【幸せスキル】は蜜の味 ハイハイしてたらレベルアップ

カムイイムカ(神威異夢華)

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第1章

第19話 九死に一生

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「雨が降ってきましたねマスター」

「バブ~」

 雨は嫌いだな~。僕はハイハイでしか歩けないからどうしても汚れてしまうんだ。
 農場の横に作られた僕らの家から窓の外をダークに抱かれて覗く。
 お母さんとお父さんも一緒に夕食の準備中だ。
 今日はオークのシチュー、牛型の魔物からミルクもたんまりとれているので美味しいシチューが食べられる。バターとかチーズってまだ見たことがないけど、この世界ではまだないのかな? あったらほしいんだけどな、トーストにバターやお肉にチーズ、最強です。

「ん? マスター外に馬車が」
「ダブ?」

 ダークが指さすほうを見るとランタンで明かりを灯した馬車が五台、凄いスピードで町の門へと向かっていくのが見える。何をそんなに急いでいるんだろう?

「少し気になりますね」

「ギャウギャウ!」

「ん? ワイバーンが」

 僕らが気になって首を傾げていると外でワイバーンが吠え出した。
 僕を抱いたまま外へと出るダーク。濡れるからやめてほしいんだけども。

「ブモ~」

「他の魔物も鳴きだした」

 外へ出ると一斉に鳴きだす魔物や動物。まるで何かに怯えているような鳴き声。ワイバーンが鳴くほどだからかなりの恐怖なのかもしれないな。

「馬車の走ってきた方向に眷属を走らせます」

「バブ!」

 ダークが提案をしてきたので大きく丸をジェスチャーして肯定すると影から複数の狼が現れて駆けだしていった。

「視覚も共有できるのですぐに結果がわかりますよ」

 ダークの眷属はかなり便利。目を共有できるのですぐに何があったのかわかる。

「紫の光? 雷か、木が燃えていますね」

 しばらく走らせた眷属が紫の閃光をとらえたようでダークが実況してる。雷って言ったらシデンさんかな?
 ってことはシデンさんが戦闘しているってこと?

「シデンですね。戦闘しながらこちらに向かってきているようです。かなりの速度で走っているようですがそれだけ相手が早いということですね。あっ! 眷属に気づいて足を止めてしまいました」

 思っていた通りシデンさんみたいだ。戦闘しているみたいで相手が同じくらいの強さだという感じをうけた。

「シデンが『狼! 仲間か! 厄介だ』といって眷属に剣を向けています。あっ! ワーウルフが背後に迫っている。危機一髪避けていますが危なそうですね。鎧が壊されています」
「バブ! バブバブ!」
「えっ? 助けろって? わかりました。眷属で時間稼ぎましょう。その間に私達が行って倒しましょうか」

 シデンさんが危ないみたいなので助けるように言うと眷属を動かしてくれるみたい。その間に僕たちが行って倒す、夕食はもう少し待ってもらおう。

「アーリー、お前はまだ赤ん坊なんだからな。無理せずにダークさんに倒してもらうんだぞ」

「気をつけてね。絶対に怪我しちゃだめよ」

「バブバブ~!」

 大丈夫大丈夫と両親に答えて走り出した。もちろんダークに抱かれているのでらくちんらくちん。

「やばい。囲まれています。変身を解いて急ぎます」

 ダークがそういうと僕をおんぶして形態を変えていく。元の四足獣の狼に変わり風よりも早く走り出す。



「ハァハァ。私はここで死ぬのか……」

 ワーウルフの群れに囲まれて絶望に天を仰ぐ。雨が降り握る剣が手から零れ落ちそうになる。
 雷撃で十匹は倒しただろうワーウルフから嫌なにおいがしてくるが雨により一瞬で消え失せる。
 地形が森というのも彼らに優位に働いている。木陰から襲い来るワーウルフは影に潜む暗殺者。一瞬の隙も見せられない。それなのに剣を握る手があまく何匹か打ち損じている。
 鎧はやつらの手で壊れた。おかげで軽くなったかと思ったがどんどん体が重くなっていく。よく見るとワーウルフシャーマンもいるようで呪術を唱えてきているのが見える。
 あれは私のステータスを下げる魔法を使っているようだ。それでも何とか戦えているのはやつらが油断しているからだろう。というより、遊んでいるようにも見える。
 ワーウルフロードがニヤニヤと笑いこちらを見ているからな。
 いい死に方しないぞあれは。

「私は冒険者だ! 最後まであきらめん!【ライトニングケープ】」

 雷の外套を召喚して纏う。防御と反撃をになってくれるケープ、雨の日のこれは無敵だ。

「そらそら! どうした! 私を倒すんじゃないのか!」

 ケープを纏うとなぜかワーウルフ達が距離を取り始めた。それを追うように私が何匹か切りつけて倒すとロードが叫んだ。耳をつんざく叫び、思わず耳を抑えると息ができなくなっていった。
 
「ゴボッ! ボボバ!」

 目の前が揺れる! なんだこれは! 
 浮く体をねじり周りを見ると私は宙に浮いていた。正確には球体の水の中に入れられてその球体が宙に浮いていたんだ。
 これは【ウォータープリズン】という魔法だ。雨の日ならば並の魔法使いでも使える魔法。盲点だった。
 こんな戦略的な魔法を使ってくるとは思わなかった。疲弊している私にこの水の牢獄は破れない。

「……」

 水の中で息のできない私は目を瞑り走馬灯が走る。

『シデン! ここのお店美味しいし!』

『ん、私たちはシデンだからついてきた。あきらめないで』

 冒険者になったばかりの記憶だ。ソラとロロ、二人との思いで。ソラは本当に食べ物が好きだったな。ロロはいつも腕に引っ付いてきてた。ロロのおかげで嫁に行き遅れたとソラに言われたっけ。あ~何もかもが懐かしい。

『ああ、未練ばかりだ』

 Sランクになりクランを作りウラスの1番まで上りつめた。上るだけで部下たちに何もしてやれなかったな。
 一人一人の顔が思い浮かぶ。あの子は剣を、あの子は弓を。誰もが強くなろうと目を輝かせていた。
 そのどれもが綺麗でいつも私は微笑んでいたっけ、自然とみんなも笑顔になって……私が死んだらみんな泣いてしまうだろうな。
 みんなの泣き顔が浮かぶ。そのどれもが私の胸を締め付ける。

『死にたくない! 死にたくないよ!』

 目を開こうとするけど私の視界には真っ暗な世界だけ。
 私が死にたくないと思っていてもそれは無駄だった。そう、救えなかった人たちと一緒、運命だから。助からないんだ。
 静かに私の体からスッと何かが抜けていく。これが死ぬってことなのかな。私はあきらめて目を瞑る。だけどその時。

「バブ~!」

「ゴホッ! ゴホ!」

 金色の輝きと共に私は勢いよく【ウォータープリズン】から抜け出した。体が一気に軽くなっていく、この金色の輝きは回復魔法! 私を持ち上げているこの赤ん坊から魔法を感じる。
 ってこの子はアーリー? 来てくれたのか……私は九死に一生を得たようだ。
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