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第2章 国

第55話 帰ってきた

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 カイジョウの町に向かって二日。ダンジョンへと向かった時とよりも早く帰ってくることが出来た。これは大八車を二台つけたものとは違う、本物の馬車を使っているからっぽい。馬車を作って鉄騎士に引かせて来たんだけど、全然揺れないんだよな。サスペンションでもついているかのようだよ。速度も上がっているんだ、最初は気のせいだと思ったけど、街に着いたのが何よりも証拠、制作スキルは色々反則だな。

「ただいま」

「おかえり! あちらさんも帰ってきてるよ」

 迎えてくれたレイニーに挨拶を交わすと彼女が指し示す方向にアズとイズとグレイブランドが立ってた。アズとイズが思いっきり睨んできているのは変わらないな。

「ヒフミ殿戻りましたか」

「ああ……ん? その腕は?」

「いやはや、気付かれてしまったか~。お恥ずかしい」

 グレイブランドの右腕が無くなっている。何があったんだ?

「親父殿はお前と手を結ぶといった事で王から追放されたのだ」

「王はそれだけでは飽き足らずに親父殿の利き腕を……」

 アズとイズはそう言って涙を流して俯いた。グレイの事がそれだけ好きなんだろうな。

「儂は帰ってせいせいしたわい。あのような王に仕えていられんかったからな。先代の王と違って現王は他種族を敵としか見ていない野蛮な者じゃ。いつかはでたいと思っていた」

「親父殿! それでも将軍であるあなたが敵に寝返るなど」

「だから言っておるだろう。ヒフミ殿は敵ではなかったのだ。先に攻めたレイグランドがいけなかったのだ」

 アズの言葉にグレイは怒るように言い聞かせる。

「ヒフミ殿は話せばわかるお方だった。我々が門の前で話があると言った時、入れてくれただろう。それが証拠じゃ」

 問答無用な時もあるけど、基本は話せる男だと思うよ、俺は。

「そうですが……」

「そうじゃろう。レイグランドと一緒に儂が来ていれば死ぬことにはならなかった。運命とはそう言う事なのじゃよ」

 グレイはそう言って二人を諭す。それでも俺への視線に恨みがこもっている。まあ、仕方ないな。同じ釜の飯を食う仲間を殺されたんだからな~。

「どんなことを言っても国には帰れん。二度と国へ入るなと王に言われておるしな。それに何人暗殺者を始末したと思って居る?」

「5人です……」

「じゃろ? 絶対に殺してやると言う意思を感じるぞ」

 ここに来るまでに5回殺されそうになったっていうのか? レギントス帝国の王はかなり憤ってるみたいだな。

「この剣達に助けられた。暗殺も考えて持たせてくれるとはヒフミ殿は策士じゃな」

「ああ、役に立ったようだね。よかったよかった」

 監視の為にも持たせたとは言わないでおこう。

「二人もすぐには仲良くできないと思うが、なじめるように頑張るんじゃぞ」

「親父殿……」

「……」

 アズとイズの頭を撫でながら諭すグレイ、二人は頬を赤くして恥ずかしそうに頷いた。

「アズさん! イズさん! 早速、剣を教えてよ~」

「教えて~」

 その様子を見ていたアダム達、孤児の子供たちが群がってきた。アズとイズが引っ張られていく。

「がっはっは、二人は面倒見のいい子だからの~。来た時から世話を焼いていてな。すぐに仲良くなっておったよ。儂は逆に怖がられておったけどの~」

 微笑んで二人を見つめるグレイ。将軍という地位にいても二人を見る姿はおじいちゃんって感じだ。

「いくらか帝国の武器や防具を持ってきた。土産と思って受け取ってくれ」

「武器防具か……。正直、ドワーフ達がいるからいらないんだよな~」

「そう思って色々な野菜や果物の種を持ってきた。見たところ野菜はあったが種類は少なかったのでな。どうじゃ? 使える将軍じゃろ?」

「ああ、そうだな」

 グレイは人懐っこい笑顔で左手を出してきた。俺も同じように笑顔を作って左手を掴み握手を交わした。

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