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第6話
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少し時は遡り、アズが抜けた後の黒い刃の者たち。
「ふぅ。流石エデン。強い」
「そんなことないわ。ガオも強かった」
アズを追い出したその席でエデンとガオが話す。彼らは精神世界で訓練を行っていた。高位の冒険者はこういった精神をリンクさせて訓練を行うことが出来る。その為、彼らはアズが追い出されたことを知らない様子。アズが返ってこないことに気づいてエデンが冒険者ギルドの受付を見回す。
「あれ? アズは?」
「ああ、あの役立たずは追い出したよ。今頃宿屋で泣きべそかいてるだろ」
「どういうこと!」
エデンは憤りを現してグナンに掴みかかった。
「ぐえっ、苦しい!」
「ちょ、ちょっとエデンさん。離して」
「あっ。すまない」
気を取り戻してエデンは席に座る。苦しそうにするグナンをロエタが介抱する。
「ゴホゴホ。別のポーターを雇うからあんな役立たずいらないだろ。だから」
「アズを本当に追い出したのね……」
「ああ」
落ち着きを取り戻して話を聞くとエデンはスクッと席を立つ。
「じゃあ、これまでね」
「こ、これまでって?」
「チームをでるわ。それじゃ」
「お、おい! エデンに出られたらどうなるんだよ」
エデンはアズを追ってチームを脱退した。
「アズとエデンがいないなら俺も出る」
「お、おい! ガオ。お前まで出られたら」
「あ~あ。やっぱりこうなった~。だから止めたのににゃ~」
エデンに続いて筋骨隆々の蛮人、ガオもチームを離れた。
「ダッグ! これはどういうことだよ。何がどうなってるんだ?」
「にゃはは。みんなアズが目当てだったんだよ。ガオは戦うのが好きでしょ。いつかアズと戦いたいってエデンに挑んでたんだ」
ダッグの言葉にグナンとロエタは顔を歪める。弱い、のろまと言っていたアズを強さを求めるガオが挑もうとしていた。
常日頃からアズの悪口を言っていた俺は二人からどう見えていたんだ。弱い犬といった感想が込みあがってくるグナン。
「あ、アズが強いっていうのかよ!」
グナンは認めようとしない。俺は弱い犬じゃない。まるでそういうかのようにダッグへと声を投げつける。
「にゃは。アズは私達の前ではいつも弱かったよ」
「そ、そうだろ」
「でもにゃ~。後ろにいるときはずっと守ってくれていたんだよにゃ~」
「後ろ?」
ダッグは頬を掻きながら恥ずかしい話をするように言葉を紡いだ。
アズはみんなの後ろで戦いを見ているだけ、魔物に囲まれた時もそれは変わらなかった。
魔物に囲まれる……それがなにを意味するか。前後がなくなる、それは死を意味している。
幾度もそんな日があった。高位の冒険者になっていた黒い刃はそんな日を生き抜いてきた。
今も生きているのは後ろを守っていた人がいたからだと気づかずに。
「にゃはは。グナン達は前しか見えていなかったにゃ。でも、エデンとガオ、それに私は見てたにゃ。一瞬で姿を消す魔物を」
「姿を消す魔物……」
「正確には消された魔物かにゃ」
照れ臭そうに話すダッグ。
「私は恥ずかしかったにゃ。あんな子供に助けてもらっていたなんてって。だけど、そんなことを考える事がもっと恥ずかしいってわかったにゃ。エデンに教えてもらったにゃ」
「恥ずかしい?」
「そうにゃ。成人している冒険者のアズに助けられたことが恥ずかしいなんておかしいでしょってエデンに叱られたにゃ。同じチームのアズに助けられたんだからもっと胸を張りなさいって怒られたにゃ。だから、私達はチームを抜けたアズのチームに加わる。それが私達の暗黙のルールになったにゃ」
「「……」」
ダッグの言葉に気づいた二人は言葉を無くして俯いた。
「アズはとっても強いにゃよ。デスリザードを素手で消したんだからにゃ」
「「!?」」
ダッグの捨て台詞に二人は驚き戸惑った。
デスリザード、死を名前に持つ爬虫類はドラゴンに匹敵する強さを持っている。
噛まれたら一瞬で死ぬ毒を持ち、空を飛ぶそれは冒険者に死をばらまいていた。
グナン達はそんな存在にあっていたことさえ知らずに生きてきた。アズのおかげで生きてこれたのだった。
「アズ!」
冒険者ギルドを後にしたエデンは宿屋についた。宿屋の後ろに出来ていた山に気づきまさかと思って宿屋に入るとツネさんが仁王立ちして待っていた。
「アズ君を追い出すとはどういうことだいエデン!」
「つ、ツネさん」
凄い形相で怒るツネさんにたじろぐエデン。煌びやかな白銀の髪がピンと張りつめた空気に正される。
「エデン答えな!」
「ツネさん、私も知らなくて。アズはどこに?」
「帰ったよ! 故郷にね」
「ええ!? もう?」
頷くツネにエデンは歯噛みする。流石にこんなにはやく旅立つとは思わなかった。
「彼が本気で走ったら追いつかない。ロレイン山脈にはゴールデンゴーレムとロック鳥がいるわ。一人で行ったら勝てないから回っていかないと」
エデンはそういって旅の支度をしていく。
「旅立つんだったら庭の荷物も持っていきなよ。じゃなかったらギルドに引き取らせるよ」
「庭? 荷物?」
エデンはそういって一つのバッグに荷物を入れて庭へと出た。そこにはしまうのに倉庫が何棟必要なんだと思うほどの新鮮な死骸がいっぱい入っていた。化粧品と共に……。
「こ、これは……。デスリザード、グレートリッチの魔石……」
どれもこれも伝説級の魔物。勇者でも舌を巻く魔物のオンパレード。
それを見てエデンは生唾を飲み込む。
アズが置いていったということはアズが仕留めたということ。
エデンがあった覚えがない魔物の死骸があるということは近くにいたにも気づかずにアズが仕留めていたということ。更にエデンが先にこの魔物達に会っていたら命がなかったであろうことからゴクリッと生唾を飲み込むに至った。
そして、アズに会いたいという感情が込みあがり、ツネさんの静止にも気づかずに走り出していた。
「アズ!」
全速力で走るエデン。それでもアズの十分の一程の速度。彼女がアズに会うのはいつになるのだろうか。
「ふぅ。流石エデン。強い」
「そんなことないわ。ガオも強かった」
アズを追い出したその席でエデンとガオが話す。彼らは精神世界で訓練を行っていた。高位の冒険者はこういった精神をリンクさせて訓練を行うことが出来る。その為、彼らはアズが追い出されたことを知らない様子。アズが返ってこないことに気づいてエデンが冒険者ギルドの受付を見回す。
「あれ? アズは?」
「ああ、あの役立たずは追い出したよ。今頃宿屋で泣きべそかいてるだろ」
「どういうこと!」
エデンは憤りを現してグナンに掴みかかった。
「ぐえっ、苦しい!」
「ちょ、ちょっとエデンさん。離して」
「あっ。すまない」
気を取り戻してエデンは席に座る。苦しそうにするグナンをロエタが介抱する。
「ゴホゴホ。別のポーターを雇うからあんな役立たずいらないだろ。だから」
「アズを本当に追い出したのね……」
「ああ」
落ち着きを取り戻して話を聞くとエデンはスクッと席を立つ。
「じゃあ、これまでね」
「こ、これまでって?」
「チームをでるわ。それじゃ」
「お、おい! エデンに出られたらどうなるんだよ」
エデンはアズを追ってチームを脱退した。
「アズとエデンがいないなら俺も出る」
「お、おい! ガオ。お前まで出られたら」
「あ~あ。やっぱりこうなった~。だから止めたのににゃ~」
エデンに続いて筋骨隆々の蛮人、ガオもチームを離れた。
「ダッグ! これはどういうことだよ。何がどうなってるんだ?」
「にゃはは。みんなアズが目当てだったんだよ。ガオは戦うのが好きでしょ。いつかアズと戦いたいってエデンに挑んでたんだ」
ダッグの言葉にグナンとロエタは顔を歪める。弱い、のろまと言っていたアズを強さを求めるガオが挑もうとしていた。
常日頃からアズの悪口を言っていた俺は二人からどう見えていたんだ。弱い犬といった感想が込みあがってくるグナン。
「あ、アズが強いっていうのかよ!」
グナンは認めようとしない。俺は弱い犬じゃない。まるでそういうかのようにダッグへと声を投げつける。
「にゃは。アズは私達の前ではいつも弱かったよ」
「そ、そうだろ」
「でもにゃ~。後ろにいるときはずっと守ってくれていたんだよにゃ~」
「後ろ?」
ダッグは頬を掻きながら恥ずかしい話をするように言葉を紡いだ。
アズはみんなの後ろで戦いを見ているだけ、魔物に囲まれた時もそれは変わらなかった。
魔物に囲まれる……それがなにを意味するか。前後がなくなる、それは死を意味している。
幾度もそんな日があった。高位の冒険者になっていた黒い刃はそんな日を生き抜いてきた。
今も生きているのは後ろを守っていた人がいたからだと気づかずに。
「にゃはは。グナン達は前しか見えていなかったにゃ。でも、エデンとガオ、それに私は見てたにゃ。一瞬で姿を消す魔物を」
「姿を消す魔物……」
「正確には消された魔物かにゃ」
照れ臭そうに話すダッグ。
「私は恥ずかしかったにゃ。あんな子供に助けてもらっていたなんてって。だけど、そんなことを考える事がもっと恥ずかしいってわかったにゃ。エデンに教えてもらったにゃ」
「恥ずかしい?」
「そうにゃ。成人している冒険者のアズに助けられたことが恥ずかしいなんておかしいでしょってエデンに叱られたにゃ。同じチームのアズに助けられたんだからもっと胸を張りなさいって怒られたにゃ。だから、私達はチームを抜けたアズのチームに加わる。それが私達の暗黙のルールになったにゃ」
「「……」」
ダッグの言葉に気づいた二人は言葉を無くして俯いた。
「アズはとっても強いにゃよ。デスリザードを素手で消したんだからにゃ」
「「!?」」
ダッグの捨て台詞に二人は驚き戸惑った。
デスリザード、死を名前に持つ爬虫類はドラゴンに匹敵する強さを持っている。
噛まれたら一瞬で死ぬ毒を持ち、空を飛ぶそれは冒険者に死をばらまいていた。
グナン達はそんな存在にあっていたことさえ知らずに生きてきた。アズのおかげで生きてこれたのだった。
「アズ!」
冒険者ギルドを後にしたエデンは宿屋についた。宿屋の後ろに出来ていた山に気づきまさかと思って宿屋に入るとツネさんが仁王立ちして待っていた。
「アズ君を追い出すとはどういうことだいエデン!」
「つ、ツネさん」
凄い形相で怒るツネさんにたじろぐエデン。煌びやかな白銀の髪がピンと張りつめた空気に正される。
「エデン答えな!」
「ツネさん、私も知らなくて。アズはどこに?」
「帰ったよ! 故郷にね」
「ええ!? もう?」
頷くツネにエデンは歯噛みする。流石にこんなにはやく旅立つとは思わなかった。
「彼が本気で走ったら追いつかない。ロレイン山脈にはゴールデンゴーレムとロック鳥がいるわ。一人で行ったら勝てないから回っていかないと」
エデンはそういって旅の支度をしていく。
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「庭? 荷物?」
エデンはそういって一つのバッグに荷物を入れて庭へと出た。そこにはしまうのに倉庫が何棟必要なんだと思うほどの新鮮な死骸がいっぱい入っていた。化粧品と共に……。
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どれもこれも伝説級の魔物。勇者でも舌を巻く魔物のオンパレード。
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エデンがあった覚えがない魔物の死骸があるということは近くにいたにも気づかずにアズが仕留めていたということ。更にエデンが先にこの魔物達に会っていたら命がなかったであろうことからゴクリッと生唾を飲み込むに至った。
そして、アズに会いたいという感情が込みあがり、ツネさんの静止にも気づかずに走り出していた。
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