【マジックバッグ】は重さがない? そんなの迷信だよ

カムイイムカ(神威異夢華)

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第9話

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 ボガードさんと話していて、なんで馬車でよそよそしくしていたのかが分かった。
 乗合馬車に乗った人がいなくなる事件が多発していて、冒険者ギルドに依頼が上がっていたらしいんだ。
 冒険者が多く乗る乗合馬車は警戒されるから別々のチームが乗ったように見せかけていたらしい。よく見るとみんな軽装備で知らない人がみたら普通の夫婦かなって思ってもおかしくないっちゃないかな。
 僕は見慣れていたから冒険者だと思ったけど、クレハさんとかはよくわかっていなかったみたい。
 
「君のおかげで達成できたよ」

「ほとんどボガードさん達が倒していましたよ」

 小声でボガードさんと話す。馬車に乗って更に進んでる。村に途中立ち寄って食べ物を買い付けた。
 次の町までは三日程の距離だ。それなりに買っておかないと食料がなくなっちゃう。
 まあ、僕とポピンちゃんが持ってるから当分は大丈夫なんだけどね。

「イノシシを取ってきたよ~」

「わ~お姉ちゃん凄~い」

 レックさんがイノシシを取ってくる。毎回狩ってこれるレックさんは優秀な狩人さんなのが分かる。
 子連れの夫婦さんが嬉しそうに子供達を見てる。微笑ましい光景だな~。
 
「さあ、着きましたよ皆さん」

 大きな城壁の町、グラーゼスにたどり着いた。長かったような短かったような楽しいボガードさん達との旅は終わりを告げた。

「ありがとうございました」

「お兄ちゃん達もありがとう~」

 親子を見送る。手を元気よくふるお子さん。冒険者になるとか言っていたけど、大丈夫かな。僕みたいにのろまなんて言われるようになっちゃうんじゃないだろうか。心配です。

「じゃあ僕たちも」

「この後の旅が良きものになりますように」

「ありがとうございます」

 ボガードさんに別れを告げる。僕らは宿屋を探さないと。
 町に着いたのはいいけど結構いい時間になってて日が落ちているんだ。
 
「待ってくれ。やっとグラーゼスに着いたんだ。借金はこれから働いて」

「お父さん……」

 ん? 一緒に馬車に乗ってた親子の声が聞こえる。
 広場の中央でシルクハットをかぶった男の人に膝をついて頭を下げてる。

「なぜ私があなた達に合わせないといけないんですか? 貴重な時間を費やしてまでなぜあなたに?」

 親子はあのシルクハットの男に借金をしているみたいだ。クレハさんもそうだけど、みんな借金しすぎじゃないかな?

「ではどうすれば……」

「そうですね~。その子達を質に入れるというのはどうですか? 子供は奴隷として高く売れますからね~」

「そ、そんな」

 シルクハットの男はそういって女の子と男の子の顎を持ち上げて顔を観察してる。あくどい男はニヤニヤと笑みを浮かべて試算しているね。
 
「お父さん……」

「ははは、新しいお父さんの所に行くんですから気のすむままに抱きしめ合いなさい」

「そ、そんなベラトン様。私達はその子達を奴隷にするつもりはありませんよ」

 シルクハットの男、ベラトンは子供達がお父さんとお母さんに抱きしめられるのを見て高笑いをしてる。夜の街に気持ちの悪い声が響く。
 両親は絶対に奴隷にしないとベラトンに何度も告げるけど、ベラトンは執拗に追い込んでいく。
 今日中にお金を用意しないと命はないとか、この町で仕事をできないようにするとか、完全に脅しに入ってるね。見ていられない。ポピンちゃんとクレハさんも怪訝な表情でその様子を見ていて拳を握って耐えてるよ。本当は助けたいのに力がないから我慢しているんだ。

「どうしたんですか?」

「あ、アズ君……」

 僕も見ていられなかったから声をかけた。クレハさんの借金でお金は使ってしまったけど、まだ卸していない魔物はいっぱいある。冒険者ギルドは夜もやってるからすぐに換金できる。どれほど借金しているのか聞いて、余裕そうなら返してあげちゃおう。

「少し見ていましたけど、借金ってどのくらいあるんですか?」

「……店がつぶれてしまってそれで、金貨十枚の借金を」

 あ~そのくらいか、それならまだ手元にある額で行けるね。

「ベラトンさんでしたっけ?」

「ん? あなたは?」

「僕はアズといいます。冒険者でポーターをやっています」

「ポーター? それが私に何の用ですか?」

 男はポーターと聞いて怪訝な表情を浮かべる。ポーターって儲からない印象があるらしいからお金に興味がある人からはあまりいい印象をうけないんだよね。

「トムさんの借金を僕が代わりに返します」

 お父さんの名前はトムさん。彼の代わりに借金を返すというと少し驚いた表情を浮かべて、すぐに背を向けて話し出した。

「それはダメですよ。私がお金を貸したのはトムなのですから。トムが返すのが道理です。あなたもあまり人の代わりにお金を返すなんて真似はしてはいけません。その優しさは人を腐らせてしまうのですから」

 ベラトンは背を向けたまま道理を話しだす。確かに言っていることは正しいかもしれない。でも、それなら子供が奴隷になるのはいかがなものか?
 親が借金をして、返せない代わりに子供が奴隷になるなんて道理に反してるでしょ。
 僕はそれをベラトンに言うと、一つ頷いて考え込んだ。

「なかなか言いますね。ではこうしましょうか。あなたはポーターなんですよね」

 ベラトンに言葉にうなずく。

「あの船をここから一週間ほどかかる湖に運んでいただけますか? 湖には私の部下が待機していますのでその部下からしるしとなるバンダナを受け取って帰ってくるのです。期限はそうですね~……三週間でどうでしょうか。それ以上は時間の無駄ですからね」

 ここから一週間……それって僕の故郷にある山のふもとのウンディーネ湖かな? それなら僕の目的と同じだし、往復で三週間なら余裕があるな。

「その間にトムさん達の安否は?」

「私も商人ですからね。契約を破ることは致しませんよ」

 ニヤッと僕を見つめるベラトン。気持ち悪くて顔を逸らすとポピンちゃんとクレハさんも同じみたいでいやそうな顔をしてる。

「師匠、気持ち悪い」

「うっ。吐きそう」

 言葉に出して言う二人。それをみたベラトンはコホンと一つ咳をした。

「オホン。最近では珍しい優しい青年ですね。船を届けることが出来たら私の右腕にしてもいいくらいです」

「師匠はお前なんかの右腕にはならないよ! 私の師匠になるんだから」

「おやおや、面白いことを言うお嬢さんですね。師匠なのにこれからなるみたいなことを言っておいでだ。君はあほなんだろうね」

「あほじゃないよ! ポピンは弟子だもん!」

 ベラトンと言い合いになるポピンちゃん。うん、これはベラトンが少し優勢だ。

「ほほほ、小娘をいじめるのもこのくらいにしておいてあげましょう。ではアズ君。三週間後を楽しみにしているよ。ほっほっほっほっほ」

 ベラトンはそういって立ち去った。

「アズ君……すまない」

「ごめんなさい」

 トムさん達は膝をついて謝ってきた。子供達も真似をしてお辞儀をしてるよ。

「気にしないでください。ポーターにとって、このくらいの仕事は普通のことですから」

「いえ、普通じゃありませんよ」

「え?」

 トムさんは申し訳なさそうに俯いてベラトンについて話しだした。

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