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第2章 天界と魔界

第48話 船

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「すまない。この船はオーランスやエレービアの大陸に行くか?」

「あ? なんだ姉ちゃん。子連れで旅か? うちの船は軍艦だ。あっちの船が民間の船だぞ」

 ウルドに抱かれて港町についた。早速、町に忍び込んで港の船を物色。立派は船だと思ったら軍艦だった。
 船乗りの指さした方向を見ると二回り小さな船が3艘見える。

「しかし、いい体してるな姉ちゃん。軍人に抱かれる気はないか?」

「寝言は寝ていえ」

 ウルドを口説いてくる船乗り。彼はどうやら軍人だったみたい。軍艦乗りなんだからそりゃそうか。
 冷たくあしらうウルドはいら立ちを見せて民間の船へと歩き出す。

「そういわずにどうだ? 金貨を出すぜ。最近、魔王様が軍備を増強していてな。俺達にも大金が流れてきてるんだよ」

 船乗りはしつこくウルドを誘う。腕をつかんで引き留めてきた。必死過ぎて彼女は顔を引きつらせる。

「そういうことはそういう職業のものにあたれ。あまりしつこいとこちらも考えがあるぞ」

「へへへ、強い女は好きだぜ~。力づくでも」

「吐いた言葉は元には戻らないぞ!」 

 ウルドが再度断るとナイフを取り出して突きつけてくる。彼女の腕にナイフを滑らせる船乗り。
 ウルドはそのナイフの切っ先を指でつまむと指だけで潰していく。あまりの現象に船乗りはつぶされた切っ先を見つめて、顔を青くさせる。

「お前のあれもこうなるだろう。それでもいいなら扱ってやるぞ?」

「し、失礼しました~!」

 ウルドが睨みを効かせて声を上げると、船乗りは軍艦に走って戻り、中に入っていった。凄い勢いで逃げていったな~。

「まったく……。我の体はマスターにしか許しませんからね」

「あ~、はいはい」

 軽く返事を返すと彼女は頬をスリスリと這わせてくる。
 赤ん坊の僕にそんなこと言われてもな~。まあ、嫌われるよりはいいのかな。

「マスター。飛べるのですから船に乗らなくても?」

 船乗りに嫌悪感を感じたウルドがそう言ってくる。
 確かに彼女は飛べる。僕を抱きかかえて海を渡ればいい。僕は飛べないからウルドが頼りになっちゃう。
 海は何があるかわからない。海龍というものがいるのだから翼竜や普通に龍がいるかもしれない。
 そんなものにウルドが攻撃を受けたら僕は海に落ちる。それだけは勘弁願いたい。
 更に、大陸がどのくらいの距離にあるのかわからない。無知に飛び込むのはかなり危険だ。

「不測の事態になっても大丈夫なように船で行くんだ。この間みたいに魅了されてしまうとかね」

「そうですね……。ビーズには復讐の機会を頂けると嬉しいです」

 僕の言葉に顔を赤くさせて目を光らせるウルド。悔しいと言った様子だな。
 
「すまない。船の行き先を聞きたいんだが」

 ウルドは教えてもらった船の船乗りに声をかける。残念なことに直接エレービアとオーランスへの便はないみたいだ。
 思ったよりも遠くに来ちゃったみたいだな。

「エレービアに行きたいんだが」

「はぁ~、遠くに行くんだな~。それも人族の国か~。変わってるな~。あの大陸へ直接行くには海龍の住処をいかないといけないんだ。海龍は気性が荒いからな。通る船をすべて海に沈めちまうんだ」

 ウルドの声に説明してくれる船乗りさん。なるほどね、避けて通らないといけないから直接の便がないってことか。
 ん? でも、陸路があるんじゃ?

「海から一度陸に上がってしまえばいいんじゃないのか?」

 ウルドも同じように思ったようで声を上げる。すると船乗りさんが地図を見せてくれる。

「この二つの陸路は海賊が牛耳ってるんだ。魔王様にも逆らうような奴らでな。この陸路を進みたかったら金を払えと言ってきやがる。それもかなりの額を要求してくるものだから質が悪い」

 はぁ~、面倒な人たちがいるんだな~。でも、それなら僕らが成敗してしまえば。
 海龍よりは海賊の方がやりやすい。

「マスター。どうしますか?」

「その陸路から行こう。海賊を倒してもいいし」

 海を少し進み、一度陸路に上がって海賊を倒すでもいいし、避けるように進んでもいい。それで少しでも早く帰れれば。
 レッグスやエミは僕のためならどんなことでもしてしまうと思う。前世のお母さんみたいに無理はさせたくないから急がないと。

「おいおい。海賊っていってるだろ? 海にも奴らはいるんだぞ。そんなことに命はかけられねえ」

「小さな船ではいけないか?」

「いけなくもないが……海には別の魔物がいる。魔物除けの魔道具を付けた中くらいの船じゃねえと危険だ」

 ウルドと船乗りさんの話を聞いて考え込む。
 ん~、お金もまだないしな。何かいい手はないかな~。

「……海賊の討伐依頼や、魔物の討伐依頼を出しているものはいないか?」

 ウルドが声を上げて、僕はポンと手を叩く。その手があった。
 船乗りさんは彼女の声を聞いてあきれるように首を横に振ると船の中に入っていく。相手にするのも馬鹿らしいと思ってしまったかな、としばらく待っていると立派な帽子と髭のおじさんを連れて戻ってきた。

「おう! あの海賊どもを蹴散らしてくれるんだって?」

 おじさんは煙草に火をつけると声を上げる。大きく煙を吸って、吹きかけてくる。ウルドは僕を煙から遠ざけると頷いて答える。

「それじゃ、いっちょ腕試しだ。おい、ジント」

「へい!」

 おじさんの声に答えるガタイの大きな魔族の男性。魔国の国なんだから魔族は当たり前か。
 彼はゴンザよりは小さいけど、ウルドよりは大きい。自信満々と言った様子で指を鳴らす。

「へへへ、どこを触ってもいいよな」

「は! 触れるほど立っていられるか?」

「な!?」

 いやらしい目でウルドを見つめるジント。彼はウルドの弾いたデコピンを受けると、船の外まで弾かれる。

「ひゅ~、採用だ。ジントを早く引き揚げろ! 今日は最高のショーが見れるぞ!」

 ウルドの強さを見た船乗りたちはキャプテンの声で動き出す。帆をあげ、船が港を離れ始める。

「おう! 強い姉ちゃん。俺の名前はロドリックってんだ。これからよろしくな。最高のショーを見せてくれよ!」

「ああ、言っておくが金はないからな」

「大丈夫だ。あの海賊を討伐してくれたらおつりがくる。なんてったって人の国との間の土地が手に入るんだからな」

 ロドリックと名乗ったおじさんは豪快に煙草を吸うと大きく煙を天へと吐き出す。豪快な笑いに船乗りたちも呼応して笑った。
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