上 下
21 / 23

第21話 

しおりを挟む
「すげえな、あの旅人」

「ああ、あんな召喚魔法初めて見たぞ」
 
 門につくとそんな声がそこかしこから聞こえてきた。
 どこもラフレイシアの名前が飛び交っているよ。
 その本人は詰め所のような部屋でくつろいでいるのが見える。
 あっ、こっちに気づいた。

「ルルさん。来たんですね。待っていましたよ~」

 お母さんに挨拶しているはずなのに目線は完全に僕のラフレイシア。お母さんはそれを気にせずに『はいはい』と答えてあげてるよ。犬猿の仲ってこんな感じなんだろうな。

「それでどんな感じ?」

「ここじゃなんだから人の居ないところに行きましょ」

 ラフレイシアは路地に僕らを誘った。色々と込み合った話が多いから一目は気にしたほうがいいね。

 路地に入ると置いてある樽に腰かけたラフレイシアが話し始める。

「亜人種の魔物が多いわ。それに気になるのよね。この群れ」

「バブ?」

 亜人種が多いとおかしいのかな?
 首を傾げて答えると頬をつついてきた。

「それで? どうきになるのよ」

 僕の頬をつついていると一生つついていそうだったのでお母さんが後ずさってラフレイシアが触れない距離に移動した。

「もうちょっといいじゃない。もう」

 ふて腐れたラフレイシアは指を咥えた。早く本題に行きましょう。

「まあ、いいわ。それでね。私って木の魔王よね」

 自分でいうのも変な話だけど、そういうことだよね。魔王の素質があるって話だ。

「バブバブ!」

「え? 自分でいうなって? マスター、いいじゃないですか。今はマスターの従魔なんですから」

 僕がつっこむとラフレイシアは体をくねくねさせた。
 まったく、話が進まない。

「それがどうしたのよ」

「魔王って人側でいうと勇者に当たるの。だから、普通は複数現れることはないのよ」

「バブ?」

 んん? 複数? もしかして?

「まさか!」

「勘がいいわね。そういうことみたいなのよ。亜人種の魔王が生まれたかもしれないの……」

 王の素質をもった魔物がラフレイシアともう一人産まれていた。そうなるとその魔王の素質を持った魔物はラフレイシアよりももっと前に生まれているみたいだね、群れを形成できるほどの時間があったんだから。

「ふふ、でもそうなるとマスターは私が思っている通りの可能性があるのよね」

「マイトがなに?」

「ふふ、ムギちゃんは何も心配しないでいいわよ。ただの独り言」
 
 独り言にしては大きな声だったと思う。
 ムギちゃんが心配してラフレイシアに質問したんだけど、はぐらかされてる。
 僕が何かって言っているけど、なんだろう?

「とにかく、その亜人種の王っぽい魔物と対峙しないといけないってわけ。私が先行してみんなを連れて行って懲らしめてマスターの傘下に加える。そうすれば私の思った通りの……じゃなかった。平和になるわよん」

 ラフレイシアの言葉に僕らはみんなで顔を見あった。なにか彼女の企みがあるとしか思えないんだよな。

「大丈夫なんでしょうね?」

「大丈夫よ~。みんなのいい方向へ進むだけだから~。ふふ」

 微笑むラフレイシアに不安を覚えながらも僕らは門へと戻った。

「ムギは待っていてくれない?」

「えっ! なんでですか!」

 門に戻りながらお母さんがお願いしている。ムギちゃんは不満顔で怒り出してしまう。

「そんな怒らないで。ただ、今から向かうのは敵のど真ん中なのよ。危ないじゃない」

「それはルルさんだって同じ。マイトも」

「そうだけど。ねっ、わかって……」

 ムスッとしてムギちゃんは黙った。

「ルル。大丈夫よ。その子も一緒に行きましょう。私が守るから」

「……あまりあなたのことを信用しているわけじゃないのよ。少しでも危険があったら」

 話が進まないもんだからラフレイシアが大丈夫って言ったんだけどお母さんは心配しているみたい。

「私も冒険者です! 自分の身は自分で守ります!」

 二人に向かって語気を強めるムギちゃん。
 その様子にびっくりした二人を他所に門へとずかずか歩いていく。

「バブ!」

「……悪かったわ。確かに彼女も冒険者。私なんかに心配されるいわれはないわよね」

 僕が何を言わんとしているのか察したお母さんが謝ってきた。
 ムギちゃんも若いけど冒険者としては僕らよりも長い。少しはプライドがあるんだ。
 
「さあ、行きましょ」

 一つため息をついたラフレイシアが開門を命ずると門が開かれていった。魔物が来ているというのに彼女の言葉で開くんだから相当の信頼があるのが伺えるな~。

しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

その幼女、最強にして最恐なり~転生したら幼女な俺は異世界で生きてく~

たま(恥晒)
ファンタジー
※作者都合により打ち切りとさせて頂きました。新作12/1より!! 猫刄 紅羽 年齢:18 性別:男 身長:146cm 容姿:幼女 声変わり:まだ 利き手:左 死因:神のミス 神のミス(うっかり)で死んだ紅羽は、チートを携えてファンタジー世界に転生する事に。 しかしながら、またもや今度は違う神のミス(ミス?)で転生後は正真正銘の幼女(超絶可愛い ※見た目はほぼ変わってない)になる。 更に転生した世界は1度国々が発展し過ぎて滅んだ世界で!? そんな世界で紅羽はどう過ごして行くのか... 的な感じです。

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

最強の赤ん坊! 異世界に来てしまったので帰ります!

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
 病弱な僕は病院で息を引き取った  お母さんに親孝行もできずに死んでしまった僕はそれが無念でたまらなかった  そんな僕は運がよかったのか、異世界に転生した  魔法の世界なら元の世界に戻ることが出来るはず、僕は絶対に地球に帰る

異世界あるある 転生物語  たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?

よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する! 土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。 自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。 『あ、やべ!』 そして・・・・ 【あれ?ここは何処だ?】 気が付けば真っ白な世界。 気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ? ・・・・ ・・・ ・・ ・ 【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】 こうして剛史は新た生を異世界で受けた。 そして何も思い出す事なく10歳に。 そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。 スキルによって一生が決まるからだ。 最低1、最高でも10。平均すると概ね5。 そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。 しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。 そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。 追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。 だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。 『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』 不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。 そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。 その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。 前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。 但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。 転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。 これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな? 何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが? 俺は農家の4男だぞ?

異世界に転生したけど、頭打って記憶が・・・え?これってチート?

よっしぃ
ファンタジー
よう!俺の名はルドメロ・ララインサルって言うんだぜ! こう見えて高名な冒険者・・・・・になりたいんだが、何故か何やっても俺様の思うようにはいかないんだ! これもみんな小さい時に頭打って、記憶を無くしちまったからだぜ、きっと・・・・ どうやら俺は、転生?って言うので、神によって異世界に送られてきたらしいんだが、俺様にはその記憶がねえんだ。 周りの奴に聞くと、俺と一緒にやってきた連中もいるって話だし、スキルやらステータスたら、アイテムやら、色んなものをポイントと交換して、15の時にその、特別なポイントを取得し、冒険者として成功してるらしい。ポイントって何だ? 俺もあるのか?取得の仕方がわかんねえから、何にもないぜ?あ、そう言えば、消えないナイフとか持ってるが、あれがそうなのか?おい、記憶をなくす前の俺、何取得してたんだ? それに、俺様いつの間にかペット(フェンリルとドラゴン)2匹がいるんだぜ! よく分からんが何時の間にやら婚約者ができたんだよな・・・・ え?俺様チート持ちだって?チートって何だ? @@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@ 話を進めるうちに、少し内容を変えさせて頂きました。

念願の異世界転生できましたが、滅亡寸前の辺境伯家の長男、魔力なしでした。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリーです。

社畜おっさんは巻き込まれて異世界!? とにかく生きねばなりません!

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
私の名前はユアサ マモル 14連勤を終えて家に帰ろうと思ったら少女とぶつかってしまった とても人柄のいい奥さんに謝っていると一瞬で周りの景色が変わり 奥さんも少女もいなくなっていた 若者の間で、はやっている話を聞いていた私はすぐに気持ちを切り替えて生きていくことにしました いや~自炊をしていてよかったです

異世界転生した時に心を失くした私は貧民生まれです

ぐるぐる
ファンタジー
前世日本人の私は剣と魔法の世界に転生した。 転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。 前世の記憶を頼りに善悪等を判断。 貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。 2人の兄と、私と、弟と母。 母親はいつも心ここにあらず、父親は所在不明。 ある日母親が死んで父親のへそくりを発見したことで、兄弟4人引っ越しを決意する。 前世の記憶と知識、魔法を駆使して少しずつでも確実にお金を貯めていく。

処理中です...