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第二章

第54話 お母さん

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 あっけなく終わった。ガイアンの二日天下。公式にもそんな号外が出回って王都の危険は収まった。
 二日間だけだったけど、フェリアン様が追放されたことで大きな混乱が生じてたから早く終わって良かった。これ以上の期間混乱が続いてたら町が大きく変わってしまっていたかもしれないからね。

 僕らもこの混乱の中変わったことがあった。
 ジムさんとイレレイさんが付き合って、ファバルさんも知らない人だけど、アルテイシアさんって言う人と付き合い始めた。
 みんなが祝福する中、ルリとベルルさんが羨ましそうにしていたのが印象的だった。

 そんな中、二日天下から一か月ほどが経って。
 僕のお母さんを探していたジェラルド様から知らせが入った。
 どうやら、お母さんが見つかったようだ。というより、孤児院を建てたことが世に広まってそれがお母さんの元に届いたらしい。責任者の名前に僕の名前があったことで連絡が来たらしい。すぐにでも会いたいということが書かれていたらしくて、すぐに向かってほしいと言われた。
 ジェラルド様と共に行くものだと思っていたけど、『儂には会う資格はない』といって僕らだけで向かうこととなった。
 そして、今に至る。

「もう少し?」

「ん、もう一週間だね」

 ルリとベルルさんと共に馬車から窓の外を覗く。なぜかルリとベルルさんもついてきてしまった。僕だけならもっと早く着いたんだけどね。ってそれを言うと二人がムスッとしてしまうので言わないことにしてる。

「あれかな?」

「ん、大きな時計台のある町、ギジット」

 ルリが指さす方を見ると城壁からひょっこりと頭を出す時計台が見える。ベルルさんが町の名前を教えてくれた。
 
 ゲルグガルドの紋章が輝いている馬車のため顔パスで門をくぐる。

「教会に勤めてるんだっけ?」

「うん、教会だね」

 ルリの話に答える。
 ジェラルド様の話だと、僕をたすけられなかったから出家したって話だった。
 命からがら街から逃げてそれでも生きていてくれた。それだけで僕は嬉しかった。生きていてくれさえいればまた会えるから。

「ここかな?」

「そうだね」

 教会の前に馬車が止まる。教会はリファーフィルの紋章が輝いていて出来たてなのが伺える。うん、相変わらず自分の名前が使われているのを見ると恥ずかしい。

「フィル!」

 馬車の外から声が聞こえてくる。ショートカットの蒼い髪の女性が涙目で見つめてくる。
 馬車から降りると抱きしめてくれた。

「フィル。こんなに大きくなって……私のことは覚えてる?」

「なんとなくは」

 うっすらとこの蒼い髪は覚えてる。僕よりもくすんだ青色の髪。それにこの匂いは確かに嗅いだことのある匂い。なんか懐かしくなる。

「あなたは死んでしまったものと思ってただけど、生きていてくれた。フィル愛してる」

 涙して抱きしめてくれるお母さん。僕の自然と涙がこぼれてきて抱き返す。

「お母さん? どうしたの?」

「いじめられてるの?」

 その様子を見ていた教会から出てきた子供達。どうやら、この教会が孤児院になってるみたいだ。

「みんな、この子は私の子供なのよ。みんなのお兄ちゃんよ」

「お兄ちゃん?」

「やった~。遊んで遊んで!」

 子供達は嬉しそうに僕らに近づいてきてズボンを引っ張ってくる。僕らは笑顔で答えて少し遊ぶこととなった。
 しばらく、子供達と遊んで落ち着いてくるとお母さんの座る椅子の隣に腰かけた。

「本当に逞しくなって……魔法も使えるのね」

「うん。大精霊も答えてくれるんだ」

「それは凄いわ。教会の名前が変わった時は気づかなかったけど、まさかあなたの名前が使われていたなんてね」

 褒めてくれるお母さんに照れて答える。恥ずかしいことだと思っていたけど、身内に褒められるとなんだか誇らしいな。

「お母さんも凄いよ。孤児院を一人で経営するなんてさ」

「ううん。そんなことないわ。友達がお金を送ってくれるから出来ているのよ」

「友達?」

「そうよ。ラフィーリアって言ってとっても強くて頼りになる子なの」

 ラフィーリアさん!? お母さんからとんでもない人の名が告げられた。
 僕は驚きすぎて声を失ってしまう。

「フィル。今、ラフィーリアさんって聞こえたけど……」

 驚いているとルリが代わりに反応して質問してくる。僕は無言で頷く。

「あら? ラフィーリアを知っているの?」

「うん、僕らを助けてくれた人もラフィーリアって言うんだ」

 名前が一緒って言うだけで別人かもしれないけど。

「真っ赤な髪を腰まで伸ばしてる綺麗な人よ」

「同じ人だね」

 綺麗な赤い髪、忘れようとしても忘れられない。

「お母様! その人にフィルのことを?」

「!? そうだわ! あの時……、本当にあの子は優しいわね」

 ルリが質問するとお母さんが驚いて気が付く。じゃあ、あの時僕らを助けてくれたのは偶然じゃなくて……。

「ふふ、今度会ったらラフィーリアにはお礼をしなくちゃね」

「うん……ラフィーリアさんは今どこにいるかわかりますか?」

 僕はずっとあの人にお礼がしたかった。お母さんの話を聞いて今すぐにでもしたいと思ってしまった。
 彼女の前に現れてお礼に食事をして、一緒に冒険に行ったり、彼女の手伝いがしたい。

「私は分からないわ。ごめんなさい。だけど、魔族領の方へ行くって言っていたわ。魔族の国でも孤児はいっぱいいるって知って、居ても立っても居られなかったみたいだから」

「ん、フィル。魔族の国に行っちゃうの?」

 お母さんの話を聞いて立ち上がる。するとベルルさんが心配そうに僕を見つめる。
 僕は大きく頷くと悲しそうな顔になってしまった。

「ベルルさん、ルリ。僕は彼女のおかげでみんなを救えた。そのお礼がどうしてもしたいんだ」

「「……」」

 二人の手を握って声をかける。僕は今すぐにでも彼女の役に立ちたいんだ。

「ん、わかった。ルリ」

「うん。ベルルさん!」

「!?」

 ベルルさんとルリが顔を見合って返事をしてくれると二人で僕の両頬にキスをしてくれた。顔を真っ赤にさせる二人、僕も顔が熱くなるのを感じる。

「あらあら、ふふふ。フィルったらその年で……ジェラルド様に似たのかしら?」

 そんな姿を見てお母さんが嬉しそうに微笑む。ジェラルド様か~……フェリアン様ならともかく、ジェラルド様になるのは嫌だな~。
 ガハハと幻聴が聞こえるよ。

「すぐに帰るってみんなに入っておいて。行ってきます」

「「行ってらっしゃい」」

 僕は言葉を置き去りにして走り出す。
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