上 下
15 / 40
第一章 落とされたもの

第15話 目覚め

しおりを挟む
「ん、ん~……。ここは」

 目を覚ますと僕のお店の寝室だった。

「アート様……」

「シエルさん。ここまで運んでくれたのかな」

 寝言が聞こえてきた。僕の眠るベッドに寄り添うように眠るシエルさんの寝言。とても綺麗な彼女の寝顔。思わず、彼女の頬を触ってしまう。

「ん……、アート様、起きたんですね。よかった」

「ごめんね。起こしちゃったね。運んでくれてありがとシエルさん」

 うるんだ瞳で微笑むシエルさん。お礼を言うと首を横に振った。

「アート様、私をシエルとお呼びください」

 跪いたシエルさんがそういうと僕の掌にキスをした。急なことで僕は言葉がでない。

「アート様は私の主。呼び捨てで呼んでほしいのです」

「あ、え? ……わかったよシエルさ、じゃなかった、シエル。君がそう言うなら呼び捨てで呼ばせてもらうね」

「はい!」

 彼女の話に答えると顔を見合って笑いあう。
 グ~! そうしていると僕のお腹が鳴ってしまう。恥ずかしい……

「ふふ、すぐに朝食を作りますね」

「あっ、僕も作るよ」

「きゃ!」
 
 シエルさんが話ながら扉を開けるとイーマちゃんが聞き耳を立てていたみたいで倒れこんでくる。

「もう! イーマったら……」

「えへへへ。私もお腹すいた~。早く作ろ~」

 シエルさんに抱き着くイーマちゃん。誤魔化すように話す彼女にため息をつきながらも一緒に一階のキッチンに降りていく。

「みんな無事に終わって良かった。僕も行こ」

 昨日のことを思い出しながら階段を降りていく。孤児院の子達も無事だった、本当に良かった。あの時に孤児院に泊ってなかったら大変なことになってた。

「わ~! 美味しそ~」

「ふふ、アート様! 卵を頂けますか?」

「了解」

 イーマちゃんが薄く切った焼きポテトを見て、嬉しそうに声をあげる。シエルさんは更に卵焼きをつくってくれるみたい、言われた通り卵を手渡す。

「アート様。アート様は才能を複数持っているのですね。凄いです!」

「え?」

 料理が出来て机に並べていると急にシエルさんが聞いてきた。

「魔法を使ったじゃないですか。それにあの剣捌き。才能がないと出来ませんよ」

「へ、へ~……」

 ルドガーの素振りの真似をしただけなんだけどな。

「実は才能がないってことで僕は捨てられたんだ。まあお父さんに直接聞いたわけじゃないけど、僕はそう思ってる」

「え? でも」

 シエルさんの料理を食べながら話していく。話を聞いて、彼女は首を傾げた。

「そう、才能がないと出来ない動きをしたよね。それはこの落とし物バッグのおかげなんだ。才能も入っているんだ」

「え!? それって……」

 真実を話すとシエルさんが驚愕する。それもそのはず、神様のような能力だもんな。
 イーマちゃんの食器をつく音だけが聞こえてくる静寂が続く。料理を並べ終えて、しばらくするとシエルさんが口を開く。

「聞いてはいけないと思っていましたが、そのバッグから私も……」

「そうだったんだね。実はそうなんだ」

 シエルさんの言葉に俯いて肯定する。彼女は再度口を紡ぐ。

「じゃあ、アート様のおかげで私とシエルお姉ちゃんが笑っていられるんだね! やった~!」

「イーマ……」

 口の周りを汚しながらイーマちゃんが声をあげる。本当に嬉しそうな彼女を見てシエルさんは泣き出してしまう。

「アート様、ありがとうございます」

「ううん。本物なのかはわからない。勝手に複製を作ってしまった可能性もある。怒られても仕方ないことをしてると思う」

「怒るなんてそんな! 感謝してもしきれないほどの幸せをアート様にもらっています。複製されていてもいなくても、今この目の前の幸せを否定なんてさせません。それがアート様でも!」

 お礼を言ってくれるシエルさん。僕が言葉をこぼすと彼女は僕を抱きしめて耳元で囁く。

「こちらこそ、ありがとうシエルさん。えっと……」

「お姉ちゃん達キスするの? イーマもした~い!」

「「!?」」

 シエルさんと見つめ合っているとイーマちゃんが目を輝かせて声をあげた。僕らは驚き戸惑って離れると食事を再開する。

「ほ、ほらイーマ。まだ食事中でしょ」

「え~、私は全部食べました~。お姉ちゃん達が遅いんだよ~」

「じゃあ、ハチミツ菓子があったでしょ。それも食べていいよ」

「あ~、本当だ~。やった~」

 シエルさんが誤魔化してイーマちゃんを誘導していく。僕も食事に集中しよう。

「アート君はいるかな?」

「ん?」

 食事を終えてお店の準備をしようと思ったら声が聞こえてくる。ルルスさんかな?

「やっほ~、アート君!」

「スティナさん? ルルスさんと?」

 スティナさんとルルスさんが一緒にお店に入ってきた。珍しいメンバー、どうしたんだろう?

「丁度外で会っただけだよ。僕は昨日の報酬とポーションの代金を届けに来たんだ。金貨1枚」

「え!? 金貨ですか? 大銀貨1枚じゃ?」

 ポーション一本が原価で大銅貨50枚。100本でしょ。明らかに値段が高いような?

「間違いじゃないよ。これはトロールやゴブリンの褒賞金も入っているからね。ついでに冒険者ギルドから受け取ってきたんだ」

「そ、そうなんですか? ルルスさんが肩代わりしてるんじゃ?」

 商人たちを納得させるためにそう言ってたよな~。

「いやいや、本当だよ。確かにポーションは肩代わりしているけど、褒賞金はギルドから出てる額だ。更に上乗せしても私としてはいいと思うくらいの活躍をしてくれたよ、君達は」

「そんな~」

 褒められて思わず頬が緩む。ルルスさんは本当にいい人だな~。

「おっとすまない。すぐに他の商人の元へ行かないといけないんだ」

「ありがとうございます。これ良かったら飲んでいってください」

 ルルスさんは急いでいるみたいだ。何か僕に出来ないことはないかなと思ってポーションを差し出した。

「ん? ポーションかな? 遠慮せずにもらうよ。正直、朝食も食べれていないんだ。ゴクッ! ん~、美味しいし、体が軽くなるな~。では!」

「はい! 頑張りすぎないでくださいね」

「はは、心配無用だよ。アート君」

 手を振って見送ると振りかえしながら微笑んでくれた。颯爽と現れて颯爽と去っていく。仕事人だな~。

「次は私だよアート君!」

 おっと忘れてた。スティナさんもいたんだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。

水定ユウ
ファンタジー
 村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。  異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。  そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。  生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!  ※とりあえず、一時完結いたしました。  今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。  その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。

異世界転生したら【スキル】が【グミ】でした 【魔王】の友達もできたので世界を平和にしたいと思います

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕はエガワ シュンヤ。グミが好きだった僕は異世界に転生した とても珍しいスキルを手に入れたけれど、人攫いにあってしまって両親と離れ離れ やっと成人して冒険者になれたけど、珍しいスキルが発動することはなかった だけど、レベルが上がったことで世界が変わった

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

農業機器無双! ~農業機器は世界を救う!~

あきさけ
ファンタジー
異世界の地に大型農作機械降臨! 世界樹の枝がある森を舞台に、農業機械を生み出すスキルを授かった少年『バオア』とその仲間が繰り広げるスローライフ誕生! 十歳になると誰もが神の祝福『スキル』を授かる世界。 その世界で『農業機器』というスキルを授かった少年バオア。 彼は地方貴族の三男だったがこれをきっかけに家から追放され、『闇の樹海』と呼ばれる森へ置き去りにされてしまう。 しかし、そこにいたのはケットシー族の賢者ホーフーン。 彼との出会いで『農業機器』のスキルに目覚めたバオアは、人の世界で『闇の樹海』と呼ばれていた地で農業無双を開始する! 芝刈り機と耕運機から始まる農業ファンタジー、ここに開幕! たどり着くは巨大トラクターで畑を耕し、ドローンで農薬をまき、大型コンバインで麦を刈り、水耕栽培で野菜を栽培する大農園だ! 米 この作品はカクヨム様でも連載しております。その他のサイトでは掲載しておりません。

転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。 全力でお母さんと幸せを手に入れます ーーー カムイイムカです 今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします 少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^ 最後まで行かないシリーズですのでご了承ください 23話でおしまいになります

勇者のハーレムパーティを追放された男が『実は別にヒロインが居るから気にしないで生活する』ような物語(仮)

石のやっさん
ファンタジー
主人公のリヒトは勇者パーティを追放されるが 別に気にも留めていなかった。 元から時期が来たら自分から出て行く予定だったし、彼には時期的にやりたい事があったからだ。 リヒトのやりたかった事、それは、元勇者のレイラが奴隷オークションに出されると聞き、それに参加する事だった。 この作品の主人公は転生者ですが、精神的に大人なだけでチートは知識も含んでありません。 勿論ヒロインもチートはありません。 そんな二人がどうやって生きていくか…それがテーマです。 他のライトノベルや漫画じゃ主人公になれない筈の二人が主人公、そんな物語です。 最近、感想欄から『人間臭さ』について書いて下さった方がいました。 確かに自分の原点はそこの様な気がしますので書き始めました。 タイトルが実はしっくりこないので、途中で代えるかも知れません。

墓守の荷物持ち 遺体を回収したら世界が変わりました

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前はアレア・バリスタ ポーターとしてパーティーメンバーと一緒にダンジョンに潜っていた いつも通りの階層まで潜るといつもとは違う魔物とあってしまう その魔物は僕らでは勝てない魔物、逃げるために必死に走った だけど仲間に裏切られてしまった 生き残るのに必死なのはわかるけど、僕をおとりにするなんてひどい そんな僕は何とか生き残ってあることに気づくこととなりました

最難関ダンジョンで裏切られ切り捨てられたが、スキル【神眼】によってすべてを視ることが出来るようになった冒険者はざまぁする

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
【第15回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞作】 僕のスキル【神眼】は隠しアイテムや隠し通路、隠しトラップを見破る力がある。 そんな元奴隷の僕をレオナルドたちは冒険者仲間に迎え入れてくれた。 でもダンジョン内でピンチになった時、彼らは僕を追放した。 死に追いやられた僕は世界樹の精に出会い、【神眼】のスキルを極限まで高めてもらう。 そして三年の修行を経て、僕は世界最強へと至るのだった。

処理中です...