最強の赤ん坊! 異世界に来てしまったので帰ります!

カムイイムカ(神威異夢華)

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第2章 天界と魔界

第52話 死のその先

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「ようこそ、アキラ君の両親のレッグスとエミ」

「「……」」

 アキラがルインズに帰還したころ、レッグスとエミは軍艦で魔族の港町へと向かっていた。周りは海、大海原と言っていい風景。
 陸地も見えないというのに魔族の王、サターンが空から降りてきて声をかけてくる。レグルス配下の船乗りたちは冷や汗を流して傍観するしかなかった。それもそのはず、サターンの一睨みを受けて恐怖で動けなくなっている。今、この船で動けるのはレッグスのみ。絶体絶命の危機とはこのことだろう。

「アキラをどこにやった!」

「ははは、流石はアキラの親だな。私の恐怖を跳ねのけるか」

 レッグスが剣を抜いて声をあげる。サターンはそんな彼を見て笑うと口角をあげる。余裕を見せるサターン、レッグスの焦りを感じて優位に立っているのだろう。

「心配するな。私は戦いに来たのではない。勝ちの分かっている戦い程面白くないことはないからな」

「くっ! や、やってみないと分からないだろ!」

「わかる。君の焦りを見ればな。冷静な状況じゃなくては戦いは勝てない。そう思わないか?」

 サターンの声に虚勢を張るレッグス。サターンが近づくことで恐怖が剣を震わせる。レッグスはサターンの声に虚勢を張ることも出来なくなり、悔しさが涙を誘う。

「アキラを返して」

 そんな中、ゆっくりと着実にサターンの背に歩いていたエミが声をあげる。サターンの背に両の手を添えたエミは殺気を放ち、睨みを利かせる。

「母はつよしとはよく言ったものだな。返すはずがないだろ?」

「忠告はしたはよ」

「なにを……。!?」

「【ファイアオブウォータ【デス】】」

 エミはサターンに添えた両の手から炎と水を繰り出す。鋭く解き放たれた二つの属性がサターンの体を貫く。完全に油断しきっていたサターンはその場に横たわる。

「ハァハァ……。だ、だから言ったのよ。早く返せって。うっ!?」

「エミ!」

 顔を青ざめ息を切らせたエミは吐き気をもようして嗚咽する。レッグスは剣をしまい彼女に駆け寄る。

「ふふ、見てくれた? レッグス。私、攻撃魔法使えた」

「ああ、見てたさ。驚いた、最後に見た魔法よりも強かったな」

「そうね。でも、体はボロボロみたい。怒りに任せて使うもんじゃないわね」

 自分で封印していた攻撃魔法を解き放ったエミ。微笑んでレッグスに報告する彼女は無邪気で子供の様だった。

「ひぃ!?」

 レッグスがエミを抱きかかえていると背後から船乗りの悲鳴が上がる。
 確かに風穴の空いているサターンが起き上がった。よく見たらサターンの体から血が出ていない。

「素晴らしい。流石はあの子の親だ。自分のマナの限界を超えた力を放出するとは。油断していたとは言え、死んでしまった」

 自分の体に空いた穴を確認して笑みを浮かべるサターン。レッグスとエミは唖然としてその場にいる事しかできない。

「し、死んだにしては元気だな。どういう仕組みだ?」

「ははは、人族とは作りが違うんだ。私の命は複数ある。ここにあるだけが命ではないというわけだ」

 レッグスの声に素直に答えるサターン。死んだというのに余裕を見せるのには理由があるといった感じだろう。レッグスはしまった剣を再度構えてエミを庇うように立った。

「心配するな。戦いに来たわけではないといっただろ? 勇気ある母の一撃は確かに受け取った。城に招待しよう。嫌と言っても連れて行く」

「……命は取らないんだな?」

「ははは。……取るのならもうお前らは死んでいる」

 にこやかに話していたサターンだったが、レッグスの質問ににらみを利かせる。これ以上の問答は我慢の限界だ、と言わんばかりの圧を感じる。
 レッグスは生唾を飲み込むとエミの顔を見やる。彼女は彼の顔を見ると大きく頷いた。

「分かった。船にも攻撃はするな。俺達は投降する」

「戦争をする気はないさ。ようこそ、魔国サダラーンへ」

 レッグスが剣を鞘に納めて甲板に置く。剣を受け取ったサターンは大きくお辞儀をして声をあげた。
 アキラとすれ違ってしまった二人は魔国の捕虜となってしまった。
 そう思われた時、プラナが居ないことに気が付いたサターンが首を傾げる。

「もう一匹の従魔はどうした?」

「……は? 何のことだ?」

 サターンは嫌な予感がして声をあげる。レッグスは一瞬考え込んでからしらばっくれる。それはサターンも分かっている様子で彼の胸ぐらをつかむ。

「しらばっくれるな! 天使がいただろう! 娘の方ではない、ゴーレムの方だ!」

「ぐっ。何で知ってるんだ。俺達が同じ船に乗っていたのを」

 サターンは博識では説明のできないほどの知識、情報を持っている。それを警戒したレッグスはプラナを少し離して配置した。
 海の上での情報は持っていなかった様子のサターンにレッグスは口角をあげる。

「命が沢山あるみたいだが、体が全部なくなったらどうなるんだ?」

「なに? 何だこの光は?」

 胸ぐらをつかまれたままレッグスが口角をあげて話し出す。すると天から降り注ぐ光が船を包み込む。光は明るさを増してサターンだけを焼いていく。

「【サンクチュアリライト】。敵だけを焼き尽くす光。マスターの両親に不純な手で触れた罰だ」

「ぐあっ!? そ、空に隠れていたのか。上位の魔法を簡単に使ってきよって!」

 空から舞い降りた堅牢な天使プラナ。彼の声にサターンが悔しそうに答える。しかし、サターンはすぐに怪訝な表情を笑みに変える。

「ははは、この体はもう使えないな。では次の体に変えておく。アキラに会いたいのならば来るがいい。我がサダラーン城に。は~っはっはっはっは!」

 ドロドロに溶けていくサターン。最後まで笑い声を吐くと消えていく。まるで霧散して消える魔物のようだ。

「恐ろしい人ね」

「ああ、”この体”とか言っていたな。人が魔物になったり、命をいくつも持っていたり。常識が通用しない奴らばかりだ……。まあ、俺の息子もたいがいだけどな」

 エミが恐怖で呟くとレッグスがため息にも似た声を答える。アキラのことを思って魔国へと足を踏み入れていく。誘われるままに。
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