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1巻
1-3
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◇
翌朝、ワクワクしながら【僕だけの農場】にやってきた。
納品ポイントを確認した僕は、驚きのあまり立っていられなくて尻もちをついてしまったよ。
「百万ポイント超えてる!」
不在にしていた夕方から朝までの約十二時間の間に百万ポイント以上貯まっていたのだ。
AとBの働きが凄すぎるよ。農作業をしていたD君にはポイント変換しないように言っていたので、トマトや他の作物が入った籠が何個も納品箱の横に置いてあった。
いくつか選別して元の世界へと送る。これで稲を量産してお米をゲット。パンとパスタ文化の世界に殴り込みだ。ふふふ、よだれが止まらないよ。
それはさておき、大量のポイントをゲットしてしまった。
どうするかな~、山を作ったらポイントをほとんど使い切っちゃうから、まだやめておこう。
となると、まず海を作って、船と妖精Sを購入。まだポイントが余る余る。
とりあえず買えるだけ買っちゃおう。
ということで、今回僕が買ったものは次の通り。
妖精S:五万ポイント 牛小屋:十万ポイント 豚小屋:三万ポイント
ビニールハウス:一万ポイント 家:一万ポイント 大きな家:五万ポイント
凄い釣り竿:二千ポイント 海エリア:十万ポイント 釣り船:一万ポイント
大きな船:二十万ポイント 池:千ポイント 大鶏:五千ポイント
銀の鶏:十万ポイント 銀の斧:五千ポイント 銀のスプリンクラー:一万ポイント
銀のジョウロ:五千ポイント 銀の鍬:五千ポイント 燻製蔵:二万ポイント
マヨネーズメイカー:一万ポイント
合計七十二万三千ポイント、残り三十六万七千ポイント。
一気に買いまくったので、建物がそこら中に生えていく。地面からにょきっと生えるから、なんだか面白い。
動物小屋を買った影響で、さらに商品が増えている。残りのポイントでその新商品を買うかな~。と、建っていく建物を見ながら再度ポイントショップを覗く。
島エリア:二千万ポイント 城:二億ポイント 城壁:千ポイント
城下町:一千万ポイント 商店街:一千万ポイント 噴水広場:十万ポイント
乳しぼり機:五万ポイント 羊小屋:二万ポイント ブラシ:千ポイント
牛:十万ポイント 良い牛:五十万ポイント ブランド牛:五百万ポイント
乳牛:十万ポイント 良い乳牛:五十万ポイント ブランド乳牛:五百万ポイント
豚:二万ポイント 良い豚:四万ポイント ブランド豚:八万ポイント
うん、いっぱいの商品達……島とかお城って、商品って言っていいのかな? 城下町だって、僕と妖精しかいないのに必要ないでしょ! まさか、住人がいるとか言わないよね。
……ポイントが桁違いだから、その可能性もありそうだ。
ポイントが足りないものを想像で語るよりも、買うものを選ぼう。
牛と乳牛は決まりで、豚はブランドの豚、乳しぼり機も買っておいて三十三万。あと三万と七千ポイントは、羊小屋とブラシを購入する。
羊小屋を買ったことで、羊、良い羊、ブランド羊が追加された。どれも豚の半分の値段だったので、ひとまず普通の羊を買う。
羊:一万ポイント 良い羊:二万ポイント ブランド羊:四万ポイント
残りの六千ポイントは稲にして、妖精S君に任せる。
パンとパスタ中心の世の中に、お米ありと知らしめなくては。
妖精S君は虹色に輝くサンタ服。遠くにいても目立つのはいいとして、動きが凄いよ。いちいち残像を残して移動している。あれは明らかに人間を超えているね。
しかし、これだけ仕事量が増えると、妖精達だけでは厳しそうだ。
鉱山に行かせていた妖精のうち、AとC以外を戻したけど、足りている気がしない。
とうとう、僕も手伝わないといけないかな。まあ、今まで楽をしすぎたよね。とはいえ、人手があるに越したことはない。もっと妖精を増やせないかな、と思う今日この頃だった。
◇
「お兄様、どうしたんですか? そんな大きなため息ついて。まるでお父様みたい」
農場から戻ってベッドで横になっていると、モニカが僕の顔を覗き込んできた。
色々考えすぎて、大きなため息が出てしまったらしい。
「はは、本当だね」
こんな不毛な辺境の領地を統治するのは大変だから、お父様は日頃から色々苦労が多い。
みんなに優しく、領民からの支持率は高いんだけど、領民のみんなが食べられるように気を配り、自分は食べずに僕らや領民のみんなに分け与え、いつも自分は我慢している。
今も安く食べ物を取引してくれる人を探しに王都へ行っている。
取引相手の大半は貴族だから、所詮は辺境の貧乏貴族だと、足元を見てくる人が多いんだってさ。
「お父様、早く帰ってこないかな~。お兄様の力を知ったら凄く喜ぶのに」
「ああ。驚く顔が目に浮かぶね」
寝ながら話していると、玄関の方から話し声が聞こえてきた。
「リリス、あ……あの庭の作物はどうしたんだ? なんで実がなっているんだ!?」
お父様の声だ! 王都に行っていたお父様が帰ってきたんだ。
馬車に乗ってきたはずなのに、なぜか取り乱した様子で息を切らしている。
「落ち着いてください、あなた。とりあえず、屋敷の中に入りましょ」
「あ、ああ、すまない。そうだ、ただいま」
お母様がお父様を屋敷の中に促す。僕はモニカと一緒に急いで玄関に駆けていった。
「「お帰りなさい、お父様!」」
お父様は長旅で疲れていたみたいで、居間の椅子に座ると、ふぅっとため息をついた。
それでも庭の作物が気になっている様子で、すぐにお母様を呼び寄せた。
「それで、庭の話をしてくれるかい」
「それについては僕が話しますね」
「ウィン、まさか……お前の仕業だったのか?」
目を丸くするお父様に頷いて、僕は自分の能力について話した。
【僕だけの農場】で得られたものを持ち帰ることができること、農場から持ち帰った作物には普通の作物とは違う不思議な力があることなど。前世の記憶があること以外は正直に話した。
お父様はずいぶん驚いた様子だったけど、最後は納得してくれたみたいだ。
「なるほど、不思議な力か。しかし、道中で荒れ地が緑地化しているのを実際に目にした。そうなると、ウィンの話を信じざるを得ないな……。それにしても、そのスキルとはそこまで奇跡的な力を得られるものなのか?」
「そういえば、遠方に怪我をした人を立ち所に治癒できる少女がいるという話は聞いたことがありますね」
そのお母様の言葉に、お父様は感慨深い様子で頷く。
「それは私も聞いたことがある。巫女エレポスといったか。まさか我が子がそういった力を身につけることができたとは……不思議なものだ」
回復能力か~、それも欲しいね。村の人もしょっちゅう怪我しているしね。
「いずれにせよ、これで領民は食べ物に困らなくなるだろう。ウィンのおかげだ、ありがとう」
そう言って、お父様は僕を抱き上げる。でも、その表情には悔しさが滲んでいた。
「私は領主でありながら、領民に何もしてやれなかった。アウグストにも取引を断られてしまったしな。私はあきらめてしまったんだ……」
「隣の領主のアウグスト様ですか……。では、先代のアリューゼ様の頃から続けていた取引は」
「ああ、破棄されたよ。塩は腐るほどあると言われてな」
お父様は食料の取引ができなかったみたいだ。
僕の農場の作物がなかったら、かなりマズい状況になっていたね。漁村の干物だけではとても領民全員に行き渡らないし。
「絶望して帰ってくると、今まで荒れ地だった場所に緑地が広がっていて驚いたよ。ウィン、本当にありがとうな」
「ううん。これからですよ、お父様。そのアウグストって人をぎゃふんと言わせちゃいましょう」
「はは、そうだな」
お父様が凄く嬉しそうで、僕まで嬉しくなってきた。
「お父様、ずるい~。私もお兄様を抱きしめたいです~」
「おお、モニカ。私はお前も抱き上げたいんだがな。よっと!」
お父様はそんなにがっちりした体形じゃないけど、僕らを持ち上げてにっこりと微笑んだ。
「二人とも大きくなったな~。そろそろ一人ずつしか持ち上げられなくなりそうだ」
しばらく談笑していると、食堂から良い匂いが漂ってきた。
「ギュスタ様、お食事の準備ができました。今日はトマトとトウモロコシのスープと白いパンです」
「おお、ボドの本気の料理が食べられるんだな。それに、トマトにトウモロコシとは! これもウィンのおかげか……。今までろくな食材がなくて申し訳なかったな」
「とんでもないです。ギュスタ様のせいではありませんよ」
お父様が謝るものだから、ボドさんが恐縮してオドオドしている。
量産した野菜は領内の村に渡したから、これからどんどん食べ物が増えていくよ。
「ふふ、じゃあ、みんな食事にしましょ」
お母様がクスクスと笑いながら言うと、お父様は僕らを抱き上げたまま食堂へと歩いていく。
お父様から王都での話を聞きながら食事をした。
お父様は色んな貴族の人に取引を持ち掛けたんだけど、全部断られたんだってさ。僕らの領地は土地が枯れていて、仲良くしても利益がないと思ったんだろうな~。
でも、これからは無視できない土地になる予定だけどね。ふっふっふ。
◇
「可愛い寝顔だな」
お父様が帰ってきた次の日の朝。お母様が入ってくる前に【僕だけの農場】に移動しようとしたんだけど、思わずモニカの寝顔に見入っちゃった。
プニプニの頬をつまむと、ほにょって寝言を言って……可愛い妹だな。
いつまでもほっぺをつついていたい誘惑を断ち切って、【僕だけの農場】に入った。
「動物小屋の動物も順調だな~」
動物を飼育するエリアは大きな柵で囲われていて、牛小屋、豚小屋は隣同士、鶏小屋は少し離れた位置にある。
動物は買った段階で出荷できる状態まで成長しているみたいで、乳牛も最初からミルクが出る。
ミルクは全部納品しないでバターとかに加工する予定だ。
やっとバタートーストが食べられる。……じゅるり。
「あとは家と大きな家ができているね。中に入ってみようかな」
最初にただの家の方に入ってみる。別に買う必要ないと思っていたんだけど、特別な機能があるかもしれないと思って買ってみた。さてさて家では何が起こるのかな?
「普通の家?」
現代日本的な内装のダイニングキッチンがある家で、大きなソファーとダイニングテーブルセットが並んでいる。元日本人の感覚だと別段変わったものはないように見えるけど、ガスコンロや電子レンジ完備は、この世界の文明を考えると凄い。
しかし、ガスや電気はどこから来ているんだ? 謎だ。
寝室は全部で三つ。勉強机とベッドがある子供用と思しき部屋が一つ、ダブルベッドが置かれた大きめの部屋と、タンス付きの普通の寝室。
最後の寝室を確認し終えて扉を閉めようと思ったら……ベッドの上に気になるものが見えた。
ん? 布団がモソモソと動いている!?
僕以外にこの世界にいるのは妖精と動物だけ。他に誰かがいるはずがないんだ。だって、僕だけの農場なんだから。
「ん~、お兄様……ここはどこ?」
「モニカ!?」
眠そうに目を擦っているのは、モニカ。
【僕だけの農場】の世界に、一体どうやって来たんだろう?
「あれ~、ここって、お兄様の部屋じゃないみたいです……」
モニカは見慣れない内装に戸惑ってキョロキョロと周りを窺う。
たまたま僕が入ってきたから怯えてはいないけど、一人だったら怖かっただろうな。見知らぬ天井は異世界転生者だけで十分だ。
あ……もしかしたら、家を買ったことでお客さんを呼べるようになったのかもしれないな。
条件はこちらに来る時に僕に触れている人ってところかな? 散々ほっぺを触っていたし。
自分の中で納得して、モニカに向き直り笑顔を作る。
「モニカ、ようこそ僕の世界へ」
「……ここがお兄様の世界?」
しばし首を傾げてぽけ~っとしていたものの、ようやく状況を理解したのか、モニカは目を輝かせて僕へと抱きついてきた。
早速農場を見せようと、手を引いて家の外へと連れ出す。
「すご~い。これ全部お兄様のものなの~?」
興味津々で走り回るモニカ。まだまだ確認していないものも多いんだけど、外の時間は止まっているから、無限に遊べる。
今日はたっぷり妹と遊ぶことにしよう。
「マスター、仕事終わりました~。次は何すればいいですか?」
妖精S君がぴょこぴょこ駆けてきた。S君は虹色のサンタ服で、他の子と違って表情の変化があるし、僕にも挨拶をしてくる。
「じゃあ、鉱山を手伝ってあげて」
「わっかりました~」
「可愛い~!」
モニカがもじもじしていると思ったら、妖精さんを抱き上げてしまった。
妖精さんは「わわ~」と悲鳴を上げてバタバタしている。
妖精はみんな可愛いけど、S君は特別可愛いんだよな~。
「マスター、この人が放してくれないので、鉱山に行けません~」
「ははは、じゃあ、僕らがいる間はこのままでいいよ」
S君は仕事が早いから、このくらい時間を使っても大丈夫。今日はモニカを接待してもらおう。
「可愛い、可愛い~」
「あう~」
抱き上げられながら頬を擦りつけられるS君。可愛いモニカの頬は格別でしょ?
「マスター、そういえば、ポイントが貯まっているんですけど。僕ら妖精の強化はしないんですか?」
モニカに弄ばれながらも、S君がそんなことを聞いてきた。
妖精さんの強化ができるのか~。
「どうやって、強化するの?」
「僕に触れれば、納品箱のようにショップが開きます。そこで買い物してくれればいいんですよ~」
なるほど、そんな機能があったのか~。どんどんやれることが増えていくな~。
名前:S レベル:1
HP:800 MP:500
STR:90 DEF:70 DEX:100
AGI:60 INT:60 MND:60
ステータスはこんな感じみたい。比較対象としてE君のも見せてもらおう。
E君を手招きして頭に手を置く。
E君はレベルが5に上がっているにもかかわらず、どの能力値も君の一割程度。S君やA君のスピードが凄いと思っていたら、ステータスが高かったんだな~。
「ステータスを1増やすのに一万ポイント必要です」
「高いな~。レベル上昇による成長要素もあるみたいだから、今のところはこのままかな~」
「ええ、そんな~。四千万ポイントもあるのに~」
「四千万も貯まっているの!?」
S君がとんでもない数字を言ってきた。
固まる僕を横目に、妖精さんはまだモニカにプニプニされている。妖精さんは頬もプニプニなのだ。モニカの頬もなかなかなので甲乙つけがたいが、僕的にはやはりモニカかな。
「じゃあ、お城とか城下町を買える……」
四千万もポイントが貯まっているなら、お城とか城下町を買いたいな。商店街もだけど、建物だけなのか、住人がついてくるのかが気になってるんだよね。
「ええ!? 僕らも強化してくださいよ~」
「S君がいれば今は大丈夫でしょ?」
それでもS君は食い下がる。
「で、でも、これからどんどん作物は増えるし、海のものも捕らないといけないですよ~?」
むむむ、確かにS君の言う通りだ。
浜辺から伸びる桟橋には大きな船と漁船のような船が横付けされているのが見える。大きな船には軍用艦みたいな砲台もついていて、いかついな~。
「それなら、みんなのステータスを強化しよう。えっとS君のステータスと同等にするには……」
計算しようとしたけど……電卓がないと無理。
「S君に任せられないかな? 僕はモニカと海とかを一緒に回りたいんだけど」
「了解しました~。では僕に任せるということで」
S君は敬礼して大きな家に入っていった。家の中で強化するのかな?
「海に行くんですか?」
「ああ。大きな船とか、凄そうだから見ておこうと思ってね」
モニカの手を取って浜辺に向かう。
少し下って入る浜辺には、貝やカニの姿が見える。あれらは完全に納品物だね。大きなカニはいないから獲らないけど、唐揚げにしたら美味しそうだ。
そういえば妖精が強化できるなら、もしかして……。
自分の胸を触り、S君にしたようにポイントショップを開いてみた。
するとステータスが現れて、どれを強化するか選べるようになった。ちなみに僕のステータスはこんな感じ。
名前:ウィン レベル:1
HP:8 MP:6
STR:7 DEF:7 DEX:5
AGI:6 INT:5 MND:6
うん、弱い。E君並みだよ。
今まで魔物と戦ったことがなかったから、レベルが上がっているとは思っていなかったけど、凄く弱いね。
こうなったら、ポイントを使って自分を強化してしまうか。
えっと、ポイント一万につき、HPとMPは10、それ以外のステータスは1増やせる。
とりあえず、S君と同じくらいにしておこうかな、ということで……。
名前:ウィン レベル:1
HP:808 MP:506
STR:97 DEF:77 DEX:105
AGI:66 INT:65 MND:66
五百七十万使って強化してみました。ちょっとその辺を走ってみたら、百メートル五秒くらいのスピードになっているね。……やりすぎた。
それを見たモニカが、嬉しそうに飛び跳ねている。
「お兄様、すごーい。私もやってみた~い」
もしやモニカも強化できるのでは? と思って、彼女の手を握ってポイントショップを開いたら……見事にステータスが表示されて、どれを強化するのか選べるようになった。
うん、チート確定。兄妹で強化します。お父様達も強化したいけど、それは後々。
さすがに僕以上にするとダメだな~と思うので、今は少しだけ強くしよう。
兄の沽券に関わるからね。兄より強い妹、ダメ、絶対。
名前:モニカ レベル:1
HP:5→505 MP:8→308
STR:2→32 DEF:3→33 DEX:2→32
AGI:2→32 INT:6→36 MND:7→37
二百六十万ポイント使って、モニカを強化。
強化が終わるとすぐに、モニカが走り出して石を手に取って海へと投げはじめた。
石は水面を跳ねて、信じられないくらい遠くまで飛んでいった。妹の年齢から考えると驚異的だ。僕もやってみたいけど、危なそうなのでやめておこう。
しばらくモニカと浜辺で遊んでいたら、S君が駆けてきた。
「マスタ~。ポイントが残り一千万になっちゃいました~」
ポイントが少なくなったから報告に来たみたい。どんだけ妖精を強化したんだ?
「一千万か~。じゃあ、残りは商店街でも買ってみようかな」
納品箱に戻ってポイントショップを開く。
納品箱まで走ったのに全然息切れしないよ。完全に強化しすぎたな~。
「お兄様、まだまだ遊びましょ~」
「モニカ。浜辺じゃなくて今度は商店街に行ってみよう」
せっかく買ったんだから、すぐに見てみたい。
僕は首を傾げるモニカの手を取って商店街へ向かう。
商店街は少し離れた何もない草原にポツンとできていた。噴水広場とかを買えばつながるのかな?
商店街に入ると、おばちゃんが僕に気づいて声をかけてきた。
「いらっしゃ~い……。って〝神様〟じゃないか~」
しかも神様呼ばわりしてくる。それを聞いて、商店街の人達から歓声が上がった。
思った通り、商店街のような施設には人がいるみたいだ。妖精と違ってちゃんと表情がある、普通のおじさんとおばさんだね。そんな人達がみんなで僕を崇めてくるんだから、恥ずかしくなる。
それにしてもこの商店街、どこかで見たことがあるような……。気のせいかな?
「ようこそ農場商店街へ!」
「あ、ありがとうございます……」
おじさんが花束を差し出してきた。受け取ると商店街の人達はにっこりと微笑んでくれる。
「私達の仕事は加工物の販売だよ。神様の農場から得たアイテムを使って加工物を作るのさ。たとえば羊毛から服を作るとかね。あとはミルクからチーズとか、小麦からパンとか、他にも色々販売できるようになるから、毎日寄っておくれよ」
おばさんはそう言ってウインクした。見知らぬ人々の登場に、モニカが少し戸惑っている。
「おばさん達、お名前は?」
「神様の妹様ね。私達には名前はないのよ。道具屋だから、そう呼んでくれればいいわよ」
「お名前がないの? 道具屋さんなんておかしいです。じゃあ、私がつける~」
あっけらかんと自分は道具屋だと言うおばさんは、いかにも作られた存在っていう感じがして、なんだか悲しい。モニカもそう思ったらしく、腕を組んで名前を考えている。
「う~んとね、アイムさんでどうかな?」
「ふふ、ありがとうね、妹様」
「私はモニカだよ~。あと、お兄様は神様なんていう名前じゃなくて、ウィンっていうんだよ~」
「ウィン様だね、わかったよ。ありがとう、モニカ様」
おばさんの名前はアイムに決定した。アイテム屋だからアイムか、安直だけど良い名前だ。
アイムさんと話しをしていると、少し背が低くて立派な髭を蓄えた男性が近づいてきた。
僕らの領地には住んでいないので現実世界で実物を見たことはないが、この特徴からして噂に聞くドワーフだろう。他にも耳が長いエルフなんかもいるかもしれないな。
翌朝、ワクワクしながら【僕だけの農場】にやってきた。
納品ポイントを確認した僕は、驚きのあまり立っていられなくて尻もちをついてしまったよ。
「百万ポイント超えてる!」
不在にしていた夕方から朝までの約十二時間の間に百万ポイント以上貯まっていたのだ。
AとBの働きが凄すぎるよ。農作業をしていたD君にはポイント変換しないように言っていたので、トマトや他の作物が入った籠が何個も納品箱の横に置いてあった。
いくつか選別して元の世界へと送る。これで稲を量産してお米をゲット。パンとパスタ文化の世界に殴り込みだ。ふふふ、よだれが止まらないよ。
それはさておき、大量のポイントをゲットしてしまった。
どうするかな~、山を作ったらポイントをほとんど使い切っちゃうから、まだやめておこう。
となると、まず海を作って、船と妖精Sを購入。まだポイントが余る余る。
とりあえず買えるだけ買っちゃおう。
ということで、今回僕が買ったものは次の通り。
妖精S:五万ポイント 牛小屋:十万ポイント 豚小屋:三万ポイント
ビニールハウス:一万ポイント 家:一万ポイント 大きな家:五万ポイント
凄い釣り竿:二千ポイント 海エリア:十万ポイント 釣り船:一万ポイント
大きな船:二十万ポイント 池:千ポイント 大鶏:五千ポイント
銀の鶏:十万ポイント 銀の斧:五千ポイント 銀のスプリンクラー:一万ポイント
銀のジョウロ:五千ポイント 銀の鍬:五千ポイント 燻製蔵:二万ポイント
マヨネーズメイカー:一万ポイント
合計七十二万三千ポイント、残り三十六万七千ポイント。
一気に買いまくったので、建物がそこら中に生えていく。地面からにょきっと生えるから、なんだか面白い。
動物小屋を買った影響で、さらに商品が増えている。残りのポイントでその新商品を買うかな~。と、建っていく建物を見ながら再度ポイントショップを覗く。
島エリア:二千万ポイント 城:二億ポイント 城壁:千ポイント
城下町:一千万ポイント 商店街:一千万ポイント 噴水広場:十万ポイント
乳しぼり機:五万ポイント 羊小屋:二万ポイント ブラシ:千ポイント
牛:十万ポイント 良い牛:五十万ポイント ブランド牛:五百万ポイント
乳牛:十万ポイント 良い乳牛:五十万ポイント ブランド乳牛:五百万ポイント
豚:二万ポイント 良い豚:四万ポイント ブランド豚:八万ポイント
うん、いっぱいの商品達……島とかお城って、商品って言っていいのかな? 城下町だって、僕と妖精しかいないのに必要ないでしょ! まさか、住人がいるとか言わないよね。
……ポイントが桁違いだから、その可能性もありそうだ。
ポイントが足りないものを想像で語るよりも、買うものを選ぼう。
牛と乳牛は決まりで、豚はブランドの豚、乳しぼり機も買っておいて三十三万。あと三万と七千ポイントは、羊小屋とブラシを購入する。
羊小屋を買ったことで、羊、良い羊、ブランド羊が追加された。どれも豚の半分の値段だったので、ひとまず普通の羊を買う。
羊:一万ポイント 良い羊:二万ポイント ブランド羊:四万ポイント
残りの六千ポイントは稲にして、妖精S君に任せる。
パンとパスタ中心の世の中に、お米ありと知らしめなくては。
妖精S君は虹色に輝くサンタ服。遠くにいても目立つのはいいとして、動きが凄いよ。いちいち残像を残して移動している。あれは明らかに人間を超えているね。
しかし、これだけ仕事量が増えると、妖精達だけでは厳しそうだ。
鉱山に行かせていた妖精のうち、AとC以外を戻したけど、足りている気がしない。
とうとう、僕も手伝わないといけないかな。まあ、今まで楽をしすぎたよね。とはいえ、人手があるに越したことはない。もっと妖精を増やせないかな、と思う今日この頃だった。
◇
「お兄様、どうしたんですか? そんな大きなため息ついて。まるでお父様みたい」
農場から戻ってベッドで横になっていると、モニカが僕の顔を覗き込んできた。
色々考えすぎて、大きなため息が出てしまったらしい。
「はは、本当だね」
こんな不毛な辺境の領地を統治するのは大変だから、お父様は日頃から色々苦労が多い。
みんなに優しく、領民からの支持率は高いんだけど、領民のみんなが食べられるように気を配り、自分は食べずに僕らや領民のみんなに分け与え、いつも自分は我慢している。
今も安く食べ物を取引してくれる人を探しに王都へ行っている。
取引相手の大半は貴族だから、所詮は辺境の貧乏貴族だと、足元を見てくる人が多いんだってさ。
「お父様、早く帰ってこないかな~。お兄様の力を知ったら凄く喜ぶのに」
「ああ。驚く顔が目に浮かぶね」
寝ながら話していると、玄関の方から話し声が聞こえてきた。
「リリス、あ……あの庭の作物はどうしたんだ? なんで実がなっているんだ!?」
お父様の声だ! 王都に行っていたお父様が帰ってきたんだ。
馬車に乗ってきたはずなのに、なぜか取り乱した様子で息を切らしている。
「落ち着いてください、あなた。とりあえず、屋敷の中に入りましょ」
「あ、ああ、すまない。そうだ、ただいま」
お母様がお父様を屋敷の中に促す。僕はモニカと一緒に急いで玄関に駆けていった。
「「お帰りなさい、お父様!」」
お父様は長旅で疲れていたみたいで、居間の椅子に座ると、ふぅっとため息をついた。
それでも庭の作物が気になっている様子で、すぐにお母様を呼び寄せた。
「それで、庭の話をしてくれるかい」
「それについては僕が話しますね」
「ウィン、まさか……お前の仕業だったのか?」
目を丸くするお父様に頷いて、僕は自分の能力について話した。
【僕だけの農場】で得られたものを持ち帰ることができること、農場から持ち帰った作物には普通の作物とは違う不思議な力があることなど。前世の記憶があること以外は正直に話した。
お父様はずいぶん驚いた様子だったけど、最後は納得してくれたみたいだ。
「なるほど、不思議な力か。しかし、道中で荒れ地が緑地化しているのを実際に目にした。そうなると、ウィンの話を信じざるを得ないな……。それにしても、そのスキルとはそこまで奇跡的な力を得られるものなのか?」
「そういえば、遠方に怪我をした人を立ち所に治癒できる少女がいるという話は聞いたことがありますね」
そのお母様の言葉に、お父様は感慨深い様子で頷く。
「それは私も聞いたことがある。巫女エレポスといったか。まさか我が子がそういった力を身につけることができたとは……不思議なものだ」
回復能力か~、それも欲しいね。村の人もしょっちゅう怪我しているしね。
「いずれにせよ、これで領民は食べ物に困らなくなるだろう。ウィンのおかげだ、ありがとう」
そう言って、お父様は僕を抱き上げる。でも、その表情には悔しさが滲んでいた。
「私は領主でありながら、領民に何もしてやれなかった。アウグストにも取引を断られてしまったしな。私はあきらめてしまったんだ……」
「隣の領主のアウグスト様ですか……。では、先代のアリューゼ様の頃から続けていた取引は」
「ああ、破棄されたよ。塩は腐るほどあると言われてな」
お父様は食料の取引ができなかったみたいだ。
僕の農場の作物がなかったら、かなりマズい状況になっていたね。漁村の干物だけではとても領民全員に行き渡らないし。
「絶望して帰ってくると、今まで荒れ地だった場所に緑地が広がっていて驚いたよ。ウィン、本当にありがとうな」
「ううん。これからですよ、お父様。そのアウグストって人をぎゃふんと言わせちゃいましょう」
「はは、そうだな」
お父様が凄く嬉しそうで、僕まで嬉しくなってきた。
「お父様、ずるい~。私もお兄様を抱きしめたいです~」
「おお、モニカ。私はお前も抱き上げたいんだがな。よっと!」
お父様はそんなにがっちりした体形じゃないけど、僕らを持ち上げてにっこりと微笑んだ。
「二人とも大きくなったな~。そろそろ一人ずつしか持ち上げられなくなりそうだ」
しばらく談笑していると、食堂から良い匂いが漂ってきた。
「ギュスタ様、お食事の準備ができました。今日はトマトとトウモロコシのスープと白いパンです」
「おお、ボドの本気の料理が食べられるんだな。それに、トマトにトウモロコシとは! これもウィンのおかげか……。今までろくな食材がなくて申し訳なかったな」
「とんでもないです。ギュスタ様のせいではありませんよ」
お父様が謝るものだから、ボドさんが恐縮してオドオドしている。
量産した野菜は領内の村に渡したから、これからどんどん食べ物が増えていくよ。
「ふふ、じゃあ、みんな食事にしましょ」
お母様がクスクスと笑いながら言うと、お父様は僕らを抱き上げたまま食堂へと歩いていく。
お父様から王都での話を聞きながら食事をした。
お父様は色んな貴族の人に取引を持ち掛けたんだけど、全部断られたんだってさ。僕らの領地は土地が枯れていて、仲良くしても利益がないと思ったんだろうな~。
でも、これからは無視できない土地になる予定だけどね。ふっふっふ。
◇
「可愛い寝顔だな」
お父様が帰ってきた次の日の朝。お母様が入ってくる前に【僕だけの農場】に移動しようとしたんだけど、思わずモニカの寝顔に見入っちゃった。
プニプニの頬をつまむと、ほにょって寝言を言って……可愛い妹だな。
いつまでもほっぺをつついていたい誘惑を断ち切って、【僕だけの農場】に入った。
「動物小屋の動物も順調だな~」
動物を飼育するエリアは大きな柵で囲われていて、牛小屋、豚小屋は隣同士、鶏小屋は少し離れた位置にある。
動物は買った段階で出荷できる状態まで成長しているみたいで、乳牛も最初からミルクが出る。
ミルクは全部納品しないでバターとかに加工する予定だ。
やっとバタートーストが食べられる。……じゅるり。
「あとは家と大きな家ができているね。中に入ってみようかな」
最初にただの家の方に入ってみる。別に買う必要ないと思っていたんだけど、特別な機能があるかもしれないと思って買ってみた。さてさて家では何が起こるのかな?
「普通の家?」
現代日本的な内装のダイニングキッチンがある家で、大きなソファーとダイニングテーブルセットが並んでいる。元日本人の感覚だと別段変わったものはないように見えるけど、ガスコンロや電子レンジ完備は、この世界の文明を考えると凄い。
しかし、ガスや電気はどこから来ているんだ? 謎だ。
寝室は全部で三つ。勉強机とベッドがある子供用と思しき部屋が一つ、ダブルベッドが置かれた大きめの部屋と、タンス付きの普通の寝室。
最後の寝室を確認し終えて扉を閉めようと思ったら……ベッドの上に気になるものが見えた。
ん? 布団がモソモソと動いている!?
僕以外にこの世界にいるのは妖精と動物だけ。他に誰かがいるはずがないんだ。だって、僕だけの農場なんだから。
「ん~、お兄様……ここはどこ?」
「モニカ!?」
眠そうに目を擦っているのは、モニカ。
【僕だけの農場】の世界に、一体どうやって来たんだろう?
「あれ~、ここって、お兄様の部屋じゃないみたいです……」
モニカは見慣れない内装に戸惑ってキョロキョロと周りを窺う。
たまたま僕が入ってきたから怯えてはいないけど、一人だったら怖かっただろうな。見知らぬ天井は異世界転生者だけで十分だ。
あ……もしかしたら、家を買ったことでお客さんを呼べるようになったのかもしれないな。
条件はこちらに来る時に僕に触れている人ってところかな? 散々ほっぺを触っていたし。
自分の中で納得して、モニカに向き直り笑顔を作る。
「モニカ、ようこそ僕の世界へ」
「……ここがお兄様の世界?」
しばし首を傾げてぽけ~っとしていたものの、ようやく状況を理解したのか、モニカは目を輝かせて僕へと抱きついてきた。
早速農場を見せようと、手を引いて家の外へと連れ出す。
「すご~い。これ全部お兄様のものなの~?」
興味津々で走り回るモニカ。まだまだ確認していないものも多いんだけど、外の時間は止まっているから、無限に遊べる。
今日はたっぷり妹と遊ぶことにしよう。
「マスター、仕事終わりました~。次は何すればいいですか?」
妖精S君がぴょこぴょこ駆けてきた。S君は虹色のサンタ服で、他の子と違って表情の変化があるし、僕にも挨拶をしてくる。
「じゃあ、鉱山を手伝ってあげて」
「わっかりました~」
「可愛い~!」
モニカがもじもじしていると思ったら、妖精さんを抱き上げてしまった。
妖精さんは「わわ~」と悲鳴を上げてバタバタしている。
妖精はみんな可愛いけど、S君は特別可愛いんだよな~。
「マスター、この人が放してくれないので、鉱山に行けません~」
「ははは、じゃあ、僕らがいる間はこのままでいいよ」
S君は仕事が早いから、このくらい時間を使っても大丈夫。今日はモニカを接待してもらおう。
「可愛い、可愛い~」
「あう~」
抱き上げられながら頬を擦りつけられるS君。可愛いモニカの頬は格別でしょ?
「マスター、そういえば、ポイントが貯まっているんですけど。僕ら妖精の強化はしないんですか?」
モニカに弄ばれながらも、S君がそんなことを聞いてきた。
妖精さんの強化ができるのか~。
「どうやって、強化するの?」
「僕に触れれば、納品箱のようにショップが開きます。そこで買い物してくれればいいんですよ~」
なるほど、そんな機能があったのか~。どんどんやれることが増えていくな~。
名前:S レベル:1
HP:800 MP:500
STR:90 DEF:70 DEX:100
AGI:60 INT:60 MND:60
ステータスはこんな感じみたい。比較対象としてE君のも見せてもらおう。
E君を手招きして頭に手を置く。
E君はレベルが5に上がっているにもかかわらず、どの能力値も君の一割程度。S君やA君のスピードが凄いと思っていたら、ステータスが高かったんだな~。
「ステータスを1増やすのに一万ポイント必要です」
「高いな~。レベル上昇による成長要素もあるみたいだから、今のところはこのままかな~」
「ええ、そんな~。四千万ポイントもあるのに~」
「四千万も貯まっているの!?」
S君がとんでもない数字を言ってきた。
固まる僕を横目に、妖精さんはまだモニカにプニプニされている。妖精さんは頬もプニプニなのだ。モニカの頬もなかなかなので甲乙つけがたいが、僕的にはやはりモニカかな。
「じゃあ、お城とか城下町を買える……」
四千万もポイントが貯まっているなら、お城とか城下町を買いたいな。商店街もだけど、建物だけなのか、住人がついてくるのかが気になってるんだよね。
「ええ!? 僕らも強化してくださいよ~」
「S君がいれば今は大丈夫でしょ?」
それでもS君は食い下がる。
「で、でも、これからどんどん作物は増えるし、海のものも捕らないといけないですよ~?」
むむむ、確かにS君の言う通りだ。
浜辺から伸びる桟橋には大きな船と漁船のような船が横付けされているのが見える。大きな船には軍用艦みたいな砲台もついていて、いかついな~。
「それなら、みんなのステータスを強化しよう。えっとS君のステータスと同等にするには……」
計算しようとしたけど……電卓がないと無理。
「S君に任せられないかな? 僕はモニカと海とかを一緒に回りたいんだけど」
「了解しました~。では僕に任せるということで」
S君は敬礼して大きな家に入っていった。家の中で強化するのかな?
「海に行くんですか?」
「ああ。大きな船とか、凄そうだから見ておこうと思ってね」
モニカの手を取って浜辺に向かう。
少し下って入る浜辺には、貝やカニの姿が見える。あれらは完全に納品物だね。大きなカニはいないから獲らないけど、唐揚げにしたら美味しそうだ。
そういえば妖精が強化できるなら、もしかして……。
自分の胸を触り、S君にしたようにポイントショップを開いてみた。
するとステータスが現れて、どれを強化するか選べるようになった。ちなみに僕のステータスはこんな感じ。
名前:ウィン レベル:1
HP:8 MP:6
STR:7 DEF:7 DEX:5
AGI:6 INT:5 MND:6
うん、弱い。E君並みだよ。
今まで魔物と戦ったことがなかったから、レベルが上がっているとは思っていなかったけど、凄く弱いね。
こうなったら、ポイントを使って自分を強化してしまうか。
えっと、ポイント一万につき、HPとMPは10、それ以外のステータスは1増やせる。
とりあえず、S君と同じくらいにしておこうかな、ということで……。
名前:ウィン レベル:1
HP:808 MP:506
STR:97 DEF:77 DEX:105
AGI:66 INT:65 MND:66
五百七十万使って強化してみました。ちょっとその辺を走ってみたら、百メートル五秒くらいのスピードになっているね。……やりすぎた。
それを見たモニカが、嬉しそうに飛び跳ねている。
「お兄様、すごーい。私もやってみた~い」
もしやモニカも強化できるのでは? と思って、彼女の手を握ってポイントショップを開いたら……見事にステータスが表示されて、どれを強化するのか選べるようになった。
うん、チート確定。兄妹で強化します。お父様達も強化したいけど、それは後々。
さすがに僕以上にするとダメだな~と思うので、今は少しだけ強くしよう。
兄の沽券に関わるからね。兄より強い妹、ダメ、絶対。
名前:モニカ レベル:1
HP:5→505 MP:8→308
STR:2→32 DEF:3→33 DEX:2→32
AGI:2→32 INT:6→36 MND:7→37
二百六十万ポイント使って、モニカを強化。
強化が終わるとすぐに、モニカが走り出して石を手に取って海へと投げはじめた。
石は水面を跳ねて、信じられないくらい遠くまで飛んでいった。妹の年齢から考えると驚異的だ。僕もやってみたいけど、危なそうなのでやめておこう。
しばらくモニカと浜辺で遊んでいたら、S君が駆けてきた。
「マスタ~。ポイントが残り一千万になっちゃいました~」
ポイントが少なくなったから報告に来たみたい。どんだけ妖精を強化したんだ?
「一千万か~。じゃあ、残りは商店街でも買ってみようかな」
納品箱に戻ってポイントショップを開く。
納品箱まで走ったのに全然息切れしないよ。完全に強化しすぎたな~。
「お兄様、まだまだ遊びましょ~」
「モニカ。浜辺じゃなくて今度は商店街に行ってみよう」
せっかく買ったんだから、すぐに見てみたい。
僕は首を傾げるモニカの手を取って商店街へ向かう。
商店街は少し離れた何もない草原にポツンとできていた。噴水広場とかを買えばつながるのかな?
商店街に入ると、おばちゃんが僕に気づいて声をかけてきた。
「いらっしゃ~い……。って〝神様〟じゃないか~」
しかも神様呼ばわりしてくる。それを聞いて、商店街の人達から歓声が上がった。
思った通り、商店街のような施設には人がいるみたいだ。妖精と違ってちゃんと表情がある、普通のおじさんとおばさんだね。そんな人達がみんなで僕を崇めてくるんだから、恥ずかしくなる。
それにしてもこの商店街、どこかで見たことがあるような……。気のせいかな?
「ようこそ農場商店街へ!」
「あ、ありがとうございます……」
おじさんが花束を差し出してきた。受け取ると商店街の人達はにっこりと微笑んでくれる。
「私達の仕事は加工物の販売だよ。神様の農場から得たアイテムを使って加工物を作るのさ。たとえば羊毛から服を作るとかね。あとはミルクからチーズとか、小麦からパンとか、他にも色々販売できるようになるから、毎日寄っておくれよ」
おばさんはそう言ってウインクした。見知らぬ人々の登場に、モニカが少し戸惑っている。
「おばさん達、お名前は?」
「神様の妹様ね。私達には名前はないのよ。道具屋だから、そう呼んでくれればいいわよ」
「お名前がないの? 道具屋さんなんておかしいです。じゃあ、私がつける~」
あっけらかんと自分は道具屋だと言うおばさんは、いかにも作られた存在っていう感じがして、なんだか悲しい。モニカもそう思ったらしく、腕を組んで名前を考えている。
「う~んとね、アイムさんでどうかな?」
「ふふ、ありがとうね、妹様」
「私はモニカだよ~。あと、お兄様は神様なんていう名前じゃなくて、ウィンっていうんだよ~」
「ウィン様だね、わかったよ。ありがとう、モニカ様」
おばさんの名前はアイムに決定した。アイテム屋だからアイムか、安直だけど良い名前だ。
アイムさんと話しをしていると、少し背が低くて立派な髭を蓄えた男性が近づいてきた。
僕らの領地には住んでいないので現実世界で実物を見たことはないが、この特徴からして噂に聞くドワーフだろう。他にも耳が長いエルフなんかもいるかもしれないな。
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