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第一章 異世界
第二十五話 トライホーン
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熊との戦闘は激化していく。アイサの魔法を嫌い、アイサへと攻撃を繰り出そうとした熊だが、俺が難なく防ぐとそれをすぐに諦めて俺達を盾にしてアイサの魔法の通る射線をふさいだ。
これもすべてトライホーンの教えだと思うとかなりやばい、戦闘慣れしすぎだろ、あの鹿。
何度目かの衝突を熊と繰り広げると、とうとう、トライホーンが降りてきた。熊が代わりに上に上がって見る側になった。見ておけといった感じだろうか? トライホーンが降りてきて熊が上に上がると場の空気が重くなっていく、比喩ではあるが精神的な圧が俺達の体を重くしている。
「準備をしろっていうのか?」
トライホーンが顎をクイクイとしてきて、俺達の後方を示す。万全の状態で来いといった感じだ。この時点で、トライホーンを魔物として見ることができなくなってくる。
討伐対象であるが、今では手をかける気になれない。
「ポロロちゃん、小さい丸盾あったよね、それ貸して」
「はい」
俺は騎士隊長服に着替えて丸盾に切り替える。防御力を上げるよりも敏捷性を上げた方がいいと思ったのだ。熊よりも体重が軽いトライホーンならば速度で攻めた方がいいと思ったから。完全にみんなに見られているけど構うものか仲間なんだからな。
「俺も新しい剣を」
熊の爪にやられてオッズの剣がズタズタになっている。あのまま戦っていたら折れていただろう。それだけ熊の攻撃は激しかった。しかし、こんな戦いをいつまでやらされるんだ?経験を積ませたいからと俺達を拘束しているんだろうが、殺す気がないのは目に見えているので早く解放してほしいものだ。
「キャン!」
「お呼びだぞ・・」
「全く、いつまで戦わされるんだ?」
トライホーンが声を張り上げて俺達を呼び出す。俺とオッズは苛立ちを見せる。熊との戦闘中も何回かトライホーンが鳴いて俺達の攻撃を妨いだ。熊ができるだけケガをしないように戦闘経験を積ませるためだと思う。仲間思いの鹿だな。その思いやりを俺達にもしてほしいものだが、夕日が横から照らしてきているから本当にそろそろ帰りたい。
「キャン!」
「はいはい、分ってるよ」
「全く、うるさい鹿だな・・」
催促の声に更に苛立つ俺達。クレーマーのような鹿だな。
「熊の時と同じようにいくぞ」
「ああ、それであちらさんの動きを見よう」
「魔法は使う?」
「そうだな。ファイアを放ってみてくれ。ファイアミストはたぶん、ダメかも」
戦略をみんなと相談をする。アイサが魔法を使うかと聞いてきたのでファイアを使って牽制してもらうことにした。ファイアミストはもう見られているのですぐに対策をしてくるだろう。
「よし、いくぞ」
俺は掛け声とともにトライホーンへと走った。トライホーンが目の前までくると俺は丸盾を構えながらロングソードで切りかかった。剣を器用に首を動かして受けきるトライホーン。三又の角が剣をさばきながら丸盾を傷つけていく。
すかさず、オッズが盾を持つ俺の左方向から両の手に持ったショートソードで切りかかる。手数の多いオッズの攻撃を嫌ったトライホーンは距離をとるためにバックステップを踏む。
「いま!」
トライホーンのステップに合わせてルキアが糸をばらまいた。トライホーンはそれも躱して、得意げに足踏みをする。
「流石に素早いな」
鹿の跳躍はとても素早い、動物チャンネルとかで見たそのものの姿でなんとも軽やかだ。
「火よ。怒りの火よ。眼前の煩わしい者に怒りの柱を灯せ!・・・[ファイアピラー]!」
足踏みをしていたトライホーンの足元から大きな炎の柱が立ち上がった。アイサが中級魔法を唱えた。そんなものがあるとは知らなかったので俺はびっくりしてしまう。
「アイサ、MPがなくなるぞ」
「ハァハァ、そんなこと言っても早く帰らないと」
魔法を使ったアイサにオッズが言うとアイサが反論した。
確かに早く帰らないとまた借金が増えてしまう。しかし、ポロロちゃんに持たせているアイテムがあれば借金どころか貯金ができるほどだから大丈夫だと思うが。
それにトライホーンはあれで死んだだろう?
「熊の奴、動かないな」
「ああ」
師匠のようなトライホーンが死んでしまったというのに微動だにしていない。熊はずっと炎の柱を見つめている。
「まさか、生きているなんてありえないだろ?」
俺達も炎の柱を見つめる。しかし、動きがなくただただ炎の柱が揺らめいていた。と、その時、地鳴りがして、炎の柱から水柱が上がってお湯になっていく。
「ウォーターピラー・・・」
これも魔法の類なのだろう。オッズが顔を引きつらせながら魔法の名前をつぶやいている。
「・・・」
炎の柱を消し去った水柱、その中に鹿のシルエットが現れて目を光らせた。水柱もなくなると夕日がトライホーンの影を映す。
とても大きな影でまるで俺達に覆いかぶさってくるようだった。
これもすべてトライホーンの教えだと思うとかなりやばい、戦闘慣れしすぎだろ、あの鹿。
何度目かの衝突を熊と繰り広げると、とうとう、トライホーンが降りてきた。熊が代わりに上に上がって見る側になった。見ておけといった感じだろうか? トライホーンが降りてきて熊が上に上がると場の空気が重くなっていく、比喩ではあるが精神的な圧が俺達の体を重くしている。
「準備をしろっていうのか?」
トライホーンが顎をクイクイとしてきて、俺達の後方を示す。万全の状態で来いといった感じだ。この時点で、トライホーンを魔物として見ることができなくなってくる。
討伐対象であるが、今では手をかける気になれない。
「ポロロちゃん、小さい丸盾あったよね、それ貸して」
「はい」
俺は騎士隊長服に着替えて丸盾に切り替える。防御力を上げるよりも敏捷性を上げた方がいいと思ったのだ。熊よりも体重が軽いトライホーンならば速度で攻めた方がいいと思ったから。完全にみんなに見られているけど構うものか仲間なんだからな。
「俺も新しい剣を」
熊の爪にやられてオッズの剣がズタズタになっている。あのまま戦っていたら折れていただろう。それだけ熊の攻撃は激しかった。しかし、こんな戦いをいつまでやらされるんだ?経験を積ませたいからと俺達を拘束しているんだろうが、殺す気がないのは目に見えているので早く解放してほしいものだ。
「キャン!」
「お呼びだぞ・・」
「全く、いつまで戦わされるんだ?」
トライホーンが声を張り上げて俺達を呼び出す。俺とオッズは苛立ちを見せる。熊との戦闘中も何回かトライホーンが鳴いて俺達の攻撃を妨いだ。熊ができるだけケガをしないように戦闘経験を積ませるためだと思う。仲間思いの鹿だな。その思いやりを俺達にもしてほしいものだが、夕日が横から照らしてきているから本当にそろそろ帰りたい。
「キャン!」
「はいはい、分ってるよ」
「全く、うるさい鹿だな・・」
催促の声に更に苛立つ俺達。クレーマーのような鹿だな。
「熊の時と同じようにいくぞ」
「ああ、それであちらさんの動きを見よう」
「魔法は使う?」
「そうだな。ファイアを放ってみてくれ。ファイアミストはたぶん、ダメかも」
戦略をみんなと相談をする。アイサが魔法を使うかと聞いてきたのでファイアを使って牽制してもらうことにした。ファイアミストはもう見られているのですぐに対策をしてくるだろう。
「よし、いくぞ」
俺は掛け声とともにトライホーンへと走った。トライホーンが目の前までくると俺は丸盾を構えながらロングソードで切りかかった。剣を器用に首を動かして受けきるトライホーン。三又の角が剣をさばきながら丸盾を傷つけていく。
すかさず、オッズが盾を持つ俺の左方向から両の手に持ったショートソードで切りかかる。手数の多いオッズの攻撃を嫌ったトライホーンは距離をとるためにバックステップを踏む。
「いま!」
トライホーンのステップに合わせてルキアが糸をばらまいた。トライホーンはそれも躱して、得意げに足踏みをする。
「流石に素早いな」
鹿の跳躍はとても素早い、動物チャンネルとかで見たそのものの姿でなんとも軽やかだ。
「火よ。怒りの火よ。眼前の煩わしい者に怒りの柱を灯せ!・・・[ファイアピラー]!」
足踏みをしていたトライホーンの足元から大きな炎の柱が立ち上がった。アイサが中級魔法を唱えた。そんなものがあるとは知らなかったので俺はびっくりしてしまう。
「アイサ、MPがなくなるぞ」
「ハァハァ、そんなこと言っても早く帰らないと」
魔法を使ったアイサにオッズが言うとアイサが反論した。
確かに早く帰らないとまた借金が増えてしまう。しかし、ポロロちゃんに持たせているアイテムがあれば借金どころか貯金ができるほどだから大丈夫だと思うが。
それにトライホーンはあれで死んだだろう?
「熊の奴、動かないな」
「ああ」
師匠のようなトライホーンが死んでしまったというのに微動だにしていない。熊はずっと炎の柱を見つめている。
「まさか、生きているなんてありえないだろ?」
俺達も炎の柱を見つめる。しかし、動きがなくただただ炎の柱が揺らめいていた。と、その時、地鳴りがして、炎の柱から水柱が上がってお湯になっていく。
「ウォーターピラー・・・」
これも魔法の類なのだろう。オッズが顔を引きつらせながら魔法の名前をつぶやいている。
「・・・」
炎の柱を消し去った水柱、その中に鹿のシルエットが現れて目を光らせた。水柱もなくなると夕日がトライホーンの影を映す。
とても大きな影でまるで俺達に覆いかぶさってくるようだった。
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