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第2章 国

第34話 将軍グレイブランド

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「状況は?」

「おう、前に陣取って一日ってところだ。ヒフミ達を襲ってきたのが初めての攻撃だな」

 街の中に入ってガーツに現状を聞いた。陣取ってどう出るかを見ていたって感じか? リビングウェポン達は防衛はするけど、命令しなくちゃ攻撃はしないからな。みんなも攻撃の命令はしない人達だから、何も起こるはずはないよな。

「とにかく、無事でよかった」

「おうよ。それでそっちは?」

「子供がいっぱいだが?」

 ガーツとダーツが首を傾げながら聞いてきた。馬車から買ってきたものを色々と下ろしてくれている子供達はみんなの目を引いているようだ。戦場になりつつあるので門の前でみんなに子供の事を話す。みんなはある程度、街の子供たちの事は理解しているので納得してくれた。ドワーフ達は人族の街の事は知らないので孤児と言うのを知らないみたいだな。
 しかし、この街は非戦闘員が多いな~。今のところドワーフ達とリックとマイル親子だけだぞ。精霊達がいるから大丈夫なんだけど、不安はあるよな。
 
「レギントス帝国将軍、グレイブランドである。この街の長はいるか!」

 荷下ろしを手伝いながら、子供の紹介をしていると街の外からそんな声が聞こえてきた。門の上に移動して見下ろすと木の門の前に三機の騎馬がこちらを見上げてきた。

「先ほどの戦い見事であった。こちらは敗北を認める」

 白銀の鎧の白髪白髭の男がそう言ってきた。やけに素直だな。

「我らを街に入れてくれないか?」

「敗北したのに入るのか?」

「和平の話をしたいのだ」

 そう言う事ね。それなら入れてあげてもいいけど、この男の左右にいる騎馬からは殺気しか感じないんだけどな。殺意で人が殺せたら俺は死んでいそうだ。

「良いですけど、その二人はちょっと……」

「なに!」

「貴様!」

 すっごい睨んできているから遠慮してもらおうと思って声をかけると二人は更に鋭い睨みを聞かせてきた。

「イズ、アズ。二人は待っておれ」

「「しかし!」」

「待っておれと言っている」

「「ぐっ……グレイブランド様に何かあったらただじゃ置かないぞ!」」

 すっごいユニゾンして叫んできた。名前からも察するに双子なのかな?

 グレイブランドを街に入れるために門が開く。双子の騎士は震えるくらい我慢して、グレイブランドを見送った。その間はグレイブランドと俺を交互に見ていてすっごい不安そうにしている。泣きそうになってるぞ。

「愛されているようで……」

「恥ずかしながら、二人は私を親と思って居る。親離れできない可愛い子達だ」

 街の中に入ったグレイブランドに声をかけると屈託のない笑顔でそう言ってきた。同時に馬から降りて、首を垂れた。

「改めて、私はレギントス帝国将軍、グレイブランド」

「俺はこの街の長、カイジョウ ヒフミだ」

 人懐っこく笑みを浮かべたグレイブランドに敵意はないと思った俺は自己紹介をして握手を交わした。グレイブランドはレイグランドとは違うようだな。

「外ではなんですから俺の家に行きましょうか」

「すまない」

 グレイブランドを家に誘うと素直についてきてくれた。マイルが心配そうについてくる。家に二人っきりは危ないは危ないか。

 中に入ってもらってソファーに座ってもらう。向かい合わせで座ってもらうがグレイブランドはあまり警戒していない様子で先に座ってくれた。普通はこういう場合、警戒するものだと思うけど、外での出来事で既に安心してくれている様子だ。俺もこの人ならばと思い、安心している。やばいときは自動で精霊化している短剣がガードしてくれるから大丈夫だしな。

「こちらの不手際でこのようなことになり誠に申し訳ない。ドワーフ達を生け捕りにして、武器を作らせようなどと考えなければこんなことには」

 グレイブランドはレギントス帝国の不手際だと認めて首を垂れた。自分たちの失態だと認めるあたり、できた御仁だ。普通なら力でねじ伏せてしまうものなんだがな。

「不手際だと認めているにも関わらず、さっきは攻めてきていましたね。それは?」

「イズとアズが先走ってしまいましてな。レイグランドの仇を取ると息巻いていました」

「あわよくば俺を殺させようと思ったのでは?」

「そのようなことは断じてない。卑怯な戦い方をしてはレギントス帝国の名折れ」

 俺の言葉に焦ったように話すグレイブランド。あの殺気むんむんの双子が先走ったって事か。仇って言うとレイグランドの兄弟かなんかか?

「レイグランドはあなた達の?」

「儂の甥でイズとアズの兄弟弟子。同じ飯を食らい、同じ屋根の下で育った」

 ふむ、それは一生恨まれそうだな。国の人間を殺めるのはやめるか? って兵士とか百単位で殺してしまっているけどな。

「ゲシュリアにたぶらかされてドワーフを捕えようとしたのが運の尽きだった。あの時にもっと強く引き留めていれば……レイグランドが儂の言う事を守らないとはな。儂も老いたという事か」

 ドワーフの集落を襲った最初の騎士が王子をたぶらかしたって事か。何だかきな臭いな~。

「グレイブランドは」

「儂の事はグレイと呼んでくれ」

「あ、そう。じゃあ、グレイはこの後どうするつもり?」

「どうとは?」

「落とし前だよ。戦争吹っ掛けておいて、ハイおしまいじゃすまないだろ」

 グレイは俺の言葉に顎に手を当てて考え込んでいる。貢物かなんかを用意してもらわないとこっちは許せないんだけどな。

「……見たところ、兵士を任せられるものはいないように思われますな」

「ん? ああ、指揮は大体俺がしてるかな?」

 街の住人に戦闘を主としている者はいない。俺もゲームが好きなだけで武術を習ったことがあるわけじゃないからな。

「そこで、儂がこの街の将軍になるのはどうだろうか?」

「はぁ?」

 急に何を言い出すかと思えば。そんなの無理に決まってるだろ。

「あんたはレギントス帝国の将軍だろ。レギントス帝国が許さないだろ」

「儂も歳だといったであろう。それに王にはあきあきしていたのだ。領地を広げろだの、武器を揃えろだの。挙句の果てにはエルフを手に入れろだのと、これを機にここで隠居するのも悪くないと思ってな」

 グレイは愚痴をこぼして遠くを見る目をしだした。そんなことを話されても俺は頷かないぞ。

「ヒフミ殿にも悪くない話だぞ。レギントス帝国と貿易をなせるし、儂を人質としてこれ以上攻撃されんし。イズとアズも部隊に取り入れられる。そちらのお嬢さんは魔法を使えるであろう、それならば魔導書を持ってきてもいいぞ」

「ん! ん~」

 イズとアズがもらえるっていうのはあまりよろしくないがマイル達の魔法を強くできるのはとてもいい。魔法を知ることで俺も杖達への命令がしやすいしな。魔導書は欲しいな~。

「イズとアズは無しでなら」

「おお~、そう言ってくれると思った。これで余生を安静に暮らせるぞ~」

「いててて、髭がいてーよ」

 グレイは大喜びして、俺を抱き上げた。髭を頬をこすってくるものだから、痛い痛い。それにイズとアズの件は……、って聞いてないなこれ。
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