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第一章 落とされたもの
第36話 真実
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「……暗い。ここは?」
真っ暗な空間が広がる中、僕は目を覚ます。
「僕は確か、ルドガーの召喚したアマリエルの槍に貫かれて……。ルドガーが優しくするから殺されるとは思ってなかった。油断しちゃったな」
まさか、こんな最後になるなんて、シエルさん達には悪いことをしちゃったな。
「短い人生だった……。でも悔しいな。結局、僕はルドガーに勝てなかった」
最後に目にしたルドガーの顔が浮かぶ。アマリエルが僕の胸を槍で貫いた時、彼は悲しい顔になっていった。そういえば、アマリエルが言うことを聞いていない様子だったな。
「召喚した対象が言うことを聞かないことなんてあるんだな。なんだか僕の落とし物バッグみたいだな」
バレンティを取り出したときのことを思い出す。奴隷だった彼は人を恨んでたんだよな。それですべての人を憎んでいた。
「でも楽しかったな。あれ? なんだろ。なんで涙が。うっうっ」
勝手に流れてくる涙。拭っても拭っても流れ出てくる。楽しかったのになんで泣いてるんだよ。楽しかったんだからもういいじゃないか。
シエルさんとイーマちゃんを世界に戻せたんだからそれだけでも僕はよくやったよ。
『何を泣いているのですか?』
「何をってわからないよ。……え!? 誰!?」
真っ暗な空間の中、僕以外の声が聞こえてくる。声に振り返るとアマリエルが立っていた。
「き、君は!?」
「さっきぶりですね。アート」
「……」
「そんなに警戒しないでください」
アマリエルが両手を広げて声をかけてくるけど、僕は警戒して後ずさる。
警戒しないでって言われてもルドガーの命令を破ってまで僕を亡き者にしたがっていた人を警戒しない方が無理だよ。
「無理もないですね。ですがどうしてもあなたと話しをしたかったのです」
アマリエルはそう言うと座り込む。僕はなぜか座る姿にエマさんを投影してしまう。
「どうしたのアート?」
「な、何でもない」
「ふふ、育ての親のことでも考えてしまった?」
「!?」
見透かされたように言ってくるアマリエルに驚いて離れる。この人、この天使は何を考えてるんだ?
「僕と話したいって言ってたよね? 何が目的なの?」
僕は疑問を口にする。すると天使は微笑んだ。
「自分の息子と話したい。そう思っちゃダメ?」
「!?」
驚愕の告白に僕は声を出せずに驚く。アマリエルはそんな僕に手を差し伸べる。
「こっちに来てアート。あなたを抱いていたい」
「……いけません」
「なぜ?」
「だって、あなたは僕の母じゃない」
天使が母親、そんな人がいるはずがない。この天使は嘘をついてる。
「嘘だと思っているのね? 無理もないわ。人だったころ、私は娼婦だったんだものね。それが天使長になるなんて誰が思う……私だって困惑していたのにね」
「……」
否定すると悲しい表情になって行くアマリエル。本当なの?
「生前の名前はアマリ。幼い頃、私は両親を亡くした。身寄りのない私は孤児としてこの町に流れ着いて気が付けば娼館に……。あなたを生んだことくらいしか、幸せなことはなかったな」
グランドさんの話と間違いはないけど……。
「ずっと天から見ていた。いつか会えると思って待っていた」
「な、ならなんで邪魔をするの? ルドガーを止めることだって」
本当に僕の母ならなんで。
「ルドガー……。自分の身を売ってまでも貴族へと上りつめようとしている子。彼の力にもなってあげたいと思ってる。だけど、それも終わりね。ブロガは失脚するわ」
「え?」
「アームストロングは人の世界では強い人。王族に勝てる貴族なんていないものね」
ええ!? アームストロング様は王族だったのか。でも、ブロガは分かるけどなんでルドガーも終わりなんだ?
「今、外の世界は時間が止まってる。私の精神の世界にあなたを避難させているから。この世界を出ると時間は動き出す。ブロガは最後のあがきをするでしょう」
「あがき?」
「そう……。天を追放された天使を使うつもりみたい」
追放された天使? そんなものが?
「アートお願い。あなたを抱かせて。最後に……」
「最後って……」
「……天を追放された天使、ヴァルエルは破壊の限りを尽くす。それをルドガーが止めようとするわ。そうなったら私は魂まで破壊されてしまう。その前にあなたを一度でいいから抱きしめたいの。お願い」
「破壊の限り!? そ、そんなこと……」
手を差し伸べてくるアマリエル。僕は困惑する中、手に触れる。すると力強く引き寄せられて抱きしめられる。
石のようなゴーレムだと思っていたアマリエルだったけど、触れると人肌のような柔肌に感じた。温かな温もりを感じる。
「ありがとうアート。最後にもう一ついいかな?」
抱きしめられていると更にお願いをしてくるアマリエル。
「な、なに?」
「お母さんって呼んで」
「……お、お母さん?」
「ありがとアート」
お願いに答えて声をもらすと涙を流してお礼を言ってくるアマリエル。ほ、本当に母なのかな?
でも、ってことはもう母は……。
「じゃあ、もう行くわアート。勝負の途中だけど、あなたは動けなくなる。シエルさんに守ってもらって。彼女には更に隠している力がある。あの力ならやられることはないわ」
「ま、まって! お母さ……」
僕の言葉を遮って景色がシエルさんとイーマちゃんに変わっていく。悲しそうに駆け寄ってくる二人。僕は胸を抑えると刺されたはずの胸に傷がなかった。
「……お、お母さん」
「……」
動かない体を無理やり起こすと悲しい表情のアマリエルがルドガーの元へと戻って行った。
そして、介抱されている僕を見て司会の男がルドガーの勝利を告げる。
真っ暗な空間が広がる中、僕は目を覚ます。
「僕は確か、ルドガーの召喚したアマリエルの槍に貫かれて……。ルドガーが優しくするから殺されるとは思ってなかった。油断しちゃったな」
まさか、こんな最後になるなんて、シエルさん達には悪いことをしちゃったな。
「短い人生だった……。でも悔しいな。結局、僕はルドガーに勝てなかった」
最後に目にしたルドガーの顔が浮かぶ。アマリエルが僕の胸を槍で貫いた時、彼は悲しい顔になっていった。そういえば、アマリエルが言うことを聞いていない様子だったな。
「召喚した対象が言うことを聞かないことなんてあるんだな。なんだか僕の落とし物バッグみたいだな」
バレンティを取り出したときのことを思い出す。奴隷だった彼は人を恨んでたんだよな。それですべての人を憎んでいた。
「でも楽しかったな。あれ? なんだろ。なんで涙が。うっうっ」
勝手に流れてくる涙。拭っても拭っても流れ出てくる。楽しかったのになんで泣いてるんだよ。楽しかったんだからもういいじゃないか。
シエルさんとイーマちゃんを世界に戻せたんだからそれだけでも僕はよくやったよ。
『何を泣いているのですか?』
「何をってわからないよ。……え!? 誰!?」
真っ暗な空間の中、僕以外の声が聞こえてくる。声に振り返るとアマリエルが立っていた。
「き、君は!?」
「さっきぶりですね。アート」
「……」
「そんなに警戒しないでください」
アマリエルが両手を広げて声をかけてくるけど、僕は警戒して後ずさる。
警戒しないでって言われてもルドガーの命令を破ってまで僕を亡き者にしたがっていた人を警戒しない方が無理だよ。
「無理もないですね。ですがどうしてもあなたと話しをしたかったのです」
アマリエルはそう言うと座り込む。僕はなぜか座る姿にエマさんを投影してしまう。
「どうしたのアート?」
「な、何でもない」
「ふふ、育ての親のことでも考えてしまった?」
「!?」
見透かされたように言ってくるアマリエルに驚いて離れる。この人、この天使は何を考えてるんだ?
「僕と話したいって言ってたよね? 何が目的なの?」
僕は疑問を口にする。すると天使は微笑んだ。
「自分の息子と話したい。そう思っちゃダメ?」
「!?」
驚愕の告白に僕は声を出せずに驚く。アマリエルはそんな僕に手を差し伸べる。
「こっちに来てアート。あなたを抱いていたい」
「……いけません」
「なぜ?」
「だって、あなたは僕の母じゃない」
天使が母親、そんな人がいるはずがない。この天使は嘘をついてる。
「嘘だと思っているのね? 無理もないわ。人だったころ、私は娼婦だったんだものね。それが天使長になるなんて誰が思う……私だって困惑していたのにね」
「……」
否定すると悲しい表情になって行くアマリエル。本当なの?
「生前の名前はアマリ。幼い頃、私は両親を亡くした。身寄りのない私は孤児としてこの町に流れ着いて気が付けば娼館に……。あなたを生んだことくらいしか、幸せなことはなかったな」
グランドさんの話と間違いはないけど……。
「ずっと天から見ていた。いつか会えると思って待っていた」
「な、ならなんで邪魔をするの? ルドガーを止めることだって」
本当に僕の母ならなんで。
「ルドガー……。自分の身を売ってまでも貴族へと上りつめようとしている子。彼の力にもなってあげたいと思ってる。だけど、それも終わりね。ブロガは失脚するわ」
「え?」
「アームストロングは人の世界では強い人。王族に勝てる貴族なんていないものね」
ええ!? アームストロング様は王族だったのか。でも、ブロガは分かるけどなんでルドガーも終わりなんだ?
「今、外の世界は時間が止まってる。私の精神の世界にあなたを避難させているから。この世界を出ると時間は動き出す。ブロガは最後のあがきをするでしょう」
「あがき?」
「そう……。天を追放された天使を使うつもりみたい」
追放された天使? そんなものが?
「アートお願い。あなたを抱かせて。最後に……」
「最後って……」
「……天を追放された天使、ヴァルエルは破壊の限りを尽くす。それをルドガーが止めようとするわ。そうなったら私は魂まで破壊されてしまう。その前にあなたを一度でいいから抱きしめたいの。お願い」
「破壊の限り!? そ、そんなこと……」
手を差し伸べてくるアマリエル。僕は困惑する中、手に触れる。すると力強く引き寄せられて抱きしめられる。
石のようなゴーレムだと思っていたアマリエルだったけど、触れると人肌のような柔肌に感じた。温かな温もりを感じる。
「ありがとうアート。最後にもう一ついいかな?」
抱きしめられていると更にお願いをしてくるアマリエル。
「な、なに?」
「お母さんって呼んで」
「……お、お母さん?」
「ありがとアート」
お願いに答えて声をもらすと涙を流してお礼を言ってくるアマリエル。ほ、本当に母なのかな?
でも、ってことはもう母は……。
「じゃあ、もう行くわアート。勝負の途中だけど、あなたは動けなくなる。シエルさんに守ってもらって。彼女には更に隠している力がある。あの力ならやられることはないわ」
「ま、まって! お母さ……」
僕の言葉を遮って景色がシエルさんとイーマちゃんに変わっていく。悲しそうに駆け寄ってくる二人。僕は胸を抑えると刺されたはずの胸に傷がなかった。
「……お、お母さん」
「……」
動かない体を無理やり起こすと悲しい表情のアマリエルがルドガーの元へと戻って行った。
そして、介抱されている僕を見て司会の男がルドガーの勝利を告げる。
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