりも旨いな~!」

「ほんとほんと! 脂が違う!」

 解体したばかりの肉を使うとすぐに効果が現れる。ティシーさんがみんなに説明すると私への視線が変化してます。

「マモルさん! 俺達も仕留めたら持ってくるからその時はよろしくお願いします」

「俺達も俺達も!」

 青年冒険者が声をあげると次々と声があがる。

「あまり無茶はしないでくださいね。食べ物よりも命の方が大事ですから」

「分かってますよマモルさん。死んじまったらマモルさんの料理も食えなくなっちゃいますもん」

 心配して声をあげるとみんなニカっと歯を見せてきました。彼らは命のやり取りをしているんですよね。最後まで私のお客さんで居てくれればいいんですが。

「オークを持ってきたぞ~!」

『おお!?』

「おいおい、ファングディアでこの旨さだぞ。オーク肉なんてマモルさんが料理したら……。想像しただけで涎が」

 ガタイのいい冒険者が豚の顔をした人型の魔物を受付の前に下ろす。歓声が上がると私に視線が集まった。

「その為に狩ってきたんだぜ! 感謝してくれよみんな~」

「流石オットーだ。食に生きてやがる!」

 あのガタイのいい冒険者さんはオットーさんと言うようですね。みんなが拍手で迎えています。

「では早速解体いたします」

「お願いしますマモルさん!」

 正直、スキルのせいでうずうずするんですよね。包丁を持って受付の前に行くと一瞬でオークがお肉の塊に変わっていく。
 人型の魔物を解体したというのに全然罪悪感がや嫌悪感がありません。これも魔物だからなんでしょうかね。

「出来ました! 早速焼いていきますよ~」

『おお~!』

 オークは脂の塊が沢山取れました。ラードで唐揚げでもやってみましょうかね。小麦粉はありますが醤油はない。ここは塩を水に溶かしてやってみましょうか。

「【オーク肉の塩唐揚げ】!」

『おお!』

 料理を完成させると歓声が上がる。最初の皿は持ってきてくれたオットーさんへ。
 涎が盛大に口から垂らしているオットーさん。私にお辞儀をして、唐揚げを口に入れていく。その瞬間、パーっと顔を明るくさせる。

「うめぇ~~! こんな料理初めてだ~」

 オットーさんが涙を流しながら声をあげた。すると周りの冒険者さん達がゴクリと生唾を飲み込む。

「……ま、マモルさん俺達にも同じの」

「どんどん作って行きますよ~!」

 ティシーさんとオーク肉がなくなるまで唐揚げを揚げ続けた。こんなに充実した仕事をさせてもらえるなんて異世界は最高ですね。
 みんなには内緒ですが私もオーク肉をティシーさんと一緒に堪能しました。豚な魔物でしたが味は和牛的な旨さでした。異世界ってほんとに不思議です。
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