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1巻
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第二話 王のスキル
ギルドから坂を下って、目的の宿屋に向かう。
テリアエリンの街は小高い丘を覆うように築かれていて、下に行くほど階級も下がっていくらしい。
といっても最下層でもそこまで街並みに変化はなく、あまり差は感じなかった。
王やマリーはあんな人達だったが、一般市民は違うらしく、差別や迫害もないように見える。
しかし、流石にこれだけ大きい街だと家や仕事のない人も出てくるみたいで、少し路地裏を覗けば座り込んでいる子供やゴミを漁っている人がいた。あまり見たくない光景である。
紹介された宿屋は一階が食堂になっていて、予想していたより綺麗な外観だった。
一番安いと聞いていたのだけど、単に立地が街の中心から遠いからというだけみたいだ。
扉を開くと、幼女が迎えてくれた。僕を見ると近づいてきて、手を引っ張り受付っぽいカウンターの前に連れていく。
「おかあさ~ん」
「はいはい、どうしたのルル? ってお客さんかい?」
召喚されて良かったことの一つかもしれないが、女将さんはまたも美人だった。少し恰幅はいいが懐の広そうな、僕のストライクゾーンを外れないお方である。
「すみません、一晩泊まりたいんですけど」
「はいよ。泊まるだけなら銅貨60枚だけど、朝晩二食付きで銅貨80枚だよ」
「それが、手持ちが心許なくて。今から依頼を済ませてくるので、予約だけってできます?」
「ははは、お客さん面白いね。うちは予約なんかしなくたって泊まれるよ。でも、わかった。少しくらいお金が足りなくても来てくんな。その時は、素泊まりの料金で朝晩つけてあげるよ」
女将さんは豪快に笑ってそう言ってくれた。やっぱりここでも街の人は優しい印象を受ける。しかし、受付や厨房に他の人の姿はない。もしかしてここも旦那さんが……?
「おきゃくさん、またくるの?」
「ああ、ちょっと働いてくるんだ。それが終わったら、ここに泊めてもらうから待っててね」
「うん、わかった~」
ルルちゃんという娘さんの頭を撫でてあげると、気持ちよさそうに目を細めていた。
小さい子って本当に癒しをくれるなあ……。いや、別にロリコンではないけども。
「すみません、申し遅れました。僕はレンといいます」
「私はネネ、この宿屋は【龍の寝床亭】だよ。この子はさっき聞いたろうけど、ルルね」
女将さんはルルちゃんの両肩に手を置きながら、名前を教えてくれた。
さて、日が暮れる前に依頼を済ませてこよう。
四件目の依頼場所は、噴水広場の冒険者ギルドの近く。
依頼主の家は、見事な庭園のあるお屋敷だった。
家の扉をノックすると、メイド服の女性が出てきて案内してくれた。
髪型はポニーテール、少し大人びたクールな表情で、これまた美人でございます。
掃除を頼まれたのは、庭園にあるブドウ畑だった。みっしりと垣根のように木が生い茂り、大粒の実がなっている。
「今は庭師に休暇を取らせていて、代わりの者が畑を管理していたんですが、どうも土に掛ける魔法の加減を間違えたようで……」
「なるほど」
こんな立派なお屋敷で掃除の依頼なんて変だなあと思ったら、そういうことか。
どこから手を付けようか迷ったが、とりあえず豊作過ぎて地面に落ちてしまっているブドウを拾い、籠に入れていくことにした。
すると一房拾い上げた瞬間、耳慣れない声が頭に響いた。
(【採取の王】のレベルが上がりました【E】→【D】)
「え?」
何が起こった? 僕はブドウを拾っただけだ。それも落ちていたものだから、収穫したわけでもない。
「どうしました?」
無表情のまま、メイドさんが僕を見て首を傾げている。
今のシステム音声みたいな声は、僕にしか聞こえなかったみたいだ。後で確認するとして、とりあえず今は依頼を済ませよう。
「すみません、何でもないです。ブドウの回収だけで大丈夫ですか?」
「あ、できれば雑草も抜いていただけると助かります。落ちてしまったブドウもまだ捨てないので、雑草とは分けておいてくださいね」
むむ、もしやブドウはお酒とかにするのかな。もしそうなら飲んでみたいな……。
大粒のブドウを眺めていると、そんな雑念が湧いてしまった。
今日のお宿のためにもよっこらせ、なんて心の中で歌って掃除していたら、一時間ほどで終わった。
これで銅貨40枚とは……つくづく、他の冒険者達は何故やらないんだと疑問に思う。
映画みたいに呪文一つで片付けや掃除ができる魔法はないみたいだし、確かに多くの人は面倒だと思うのかもしれないけど、僕としては、これで仕事になるなら全然構わない。
汗を拭いてメイドさんのもとに報告に行くと、彼女は「お礼です」と僕に綺麗なブドウをまるごと一房くれた。
何だか悪いと思ったけど、メイドさんは有無を言わさず押し付けてくる勢いだし、それを断れるほど僕も強くない。結局ありがたく受け取ることにした。
でも、なんであんなに押しが強かったんだろう? 渡してくる距離もやたら近かった気がする。表情がクールなお方なので心が読めません。
その後、お腹は減っていたけどすぐに冒険者ギルドに立ち寄り、報酬を受け取った。
宿に向かう頃には、すっかり日が落ちていた。
この世界も、どうやら四季はあるらしい。街路樹の落ち葉から察するに秋口くらいなのかな。
ということは、そう遠くないうちに冬がやってくる可能性が高い。やばいね。
今のうちにお金を稼いで、衣食住を整えておかないと悲惨なことになりそうだ。冬に路上で暮らすなんて考えたくもない。
そうして今後を憂いているうちに【龍の寝床亭】に着いた。僕が扉を開くと、ルルちゃんが迎えてくれる。
可愛過ぎるので高い高いをしてあげたら、とても喜んでくれました。
「おかえり。悪いね、相手してもらっちゃって。亭主がいた頃はあの人が遊んでたんだけどね」
夕食の支度をしてくれていたらしいネネさんが、厨房から出てくる。
やっぱり旦那さんがいないだと! この街の男どもはどんだけ危険な生き方をしてるんだ。でもその謎を聞く度胸はないので笑顔で通す。
「あら、荷物はそれだけかい? ずいぶん少ないね」
「まあ、色々ありまして」
召喚された時、僕は財布とスマホしか持っていなかった。財布は盗まれて、スマホは電源を切ったままポケットの中。鞄は公園のベンチに置いてきちゃったんだよね。
そして手には銅貨の入った袋と、いただいてきたブドウだけなので、まあ実質それだけが荷物だ。
「あ、そうだ。このブドウ、依頼先でお礼にもらってきたんですけど、いりませんか?」
「いいのかい? ありがとう、ご飯代はまけさせてもらうよ」
「え! いやいや、いただき物ですし悪いですよ!」
そんなつもりはなかったんだけど、ネネさんはいいのいいのと手を振って笑った。
美味しそうだからご飯の後にみんなで食べようってさ。なんて良い人なんだ。
「しかし、レン。あんた……変わった服を着ているね。カッコいいけど、動きにくいんじゃないのかい?」
「別に走ったり跳んだりはしないし、それほど悪くないですよ。水も弾く高性能スーツですし」
ネネさんは「そうなのかい?」と首を傾げて、厨房に戻っていった。ルルちゃんもそれを真似して首を傾げた後、ネネさんの後を追いかけていく。
なんとも微笑ましい親子だった。
◇
ネネさんに出してもらった食事(とブドウ)をいただいた後、自室に向かう。
さっきのシステム音声も気になるし、明日からどうするかも考えなくてはいけない。
ひとまずステータスを確認して、何かやれることがないか探ることにした。
「ステータスオープン」
レン コヒナタ
レベル 1
【HP】 40 【MP】 30
【STR】 9 【VIT】 8
【DEX】 8 【AGI】 11
【INT】 7 【MND】 7
スキル
アイテムボックス【無限】 鍛冶の王【E】
採掘の王【E】 採取の王【D】
まずあの「E→D」というシステム音声は、やっぱりスキルのレベルアップを告げていたみたいだ。その辺のものを拾っただけでも、スキルを使った扱いになっているのか。
そこまで考えて、ふとアイテムボックスが気になった。
受付のお姉さんの話を聞いたのもあって、人前でアイテムボックスを使うのは避けていた。特に何を収納した覚えもないので、空っぽのはずだけど……。
「アイテムボックスオープン」
ステータス画面の横に、新たに小さなウィンドウが開いた。
――何も入ってないはずのボックス内には、大量のアイテムが入っていた。
【世界樹の葉】170 【世界樹の枝】95
【清らかな水】250(瓶入り) 【清らかなブドウ】20
【砂金】300
何だこれ? どういうこと。誰かおせえて!
といっても天の声は舞い降りないので、自分で考えるしかない。落ち着いて思い出してみよう。
今日、僕がしたことは何だ? 庭、排水溝、ブドウ畑の掃除。確かに、葉っぱや水やブドウがあったエリアではある。
しかし、わからん。何で〝世界樹〟とか〝清らか〟とかの肩書きがついているんだ? それに砂金に至っては、排水溝の泥とか畑の土を掬った程度で、金自体を見た覚えはないぞ。
「採取の王が仕事をした……ってことかな?」
自分の手で回収した物の、上位互換アイテムが採取できるスキル、としか考えられない。
ゴミは捨てたし、ブドウも分別して依頼人に渡したけど、それらが採取されたことになっているのか。
これが本当なら凄いことだけど、グレード上がり過ぎじゃないか?
だって〝世界樹〟だぞ。少しでもRPGやファンタジーに触れた人なら、誰しも聞き覚えがあるだろう。葉をすり潰したり、煎じたりして飲ませれば死者でも復活しそうだ。
「砂金があるなら鍛冶の王も使ってみたいけど、ある意味怖いな」
採取の王がこれだけのチートとなると、鍛冶の王もそれに近いスキルの可能性がある。
金の上位品ってプラチナ? お金の心配なんていらなくなりそうだ。
……いやいや、そんな楽観視している場合じゃない。誰かに知られたら命の危険がある。
早いうちに身を守るものを作った方がいいかもしれないな。
よし、明日は鍛冶できる場所を探そう。
「砂金かあ……今まで見たこともなかったよ」
小市民な僕はアイテムボックスから砂金を取り出して、しげしげと眺める。
ちょっと力を入れたら、予想以上の柔らかさで粘土みたいだった。
面白いのでずっと指先でコネコネしていたら、何故か金色が剥がれてきた。
「あれ? なんだ偽物か……良かったような悔しいような」
ある程度柔らかい金属だとは聞いていたけど、流石にここまで柔らかいわけがないよね。
でも、子供の頃持っていた練り消しなんかと一緒で、こねるのは何となく気持ちいい。
偽物でもまあいっかと思い、続けていると……。
「あーあ、白くなってきちゃった……ん?」
指先の金属が、おかしな感触に変わる。粘土みたいだったのが少し固くなって、さらに輝きが強くなった。
「何かがおかしい……鑑定ってできないのかな?」
とか思っていると、またあの音声が流れた。
(【鍛冶の王】の結合スキル、【鑑定】を使用します)
持っていないはずの鑑定が勝手に行われた。結合スキルなんて初めて聞いた。
そして画面に表示された鑑定結果に、僕は唖然とする。
【オリハルコン】
「はい?」
開いた口が塞がらない。もうこの際、金を簡単にこねられてしまったことはいいとして、なんでそれだけでオリハルコンになるんだ。
「こねることが〝鍛冶〟になってるのか……? いや違うな、鍛冶の王で触った金属が、上位互換されるのか。この調子だと採掘の王もそんな感じなのかも」
今度、石でも叩いてみるか。もちろん、誰もいないところでね。
「とりあえず、何か小さいものでも作ってみようかな。粘土みたいに扱えるからリングとか? 逆に刃物なんかはこの柔らかさじゃ無理だろうし。鍛冶道具をどこかで借りれないか調べないとなー」
ゆくゆくは討伐系の依頼も受ける予定だから、武器や防具も必要になる。
「さてさて、何が出るかな」
テーブルの上に砂金を百粒ほど出して工作。指輪と腕輪とネックレスを作ってみた。
ネックレスは螺旋を描いた感じのデザインになって、なかなか傑作っぽくなったぞ。
腕輪と指輪は普通のリング型だけど、アイテムとしては結構上位なようです。
【オリハルコンの腕輪】 VIT+300
【オリハルコンの指輪】 VIT+300
【オリハルコンのネックレス】STR+200 VIT+500
単純な造形からは想像もできない能力値アップである。
ただ、まだ僕もこの世界のステータスの水準を知らないので迂闊に喜べない。今は大抵のパラメータが一桁だけど、レベルが上がった後の数値次第ではガラクタになりかねないからだ。
それでも、場合によってはこの世界ではあり得ない数値のVITを手に入れた可能性がある。
「とんでもないね」
チートではないかもなんて思ってたら、すっごいチートだった。
ごめんよ王スキル三人組。これからは侮りません。
◇
翌日、身支度を整えてギルドに向かう。
「おはようございます」
「ああ、レンさん。おはようございます。今日もお掃除しますか?」
目立つ服を着ているからか、受付のお姉さんは僕を覚えてくれていた。
「はい、ぜひ。ちょっと今日は鍛冶屋さんからの依頼を探してるんですが……」
「鍛冶屋……大丈夫ですか? 掃除の依頼でも、鍛冶屋だと特にきつくて実入りが少ないですけど」
「大丈夫です」
今日は朝から働けるので、めいっぱいやっていくぞ。
まずは、鍛冶屋の掃除の依頼を受けて、鍛冶場を使わせてもらえないか交渉するのが目標。
もし利用料が必要になったら、結局宿代をまけてもらって余った銅貨もあるし、何とかなるだろう。砂金を出せば一発だと思うけど、まだ表に出すのは怖い。
そして行きがけに、手ごろな肩掛けの鞄を買った。
アイテムボックスがあるから僕自身は手ぶらでいいんだけど、ボックスの中のものを出す時にどうしても不自然なので、外見だけでも装えるようにと思ったのだ。
これで砂金を出そうが何を出そうが、鞄の中から取り出した風にできるのでひとまず問題ない。
ということでやってきました、鍛冶屋さん。作った武器や防具もここで売っているみたいだ。
扉が開きっぱなしだったのでそのまま入ると、オーバーオール姿のお姉さんが店番をしていた。頬杖をついて、何やらふて腐れている様子。
「おはようございます。冒険者ギルドの依頼を受けて来ました」
僕が挨拶すると、お姉さんは立ち上がって僕の腕を掴み、無言で地下に引っ張っていった。ちょっとびっくりしたけど、どうも僕に怒っている風ではなさそうなので黙ってついていく。
地下の工房へと階段を下りていく間に、さっそく熱を感じた。
外から見た時にはちゃんと建物に煙突があったのだけど、それだけでは熱を排出しきれずにこっちからも熱が昇ってきているようだ。
工房に着くと、そこにはファンタジー世界の常連、ドワーフのお爺さんがいた。赤熱した剣を、ハンマーで叩いている。
「おじい~、掃除してくれるって冒険者が来たよ」
「あぁ、そうかい。じゃあ煙突を掃除させてくれ。早う排気せんと、剣に悪い熱が移りそうじゃ!」
僕の顔も見ずにそう言ったドワーフさん。不愛想なお爺さんといった感じか。
まあ、ドワーフはよく鍛冶にしか興味がないとか言われてるし、それほど気にならない。先入観があって逆に良かった。
ということでその辺にあったブラシを借りて、地下の熱を逃がすための煙突を掃除します。
暖炉のような床から伸びる煙突と違い、換気扇みたいに天井から出ている。下から掃除するのは難しそうだったので、一度建物の外に出て、煙突についているハシゴを伝って上っていった。
気のせいか昨日より体が軽く、意外と余裕だね。装備によるステータスアップが影響していそうだ。
てっぺんまで上がると、陽の光が目に刺さる。
「眩しい……結構高いなー」
丘陵に沿って作られた街が、朝日に照らされているのがよく見える。
しばらく景色に目を奪われてしまったが、気を取り直してブラシで上から掃除していく。煤汚れは結構頑固だけど、洗剤なんてないので水で流すしかない。
……水か、そうだ! アイテムボックスの清らかな水を使えば、掃除も楽じゃないのか?
僕はボックスから、瓶に入った清らかな水を取り出した。
適当に汚れにぶちまけると、みるみる落ちていく。真っ白とはいかないが、ブラシをかければそれなりになる。普通の水ではこうはいかないだろう。流石上位アイテム。
ちなみに瓶はまた別のことに使えそうなのでボックスに戻した。たぶん、これだけ造りの良い瓶なら売れるだろうからね。
かなりの時間を費やすと思われた煙突掃除も、清らかな水のおかげであっという間に終わった。
「お兄さん、凄いね。掃除マスター? 煙突掃除はこんなに早く終わらないよ、普通」
オーバーオールのお姉さんは感心して僕を見る。さっきはふて腐れていただけに、こうやって褒められると気持ちが良いです。
ああ、そうだ。それよりも交渉をしなくちゃ。
「あの……鍛冶場をお貸しいただくことって、できます?」
「ん、お兄さん、鍛冶の志も持ってる感じ? それならあっちの作業台を使っていいよ。ただ、掃除をしないと使えないけど」
なるほどね。その代わりタダなのかな?
「使用料とかはいらないから、素材は自分で用意してね。私は売ってあげてもいいんだけど、大体おじいが使う分だから、おじいに怒られる」
横目でお爺さんをちらりと見て、お姉さんは苦笑した。
「ありがとうございます! 素材は自分で用意できるので大丈夫です」
「――ふん、素人が鍛冶をやろうというのか。まったく、若いもんはそうやって軽々しく考えるからいかん」
鍛冶という言葉に反応したドワーフのお爺さんが、何やら不満を述べつつ振り向いた。
すると突然目を丸くして、僕をまじまじと見る。空想の存在だと思っていたドワーフを間近で見られて感動だけど、ソッチの気はないので無反応を貫いておこう。
「おぬし……なるほど」
何かに納得したように頷くと、お爺さんはまた鍛冶の作業に戻った。
何がなるほどなのかわからないけど、まあいいか。次の掃除とご飯を済ませて、また戻ってこよう。
「ふ~ん、おじいが一目見ただけで使うのを許すなんてね。相当気に入られてるよ、君」
「そうなんですか?」
工房を後にして階段を上る間、お姉さんはそう言ってきた。
「細い腕だし、普通の冒険者には見えない格好だし、私にはわからないな~。でも、これからちょくちょく来るってことなら、ちゃんと自己紹介しておこうかな」
受付まで戻ると、お姉さんは僕に向き直った。
「私はこの鍛冶屋【龍剣】のオーナー、ガッツおじいの孫のエレナだよ。おとうもおかあも死んじゃってるから、おじいだけが私の肉親なの」
「そ、そうなんだね……僕はレン・コヒナタ。レンって呼んでください」
いきなり結構重たい境遇を聞いた気がするけど、流して普通に自己紹介を返した。
もし彼女があえて明るく言ったのなら、ここで僕が暗くなってしまうのは良くない。
後でまた来ますと伝えて、僕は【龍剣】を出た。
最初は昼食を挟んでから次の依頼場所に行こうと思ってたけど……まだ時間があるし、昼食の前に依頼を済ませてきちゃおうかな。
ギルドから坂を下って、目的の宿屋に向かう。
テリアエリンの街は小高い丘を覆うように築かれていて、下に行くほど階級も下がっていくらしい。
といっても最下層でもそこまで街並みに変化はなく、あまり差は感じなかった。
王やマリーはあんな人達だったが、一般市民は違うらしく、差別や迫害もないように見える。
しかし、流石にこれだけ大きい街だと家や仕事のない人も出てくるみたいで、少し路地裏を覗けば座り込んでいる子供やゴミを漁っている人がいた。あまり見たくない光景である。
紹介された宿屋は一階が食堂になっていて、予想していたより綺麗な外観だった。
一番安いと聞いていたのだけど、単に立地が街の中心から遠いからというだけみたいだ。
扉を開くと、幼女が迎えてくれた。僕を見ると近づいてきて、手を引っ張り受付っぽいカウンターの前に連れていく。
「おかあさ~ん」
「はいはい、どうしたのルル? ってお客さんかい?」
召喚されて良かったことの一つかもしれないが、女将さんはまたも美人だった。少し恰幅はいいが懐の広そうな、僕のストライクゾーンを外れないお方である。
「すみません、一晩泊まりたいんですけど」
「はいよ。泊まるだけなら銅貨60枚だけど、朝晩二食付きで銅貨80枚だよ」
「それが、手持ちが心許なくて。今から依頼を済ませてくるので、予約だけってできます?」
「ははは、お客さん面白いね。うちは予約なんかしなくたって泊まれるよ。でも、わかった。少しくらいお金が足りなくても来てくんな。その時は、素泊まりの料金で朝晩つけてあげるよ」
女将さんは豪快に笑ってそう言ってくれた。やっぱりここでも街の人は優しい印象を受ける。しかし、受付や厨房に他の人の姿はない。もしかしてここも旦那さんが……?
「おきゃくさん、またくるの?」
「ああ、ちょっと働いてくるんだ。それが終わったら、ここに泊めてもらうから待っててね」
「うん、わかった~」
ルルちゃんという娘さんの頭を撫でてあげると、気持ちよさそうに目を細めていた。
小さい子って本当に癒しをくれるなあ……。いや、別にロリコンではないけども。
「すみません、申し遅れました。僕はレンといいます」
「私はネネ、この宿屋は【龍の寝床亭】だよ。この子はさっき聞いたろうけど、ルルね」
女将さんはルルちゃんの両肩に手を置きながら、名前を教えてくれた。
さて、日が暮れる前に依頼を済ませてこよう。
四件目の依頼場所は、噴水広場の冒険者ギルドの近く。
依頼主の家は、見事な庭園のあるお屋敷だった。
家の扉をノックすると、メイド服の女性が出てきて案内してくれた。
髪型はポニーテール、少し大人びたクールな表情で、これまた美人でございます。
掃除を頼まれたのは、庭園にあるブドウ畑だった。みっしりと垣根のように木が生い茂り、大粒の実がなっている。
「今は庭師に休暇を取らせていて、代わりの者が畑を管理していたんですが、どうも土に掛ける魔法の加減を間違えたようで……」
「なるほど」
こんな立派なお屋敷で掃除の依頼なんて変だなあと思ったら、そういうことか。
どこから手を付けようか迷ったが、とりあえず豊作過ぎて地面に落ちてしまっているブドウを拾い、籠に入れていくことにした。
すると一房拾い上げた瞬間、耳慣れない声が頭に響いた。
(【採取の王】のレベルが上がりました【E】→【D】)
「え?」
何が起こった? 僕はブドウを拾っただけだ。それも落ちていたものだから、収穫したわけでもない。
「どうしました?」
無表情のまま、メイドさんが僕を見て首を傾げている。
今のシステム音声みたいな声は、僕にしか聞こえなかったみたいだ。後で確認するとして、とりあえず今は依頼を済ませよう。
「すみません、何でもないです。ブドウの回収だけで大丈夫ですか?」
「あ、できれば雑草も抜いていただけると助かります。落ちてしまったブドウもまだ捨てないので、雑草とは分けておいてくださいね」
むむ、もしやブドウはお酒とかにするのかな。もしそうなら飲んでみたいな……。
大粒のブドウを眺めていると、そんな雑念が湧いてしまった。
今日のお宿のためにもよっこらせ、なんて心の中で歌って掃除していたら、一時間ほどで終わった。
これで銅貨40枚とは……つくづく、他の冒険者達は何故やらないんだと疑問に思う。
映画みたいに呪文一つで片付けや掃除ができる魔法はないみたいだし、確かに多くの人は面倒だと思うのかもしれないけど、僕としては、これで仕事になるなら全然構わない。
汗を拭いてメイドさんのもとに報告に行くと、彼女は「お礼です」と僕に綺麗なブドウをまるごと一房くれた。
何だか悪いと思ったけど、メイドさんは有無を言わさず押し付けてくる勢いだし、それを断れるほど僕も強くない。結局ありがたく受け取ることにした。
でも、なんであんなに押しが強かったんだろう? 渡してくる距離もやたら近かった気がする。表情がクールなお方なので心が読めません。
その後、お腹は減っていたけどすぐに冒険者ギルドに立ち寄り、報酬を受け取った。
宿に向かう頃には、すっかり日が落ちていた。
この世界も、どうやら四季はあるらしい。街路樹の落ち葉から察するに秋口くらいなのかな。
ということは、そう遠くないうちに冬がやってくる可能性が高い。やばいね。
今のうちにお金を稼いで、衣食住を整えておかないと悲惨なことになりそうだ。冬に路上で暮らすなんて考えたくもない。
そうして今後を憂いているうちに【龍の寝床亭】に着いた。僕が扉を開くと、ルルちゃんが迎えてくれる。
可愛過ぎるので高い高いをしてあげたら、とても喜んでくれました。
「おかえり。悪いね、相手してもらっちゃって。亭主がいた頃はあの人が遊んでたんだけどね」
夕食の支度をしてくれていたらしいネネさんが、厨房から出てくる。
やっぱり旦那さんがいないだと! この街の男どもはどんだけ危険な生き方をしてるんだ。でもその謎を聞く度胸はないので笑顔で通す。
「あら、荷物はそれだけかい? ずいぶん少ないね」
「まあ、色々ありまして」
召喚された時、僕は財布とスマホしか持っていなかった。財布は盗まれて、スマホは電源を切ったままポケットの中。鞄は公園のベンチに置いてきちゃったんだよね。
そして手には銅貨の入った袋と、いただいてきたブドウだけなので、まあ実質それだけが荷物だ。
「あ、そうだ。このブドウ、依頼先でお礼にもらってきたんですけど、いりませんか?」
「いいのかい? ありがとう、ご飯代はまけさせてもらうよ」
「え! いやいや、いただき物ですし悪いですよ!」
そんなつもりはなかったんだけど、ネネさんはいいのいいのと手を振って笑った。
美味しそうだからご飯の後にみんなで食べようってさ。なんて良い人なんだ。
「しかし、レン。あんた……変わった服を着ているね。カッコいいけど、動きにくいんじゃないのかい?」
「別に走ったり跳んだりはしないし、それほど悪くないですよ。水も弾く高性能スーツですし」
ネネさんは「そうなのかい?」と首を傾げて、厨房に戻っていった。ルルちゃんもそれを真似して首を傾げた後、ネネさんの後を追いかけていく。
なんとも微笑ましい親子だった。
◇
ネネさんに出してもらった食事(とブドウ)をいただいた後、自室に向かう。
さっきのシステム音声も気になるし、明日からどうするかも考えなくてはいけない。
ひとまずステータスを確認して、何かやれることがないか探ることにした。
「ステータスオープン」
レン コヒナタ
レベル 1
【HP】 40 【MP】 30
【STR】 9 【VIT】 8
【DEX】 8 【AGI】 11
【INT】 7 【MND】 7
スキル
アイテムボックス【無限】 鍛冶の王【E】
採掘の王【E】 採取の王【D】
まずあの「E→D」というシステム音声は、やっぱりスキルのレベルアップを告げていたみたいだ。その辺のものを拾っただけでも、スキルを使った扱いになっているのか。
そこまで考えて、ふとアイテムボックスが気になった。
受付のお姉さんの話を聞いたのもあって、人前でアイテムボックスを使うのは避けていた。特に何を収納した覚えもないので、空っぽのはずだけど……。
「アイテムボックスオープン」
ステータス画面の横に、新たに小さなウィンドウが開いた。
――何も入ってないはずのボックス内には、大量のアイテムが入っていた。
【世界樹の葉】170 【世界樹の枝】95
【清らかな水】250(瓶入り) 【清らかなブドウ】20
【砂金】300
何だこれ? どういうこと。誰かおせえて!
といっても天の声は舞い降りないので、自分で考えるしかない。落ち着いて思い出してみよう。
今日、僕がしたことは何だ? 庭、排水溝、ブドウ畑の掃除。確かに、葉っぱや水やブドウがあったエリアではある。
しかし、わからん。何で〝世界樹〟とか〝清らか〟とかの肩書きがついているんだ? それに砂金に至っては、排水溝の泥とか畑の土を掬った程度で、金自体を見た覚えはないぞ。
「採取の王が仕事をした……ってことかな?」
自分の手で回収した物の、上位互換アイテムが採取できるスキル、としか考えられない。
ゴミは捨てたし、ブドウも分別して依頼人に渡したけど、それらが採取されたことになっているのか。
これが本当なら凄いことだけど、グレード上がり過ぎじゃないか?
だって〝世界樹〟だぞ。少しでもRPGやファンタジーに触れた人なら、誰しも聞き覚えがあるだろう。葉をすり潰したり、煎じたりして飲ませれば死者でも復活しそうだ。
「砂金があるなら鍛冶の王も使ってみたいけど、ある意味怖いな」
採取の王がこれだけのチートとなると、鍛冶の王もそれに近いスキルの可能性がある。
金の上位品ってプラチナ? お金の心配なんていらなくなりそうだ。
……いやいや、そんな楽観視している場合じゃない。誰かに知られたら命の危険がある。
早いうちに身を守るものを作った方がいいかもしれないな。
よし、明日は鍛冶できる場所を探そう。
「砂金かあ……今まで見たこともなかったよ」
小市民な僕はアイテムボックスから砂金を取り出して、しげしげと眺める。
ちょっと力を入れたら、予想以上の柔らかさで粘土みたいだった。
面白いのでずっと指先でコネコネしていたら、何故か金色が剥がれてきた。
「あれ? なんだ偽物か……良かったような悔しいような」
ある程度柔らかい金属だとは聞いていたけど、流石にここまで柔らかいわけがないよね。
でも、子供の頃持っていた練り消しなんかと一緒で、こねるのは何となく気持ちいい。
偽物でもまあいっかと思い、続けていると……。
「あーあ、白くなってきちゃった……ん?」
指先の金属が、おかしな感触に変わる。粘土みたいだったのが少し固くなって、さらに輝きが強くなった。
「何かがおかしい……鑑定ってできないのかな?」
とか思っていると、またあの音声が流れた。
(【鍛冶の王】の結合スキル、【鑑定】を使用します)
持っていないはずの鑑定が勝手に行われた。結合スキルなんて初めて聞いた。
そして画面に表示された鑑定結果に、僕は唖然とする。
【オリハルコン】
「はい?」
開いた口が塞がらない。もうこの際、金を簡単にこねられてしまったことはいいとして、なんでそれだけでオリハルコンになるんだ。
「こねることが〝鍛冶〟になってるのか……? いや違うな、鍛冶の王で触った金属が、上位互換されるのか。この調子だと採掘の王もそんな感じなのかも」
今度、石でも叩いてみるか。もちろん、誰もいないところでね。
「とりあえず、何か小さいものでも作ってみようかな。粘土みたいに扱えるからリングとか? 逆に刃物なんかはこの柔らかさじゃ無理だろうし。鍛冶道具をどこかで借りれないか調べないとなー」
ゆくゆくは討伐系の依頼も受ける予定だから、武器や防具も必要になる。
「さてさて、何が出るかな」
テーブルの上に砂金を百粒ほど出して工作。指輪と腕輪とネックレスを作ってみた。
ネックレスは螺旋を描いた感じのデザインになって、なかなか傑作っぽくなったぞ。
腕輪と指輪は普通のリング型だけど、アイテムとしては結構上位なようです。
【オリハルコンの腕輪】 VIT+300
【オリハルコンの指輪】 VIT+300
【オリハルコンのネックレス】STR+200 VIT+500
単純な造形からは想像もできない能力値アップである。
ただ、まだ僕もこの世界のステータスの水準を知らないので迂闊に喜べない。今は大抵のパラメータが一桁だけど、レベルが上がった後の数値次第ではガラクタになりかねないからだ。
それでも、場合によってはこの世界ではあり得ない数値のVITを手に入れた可能性がある。
「とんでもないね」
チートではないかもなんて思ってたら、すっごいチートだった。
ごめんよ王スキル三人組。これからは侮りません。
◇
翌日、身支度を整えてギルドに向かう。
「おはようございます」
「ああ、レンさん。おはようございます。今日もお掃除しますか?」
目立つ服を着ているからか、受付のお姉さんは僕を覚えてくれていた。
「はい、ぜひ。ちょっと今日は鍛冶屋さんからの依頼を探してるんですが……」
「鍛冶屋……大丈夫ですか? 掃除の依頼でも、鍛冶屋だと特にきつくて実入りが少ないですけど」
「大丈夫です」
今日は朝から働けるので、めいっぱいやっていくぞ。
まずは、鍛冶屋の掃除の依頼を受けて、鍛冶場を使わせてもらえないか交渉するのが目標。
もし利用料が必要になったら、結局宿代をまけてもらって余った銅貨もあるし、何とかなるだろう。砂金を出せば一発だと思うけど、まだ表に出すのは怖い。
そして行きがけに、手ごろな肩掛けの鞄を買った。
アイテムボックスがあるから僕自身は手ぶらでいいんだけど、ボックスの中のものを出す時にどうしても不自然なので、外見だけでも装えるようにと思ったのだ。
これで砂金を出そうが何を出そうが、鞄の中から取り出した風にできるのでひとまず問題ない。
ということでやってきました、鍛冶屋さん。作った武器や防具もここで売っているみたいだ。
扉が開きっぱなしだったのでそのまま入ると、オーバーオール姿のお姉さんが店番をしていた。頬杖をついて、何やらふて腐れている様子。
「おはようございます。冒険者ギルドの依頼を受けて来ました」
僕が挨拶すると、お姉さんは立ち上がって僕の腕を掴み、無言で地下に引っ張っていった。ちょっとびっくりしたけど、どうも僕に怒っている風ではなさそうなので黙ってついていく。
地下の工房へと階段を下りていく間に、さっそく熱を感じた。
外から見た時にはちゃんと建物に煙突があったのだけど、それだけでは熱を排出しきれずにこっちからも熱が昇ってきているようだ。
工房に着くと、そこにはファンタジー世界の常連、ドワーフのお爺さんがいた。赤熱した剣を、ハンマーで叩いている。
「おじい~、掃除してくれるって冒険者が来たよ」
「あぁ、そうかい。じゃあ煙突を掃除させてくれ。早う排気せんと、剣に悪い熱が移りそうじゃ!」
僕の顔も見ずにそう言ったドワーフさん。不愛想なお爺さんといった感じか。
まあ、ドワーフはよく鍛冶にしか興味がないとか言われてるし、それほど気にならない。先入観があって逆に良かった。
ということでその辺にあったブラシを借りて、地下の熱を逃がすための煙突を掃除します。
暖炉のような床から伸びる煙突と違い、換気扇みたいに天井から出ている。下から掃除するのは難しそうだったので、一度建物の外に出て、煙突についているハシゴを伝って上っていった。
気のせいか昨日より体が軽く、意外と余裕だね。装備によるステータスアップが影響していそうだ。
てっぺんまで上がると、陽の光が目に刺さる。
「眩しい……結構高いなー」
丘陵に沿って作られた街が、朝日に照らされているのがよく見える。
しばらく景色に目を奪われてしまったが、気を取り直してブラシで上から掃除していく。煤汚れは結構頑固だけど、洗剤なんてないので水で流すしかない。
……水か、そうだ! アイテムボックスの清らかな水を使えば、掃除も楽じゃないのか?
僕はボックスから、瓶に入った清らかな水を取り出した。
適当に汚れにぶちまけると、みるみる落ちていく。真っ白とはいかないが、ブラシをかければそれなりになる。普通の水ではこうはいかないだろう。流石上位アイテム。
ちなみに瓶はまた別のことに使えそうなのでボックスに戻した。たぶん、これだけ造りの良い瓶なら売れるだろうからね。
かなりの時間を費やすと思われた煙突掃除も、清らかな水のおかげであっという間に終わった。
「お兄さん、凄いね。掃除マスター? 煙突掃除はこんなに早く終わらないよ、普通」
オーバーオールのお姉さんは感心して僕を見る。さっきはふて腐れていただけに、こうやって褒められると気持ちが良いです。
ああ、そうだ。それよりも交渉をしなくちゃ。
「あの……鍛冶場をお貸しいただくことって、できます?」
「ん、お兄さん、鍛冶の志も持ってる感じ? それならあっちの作業台を使っていいよ。ただ、掃除をしないと使えないけど」
なるほどね。その代わりタダなのかな?
「使用料とかはいらないから、素材は自分で用意してね。私は売ってあげてもいいんだけど、大体おじいが使う分だから、おじいに怒られる」
横目でお爺さんをちらりと見て、お姉さんは苦笑した。
「ありがとうございます! 素材は自分で用意できるので大丈夫です」
「――ふん、素人が鍛冶をやろうというのか。まったく、若いもんはそうやって軽々しく考えるからいかん」
鍛冶という言葉に反応したドワーフのお爺さんが、何やら不満を述べつつ振り向いた。
すると突然目を丸くして、僕をまじまじと見る。空想の存在だと思っていたドワーフを間近で見られて感動だけど、ソッチの気はないので無反応を貫いておこう。
「おぬし……なるほど」
何かに納得したように頷くと、お爺さんはまた鍛冶の作業に戻った。
何がなるほどなのかわからないけど、まあいいか。次の掃除とご飯を済ませて、また戻ってこよう。
「ふ~ん、おじいが一目見ただけで使うのを許すなんてね。相当気に入られてるよ、君」
「そうなんですか?」
工房を後にして階段を上る間、お姉さんはそう言ってきた。
「細い腕だし、普通の冒険者には見えない格好だし、私にはわからないな~。でも、これからちょくちょく来るってことなら、ちゃんと自己紹介しておこうかな」
受付まで戻ると、お姉さんは僕に向き直った。
「私はこの鍛冶屋【龍剣】のオーナー、ガッツおじいの孫のエレナだよ。おとうもおかあも死んじゃってるから、おじいだけが私の肉親なの」
「そ、そうなんだね……僕はレン・コヒナタ。レンって呼んでください」
いきなり結構重たい境遇を聞いた気がするけど、流して普通に自己紹介を返した。
もし彼女があえて明るく言ったのなら、ここで僕が暗くなってしまうのは良くない。
後でまた来ますと伝えて、僕は【龍剣】を出た。
最初は昼食を挟んでから次の依頼場所に行こうと思ってたけど……まだ時間があるし、昼食の前に依頼を済ませてきちゃおうかな。
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二巻書籍化が決定しました一部ウェブ版とは変わっていますまた、新しい場面を追加しているのでよかったら手に取ってやってください定価1,200円+税となっておりますよろしくお願いします
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