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第二章

第51話 王様確保

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「まったく、水のもんは……」

 怒った様子のダークシェラウド。ウンディーネをにらんで声をもらす。ウンディーネは手を合わせて謝ってる。

「して? 王様を見つければよいのだろ?」

「そうだね。って知ってるってことは見てたのかな?」

「……では【シャドウサーチ】」

 僕の質問に無言で目をつぶると魔法を唱える。見てたみたいだね。そんなに呼んでほしいなら言ってくれればよかたのにな。

「見つけたぞ。この上の部屋だな。では、儂はマスターの屋敷へと帰っておるぞ」

「あ、ありがと。唐揚げが待ってるからね」

「うむ、見ていた時から食べてみたくて……コホン! いや儂はそんなものに興味はないぞ。ただ子供たちを守りたいだけじゃ。ではな」

 ダークシェラウドはそう言って窓から飛んで行った。大精霊はみんないい子なんだな、と再確認だな。

「では行きましょうマスター」

「うん。この上だね」

「はい!」

 ウンディーネに手を引かれて階段を探して上へと昇る。
 元居た場所から丁度上の部屋の前にたどり着いて扉を開いた。中にはキングサイズのベッドに横たわるおじいさんが見える。

「絵画の人と同じ人だね」

 近づいて顔をのぞくと絵画の王様だった。やせ細って別人みたいになってるけど、あってると思う。だけど、へんなんだよな~。始めてあったはずなんだけど、初めてじゃないようなそんな感じ。

「マスターになんだか雰囲気が似てますね」

「ん~。僕もそう思ったんだけど、なんでだろうね。まあ、いいや。とりあえず、【ヒール】」

 寝ている王様に向かってヒールをかける。回復魔法が作用して王様が一度目を開ける。天井を一度見た王様はすぐに再度目をつぶってしまう。さっきまでよりも大きな寝息、体はどうかはわからないけど、目を覚ましてくれれば大丈夫かな。

 コツコツコツコツ! ホッとしていると外から足音が聞こえてくる。僕らはすぐに身を隠す。

「全員眠らせたんじゃ?」

「私は確かに眠らせました」

 ウンディーネに確認すると大きくうなずいて答えた。大精霊の魔法をものともしない敵がいる? そういえば、話し声がした時のもう一人の男がいなかった。まさか、

『兵士たちが全員眠っている? 何が起こっているんだ』

 下にいたときに聞こえてきた声がまた扉の向こうから聞こえてきた。やっぱり、魔法が聞いていなかったみたいだ。

「ジェラルド様? いつも通りお眠りになっているか……」

 扉が開いて入ってくる男。王族のような豪華な服を着ている。

「ジェラルド様が狙いではなかったのか?」

 恐る恐るといった様子で部屋深くまで入ってくる男。

「王、ガイアンです。ご具合はどうですか?」

 ガイアン⁉ こいつが宰相のガイアンか! でも、なんで心配してる感じなんだ? 王様が眠っているのを利用してわがまま放題なはずなのに。

「よし。いつも通り眠ったままだな。死んでしまったら利用できないからな。このまま眠っていてくれよ」

 なるほどね。心配してるのはそっちのことだったか。ガイアンはほくそ笑んで部屋から出ようとする。だけど、その時、王様の手がベッドから落ちる。

「王!?」

 ブラ~ンと手が振られる。決して起きることのなかった王の手が動いたことでガイアンは血相を変えて懐から白い紙に包まれた薬を取り出した。

「まずい!」

 王様をこれ以上傷つけさせるわけにはいかない。そう思った僕は飛び出してガイアンを押し倒す。

「ぐは! な、なにものだ」

「僕はフィルだよ。こっちはウンディーネ」

「はい!」

 おなかに乗ったまま自己紹介。怪訝な顔のガイアンをしり目にそのまま話を進める。

「王様に何を飲ませようとしたんですか?」

「く、薬に決まっている。王は病だからな」

「ふ~ん。そう……じゃあ、あなたが飲んでみて」

「!? 私は病ではない! 飲む必要はない」

 僕の質問に明らかにキョドルガイアン。眠ってしまう毒か何かだと思うんだけどな。あたりかもね。

「マスター。この方のネックレスが眠りを妨げていたようです」

「へ~……」

 ウンディーネがガイアンのネックレスを指さして告げる。僕はニヤッとしてネックレスとすごい速さで奪う。ガイアンは『あっ』と声を漏らして手を伸ばしてきた。

「か、返せ!」

「え~。返してほしいの?」

「は、早く!」

「じゃあ、こっちをあげるよ」

「ぐふ! な、なんてことを。……」

 ガイアンからネックレスと一緒に薬を奪ってたんだけど、薬を口に放り込んであげた。ガイアンはすぐに寝息を立てていく。即効力がありすぎだよ。これじゃ副作用で体を悪くしそうだ。

「さて、この人は後でとして、王様を回収しておこう」

 ガイアンが眠っていることを確認して王様へと振り返る。少し動いていたけど、まだまだ目覚めないみたいだ。すぐに運んでしまおう。

「マスターの手は煩わせません」

 さすがの大精霊。水の膜で王様を持ち上げて僕の後ろをついてくる。窓から飛び出してぴょんぴょんと町を飛んで行って、すぐに孤児院が見えてくる。

 ジェラルド様を確保して孤児院へと無事帰還。僕が無事なのをみんな喜んでくれた。

 ジェラルド様を元々あった寝室に寝かせる。
 ギルベンさんがジェラルド様と面識があるから看病を任せることに。ギルベンさんの部下の女性と一緒に見守ってくれるらしい。目を覚まして知らない人に囲まれていてもこわいだろうから、知っている人に任せるのが一番だろう。

「しかし、すごいね。こんな人数の人が暮らせる屋敷なんてさ……」

「ああ、言いたいことは分かるぜジム。それも大浴場まであるなんてよ。俺は大貴族になった気分だ」

 ジムさんとファバルさんが呟く。
 ノームが作った地下の階段の前で話してる。
 作ってもらった地下は4階分、地下一階が砂場などの公園みたいな作りになってる。雨の日でも遊べる施設は子供達に必要だよな。
 地下二階からは全部人の住める部屋が広がってる。十字の通路から等間隔に部屋があってホテルといった様相だ。家具設置済みの部屋はみんな大喜びだった。ノームって何でも作れちゃうんだな。
 地下一階の広場で感心してると声が聞こえてくる。 

「お父ちゃん! 遊んできていい?」

「ああ、行ってくるといいんだな」

「ワッタさん!?」

 ワッタさんをお父ちゃんと言う子供とそれを見送るワッタさんと女性。ワッタさん結婚してたの!?

「そういえば、言ってなかったんだな。おいらは結婚してるんだな」

「あら? 主人がお世話になっておりますフィル様。フィル様のことは色々と主人から伺っております」

 驚いてるとワッタさんに報告される。女性の名前はヘルガさん。おっとりしててワッタさんと同じでとっても優しそうだ。お似合いの夫婦だな~。

「ヘルガさんもここを家だと思ってくつろいでくださいね」

「はい。子供達も大喜びでみんなと遊んでます。フィル様も話に聞いていた通りの方でとても素敵ですね」

 ヘルガさんはそういって頭を撫でてくれる。

「ヘルガは子供が大好きなんだな」

「ふふ、あなたも大好きよ」

 二人で僕を撫で始める二人。背景がピンクになってきた、なんだかいたたまれないので早く上に行こう。

「よし。では城に行くぞ」

「ジムさん? 城ってどうしたんですか?」

 地下から上がってくるとジムさん達が集まって話し合ってた。首を傾げて聞くとどうやら、兵士達が眠っている間に制圧してしまおうと話していたらしい。

「フィルが眠らせてくれたおかげで誰も血を流さないで済みそうだからね。冒険者のみんなと一緒に話していたんだ」

「もちろん、僕ら兵士達も一緒にね」

 ケルトさん達も集まってくれててジムさんと一緒に話してくれる。確かに今占領すれば。まあ、危なかったらまた眠らせればいいんだけどね。

「ケルト! お客さんが来てるぞ」

 そんな話をしてると外から声が聞こえてくる。ケルトさんと一緒に屋敷の外に出て門へと向かうと、門を守っていた隊長さん、ケルトさんの上司が手をあげて挨拶してきた。

「アスベル隊長! どうしたんですか?」

「おう。フェリアン様を見つけてな。人を使って知らせるのも良かったんだが、自分の目でお前達の安否を確認しておきたくて来たんだ」

 ケルトさんが驚いて迎えるとアスベルさんが報告してくれた。僕らのことを心配してくれてたみたいだ。この人もいい人だな。

「フェリアン様は町の外で待ってもらっているよ。フィル君と会いたいということでね。フィル君だね? 一緒に行ってくれるか?」

「分かりました。一緒に行きます」

 アスベルさんと一緒にフェリアン様の元へ。ケルトさんも来ようとしていたけど、城の方が大変だろうからそっちに行ってもらうこととなった。あの横柄な兵士達がいるかもしれないからね。そういえば、次に来る人はあの人ほど甘くないって言ってたっけ、その人も眠ってたりしてね。

 そんな笑えることを考えながら町の門へと到着。アスベルさんが指示を飛ばすと門が開いていく。厳戒態勢だったから閉めていたみたい。

「フィル君をお連れした。フェリアン様を」

 遠く離れるフェリアン様の軍に声をかけるアスベルさん。声に気づいた一人の騎士が軍馬で駆けつけてくる。

「無事だったのねフィル君!」

「クリスタさん!?」

 カッコいい軍馬と騎士のような鎧を着てるクリスタさん。いつもの盗賊のような恰好じゃなくて驚いてると馬から降りて抱きしめてくれる。

「その子がフェリアン様を救ってくれる英雄か、クリスタ?」

「ええ、この方がいればすぐにでも」

 もう一人騎士が近づいてきてクリスタさんに声をかける。

「こっちはアスラ。アスラ、この方はフェリアン様の腹違いの兄弟のフィル君よ」

「フィルです。よろしくお願い……ええ!?」

 クリスタさんがアスラさんを紹介すると変なことを言い始めた。は、腹違いの兄弟!?

「本当なのか? いや、確かに似ているような気もしないでもないが」

「フェリアン様は最初から確信していたみたい。ジェラルド様をフィル君に感じたって」

 アスラさんとクリスタさんが驚いて動きが止まる僕をまじまじと見つめて話す。
 いやいや、確かに僕もフェリアン様と似てるかなって思っていたけど……。

「とにかく、フェリアン様の元へ」

「あっ、はい……。アスベルさん、ありがとうございます」

「あ、ああ。……ケルト達にも知らせないと」

 アスラさんの指示でフェリアン様の元へ。アスベルさんにお礼を言うとアスベルさんも驚いて、体を硬直させていた。僕なんかが王族なんて驚きだもんな。みんなにも知らせてくれるみたいだけど、これでみんなの態度が変わってしまうとなんだか悲しいな。そうなっていたらちゃんと砕けて接してもらう様に言おう。うん、それで大丈夫でしょ。

 森の中、木を切り倒した開けた土地に陣が作られていた。その中の中央の一番大きなテントに案内されて入ると頭を抱えているフェリアン様がいた。
 僕に気づくと抱きしめてくれた。

「無事でよかったフィル!」

「い、痛いですよフェリアン様」

「あっああ、すまないフィル」

 喜びすぎて強く抱きしめてきた。フェリアン様、鎧も着てるから結構痛かった。でも、こんなに喜んでくれるとなんだか嬉しい。

「フェリアン様。兄弟だということは軽く説明しています」

「そうか……驚いたかい?」

 クリスタさんがそういってテントから出ていく。アスラさんもそれに続いて出るとフェリアン様が僕に問いかけてきた。頷いて答えると悲しい目で天井を見上げた。

「お父様がお母様以外にひかれたことを知った時は信じられない気持ちでいっぱいだったよ。その人を見つけて口外しないように金を掴ませようとも思った。しかし、そんな心配はいらなかった」

 机にコップを二つ出して温かいお茶を作り始めるフェリアン様。とても優しい表情でお茶からでる湯気を目で追って話す。

「小さかった僕はその人を見て、心躍らせた。とても可愛らしく、野に咲く花のように周りに元気を振りまいていた。お父様が好きになるのも仕方ないと思ったよ」

 僕のお母さんか……気がついた時には孤児だったからわからないや。
 でも、そんなに可愛らしい人だったんだな。なんだか嬉しいな。

「兄弟が出来ていたと知ったのは彼女が居なくなった時のことだったよ。とても貧しい彼女が町から離れるなんて出来るはずもない。そう思っていたからとても驚いた」

 お茶を作り終わって僕に手渡すフェリアン様。優しい表情で僕を見つめる。

「お父様は病に伏せる前に僕に懺悔したんだ。彼女、ルーシーさんと子供を作ったとね。彼女を支援しようとお金を出したが断られたことも教えてくれた」

 ルーシー、それが僕のお母さんの名前……。

「町から急に消えたからみんなびっくりしていたよ。僕もね。それで捜索隊まで作ったけど、町にはいなかった。目撃情報もなくて今に至ったんだ。彼女が子供を置いていったなんて今も信じられないよ」

「そうですか……」

 生まれたばかりの僕を捨てて、乳飲み子の時は一緒に暮らしていたのかな。薄っすらとだけど、その時のことは覚えてる。
 青いサラサラの髪の女性だ。泣きそうな顔で僕を見つめていたような気がする。

「フィル!?」

「あ、あれ。なんで」

 昔のことを考えていると眼から涙が流れだした。フェリアン様が驚いて声をあげるとすぐに手を握ってくれた。
 
ーーーー

何とか書けました
お楽しみください

8月17日7時
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