【幸せスキル】は蜜の味 ハイハイしてたらレベルアップ

カムイイムカ(神威異夢華)

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第1章

第20話 帰還

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 僕はダークから飛び出してシデンさんを覆う球体の水の中へと飛び込んだ。勢いのままシデンさんを持ち上げて外に飛び出す。同時に回復魔法の【ヒール】をかけてあげるとゴホゴホと水を吐き出しているよ。
 まったく、凶悪な魔法だね。水で覆うなんて碌なやつじゃないよまったく。
 因みに回復魔法はダークに教わったよ。苦手とか言って最初は教えてくれなかったんだけど、農場を作ってくれた人が怪我した時に使えるってことで教えてくれた。
 みんなは僕が魔法を使えることに驚いていたけど、黙っててくれてるんだ。
 自分のことのように喜んでくれていたので僕もとっても嬉しかった。

「グルルルル!」

「バブ~~!」

 ワーウルフが威嚇してきて近づいてきたので息を吹きかけた。両手でシデンさんを持ち上げているから手が使えないのだ。
 しかし、僕の吹きかけた息が凄い勢いで数匹のワーウルフを吹き飛ばして木にぶつかっていく。木にぶつかったワーウルフは伸びちゃってるね。

「マスター! ひどいぞ! 私を踏み台にして!」

 ダークが遅れてやってきた。シデンさんを目視して、ダークを踏み台にして飛んだんだよね。飛び出すにはそれしかなかったんだから致し方なし。ダークは見事に吹っ飛んでいたね。

「久しぶりにこの体で戦える! 覚悟しろよ。ワーウルフ。マスターから受けた仕打ちをお前たちで晴らしてやる」

 ワオ~ンと吠えたダークが四体に分身していく。残像ではなくそのすべてが質量を持っているようでワーウルフを蹂躙していく。

「はははは、弱い弱いぞ。昔のワーウルフはもっと強かったぞ~」

 最近の若い者はって感じで蹂躙していくダーク。なんだか年寄り臭いな~。

「お? 呪術か。小賢しい。倍以上の者に利くと思っているのか!【ハウリングキャノン】」

 杖をもったワーウルフの群れに咆哮を叩きこんだダーク。地面がえぐれるほどの威力でまるで半径一メートルの砲弾でも通ったかのようになってる。流石ダークフェンリルだ。伝説の生き物は怖いな~。

「うん……私は生きているのか」

 シデンさんが目を覚ました。さっきまでは夢うつつといった感じだったけど、はっきりと目を開けているね。
 僕のヒールが効いてくれたのかな。

「バブバブ!」

「アーリー。ありがとう、助かったよ」

「バブ?」

 あれ? シデンさんはそんなに驚いていないな。ダークが助けたならわかるけど、僕に助けられたのに驚いていないのは驚きだ。
 
「すまない。また助けられてしまった。恥ずかしながらそれを期待して逃げてきていたんだけどね」

「バブバブ」

「え? 気にするなって? ははは、ありがとうアーリー」

 シデンさんは僕を抱き上げて無邪気に笑った。自然と涙がぽろぽろと流れていて雨と一緒に地面を濡らしている。

「あの黒い狼は? 神界から落ちたフェンリル、ダークフェンリルか……君の従魔なのか……本当にすごいな。君は」

 四体のダークがワーウルフ達を引き裂いていく。その光景を見て、シデンさんは僕を再度見て微笑んだ。ぽろぽろと涙を流しているから目が輝いているように見える。

「本当にありがとうアーリー。これはお礼だよ」

「アブ……」

 シデンさんは何を思ったか、僕の頬に唇をつける。こんな美人のお姉さんに思わぬご褒美だ……。

「初めてを君に……ははは、こんなおばさんじゃ嫌だったかな」

「バブバブ!」

 少し顔を赤くしたシデンさんがそう言って来たので全力で僕は首を横に振った。雨も上がって濡れているシデンさんは輝いて見える。こんな美人さんにキスされたら誰でも嬉しいよ。
 というか初めてって、頬とはいえシデンさんの初めて……そんな特別なものを僕なんかにあげてよかったんですか?

「私よりも強い男と思っていたんだけど、そんな男は存在しなかった。少なくともウラス国にはね。君が初めての男だよアーリー」

「バ~ブ~」

「アーリー?」

 頬を朱に染めておでこを這わせてくるシデンさん。流石の僕もそれでオーバーヒート。顔を真っ赤にして気絶してしまいました。刺激的すぎるよシデンさん。

 次に目を覚ました時には家に帰りついていました。
 ダークが言うにはワーウルフロードを倒すと散り散りに逃げていったそうです。それでシデンさんと一緒に帰ってきたんだってさ。疲れているだろうからダークが僕を抱き上げようとしたんだけど、シデンさんは頑なに僕を離さなかったとか。
 いとおしいものを見るように僕の寝顔を眺めていたとか何とか、うん、恥ずかしい。
 今度会ったときにどんな顔をして会えばいいんだ。って赤ん坊だからわからないや。
 その時にダークが人化するのを見たので色々と納得したらしいよ。彼女は順応が早いね。流石はクランのリーダーだ。

 そんな事件から三日ほどが経って、オクライナの兵士達が王都にやってきた。
 街を守っていたはずの兵士達がやってきたことで王都は大混乱だ。

『オクライナを放棄したらしい』

『オクライナにはシンザリオ様が残ったとか』

「じゃあ、シンザリオ様は……」

 最強と言われていたシンザリオを残して逃げてきたことで戦力が低下している。これは危ないと商人たちがいそいそと引越しの準備。
 グライアス商会以外の店が店じまいを始めていた。

「はん! 根性のない! この町の商圏を全部いただいちまうぞ」

 逃げる準備をする者たちに吐き捨てるグライアスさん。
 今日はお父さんと一緒に町にやってきた。逃げてきた兵士の中にはお父さんの同僚もいるから話が聞けると思ったんだ。

「ようエラン。何か大変なことになっちまったようだな」

「ああ、まさかオクライナが魔物にやられちまうとはな」

 最近のやりとりですっかり仲良くなったお父さんとグライアスさん。飲み友達って感じでよく話してるんだよね。

「仕方ないさ。命の方が大事だからな」

「ああ、城壁のおかげで怪我人しかいないみたいなんだ。ホッとしたよ」

 人との戦争ではこうもいかないとお父さんは笑った。弓とかでどうしても死人が出てしまうのが人との戦争。魔物は弓を使ってこなかったから大事には至らなかったらしい。ん? でもおかしいな。

「ん? おかしくないか? この間のシデンさんが追い払ったワーウルフは魔法を使ってきたらしいじゃねえか」

「ああ、やっぱりおかしいよな」

 魔法を使えるのに城壁戦で使ってこなかった。それはとてもおかしなことだと二人は首を傾げてる。

「ワーウルフはいなかったのかもしれないな。それも含めて同僚に聞いてくる」

「ああ、何か要りようだったら行ってくれよ。物資はグライアス商会が集める。他の商会は逃げて行ってるからな」

「ああ、頼む」

 グライアスさんと別れて僕を抱いたまま兵士詰め所へと向かった。
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