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第一章 落とされたもの
第21話 ジェシイ
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「騎士隊が苦戦しています。誰か助けてください」
少女が一生懸命声を張り上げてる。剣は持っているけど、鎧を着ていない彼女の言葉はみんなに聞こえていないようで、素通りしていく。
「な、なんで答えてくれないの?」
とうとう諦めて座るこむ少女。気になる、声をかけよう。
「すみません。今の話本当ですか?」
「え!? はい! 本当です!」
少女は俯く表情を明るくさせて答えてくれる。すると周りから心無い声が聞こえてくる。
「ゴブリンを生むだけのダンジョンで騎士隊が苦戦するわけがねえだろ」
「どうせ、取り分を横取りさせないための嘘だろ」
なるほど、なんでみんな素通りしていたのかが分かった。
騎士隊が苦戦するような危険なダンジョンに好き好んではいる人はいない。簡単なダンジョンだと聞いてきた人たちは絶対に中に入りたいからそんな真実に耳を傾けないんだ。簡単なダンジョンのままでいてほしいと思う弱さが彼女を嘘つきにしてしまう。
「本当なの! この紋章が、ルルス様の紋章が証拠」
少女が僕らにそういってルルス様の双頭の鷲の紋章を見せる。確かに彼の持っていたものと一緒だ。
「信じるよ。それよりも騎士隊が苦戦って何があったの?」
とにかく、細かい情報を聞かないと話にならない。少女は剣を地面に突き刺して話しだした。
「グーゼス様に続いて、ルルス様と騎士達はダンジョンを凄いスピードで攻略していったの。2日でダンジョンマスターの間までたどり着いちゃった」
「2日で!? それはおかしいよ! ダンジョンは最低でも一週間はかかるはずだよ。地図を作って攻略していくほどの大きなダンジョンもあるんだから!」
少女の話を聞いてスティナさんが声をあげる。
「うん。ルルス様も気づいていたけど、ダンジョンマスターによって私達は誘導されてたみたい」
「そんなことが!?」
「うん。ダンジョンマスターがデーモンだったからたぶんそう。デーモンは人間をあざ笑うのが好きだから」
少女の言葉にみんなで顔を見合う。デーモンなんて僕は聞いたことがない。
「デーモン……これは危険です」
「……ユラ! フィア!」
「スティナさん。待ってください。ちゃんと準備をしていかないと危険ですよ」
シエルさんが呟くとスティナさんがダンジョンへと走り出す。すかさずシエルさんが引き止めると涙を流し始めた。
「ユラとフィアが死んじゃうよ~!」
「あの二人の知り合いなの? たぶん、今はまだ大丈夫だと思う。死んだのはグーゼス様だけだから」
スティナさんが泣き出して二人の名を呼ぶと少女が驚きの事実を語った。グーゼス様って領主様だよね?
「それは本当なんですか? ルルス様は大丈夫なんですよね?」
「ん? ルルス様のことも知っているの? それなら名乗る。私はジェシイ、ルルス様にいい子いい子してもらうために急いでダンジョンを出てきた」
ジェシイさんがルルス様の名前に反応して自己紹介してくれた。いい子いい子って頭を撫でてもらうために急いでいたのか。
「周りの冒険者達は腑抜け。あなた達は強くて勇気がありそう。一緒に来てくれる?」
ジェシイさんは首を傾げて聞いてくる。僕はシエルさんに視線を向ける。
「シエル、どうしよう……」
「……デーモンはとても危険な魔物です。ランクで言うとAランクの魔物。知能もとても高く、魔法も多彩。戦えないとは言えませんがただでは済まないでしょう……」
シエルさんでもそんなに弱気になる魔物か。ダンジョンの中にはユラさんやフィアさん、ルルス様もいる。みんなで力を合わせれば勝てるんじゃないかな?
「ルルス様やユラさん達を見殺しには出来ないよシエル!」
「……分かっています。ですが、アート様の命を守れないかもしれないのです。ここは慎重に」
声を張り上げてシエルさんを見つめると悲しい顔で見つめ返してきた。ふと誰かが抱き着いてくるのを見るとそこにはイーマちゃんがいた。
「アート様。私も戦う! シエルお姉ちゃん行こう。ユラお姉ちゃんとフィアお姉ちゃんを助けに!」
イーマちゃんが真っすぐ僕らを見つめて話す。シエルさんと一度目を合わせると小さく息を吐いてダンジョンを見つめる。
「行こう!」
「はい! 命に代えてもアート様をお守りします」
「私も!」
決意を秘めて声をあげるとシエルさんとイーマちゃんが抱き着いてきた。イーマちゃんにはポーションをいつでも使えるようにしておいてもらう。そうすれば、危険はないだろう。
「ん、とてもいいパーティー。ルルス様を助けられる!」
「ユラ! フィア! 必ず助けるから!」
ジェシイさんとスティナさんも僕らについてきて声をもらす。二人も決意を秘めていてやる気を感じた。
遺跡のようなダンジョンの入口から中に入るとヒヤッとする冷気を感じた。
「グーゼス様は迷わず道を選んでた。この冷気を辿っていたみたい」
ジェシイさんがそう言って先頭を歩いてくれる。この冷気がデーモンの罠だったってことか。今はいい道案内だな。
「冒険者が多いエリアは安全だけど、油断しないで。魔物も怖いけど、人もまた魔物だから」
ジェシイさんはそう言ってスタスタと歩いていく。歩いているはずなのに早い、僕は小走りになってしまう。
「アート様、私が代わりに歩きます」
「わっ! ちょシエル……」
シエルさんが僕を抱き上げる。恥ずかしくて顔が熱くなるのを感じた。
「じゃあ、イーマちゃんは私が」
「ありがと~スティナお姉ちゃん」
「ふふ、どういたしましてイーマちゃん」
僕らを見ていたスティナさんがイーマちゃんを抱き上げる。微笑ましい光景だな。
そんな様子で冒険者の多い場所は魔物の心配もなく進めた。一日程の距離は魔物に会わずに休憩に入れた。ここまでは順調に進めてる。
少女が一生懸命声を張り上げてる。剣は持っているけど、鎧を着ていない彼女の言葉はみんなに聞こえていないようで、素通りしていく。
「な、なんで答えてくれないの?」
とうとう諦めて座るこむ少女。気になる、声をかけよう。
「すみません。今の話本当ですか?」
「え!? はい! 本当です!」
少女は俯く表情を明るくさせて答えてくれる。すると周りから心無い声が聞こえてくる。
「ゴブリンを生むだけのダンジョンで騎士隊が苦戦するわけがねえだろ」
「どうせ、取り分を横取りさせないための嘘だろ」
なるほど、なんでみんな素通りしていたのかが分かった。
騎士隊が苦戦するような危険なダンジョンに好き好んではいる人はいない。簡単なダンジョンだと聞いてきた人たちは絶対に中に入りたいからそんな真実に耳を傾けないんだ。簡単なダンジョンのままでいてほしいと思う弱さが彼女を嘘つきにしてしまう。
「本当なの! この紋章が、ルルス様の紋章が証拠」
少女が僕らにそういってルルス様の双頭の鷲の紋章を見せる。確かに彼の持っていたものと一緒だ。
「信じるよ。それよりも騎士隊が苦戦って何があったの?」
とにかく、細かい情報を聞かないと話にならない。少女は剣を地面に突き刺して話しだした。
「グーゼス様に続いて、ルルス様と騎士達はダンジョンを凄いスピードで攻略していったの。2日でダンジョンマスターの間までたどり着いちゃった」
「2日で!? それはおかしいよ! ダンジョンは最低でも一週間はかかるはずだよ。地図を作って攻略していくほどの大きなダンジョンもあるんだから!」
少女の話を聞いてスティナさんが声をあげる。
「うん。ルルス様も気づいていたけど、ダンジョンマスターによって私達は誘導されてたみたい」
「そんなことが!?」
「うん。ダンジョンマスターがデーモンだったからたぶんそう。デーモンは人間をあざ笑うのが好きだから」
少女の言葉にみんなで顔を見合う。デーモンなんて僕は聞いたことがない。
「デーモン……これは危険です」
「……ユラ! フィア!」
「スティナさん。待ってください。ちゃんと準備をしていかないと危険ですよ」
シエルさんが呟くとスティナさんがダンジョンへと走り出す。すかさずシエルさんが引き止めると涙を流し始めた。
「ユラとフィアが死んじゃうよ~!」
「あの二人の知り合いなの? たぶん、今はまだ大丈夫だと思う。死んだのはグーゼス様だけだから」
スティナさんが泣き出して二人の名を呼ぶと少女が驚きの事実を語った。グーゼス様って領主様だよね?
「それは本当なんですか? ルルス様は大丈夫なんですよね?」
「ん? ルルス様のことも知っているの? それなら名乗る。私はジェシイ、ルルス様にいい子いい子してもらうために急いでダンジョンを出てきた」
ジェシイさんがルルス様の名前に反応して自己紹介してくれた。いい子いい子って頭を撫でてもらうために急いでいたのか。
「周りの冒険者達は腑抜け。あなた達は強くて勇気がありそう。一緒に来てくれる?」
ジェシイさんは首を傾げて聞いてくる。僕はシエルさんに視線を向ける。
「シエル、どうしよう……」
「……デーモンはとても危険な魔物です。ランクで言うとAランクの魔物。知能もとても高く、魔法も多彩。戦えないとは言えませんがただでは済まないでしょう……」
シエルさんでもそんなに弱気になる魔物か。ダンジョンの中にはユラさんやフィアさん、ルルス様もいる。みんなで力を合わせれば勝てるんじゃないかな?
「ルルス様やユラさん達を見殺しには出来ないよシエル!」
「……分かっています。ですが、アート様の命を守れないかもしれないのです。ここは慎重に」
声を張り上げてシエルさんを見つめると悲しい顔で見つめ返してきた。ふと誰かが抱き着いてくるのを見るとそこにはイーマちゃんがいた。
「アート様。私も戦う! シエルお姉ちゃん行こう。ユラお姉ちゃんとフィアお姉ちゃんを助けに!」
イーマちゃんが真っすぐ僕らを見つめて話す。シエルさんと一度目を合わせると小さく息を吐いてダンジョンを見つめる。
「行こう!」
「はい! 命に代えてもアート様をお守りします」
「私も!」
決意を秘めて声をあげるとシエルさんとイーマちゃんが抱き着いてきた。イーマちゃんにはポーションをいつでも使えるようにしておいてもらう。そうすれば、危険はないだろう。
「ん、とてもいいパーティー。ルルス様を助けられる!」
「ユラ! フィア! 必ず助けるから!」
ジェシイさんとスティナさんも僕らについてきて声をもらす。二人も決意を秘めていてやる気を感じた。
遺跡のようなダンジョンの入口から中に入るとヒヤッとする冷気を感じた。
「グーゼス様は迷わず道を選んでた。この冷気を辿っていたみたい」
ジェシイさんがそう言って先頭を歩いてくれる。この冷気がデーモンの罠だったってことか。今はいい道案内だな。
「冒険者が多いエリアは安全だけど、油断しないで。魔物も怖いけど、人もまた魔物だから」
ジェシイさんはそう言ってスタスタと歩いていく。歩いているはずなのに早い、僕は小走りになってしまう。
「アート様、私が代わりに歩きます」
「わっ! ちょシエル……」
シエルさんが僕を抱き上げる。恥ずかしくて顔が熱くなるのを感じた。
「じゃあ、イーマちゃんは私が」
「ありがと~スティナお姉ちゃん」
「ふふ、どういたしましてイーマちゃん」
僕らを見ていたスティナさんがイーマちゃんを抱き上げる。微笑ましい光景だな。
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