52 / 60
第2章 天界と魔界
第52話 死のその先
しおりを挟む
◇
「ようこそ、アキラ君の両親のレッグスとエミ」
「「……」」
アキラがルインズに帰還したころ、レッグスとエミは軍艦で魔族の港町へと向かっていた。周りは海、大海原と言っていい風景。
陸地も見えないというのに魔族の王、サターンが空から降りてきて声をかけてくる。レグルス配下の船乗りたちは冷や汗を流して傍観するしかなかった。それもそのはず、サターンの一睨みを受けて恐怖で動けなくなっている。今、この船で動けるのはレッグスのみ。絶体絶命の危機とはこのことだろう。
「アキラをどこにやった!」
「ははは、流石はアキラの親だな。私の恐怖を跳ねのけるか」
レッグスが剣を抜いて声をあげる。サターンはそんな彼を見て笑うと口角をあげる。余裕を見せるサターン、レッグスの焦りを感じて優位に立っているのだろう。
「心配するな。私は戦いに来たのではない。勝ちの分かっている戦い程面白くないことはないからな」
「くっ! や、やってみないと分からないだろ!」
「わかる。君の焦りを見ればな。冷静な状況じゃなくては戦いは勝てない。そう思わないか?」
サターンの声に虚勢を張るレッグス。サターンが近づくことで恐怖が剣を震わせる。レッグスはサターンの声に虚勢を張ることも出来なくなり、悔しさが涙を誘う。
「アキラを返して」
そんな中、ゆっくりと着実にサターンの背に歩いていたエミが声をあげる。サターンの背に両の手を添えたエミは殺気を放ち、睨みを利かせる。
「母はつよしとはよく言ったものだな。返すはずがないだろ?」
「忠告はしたはよ」
「なにを……。!?」
「【ファイアオブウォータ【デス】】」
エミはサターンに添えた両の手から炎と水を繰り出す。鋭く解き放たれた二つの属性がサターンの体を貫く。完全に油断しきっていたサターンはその場に横たわる。
「ハァハァ……。だ、だから言ったのよ。早く返せって。うっ!?」
「エミ!」
顔を青ざめ息を切らせたエミは吐き気をもようして嗚咽する。レッグスは剣をしまい彼女に駆け寄る。
「ふふ、見てくれた? レッグス。私、攻撃魔法使えた」
「ああ、見てたさ。驚いた、最後に見た魔法よりも強かったな」
「そうね。でも、体はボロボロみたい。怒りに任せて使うもんじゃないわね」
自分で封印していた攻撃魔法を解き放ったエミ。微笑んでレッグスに報告する彼女は無邪気で子供の様だった。
「ひぃ!?」
レッグスがエミを抱きかかえていると背後から船乗りの悲鳴が上がる。
確かに風穴の空いているサターンが起き上がった。よく見たらサターンの体から血が出ていない。
「素晴らしい。流石はあの子の親だ。自分のマナの限界を超えた力を放出するとは。油断していたとは言え、死んでしまった」
自分の体に空いた穴を確認して笑みを浮かべるサターン。レッグスとエミは唖然としてその場にいる事しかできない。
「し、死んだにしては元気だな。どういう仕組みだ?」
「ははは、人族とは作りが違うんだ。私の命は複数ある。ここにあるだけが命ではないというわけだ」
レッグスの声に素直に答えるサターン。死んだというのに余裕を見せるのには理由があるといった感じだろう。レッグスはしまった剣を再度構えてエミを庇うように立った。
「心配するな。戦いに来たわけではないといっただろ? 勇気ある母の一撃は確かに受け取った。城に招待しよう。嫌と言っても連れて行く」
「……命は取らないんだな?」
「ははは。……取るのならもうお前らは死んでいる」
にこやかに話していたサターンだったが、レッグスの質問ににらみを利かせる。これ以上の問答は我慢の限界だ、と言わんばかりの圧を感じる。
レッグスは生唾を飲み込むとエミの顔を見やる。彼女は彼の顔を見ると大きく頷いた。
「分かった。船にも攻撃はするな。俺達は投降する」
「戦争をする気はないさ。ようこそ、魔国サダラーンへ」
レッグスが剣を鞘に納めて甲板に置く。剣を受け取ったサターンは大きくお辞儀をして声をあげた。
アキラとすれ違ってしまった二人は魔国の捕虜となってしまった。
そう思われた時、プラナが居ないことに気が付いたサターンが首を傾げる。
「もう一匹の従魔はどうした?」
「……は? 何のことだ?」
サターンは嫌な予感がして声をあげる。レッグスは一瞬考え込んでからしらばっくれる。それはサターンも分かっている様子で彼の胸ぐらをつかむ。
「しらばっくれるな! 天使がいただろう! 娘の方ではない、ゴーレムの方だ!」
「ぐっ。何で知ってるんだ。俺達が同じ船に乗っていたのを」
サターンは博識では説明のできないほどの知識、情報を持っている。それを警戒したレッグスはプラナを少し離して配置した。
海の上での情報は持っていなかった様子のサターンにレッグスは口角をあげる。
「命が沢山あるみたいだが、体が全部なくなったらどうなるんだ?」
「なに? 何だこの光は?」
胸ぐらをつかまれたままレッグスが口角をあげて話し出す。すると天から降り注ぐ光が船を包み込む。光は明るさを増してサターンだけを焼いていく。
「【サンクチュアリライト】。敵だけを焼き尽くす光。マスターの両親に不純な手で触れた罰だ」
「ぐあっ!? そ、空に隠れていたのか。上位の魔法を簡単に使ってきよって!」
空から舞い降りた堅牢な天使プラナ。彼の声にサターンが悔しそうに答える。しかし、サターンはすぐに怪訝な表情を笑みに変える。
「ははは、この体はもう使えないな。では次の体に変えておく。アキラに会いたいのならば来るがいい。我がサダラーン城に。は~っはっはっはっは!」
ドロドロに溶けていくサターン。最後まで笑い声を吐くと消えていく。まるで霧散して消える魔物のようだ。
「恐ろしい人ね」
「ああ、”この体”とか言っていたな。人が魔物になったり、命をいくつも持っていたり。常識が通用しない奴らばかりだ……。まあ、俺の息子もたいがいだけどな」
エミが恐怖で呟くとレッグスがため息にも似た声を答える。アキラのことを思って魔国へと足を踏み入れていく。誘われるままに。
「ようこそ、アキラ君の両親のレッグスとエミ」
「「……」」
アキラがルインズに帰還したころ、レッグスとエミは軍艦で魔族の港町へと向かっていた。周りは海、大海原と言っていい風景。
陸地も見えないというのに魔族の王、サターンが空から降りてきて声をかけてくる。レグルス配下の船乗りたちは冷や汗を流して傍観するしかなかった。それもそのはず、サターンの一睨みを受けて恐怖で動けなくなっている。今、この船で動けるのはレッグスのみ。絶体絶命の危機とはこのことだろう。
「アキラをどこにやった!」
「ははは、流石はアキラの親だな。私の恐怖を跳ねのけるか」
レッグスが剣を抜いて声をあげる。サターンはそんな彼を見て笑うと口角をあげる。余裕を見せるサターン、レッグスの焦りを感じて優位に立っているのだろう。
「心配するな。私は戦いに来たのではない。勝ちの分かっている戦い程面白くないことはないからな」
「くっ! や、やってみないと分からないだろ!」
「わかる。君の焦りを見ればな。冷静な状況じゃなくては戦いは勝てない。そう思わないか?」
サターンの声に虚勢を張るレッグス。サターンが近づくことで恐怖が剣を震わせる。レッグスはサターンの声に虚勢を張ることも出来なくなり、悔しさが涙を誘う。
「アキラを返して」
そんな中、ゆっくりと着実にサターンの背に歩いていたエミが声をあげる。サターンの背に両の手を添えたエミは殺気を放ち、睨みを利かせる。
「母はつよしとはよく言ったものだな。返すはずがないだろ?」
「忠告はしたはよ」
「なにを……。!?」
「【ファイアオブウォータ【デス】】」
エミはサターンに添えた両の手から炎と水を繰り出す。鋭く解き放たれた二つの属性がサターンの体を貫く。完全に油断しきっていたサターンはその場に横たわる。
「ハァハァ……。だ、だから言ったのよ。早く返せって。うっ!?」
「エミ!」
顔を青ざめ息を切らせたエミは吐き気をもようして嗚咽する。レッグスは剣をしまい彼女に駆け寄る。
「ふふ、見てくれた? レッグス。私、攻撃魔法使えた」
「ああ、見てたさ。驚いた、最後に見た魔法よりも強かったな」
「そうね。でも、体はボロボロみたい。怒りに任せて使うもんじゃないわね」
自分で封印していた攻撃魔法を解き放ったエミ。微笑んでレッグスに報告する彼女は無邪気で子供の様だった。
「ひぃ!?」
レッグスがエミを抱きかかえていると背後から船乗りの悲鳴が上がる。
確かに風穴の空いているサターンが起き上がった。よく見たらサターンの体から血が出ていない。
「素晴らしい。流石はあの子の親だ。自分のマナの限界を超えた力を放出するとは。油断していたとは言え、死んでしまった」
自分の体に空いた穴を確認して笑みを浮かべるサターン。レッグスとエミは唖然としてその場にいる事しかできない。
「し、死んだにしては元気だな。どういう仕組みだ?」
「ははは、人族とは作りが違うんだ。私の命は複数ある。ここにあるだけが命ではないというわけだ」
レッグスの声に素直に答えるサターン。死んだというのに余裕を見せるのには理由があるといった感じだろう。レッグスはしまった剣を再度構えてエミを庇うように立った。
「心配するな。戦いに来たわけではないといっただろ? 勇気ある母の一撃は確かに受け取った。城に招待しよう。嫌と言っても連れて行く」
「……命は取らないんだな?」
「ははは。……取るのならもうお前らは死んでいる」
にこやかに話していたサターンだったが、レッグスの質問ににらみを利かせる。これ以上の問答は我慢の限界だ、と言わんばかりの圧を感じる。
レッグスは生唾を飲み込むとエミの顔を見やる。彼女は彼の顔を見ると大きく頷いた。
「分かった。船にも攻撃はするな。俺達は投降する」
「戦争をする気はないさ。ようこそ、魔国サダラーンへ」
レッグスが剣を鞘に納めて甲板に置く。剣を受け取ったサターンは大きくお辞儀をして声をあげた。
アキラとすれ違ってしまった二人は魔国の捕虜となってしまった。
そう思われた時、プラナが居ないことに気が付いたサターンが首を傾げる。
「もう一匹の従魔はどうした?」
「……は? 何のことだ?」
サターンは嫌な予感がして声をあげる。レッグスは一瞬考え込んでからしらばっくれる。それはサターンも分かっている様子で彼の胸ぐらをつかむ。
「しらばっくれるな! 天使がいただろう! 娘の方ではない、ゴーレムの方だ!」
「ぐっ。何で知ってるんだ。俺達が同じ船に乗っていたのを」
サターンは博識では説明のできないほどの知識、情報を持っている。それを警戒したレッグスはプラナを少し離して配置した。
海の上での情報は持っていなかった様子のサターンにレッグスは口角をあげる。
「命が沢山あるみたいだが、体が全部なくなったらどうなるんだ?」
「なに? 何だこの光は?」
胸ぐらをつかまれたままレッグスが口角をあげて話し出す。すると天から降り注ぐ光が船を包み込む。光は明るさを増してサターンだけを焼いていく。
「【サンクチュアリライト】。敵だけを焼き尽くす光。マスターの両親に不純な手で触れた罰だ」
「ぐあっ!? そ、空に隠れていたのか。上位の魔法を簡単に使ってきよって!」
空から舞い降りた堅牢な天使プラナ。彼の声にサターンが悔しそうに答える。しかし、サターンはすぐに怪訝な表情を笑みに変える。
「ははは、この体はもう使えないな。では次の体に変えておく。アキラに会いたいのならば来るがいい。我がサダラーン城に。は~っはっはっはっは!」
ドロドロに溶けていくサターン。最後まで笑い声を吐くと消えていく。まるで霧散して消える魔物のようだ。
「恐ろしい人ね」
「ああ、”この体”とか言っていたな。人が魔物になったり、命をいくつも持っていたり。常識が通用しない奴らばかりだ……。まあ、俺の息子もたいがいだけどな」
エミが恐怖で呟くとレッグスがため息にも似た声を答える。アキラのことを思って魔国へと足を踏み入れていく。誘われるままに。
197
お気に入りに追加
857
あなたにおすすめの小説

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語
Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。
チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。
その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。
さぁ、どん底から這い上がろうか
そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。
少年は英雄への道を歩き始めるのだった。
※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

異世界遺跡巡り ~ロマンを求めて異世界冒険~
小狸日
ファンタジー
交通事故に巻き込まれて、異世界に転移した拓(タク)と浩司(コウジ)
そこは、剣と魔法の世界だった。
2千年以上昔の勇者の物語、そこに出てくる勇者の遺産。
新しい世界で遺跡探検と異世界料理を楽しもうと思っていたのだが・・・
気に入らない異世界の常識に小さな喧嘩を売ることにした。

【完結】スキルを作って習得!僕の趣味になりました
すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
《ファンタジー小説大賞エントリー作品》 どんなスキル持ちかによって、人生が決まる。生まれ持ったスキルは、12歳過ぎから鑑定で見えるようになる。ロマドは、4度目の15歳の歳の鑑定で、『スキル錬金』という優秀なスキルだと鑑定され……たと思ったが、錬金とつくが熟練度が上がらない!結局、使えないスキルとして一般スキル扱いとなってしまった。
どうやったら熟練度が上がるんだと思っていたところで、熟練度の上げ方を発見!
スキルの扱いを錬金にしてもらおうとするも却下された為、仕方なくあきらめた。だが、ふと「作成条件」という文字が目の前に見えて、その条件を達してみると、新しいスキルをゲットした!
天然ロマドと、タメで先輩のユイジュの突っ込みと、チェトの可愛さ(ロマドの主観)で織りなす、スキルと笑いのアドベンチャー。

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います
町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい
ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。
強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。
ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる