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第二章

第37話 真っ黒な世界

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「あれ? ここは?」

 真っ暗な空間に僕だけがポツンと立ってる。
 さっきまで教会のガストの部屋にいたはず?

「真っ暗だな~。ここはどこなんだろう?」

 あたりを見渡すけど何も見えない。
 明らかにおかしな空間だ。現実じゃない感じがする。夢の世界なのかな?

「誰かいませんか~」

 大きな声をあげてみる。何も返事が返ってこない。どうしたものか。

「とにかく歩いてみるかな~」

 真っ暗な空間を歩くことにした。
 
 しばらく歩いているけど、まったく疲れないし息も切れない。ステータスが上がっているから当たり前なんだけど、なんか変な感じがする。まるで体が動いていないような、精神だけが錯覚しているような? やっぱり夢の世界なのかも?

「ん? あれは?」

 不思議な感覚を感じながら歩いていると黒い岩のような物体が見えてくる。真っ暗な空間で黒い岩が見える、その不可解な現象に首を傾げるけど、何もわからないからとりあえず調べることにする。
 近づいて岩を触るとごつごつしていて脈をうってるのが分かった。

「生き物なのかな?」

 ドクンドクンと脈をうつ岩。耳をつけて聞くとはっきりと脈の音が聞こえる。

「ん~。どうすればいいんだろう?」

 見つけた黒い岩も何も起こらない。どうしたらいいんだろうか? どうしたものかと首を傾げていると声が聞こえてきた。

『エサ? エサ?』

「な、なんだ!?」

 黒い岩から声が聞こえる。食べ物を求める声? 子供のようなカタコトで何度も聞いてくる。

「エサはないよ?」

『エサない?』

「うん」

『あう。お腹減った……』

 可愛らしく困った声をあげてる。何かあげれるものがあればいいんだけれど。

「いつも餌って何をもらっていたの?」

 何の気なしに質問した。僕はその答えを聞いて顔を歪める。

『可愛そうな子供~』

「!?」

 この黒い岩に子供、孤児を与えていた? まさか!? この黒い世界はあの黒い卵の中?

『君は可愛そうな子供じゃないもんね。すっごい幸せな魔力を持ってる。幸せな子供を食べちゃダメって教わってたから食べなかったんだ。でも、おなかすいたから聞いてみたんだけどね』

「……救済のつもりか」

 無邪気な黒い岩の言葉に僕は怒りが込みあがってくる。ガストは孤児を不憫に思って黒い岩に食べさせていた。救済かそれともただただこの何も知らない黒い岩を利用していただけか。

『でもね。あと少しで好き放題し放題だってガストが言ってたんだよ~。この黒い世界から出て人々を焼き尽くせるんだってさ~』

「なっ!? 君は可愛そうな子供だけを食べていたんでしょ? なにも知らない大人も手にかけるつもり?」

『うん! だって僕は人間にこんな姿にされたって聞いてるから。復讐しないとダメってガストが言ってた』

「……」

 この子はガストのいうことしか知らない。そういえば、意識を失う前にウンディーネが黒龍って言っていたっけ。

『僕を封印しちゃうなんて本当自分勝手な種族だよね。人間ってさ』

「あと少しってガストは何か言ってた?」

『え? う~んとね。双子の孤児が可哀そうだからつれてくるって言ってたっけかな~』

 双子の孤児……ルファーとリファのことかな? 王都で双子の孤児は二人しか知らない。ルファーが大司祭しか治せないと聞かされていたこともなんか納得がいく。絶望を与えて誘導するつもりだったんだろう。二人を助けられてよかった。

『あ~あ~。早く来ないかな~』

 無邪気な言葉に苛立つ。
 ドガン! 僕は思わず足を強く地面に叩きつけた。

『わっ! 何すんだよ~。ひびが出来ちゃったじゃん!』

「ひび?」

『そうだよ! ここは黒い卵の中なんだよ。そんな強い衝撃を与えたら割れちゃうよ~』

 黒い岩は無邪気に答える。
 僕のステータスなら壊せるってことか。

『わわ! なんで僕を持ち上げるの!』

 素手で壊してもいいんだけど、痛かったらいやなのでこの子を使うことにした。
 思いっきり持ち上げて地面に叩きつける。
 ゴガン! 地面のひびが大きくなっていく。

『あうあ~。割れる割れちゃうよ~。君、本当に子供? 強すぎるよ~。ガスト~助けてよ~』

「こんな暗い世界にいるからそんな偏った考えになるんだ! 明るい外に行くんだよ」

『うわ~ん。未完成で外に出たら人間に殺される~。ガストがそういってたもん! 嫌だよ~』

「大丈夫だよ。僕が守ってあげる。これでも僕は強いんだから」

 泣き出すのも無視してゴガンと叩きつける。痛がっている様子はないから大丈夫っぽいな。

「これで最後だ!」

 岩を担いだまま大きく跳躍する。

「はっ!」

 岩を地面に思いっきり投げ放った!
 真っ黒な世界に光が差し込み真っ白な空間になっていく。
 そして、僕は意識を失った。来るときと違ってなんか温かい感触が僕を包み込んでる。
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