転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます

カムイイムカ(神威異夢華)

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第16話 

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「それは本当か?」

 街に着いて兵士にゴブリン達の事を話すと顔色を変えて詰め所へと走っていった。
 残っていた兵士はすぐに回復魔法の出来る人を呼んでくれた。ビーンは血を流しているから危ない状態だ。でも、回復魔法でも元にはもどらないかもしれない。回復魔法自体初めてだからよくわからないけど。

「呼んできたぞ。よかったな。高位の魔法使いがいたぞ」

「えっ! じゃあ、戻るんですか!」

 兵士が呼んできてくれた司祭のような服の人、その人が高位の魔法使いみたい。
 ビーンは嬉しくて涙を流してる。あんな怪我も治るんだな。やっぱり、魔法ってすごい。

「スタンピードが起こっているかもしれない。この回復魔法の代金は領主に請求するから安心してくれ」

「スタンピード?」

「ああ、君たちの報告通りならトロールがいる。トロールが正確な位置に投石できている。そんなことトロールだけじゃあり得ないんだ。指揮者がいるはず。そうなるとスタンピードが発生しているということにつながるんだ」

 なるほど、トロールは思っていた通り頭はよくない魔物ってことでいいのかな。それが正確に狙ってきたというのは軍のように統率されているってことにつながる。おまけにあれだけのゴブリンが一気に攻めてきた。確実に大きな群れになっていることがわかる。

「スタンピードが発生するとその土地を統治してる方が支援してくださる。カランゾはクエイト様が支援してくださるから全てのスタンピードにかかった費用を持ってくださる。更に最初にスタンピードを知らせてくれたものには懸賞金が出るはずだ。よかったな。あんたらはかなり運がいいぞ」

 回復しながらそういって微笑んでくれる。回復もできて優しいって天使様かな?

「あなた名前は?」

「私ですか? 私はファイス。あなたは?」

「ルルよ。仲間をありがとう」

 ファイスさんが名乗ると僕らは順番に自己紹介。僕を紹介すると頭を撫でてくれた。回復魔法を使えるだけあって優しい人みたい。

「ふう、これで大丈夫だね。他の人は大丈夫かな?」

「私達は大丈夫です。かすり傷程度ですから」

「ではこれで大丈夫ですね。【サークルヒール】」

 オリンとチャイが首を振って回復しないでいいっていうとファイスさんが僕らの周りにヒール膜を作り出した。みるみるうちにオリン達の切り傷が回復していく。

「言ったでしょ、クエイト様が全て持ってくれるんですから遠慮しないでください」

 輝く笑顔のファイスさん。金髪と笑顔が眩しい、こんなにいい人で魔法も使えるなんて本当に天使だな。

「ありがとうございました」

「ああ、すぐに討伐隊が組まれるだろ。その時はよろしく頼むよ」

 ビーンがお礼を言うとファイスさんは微笑んでくれた。ファイスさんは僕らに手を振りながら兵士さんと一緒に街の外へ出て行った。
 僕らは一度ギルドに行って報告を済ませる。ゴブリンをいっぱい倒したから報酬が楽しみだ。



「お姉さまお帰りなさい」

「ただいま、アネット」

 冒険者ギルドに帰ってくるとアネットさんがすぐに気づいてくれた。少しホッとしたような表情をしているのを見ると群れが来たことを知っているみたいだね。

「心配しましたよ。近くの森に群れが来たんですよね」

 思っていた通り、アネットさんは知って、心配していたみたい。お母さんに両手を掴んで頬をすりすりしてる。

「報告したのは私達なのよ」

「え? そうなんですか? てっきりダカン達だと思ってました。彼らは先に枯れ木の報告のあった森に行っていたので」

 人差し指で頬をつつくアネットさん。確かに同じ方向ならあの人たちが報告することになっていたはずだよね。

「命拾いしましたよ。あねさんとその子がいなかったら」

「その子?」

「ちょっとビーン!」

 どっこいしょと併設されている酒場の椅子に座るビーンが口を滑らせる。オリンとチャイが口をふさいだ。

「ははは、ビーンはルルさんに助けられたんだよね」

 ムギちゃんがそういうともごもごと口を塞がれながらビーンが頷いた。
 アネットさんは『お姉さまはやっぱりすごい』と言って輝く瞳でお母さんをみてる。実際、ゴブリン達との攻防も見事にやっていた、お母さんは戦闘経験もあるのかな?

「乗合馬車に乗った時に同じようなことがあったのよ。それでね」

 疑問に思っているとお母さんが僕に視線を移してウインクした。乗合馬車っていうのは奴隷馬車の事かな? お母さんも生まれたときから奴隷なのかな?

「なるほど、だから私達よりも動きがよかったんですね」

「いやいや、それだけじゃあんなに動けないわよ。やっぱりお姉さまは凄いってこと」

「ふふ、ありがとアネット」

 オリンが納得してるとアネットさんがお母さんに抱き着いた。ゆりゆりしているのはいいことだ、うむ。

「それにしても急なスタンビードだな。Aランクの冒険者たちは枯れ木の調査にいっているから結構危険なことになりそうだよな」

「そうね。みんなにも集まってもらわないと危ないかもしれないわ」

 ラフレイシアのせいで上位の冒険者は枯れ木の調査に行ってしまった。カランゾの街はいまが絶好のねらい目、人との戦いだったら最高な場面なんだけど、こんなに頭のいい魔物が存在するのかな? まあ、ラフレイシアは人くらいには頭はいいけどね。
 ん、ということは今回のゴブリンはそのくらいの魔物がかかわっているってこと?
 カランカラン、いろいろ考えていると冒険者ギルドの扉が開いた。

「いらっしゃいませ。お客様ご用件は?」

「少し人を探していまして……。あ~いたいた」

 ボディーラインがくっきりと見える白いワンピースを着た緑髪の女性がギルドに入ってきて、お母さんを見ると駆けてきた。お母さんの知り合いかな?

「お母様ですね?」

「え?」

 知り合いだと思っていたら、お母さんは知らないみたい。お母さんのことをお母様って言っているのが気になるところ。

「少しお話いいでしょうか?」

「……あなたは私の事を知っているようね。でも私はあなたを知らないわ」

「ふふ、やっぱり面白い」

「何を笑っているの?」

 お母さんの受け答えを聞いて女性は笑って『すみません。こっちの話です』といって笑いを堪えた。

「私はラフレイシアと申します。少し内密のお話をしたいのですがよろしいでしょうか?」 

 !? ラフレイシア、姿を変えてるのか?

「自己紹介をしてもダメよ。日を改めることね」

「それは困ります。ねえ? 坊や」

「……バブ」

「ねえ? 坊やも頷いてる」

「ちょっと、マイトに触らないで」

 ラフレイシアはお母さんに断られると僕の頭を撫でてきた。挑発ばかりして話が進まない。

「バブ!」

「ちょっとマイト」

 話を進めるために僕はラフレイシアへと手を伸ばした。お母さんはやめるようにって怒ってきたけど、続けるとあきらめてくれた。

「マイトが話したいってことなのね。じゃあ、いいわ」

「ルルさん、私達も」

「内密といったのよ。この方たちだけにしてちょうだい」

「でも」

「ムギ達は待っていて。マイトが気にしている人だから大丈夫だと思う」

 ムギちゃんが心配して一緒に来てくれそうになったけど、ラフレイシアはそれを断った。まあ、夜の話はあまり公にはできないからね、しょうがない。

 僕を抱いたまま、お母さんはラフレイシアと一緒に酒場の隅の椅子に座った。話って何だろう?

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