最強の赤ん坊! 異世界に来てしまったので帰ります!

カムイイムカ(神威異夢華)

文字の大きさ
上 下
45 / 60
第2章 天界と魔界

第45話 暗闇

しおりを挟む
「これだけ離れれば大丈夫かな」

 しばらくまっすぐ進んで町から離れた。村を二つほど通り過ぎてるからかなりの距離を走ったと思う。次に村か町を見つけたら話をして地図か、エレービア王国のある方角をおしえてもらわないと。
 別の方角に進んでいたら一生たどり着けなくなる。それだけは困る。

「マスター! マスタ~! どこにいるんですか~」

 かなり走ってきて安心していると背後から大きな声が聞こえてくる。まだまだ離れているけど、ウルドはしつこく追いかけてきてるみたいだ。
 彼女に掴まったら何をされるかわからない。まったく、ビーズとか言うサキュバスの能力は厄介だな。赤ん坊の僕には効かないけど、ウルドには効果てきめんすぎる。
 ビーズを見かけたらすぐに気絶か何かして始末しないといけないな。

「しばらくこの洞窟で隠れるしかないな」

 ウルドは敏捷性の回避タイプの魔物だ。僕よりも早い可能性がある。このまま、外を歩いていると彼女に掴まってしまうだろう。街道をまっすぐ走ってきたのは失敗だったな。
 たまたま見つけた洞窟に入って身をひそめる。しばらく隠れているとウルドの声が横切る。明らかにいつもの彼女の声じゃない。いつもの冷静な彼女からは想像もできない声。完全に彼女の黒歴史となったな~。

「もう少し洞窟の奥に隠れよう……」

 艶のある声が怖くて洞窟の奥に避難することにした。綺麗な彼女に抱きしめられるだけなら、僕も男の子なので嬉しいんだけど。無理やり求められるのは怖すぎる。
 洞窟に奥に入ると真っ暗になる。外は夕日が落ちてきていたからそろそろ夜になっちゃうだろうな。

「光の球を作って」

 【クリエイトライト】の魔法を使う。光の球を作り出して洞窟の中を進む。風の流れがある? 進めば別の出口があるってことかな。
 ウルドに見つからないように出るにはそっちの方がいいか。方角もサダラーンの方角ではないはず、完全に反対方向に向かってるはず。洞窟に入ってからまっすぐ進んでいるからね。

「あ、あれ? ライトが消える?」

 クリエイトライトで作り出した光の球が消えちゃう。何度も魔法を唱えてもすぐに消える。しまいには光の球が作れなくなった。どうなってるんだ?

「真っ暗になっちゃった……」

 魔法が使えなくなって狭い真っ暗な空間に一人になっちゃった。僕は寒気を感じて両手で肩を抑える。

「こ、怖い……あの時みたいだ」

 前世で死んだ時に白い空間に入った。その後に黒い空間に襲われた時のことだ。あの時は一瞬だったけど、僕のトラウマになるのには十分な時間だった。
 あの時と違って今は一生続くような気分にさせられる。目を瞑ってるのか瞑っていないのか分からない状況。僕は恐怖で目を瞑っているのかもしれない。
 立っているのか、座っているのか、はたまた横になっているのか。それすらも恐怖で考えることが出来ない。目を瞑っていないのかもしれないのに目が回る。

「アキラ? どうしたの?」

 混乱していると僕を呼ぶ声が聞こえてくる。僕はこの声を知ってる。

「お母さん?」

 背後から聞こえて声に振り向く。そうだよ、この声だ。この声は前世のお母さん、【アライ フミコ】の声だ。
 振り向いた先が真っ暗は洞窟の風景から白い病室に変わる。忘れもしない、僕の思い出の部屋だ。高橋さんもいる……。

「アキラ君!? どこか痛いの?」

「大丈夫?」

 高橋さんとお母さんが心配して僕の体を擦ってくれる。僕はいつの間にか涙を流していたみたいだ。僕の体はいつの間にか赤ん坊のものじゃなくなって、10歳の少年の体になってる。
 そうか、僕は怖い夢を見ていたんだ。僕が死んでしまう夢、異世界に行ってしまう夢を……。よかった、僕は夢から覚めたんだ。

「大丈夫だよお母さん。ほら! 立ち上がることだってできる」

 僕は信じられないほど元気になった。ベッドの上で立ち上がることが出来る。お母さんと高橋さんはその姿を見て大喜びしてくれる。
 二人はすぐに医師の先生を呼んでくれる。僕は晴れて退院という流れになった。夢にまで見た病院じゃない部屋に戻ることが出来た。

「……何か忘れてるような」

 僕は自分の家に戻ってきて、ベッドに横たわりながら呟く。
 何か、重要なことを忘れているような気がするんだ。だけど、それがなんなのかすらわからない。

「ごめんねアキラ。元の家は入院費のために売っちゃったの。こんな小さな部屋になっちゃった」

 考え事をしているとお母さんが俯いて謝る。僕のために家を売っちゃってたのか。
 あの時は病院にずっといたから知らなかった。こんな狭いアパートの一室で苦労してたんだな。
 
「ううん。お母さんは僕のためにしていたことでしょ。謝らないで。そんなことよりもありがとうお母さん。これからは僕も働いて少しでも稼げるように頑張るよ」

「ふふ、なに言ってるの。10歳の子供が働けるわけないでしょ。さあ、今日はもう寝なさい。母さんは仕事に行ってくるから」

 僕の言葉にお母さんはクスッと笑い答える。そうか、僕は10歳の子供だった……なんだかもっと長い間生きていたような気がする。体ももっと小さくて? あれ? なんで長く生きていたのに小さい体なんだ?
 おかしなことを考えながらお母さんを見送る。外は夕日が落ちてきている真っ最中。バーのアルバイトもしてるっていってたっけ……早く大人になりたいな。そうすれば、働くことが出来るから。

「……前にもこんなことを思ったような気がする」

 心で呟いた言葉が引っ掛かり考え込む。
 それでも答えはでない。僕は気にしてもしょうがないと思い、布団を頭までかぶって眠りについた。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

異世界遺跡巡り ~ロマンを求めて異世界冒険~

小狸日
ファンタジー
交通事故に巻き込まれて、異世界に転移した拓(タク)と浩司(コウジ) そこは、剣と魔法の世界だった。 2千年以上昔の勇者の物語、そこに出てくる勇者の遺産。 新しい世界で遺跡探検と異世界料理を楽しもうと思っていたのだが・・・ 気に入らない異世界の常識に小さな喧嘩を売ることにした。

【完結】スキルを作って習得!僕の趣味になりました

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
《ファンタジー小説大賞エントリー作品》 どんなスキル持ちかによって、人生が決まる。生まれ持ったスキルは、12歳過ぎから鑑定で見えるようになる。ロマドは、4度目の15歳の歳の鑑定で、『スキル錬金』という優秀なスキルだと鑑定され……たと思ったが、錬金とつくが熟練度が上がらない!結局、使えないスキルとして一般スキル扱いとなってしまった。  どうやったら熟練度が上がるんだと思っていたところで、熟練度の上げ方を発見!  スキルの扱いを錬金にしてもらおうとするも却下された為、仕方なくあきらめた。だが、ふと「作成条件」という文字が目の前に見えて、その条件を達してみると、新しいスキルをゲットした!  天然ロマドと、タメで先輩のユイジュの突っ込みと、チェトの可愛さ(ロマドの主観)で織りなす、スキルと笑いのアドベンチャー。

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい

ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。 強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。 ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

処理中です...