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第一章 

第26話 ドラゴンとシルフ

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 ドラゴンの炎を氷で受け止めて着地する。みんなの無事も確認するとドラゴンに視線を移した。

「フハハハ。どんなつええやつもこいつには勝てねえ!」

 いないと思っていたカンダンの声が響いてくる。するとゾンビドラゴンの背後からスッと現れて、ニヤニヤと笑みを浮かべていた。

「こいつはな、今まで奴隷を餌にして育ててきた最強のドラゴンだ。あと少しで魔王に手渡す予定だったが仕方ねえ」

 カンダンの言葉に僕らは身構える。ドラゴンが僕らに視線を移すと口を大きく開いてきた。

「やれ!」

「……」

「どうした! やらないか!」

 カンダンの指示で僕らは回避行動を取った。だけど、ドラゴンは炎を出すことはなかった。
 カンダンが怒り狂ってドラゴンの尻尾を蹴りだす。

「この! この! 早く奴らを殺せ!」

 口を開いたまま何もできずにいるドラゴン。その間もずっと蹴られ続けている。

「ん、やりたくても出来ない。MPがなくなったんだと思う」

 ベルルさんが呟く。さっきの炎が最後の一発だったのかな。ゾンビってこともあってまだ未完成の魔物なのかも?

「まだ早かったってことか! ちきしょう! それじゃあ……」

 ベルルさんの呟きが聞こえたのか、カンダンが顔を青ざめさせて僕らを見つめてきた。一巻の終わり、もうやつは終わりだ。

「ぐ! 俺様はこんなところで死ぬ男じゃねえ! そ、そうだ! あの女が置いていったやつがあるじゃねえか」

 カンダンはそういってズボンのポケットから紙を取り出した。紙には粉のようなものが入っていて、カンダンは口に入れていく。

「くは、これで俺は無敵……。な、なんだ、何かおかしい」

「!? マナが目に見えるほど大きく!」

 カンダンの体が更に肥大していく。その姿を見てベルルさんが顔を青ざめさせる。
 ベルルさんはもともと勘みたいなもので魔法に関して敏感だった。彼女だけがマナを感じることが出来るのは普通のことだったはず。
 だけど、今のカンダンの状況はかなり異常な状況だ。

「ふぃ、フィル……」

「お兄ちゃん」

「リファ……」

 膨れ上がるマナを目の当たりにしてみんな恐怖に身を寄せる。
 流石の状況でジムさん達も唖然としてる。

「あ、あいつ……自爆のくすりを渡したのか……。最強になるなんて言いやがって……。不本意だが、お前達は俺と死ぬ。恨むならジェシカっつう女を恨めよ」

 カンダンはそう言い残して原型をとどめない肉の塊になっていった。

「みんな諦めないで! ジムさん!」

「はっ! フィルの言うとおりだ。ファバル出口を!」

「ああ!」

 諦めるわけにいかない! ジムさんに声をあげるとみんな動き出してくれた。

「ジム! 出口があったぞ!」

「よし。子供達から!」

「あぶねえ!?」

 出口を見つけたファバルさんが逃げようと思ったらドラゴンが出口を崩しだした。

「逃がさないっていうのか!」

 あくまでもドラゴンは僕らを逃がさないみたいだ。出口がなくなってしまった。
 あとは僕らが落ちてきた穴だけ……そうか!

「ベルルさん! 空を飛ぶ魔法ってありませんか!」

「!? ある! 風の大精霊シルフ。力を貸して【フライ】」

「風の大精霊シルフ。力を貸して【フライ】」

 ベルルさんの教えてもらってすぐに唱える。

『おっと~。僕の出番だねマスターもう一度名前を呼んでくれるかな?』

「!? 【シルフ】!」

「は~い。じゃあみんなを空の旅へと招待だ!」

 シルフの名前を呼ぶと僕の前に緑色の風が集まってきて人型になっていく。
 人型になった風がシルフと名乗ってみんなに風を纏わせて上を向いた。

「おっと~。ゾンビのドラゴンか。邪魔するならこうだ!」

 ドラゴンがMPが回復したみたいで口に炎をためて威嚇してくる。シルフはファサ~っと風を集めるとドラゴンへと放つ。
 風は静かにドラゴンの周りをめぐっていき、ドラゴンを風化させていった。とても静かで強力な魔法だ。

「あの肉塊もやってしまいたいけど、出来なさそうだ。早く逃げちゃおう」

「え、うん」

 シルフの子供のような声に返事をすると空へと舞い上がっていく。

「ちょっと急ぐよ~。皆さん口は閉じてね~」

「あっうん、ぐ!?」

 シルフに相槌を打つと空へと上がる速度が上がった。
 周りを見渡してみんなの無事を確認するとしっかりとみんなも飛んできてる。
 カンダンに捕まってたうさぎ耳の少女もジムさんの横にいる。

「奴隷の子が他にいるの! みんなを助けて」

「なに!?」

 うさぎ耳の少女が声をあげた。あと少しで落ちてきたところにたどり着く。カンダンが逃げようとした奥の部屋にいるかもしれない?

「シルフ!」

「わかってますよマスター。ってあの肉塊が爆発したみたいですよ」

「ええ!?」

 シルフが呑気に爆発を告げた。やっぱりカンダンは爆発したみたいだ。体が大きくなるのって完全に爆発の合図だもんな。
 ゴゴゴゴゴゴゴゴ! 落ちた所にたどり着くと地鳴りが起こって天井から小さな石がいくらか落ちてくる。

「爆発がここまで来てるね~。マスターどうする?」

「どうするってどうにかできるの?」

「うん。あの威力だと逸らすほうが良いと思うから結構簡単」

 通ってきた竪穴を覗いて話すシルフ。この距離まで爆発が来るってことだけど、そんな威力の爆発を簡単に逸らせる……大精霊は伊達じゃないってことか。

「じゃあ、お願い! みんなを助けないと」

「あいよ~。じゃあ~」

 シルフにお願いすると風が竪穴を延長するように壁を作っていく。円柱型に竪穴を覆うとそのまま維持し続ける。

「フィル! みんなを見つけたぞ!」

 ファバルさん達がウサギ耳の少女と奥の部屋から出てきた。やっぱり奥の部屋にいたみたいだ。

「ほっ、良かった。って何この音!?」

 ゴゴゴゴゴゴゴ! さっきの地鳴りよりも大きな音がなる。音は次第に大きくなって光が竪穴からあふれてきた。

「ま、眩しい!」

「目を開けていられない……」

 リファとルファーが声をもらす。シルフが作った円柱状の風の壁のおかげで爆発の炎が僕らのいる部屋にはもれなかった。
 透明なバリアのようになっているから光は僕らを照らしてくる。
 しばらくすると光が治まって静かになっていく。

 そして、目が眩しさを忘れると僕らの前に空が広がっていた。
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