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第2章 天界と魔界

第41話 サターン

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「ハァハァ。まったく、なんて強さだよ。あのガキ」

 俺は魔国四天王グダス。アキラとかいうガキの強さに嫌気がさして撤退中だ。俺の熱を一瞬で冷まして反撃してくる。そんな人間聞いたことねえ。
 自慢じゃないが俺の熱に耐えられるのは魔族で数人だ。人間にそんな奴がいるなんて聞いたことがねえ。ってことはあのガキは人間で最強の存在と言っても過言じゃねえだろう。
 そんなガキが天界への道を開こうとしてる。これは由々しき事態……いや、俺からしたら嬉しい事か? 天使と戦えるなんて普通に暮らしていたら味わえないスリルだ。俺と互角に戦える奴がわんさかいるんだろうな。

「そう考えると魔王様には言わない方がいいか……。そういえば、アキラとか言うガキは、天界への道の開け方を知らない様子だったな。魔王様から聞き出して教えてやるか」

 魔国へと走りながら考えを巡らせる。天使との戦いを考えると楽しくなってくるぜ。
 人間の国を走り、海を駆ける。今の体なら半日で海を渡れる。

「ふぅ~、数日ぶりの黒鉄鉱の滝だ」

 思っていた通りの時間で帰ってきた。早速、小さくなった体を回復させていく。小さいままじゃメイデスに馬鹿にされちまうからな。

「ふぃ~、気持ちいいぜ」

 見る見る体が大きくなっていく。小さい方が早く動けるから良いんだけどな。小さいとなめられるから面倒なんだよな。
 黒鉄鉱が無くても大きくなれるんだが、それをやると熱が広範囲に行っちまう。黒鉄鉱がついている時にしかやらないようにしてる。最後の手段ってやつだな。アキラはそれも難なく抑えて来たわけだ。もう少し技を磨く必要があるな。

「ちょっと帰ってきたならすぐに報告に来なさいよ」

 黒鉄鉱をあびているとメイデスがやってくる。呆れて首を横に振ってのご登場だ。

「ちょっとやられたからな。装備を整えてたのさ」

「え? あなたが?」

「ははは、魔王様が言うだけはあるってことだ。予想以上だったがな」

 メイデスは驚いてるな。それもそのはずだ。俺は四天王で最強だからな。俺がやられるってことは四天王で勝てる奴は居なくなる。メイデスもな。

「それなら天界への道を開かれちゃったってこと?」

「いや、奴らはそれを知らない。しばらくは時間を稼げるぜ」

 メイデスは顎に手を当てて考え込む。俺が答えると『そう』と言って城へと歩いていく。

「あ、すぐに来るのよ。魔王様が報告を楽しみにしているから」

「魔王様はもう知ってるってわけだ。相変わらず目聡い」

 メイデスは振り返ってそう言うと羽を羽ばたかせて城へと帰っていく。
 魔王様はなんでもお見通し、俺や別の四天王を勧誘しに来た時も何でも知っていた。この黒鉄鉱の滝を教えてくれたのも魔王様だ。
 すべてを知っていて対処法を教えてくれた。まるでずっと見られてるみたいで気持ちのいい話じゃねえが、従わせることが出来ないなら言っても無駄だ。従うしかねえよな。

「待って居たぞグダス」

「待たせちまったな」

 城に入り、玉座の間に着くと魔王様が玉座に座り声をあげる。
 跪きながら答えると魔王様は玉座から離れて窓から外を見つめだす。

「魔王様?」

「……強かったか?」

 メイデスが心配して声を掛ける。すると魔王様は俺に視線を戻して聞いてきた。無言で頷いて見せると魔王様は大きなため息をつく。

「天使の羽根を返してくれるか?」

「あ、ああ」

 魔王様に天使の羽根を手渡す。
 天使の羽根を見回すと胸のポケットにしまう。何か思い入れでもあるのか? 俺は気になって口を開く。

「その天使の羽根はどこにあったんだ? 天使って言うんだから天使の物だろ。天使からしか得られないよな」

「……」

 俺の声は聞こえているはず、それなのに無言で目を瞑る魔王様。何か考えてる様子だが。

「これは天界への道のカギになるものだ」

「はぁ!?」

 まさかの言葉に俺は驚きの声をあげる。魔王様は驚いた俺を見て口角をあげて見せると淡々と話し出す。

「羽根を天使が手に入れると扉が現れる。扉に羽根をもった天使が触れると開く。開けた天使が死なない限り、その扉は開き続ける……」

 口角をあげていた魔王様は話し終わると俯き玉座に戻る。

「この天使の羽根は先の戦争で扉を開けた天使の物だ。最後に私がとどめを刺した」

 そう言って涙を見せる魔王様。その天使はサターンの思い人ってところか。可愛い所もあるんだな。

「天界への道の開け方を知ったグダスはどうする? 羽根を取りに来るか?」

 魔王様は既に俺の考えを知ってるらしい。そう言うと睨みを利かせてくる。メイデスも同じだ。殺気を振りまいてくる。

「意地悪な魔王様だな。そんなことできるわけがないだろ。あんたが持ってるんだからな。奪えたとしても天使のもとに持っていけるほどの体力は残ってねぇだろ」

「ふ、勝てるとも思っているか。大きく出たなグダス」

 魔王は口角をあげて俺の言葉に答える。殺意を向けてくる魔王に俺は背中を向ける。

「メイデス。魔王が喧嘩売ってきてるぜ」

 背中を向けてメイデスに声をあげる。俺は玉座の間を出ようと歩き出す。

「……魔王様。グダスは仲間です。殺意を向けるのはいかがでしょうか?」

「ふむ、そうだな。すまなかったなグダス」

 メイデスの声に素直に答える魔王。背中越しにその声を聞いて後ろ手で謝罪を受け取る。

「しかし、メイデス。魔王である私に意見をするとは……」

「!?」

 玉座の間を出ようと思ったその時、魔王の声と共に殺意が玉座の間を満たす。嫌な予感がして俺は振り返った。すでに魔王の拳に殺意が込められている。

「何の真似だ魔王!」

 殺意と共にメイデスに拳を突き出した魔王。俺が受け止めていなかったらメイデスの腹に大きな風穴があいていただろう。

「ははは、ただの戯れだグダス。冗談をまじめにとるな」

 魔王は拳を戻すと玉座の間の奥の部屋に入っていく。
 それを唖然として見送る俺とメイデス。魔王に何が起こったんだ?

「……魔王様が私を」

 メイデスが恐怖で座り込んで声を漏らす。震えるほどの恐怖か。

「当分は魔王の傍にいないほうがいい。俺の家に来るか?」

「……そ、そうね」

 このまま城にいさせるわけにいかねぇ。メイデスに提案すると素直に答える。それほど恐怖を感じたらしい。俺も今になって寒気が襲ってくる。
 あの拳を受け止めることができたことへの安堵が恐怖による寒気を助長してくる。

「天使か」

 メイデスと俺の住処に帰りながら考え込む。魔王は天使と何があったんだ。メイデスは何をした? 
 俺にキレるならともかく、なぜメイデスに。
 俺達は疑問を抱えながら城を後にした。
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