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1巻
1-2
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「切れる木を納品し終わりました」
商品を見て考え込んでいると、E君が声をかけてきた。
「ご苦労様、このまま次の仕事できそう?」
「我々に休息は不要です」
そんなに時間が経っていないのに、太い木以外の木を綺麗に納品してくれたみたい。
この子達でこのスピードじゃ、Cから上の子はかなり優秀そうだな。
E君と話していると、今日の分のトマトを植え終わったD君も近づいてきた。二人とも仕事が速いな~。
「太い木も切りたいし、鉄の斧とか欲しいな。どうやったら商品欄に出るのかな~」
今までに解放されたアイテムの例を考えると、関係があるものを納品するといいみたいだけど、鉄と関連するものって、銅とかの鉱石系だよね。
……ああ!? そういえば、道端に落ちている石に、普通とは違うものがあったような! それを納品すればあるいは? でも、僕も過去にそういった石を納品していたはずなんだよね。納品数が足りなかった可能性があるな。とにかく、石を納品してもらおう。
妖精二人に道端の石や雑草を刈って納品するように指示を飛ばす。一人は木の鎌を持たせて雑草専任だね。
道具は一個ずつしか買えないっていう制限がなければ、もっと色んな仕事を頼めるんだけど、仕様なので仕方がない。とりあえず、今日はできることがなさそうなので、妖精に任せよう。
◇
「ウィン~」
元の世界に戻ると、お母様が部屋に入ってきて僕を抱きしめた。
「お母様、どうしたんですか?」
「うふふ、抱きしめたかっただけ~。あら? またトマトが採れたのね。昨日塩をかけて食べたトマト、美味しかったわ~」
お母様はたった今僕が農場から持ち帰ったトマトを発見して、目をキラキラさせる。
昨日、持ち帰ったトマトを見せたら、みんな驚いていた。でも一個しか持って帰れなくて、量が少なかったから少し申し訳なかったよ。
お母様は美味しそうに食べてくれたけど、残念ながらモニカのお口には合わなかったみたいだ。それでも、お兄様が用意してくれたからと、目を瞑って食べ切った。
「お母様、お兄様が痛そうですわ。ね~、お兄様?」
モニカがお母様の後に入ってきて僕に抱きつく。お母様はお父様がいないと寂しくて僕に抱きついてくる。痛いほど強く抱きしめられるわけではないけれど、モニカはお母様に対抗意識を持っているから、きつく言っちゃうんだよな。
「トマトを調理するから、二人とも一緒に調理場に行こうか」
「「は~い」」
可愛らしい姉妹のように返事をする母娘。
調理場に着くと、料理長のボドさんが迎えてくれた。
「ウィン様、それにお嬢様とリリス様。どうされたのですか?」
貴族は普段自分で料理なんてしないから、料理人を雇っている。僕らの懐事情でも何とか雇えているって感じ。まあ、安い給料だけれど。
「ボドさん。トマトが少し採れたので、調理しようと思って」
「昨日のトマトですか? あんな良いもの、どこで手に入れているのですか? 近場には漁村しかないというのに」
適当に「近くの草原です」って言ってはぐらかしたが、ボドさんは首を傾げている。こんなに大きなトマトなんて採れるはずないよね。
「そういえば、ウィン。ジャガイモを庭に植えていたわね~。あれも実るのかしら?」
「種芋を手に入れたから、試している最中です。塩害のあるここら辺で実るようなら、領内の村に配って農産物を量産しましょう」
「お兄様、凄いです!」
お母様がジャガイモのことを聞いてきたので答えると、モニカが瞳を輝かせて僕に抱きついてきた。まあ、これでも領主の息子だしね。それに、前世よりもやりがいのある世界だから、思いっきりチートを使っていきたい。
さて、お喋りはこの辺にしておいて、ボドさんとトマトソースの調理を始める。
「では、刻んだトマトを煮るんですか?」
「うん。水を加えて塩で味を調えるんだ」
種の部分はちゃんと取り除いて、こっちの世界で植えてみるつもりだ。塩害で育つかわからないけど、試す価値はあると思う。
それに、この辺りの土地ではトマトは貴重だから、育てばかなりの強みになる。
普通に育てられなかったら、ビニールハウス……は無理としても、小屋みたいなものを造ってその中で栽培する仕組みを考えてみようかな。太陽をどう取り入れるかが肝だな~。
火を使う工程はボドさんに任せて、僕は小麦粉をコネコネ。生地に弾力が出てきたら、しばらく寝かせる。
あとはパスタマシーンに入れてハンドルを回せば完成だ。
「ウィン様のトマトは本当に美味しいですね。ぜひとも毎日欲しいものです。そうすれば、皆様に美味しいものを提供できるのですが」
「群生地を見つけられればいいんだけどね~。頑張ってみるよ」
すでに二十個以上のトマトを作っているなんて言えないから、ボドさんに笑顔で応える。
今までずっと農場のことは隠してきたけど、そろそろお母様とモニカには伝えておいた方がいいかもしれないな。
前世の記憶があることは言わないまでも、チート能力については伝えておこうかな。
◇
翌朝、起きてすぐ――お母様のハグが来る前に、【僕だけの農場】にやってきた。
能力の件はハグの時に伝えようと思っている。モニカも僕の横で寝ているので、家族だけに知らせることができて都合が良い。
お父様はまだまだ王都から帰ってこないだろうから、帰ってきたら改めて教える感じだね。
前の日に作ったトマト二十個を妖精さんに収穫してもらって、納品させる。
今回は種と同じ数の実しかできなかった。もしかして……収穫時は妖精さんにも鎌を持たせた方が良かったかな。
とりあえず、昨日のうちに雑草とか石、色違いの石を全部納品箱に入れてもらっているから、ポイントショップの商品が増えているかもしれない。
早速、チェックしてみる。
鉄の斧:千ポイント 鉄の鍬:千ポイント 鉄のツルハシ:千ポイント
鉄の鎌:千ポイント 鉄のジョウロ:千ポイント
思っていた通り、鉱石の類が石の中に交じっていたみたいだ。これで大きな木も切れるようになるはずだ。
新しくツルハシが道具に加わったってことは、鉱山でもあるのかな?
周りを見渡しても農場の外は森が広がっているだけで何もないんだよね。
一度森に入ろうと思ったら、見えない壁に弾かれて通れなかった。入れたら色んな木を切って納品しまくるんだけどね~。
トマトでもらった四千ポイントに加えて、妖精達が石とか鉱石とかを納品してくれたから、今六千ポイントまで貯まっている。
鶏小屋を買ってみよう。これで鶏がポイントショップに追加されれば、牛も同じパターンってことだから、試す意味でも買っておいて損はない。
鶏:五百ポイント 大鶏:五千ポイント 銀の鶏:十万ポイント
金の鶏:百万ポイント
増えた! 小屋みたいな、動物を飼うための建物を造ればいいってことね。
それにしても、鶏と大鶏は普通の値段だけど、銀と金の鶏は異常な値段だよね。このポイントの高さから考えると、銀の卵と金の卵を産む鶏ってことなのかな? それとも銀や金でできた鶏とか? 買ってみたいけど、こんなポイントは貯まらないので、一生お目にかかれないだろうな~。
鶏小屋で五千ポイント使って、またまた千ポイントしか残っていないので、トマトの種を二十個買う。
妖精さんには種蒔きと収穫、道端に落ちているものの納品をしてもらおうかな。まだまだ仕事が少ないのに、買ってしまったのが申し訳ないよ。
「鎌をいただけませんか?」
仕事をお願いすると、妖精Dが鎌を欲しがった。
「鎌で野菜などを収穫すると、一個多くもらえるようになるんです」
「やっぱり……ってことは、今日収穫した分は損してた?」
そう尋ねると、妖精は二人で頷いた。
もっと早く言ってほしかったけど、僕が聞いていればよかったんだよね。
意外と物知りな妖精さんに色々と聞いてみるのもいいと思ったものの、知ってしまったら面白くない気がして思い直した。何も知らないからこそ、攻略し甲斐があるんだよね。焦らずにじっくり行こうじゃないか。
「じゃあ、お願いね。納品したものはポイントに変換しちゃっていいからね」
妖精に木の鎌を渡すと、僕は現実世界へ戻った。
◇
「ウィ~ン! モニカ~、おはよう~」
戻ってすぐにお母様が起こしに来た。モニカと一緒にハグをして、僕は自分のチート能力――【僕だけの農場】について二人に話しはじめた。
「あらあら~。さすが、ギュスタ様と私の子ね~」
「お兄様さすがですわ」
農場の話を聞いた二人は、驚くよりも嬉しそうな様子で僕に抱きついてきた。
「でもそんな力があるなら、わざわざジャガイモをここで育てなくてもよかったんじゃないの?」
「領民のみんなに食べてほしいから、できるだけこっちでも育てたいんです」
お母様は僕の答えに「良い子ね~」と目を潤ませ、ますます強く抱きしめてくれた。
料理長のボドさんにも腕を振るってほしいしね。昨日のトマトソースみたいに、材料さえあれば美味しい料理が作れるんだ。
「ジャガイモと、昨日庭に植えておいたトマトはどうかな?」
【僕だけの農場】では一日で実がなるけど、こっちではどうなんだろう?
着替えを済ませ、急いで庭に向かうと……そこには農場と同じ光景が広がっていた。
しかも、トマトの実一個からとれたたくさんの種が、全部育っている。この調子だと、農場でも実から種をとれば増やせるのかもしれない。
「まあ! 一日で実がなっているわ」
僕の後をついてきたお母様が驚きの声を上げた。
モニカもびっくりしてトマトの実をつついている。
「お兄様! 今日もトマトソースにしましょ。私、あれ大好き!」
トマトを一つもぎ取って、モニカがそう言った。
生のトマトはあまり好きじゃなかったみたいだけど、ソースは好きになってくれたようだ。
ジャガイモも、六個収穫できた。
いつもほのぼのしているお母様も、このジャガイモとトマトを見て真剣な顔になった。
この野菜達を量産できれば、塩しか特産品のなかった僕らの領地が潤う。
「ランディ、これを荒野の村に持っていって、育ててみて」
お母様は、いつの間にか近くに立っていた執事兼護衛のランディさんに声をかけた。
彼はいつもお母様の五歩後ろに控えていて、用がない時は声一つ立てない。空気として扱うようにと、お父様からも言われている。
「心得ました」
いくつかのトマトとジャガイモを渡されたランディさんの背中を見送ったお母様が、僕を見る。
「荒れ果てた土地に配ってもらおうと思ったのだけど、大丈夫よね?」
「もちろんです。食べ物で困っている人は多いですから」
僕らの領地では食べ物はほとんど自給自足できず、外部から買っているので、どうしても満足に食べられない。漁村の干物も配っているんだけど、それだけでは足りないし、どうしても売る方へ回さないと食べ物を買うことはできない。
僕らの屋敷がある海側から少し内陸に進むと、荒野が続いている。その先はもっと作物が育たない砂漠だ。ランディさんはそういった地域に住んでいる領民の所に行っているのだ。
【僕だけの農場】で得た作物は塩害とかそういった影響は受けずに一日で育つみたいだが、枯れた土地ではどうなんだろう。うまくいってほしいな。
「ふふ、じゃあ、私達はトマトソースを作りましょ」
「お母様、私も料理しますわ」
二人はトマトを籠いっぱいに入れて、キッチンへと向かった。
ボドさんの驚く声が聞こえ、少しするとトマトソースの良い匂いが屋敷中に広がりはじめた。
今日の朝食はジャガイモとトマトのスープと、スパゲッティ。モニカは口の周りを赤く染めて美味しそうに食べている。
そんな妹を見て微笑ましい気持ちになったものの、どうやら僕も同じようになっていたみたいで、二人してお母様に優しくハンカチで口元を拭ってもらった。
◇
二人に能力のことを教えた次の日。
【僕だけの農場】に入ると、妖精Dから驚くべき結果が知らされた。
「二万ポイント!?」
僕が来る前に作物を納品していてくれたようで、ポイントが凄いことになっていた。
妖精は僕からの指示を覚えているらしく、暇な時は指示を思い出して自動で行動してくれるみたい。この手のゲームだといちいち指示しないといけないのが億劫だったけど、この子達はすっごく優秀だ。早速、増えた商品を見てみよう!
山エリア:百万ポイント 鉱山:一万ポイント トウモロコシの種:五十ポイント
ブドウの種:五十ポイント イチゴの種:五十ポイント リンゴの種:五十ポイント
オレンジの種:五十ポイント 稲:二百ポイント 小麦:二百ポイント
わ~、凄くいっぱい増えている。
やっぱり、海みたいにエリアが拡大される商品が他にも出てくるんだな~。海の次は山か。なんだか領地をもらった気分だよ。
山が海よりも高いのは、自生している食材を集めやすいからかな? タケノコとかキノコとか……マツタケなんかも採れちゃったりして。う~ん、どれもこれも美味しそう……。
二万ポイントで喜んでいる場合じゃないな~。とにかく、無駄なく作っていこう。
まず、道具は全部買っておかないと。
鉄の道具(各千ポイント)を全部買って五千。買わずに保留していたキャベツの種やその他の種を千ポイント分買って、合わせて六千ポイント使う。
高額な稲と小麦は一つ、それ以外の種は二個ずつ買って、半分はポイント変換に、もう半分は持ち帰って、現実世界で育てる。
残り一万四千で、鉱山(一万ポイント)と妖精C(二千五百ポイント)を買って、さらに良い釣り竿(五百ポイント)を買うと千ポイント余る。それで鶏(五百ポイント)を一羽と、残りはトマトの種に。
僕の家族はトマト中毒になりつつある。なくちゃ生きていけないよ。
鉱山を購入すると、もともとあった小屋の裏手に、木で補強された地下への穴が出現した。地下鉱山の入り口みたいだね。
妖精Cは緑のサンタ服で、顔は他の二人と同じく表情が変わらない。鉱山ができたから無限に納品できそうだ。次の日のポイントが楽しみすぎて、生きているのがつらいです。
鉱山はCとEに任せて、鉄の鎌を渡したDに敷地の整備をお願いした。D君一人で鶏や作物の世話をするのは大変かもしれないけど、彼らは優秀だし、今の量ならまだまだ大丈夫だろう。
今のところ同じランクの妖精は複数雇えないから、人手を増やすにはどんどん次のランクの妖精を雇っていかないといけないんだよね。次はBランクの一万ポイント。鉱山でそれを稼げるかな~。少し心配――と思っていた時期もありました。
◇
毎朝農場に行くのが僕の日課になっているんだけど、今日はなんだか変な予感がして夕方にも入ってみた。
すると――
「二万ポイント? あれ? 朝に使ったよね?」
なぜか朝に入った時と同じ額のポイントが入っていて、思わず目を擦る。
呆然としていると、妖精Eが金色に光輝く鉱石を担いでトコトコやってきて、納品箱に納品した。
……今の、金じゃない?
妖精を引き止めて確認すると「金です」と、頷いた。
納品ポイントを見てみると、二万千ポイントになっていた。
金の鉱石一個で千ポイントか……。改めて思ったけど、【僕だけの農場】はチートでした。
手に入れたポイントで、僕はすぐに新しい妖精、BとAを購入した。
優秀な妖精を増やせば、鉱山での収入もがっぽがっぽ。笑いが止まりません。
Bは青いサンタ服で、Aは赤いサンタ服。これは完全にサンタの服だね。
一万五千ポイントの買い物なので六千ポイント余る。五千ポイントの大鶏を購入しようか、今回新たに商品に加わった銀の道具を買おうか。
悩んでいると、新しく購入した妖精Aが声をかけてきた。
「ツルハシをください」
ああ、そうか! ツルハシはまだ一つしかなかった。妖精を量産しても、道具は一つだったね。
そういえば、納品に来るのは黒の妖精、E君だけだ。C君が掘って、鉱石が出るとE君が運ぶ、という手順でやっていたんだな。ならば買うものは決まった。
銀のツルハシ:五千ポイント 銀の鎌:五千ポイント 銀の斧:五千ポイント
銀の鍬:五千ポイント 銀のスプリンクラー:一万ポイント
銀のジョウロ:五千ポイント 燻製蔵:二万ポイント
マヨネーズメイカー:一万ポイント
増えた商品欄の銀のツルハシにちょちょんと触れると、納品箱の横にツルハシが出現した。
すぐさま妖精Aに渡して、鉱山に行ってもらう。
運ぶのはCとEになりそうだ。何しろAとBの動きは尋常じゃない。二人とも百メートルを五秒以下で走りそうなスピードで鉱山へ走っていった。もちろんAの方が速いとはいえ、Bも凄いスピードだ。この調子なら、買いたいものが一気に買えるようになるだろう。
ふっふっふ……僕は悪の幹部のようにほくそ笑む。
新しく商品欄に加わったマヨネーズと燻製蔵……これもぜ~んぶ手に入れて、この世界の食文化を色々変えてやるぞ~。
とりあえずは、鶏を揃えていかないとね。ということで、トマトの種を残り千ポイント分買って【僕だけの農場】から離脱した。
◇
部屋に戻ってしばらくモニカと談笑していると、ランディさんがやってきた。
「ウィン様、ただいま戻りました」
「お、お帰りなさい」
彼は深くお辞儀すると、話しはじめた。お母様の執事さんなので、僕と直接話すのは珍しい。
「トマトとジャガイモを荒野の村で植えてみましたところ、即座に芽が出て、枯れてしまいました」
「やっぱりダメでしたか……」
報告を聞いてがっかりしていると、ランディさんは首を横に振って話を続けた。
「いえ、違うのです。枯れたは枯れたのですが、植えた所から半径百メートルもの土地が潤ったのです。草が生えて緑の大地になりました」
「ええ!? 荒野が草原になったってこと?」
驚いて聞き返すと、ランディさんはにっこりと笑って頷いた。
「荒野の村は私の故郷でもあります。みんな喜んでくれて、中には涙する人もいました。それもこれも、ウィン様のおかげです。ありがとうございます」
そうか~、ランディさんの故郷だったのか。それは良いことをしたな~。
「残りの種は枯れた土地には蒔かずに、潤った土地に植えたところ、すぐに芽が出てきました。量産して、作物を植えられる土地を増やし、皆様に恩を返したいと思います」
「そんな、恩だなんて」
「いえ、私は執事になって少しでもこの土地を良くしようと、ギュスタ様達をサポートしてきました。ですが私の力など、ウィン様の足元にも及びませんでした。これからはウィン様のお力になれるように、ますます精進していきます」
ランディさんは、改めて深々とお辞儀をすると、目に涙を浮かべながら部屋を出ていった。
少しでもみんなのためになったなら、とっても嬉しい。でも、そんなに改まって言われると恥ずかしいよ。モニカはなぜか得意げにしているけど、まあ、可愛いからいいか。
長い時間をかければ枯れた土地を蘇らせることは可能かもしれない。でも、一瞬で緑化するなんて、神の御業としか言いようがないよね。
ということは、砂漠が緑化した暁には、僕は神として祀られちゃうかも……ってそんなことはないか。
でも、神という単語で、ふと農場ゲームをしていた時のちょっとした〝黒歴史〟を思い出してしまった。……ああ、恥ずかしい。
ストレスを感じたので、モニカをなでなでして発散する。
しかし、【僕だけの農場】で得た野菜は凄い力を持っているんだな~。
一気に成長するってことは、それだけ大地のエネルギーを持っているんだろうね。そんな作物が枯れて土に還った結果、大地が豊かになる……みたいな感じか。
ランディさんの報告について想像していると、モニカが可愛らしく首を傾げて上目づかいで見てきた。
「お兄様、大丈夫? 考え事ですか?」
「はは、まあ、平気かな」
モニカが心配しているので、笑ってごまかす。
「モニカが癒やしてあげます!」
そう言うと、モニカは僕の手を引っ張ってベッドに寝かせた。
彼女は僕の頭を撫でながら子守唄を歌いはじめる。
あまりに心地よくて、僕はすぐに意識を持っていかれて、寝息をたててしまった。
後でお母様に聞いたところによると、どうやらモニカもそのまますぐに眠ってしまったみたい。ちょっと大人っぽくなったかなって思ったけど、まだまだ子供な妹でした。
商品を見て考え込んでいると、E君が声をかけてきた。
「ご苦労様、このまま次の仕事できそう?」
「我々に休息は不要です」
そんなに時間が経っていないのに、太い木以外の木を綺麗に納品してくれたみたい。
この子達でこのスピードじゃ、Cから上の子はかなり優秀そうだな。
E君と話していると、今日の分のトマトを植え終わったD君も近づいてきた。二人とも仕事が速いな~。
「太い木も切りたいし、鉄の斧とか欲しいな。どうやったら商品欄に出るのかな~」
今までに解放されたアイテムの例を考えると、関係があるものを納品するといいみたいだけど、鉄と関連するものって、銅とかの鉱石系だよね。
……ああ!? そういえば、道端に落ちている石に、普通とは違うものがあったような! それを納品すればあるいは? でも、僕も過去にそういった石を納品していたはずなんだよね。納品数が足りなかった可能性があるな。とにかく、石を納品してもらおう。
妖精二人に道端の石や雑草を刈って納品するように指示を飛ばす。一人は木の鎌を持たせて雑草専任だね。
道具は一個ずつしか買えないっていう制限がなければ、もっと色んな仕事を頼めるんだけど、仕様なので仕方がない。とりあえず、今日はできることがなさそうなので、妖精に任せよう。
◇
「ウィン~」
元の世界に戻ると、お母様が部屋に入ってきて僕を抱きしめた。
「お母様、どうしたんですか?」
「うふふ、抱きしめたかっただけ~。あら? またトマトが採れたのね。昨日塩をかけて食べたトマト、美味しかったわ~」
お母様はたった今僕が農場から持ち帰ったトマトを発見して、目をキラキラさせる。
昨日、持ち帰ったトマトを見せたら、みんな驚いていた。でも一個しか持って帰れなくて、量が少なかったから少し申し訳なかったよ。
お母様は美味しそうに食べてくれたけど、残念ながらモニカのお口には合わなかったみたいだ。それでも、お兄様が用意してくれたからと、目を瞑って食べ切った。
「お母様、お兄様が痛そうですわ。ね~、お兄様?」
モニカがお母様の後に入ってきて僕に抱きつく。お母様はお父様がいないと寂しくて僕に抱きついてくる。痛いほど強く抱きしめられるわけではないけれど、モニカはお母様に対抗意識を持っているから、きつく言っちゃうんだよな。
「トマトを調理するから、二人とも一緒に調理場に行こうか」
「「は~い」」
可愛らしい姉妹のように返事をする母娘。
調理場に着くと、料理長のボドさんが迎えてくれた。
「ウィン様、それにお嬢様とリリス様。どうされたのですか?」
貴族は普段自分で料理なんてしないから、料理人を雇っている。僕らの懐事情でも何とか雇えているって感じ。まあ、安い給料だけれど。
「ボドさん。トマトが少し採れたので、調理しようと思って」
「昨日のトマトですか? あんな良いもの、どこで手に入れているのですか? 近場には漁村しかないというのに」
適当に「近くの草原です」って言ってはぐらかしたが、ボドさんは首を傾げている。こんなに大きなトマトなんて採れるはずないよね。
「そういえば、ウィン。ジャガイモを庭に植えていたわね~。あれも実るのかしら?」
「種芋を手に入れたから、試している最中です。塩害のあるここら辺で実るようなら、領内の村に配って農産物を量産しましょう」
「お兄様、凄いです!」
お母様がジャガイモのことを聞いてきたので答えると、モニカが瞳を輝かせて僕に抱きついてきた。まあ、これでも領主の息子だしね。それに、前世よりもやりがいのある世界だから、思いっきりチートを使っていきたい。
さて、お喋りはこの辺にしておいて、ボドさんとトマトソースの調理を始める。
「では、刻んだトマトを煮るんですか?」
「うん。水を加えて塩で味を調えるんだ」
種の部分はちゃんと取り除いて、こっちの世界で植えてみるつもりだ。塩害で育つかわからないけど、試す価値はあると思う。
それに、この辺りの土地ではトマトは貴重だから、育てばかなりの強みになる。
普通に育てられなかったら、ビニールハウス……は無理としても、小屋みたいなものを造ってその中で栽培する仕組みを考えてみようかな。太陽をどう取り入れるかが肝だな~。
火を使う工程はボドさんに任せて、僕は小麦粉をコネコネ。生地に弾力が出てきたら、しばらく寝かせる。
あとはパスタマシーンに入れてハンドルを回せば完成だ。
「ウィン様のトマトは本当に美味しいですね。ぜひとも毎日欲しいものです。そうすれば、皆様に美味しいものを提供できるのですが」
「群生地を見つけられればいいんだけどね~。頑張ってみるよ」
すでに二十個以上のトマトを作っているなんて言えないから、ボドさんに笑顔で応える。
今までずっと農場のことは隠してきたけど、そろそろお母様とモニカには伝えておいた方がいいかもしれないな。
前世の記憶があることは言わないまでも、チート能力については伝えておこうかな。
◇
翌朝、起きてすぐ――お母様のハグが来る前に、【僕だけの農場】にやってきた。
能力の件はハグの時に伝えようと思っている。モニカも僕の横で寝ているので、家族だけに知らせることができて都合が良い。
お父様はまだまだ王都から帰ってこないだろうから、帰ってきたら改めて教える感じだね。
前の日に作ったトマト二十個を妖精さんに収穫してもらって、納品させる。
今回は種と同じ数の実しかできなかった。もしかして……収穫時は妖精さんにも鎌を持たせた方が良かったかな。
とりあえず、昨日のうちに雑草とか石、色違いの石を全部納品箱に入れてもらっているから、ポイントショップの商品が増えているかもしれない。
早速、チェックしてみる。
鉄の斧:千ポイント 鉄の鍬:千ポイント 鉄のツルハシ:千ポイント
鉄の鎌:千ポイント 鉄のジョウロ:千ポイント
思っていた通り、鉱石の類が石の中に交じっていたみたいだ。これで大きな木も切れるようになるはずだ。
新しくツルハシが道具に加わったってことは、鉱山でもあるのかな?
周りを見渡しても農場の外は森が広がっているだけで何もないんだよね。
一度森に入ろうと思ったら、見えない壁に弾かれて通れなかった。入れたら色んな木を切って納品しまくるんだけどね~。
トマトでもらった四千ポイントに加えて、妖精達が石とか鉱石とかを納品してくれたから、今六千ポイントまで貯まっている。
鶏小屋を買ってみよう。これで鶏がポイントショップに追加されれば、牛も同じパターンってことだから、試す意味でも買っておいて損はない。
鶏:五百ポイント 大鶏:五千ポイント 銀の鶏:十万ポイント
金の鶏:百万ポイント
増えた! 小屋みたいな、動物を飼うための建物を造ればいいってことね。
それにしても、鶏と大鶏は普通の値段だけど、銀と金の鶏は異常な値段だよね。このポイントの高さから考えると、銀の卵と金の卵を産む鶏ってことなのかな? それとも銀や金でできた鶏とか? 買ってみたいけど、こんなポイントは貯まらないので、一生お目にかかれないだろうな~。
鶏小屋で五千ポイント使って、またまた千ポイントしか残っていないので、トマトの種を二十個買う。
妖精さんには種蒔きと収穫、道端に落ちているものの納品をしてもらおうかな。まだまだ仕事が少ないのに、買ってしまったのが申し訳ないよ。
「鎌をいただけませんか?」
仕事をお願いすると、妖精Dが鎌を欲しがった。
「鎌で野菜などを収穫すると、一個多くもらえるようになるんです」
「やっぱり……ってことは、今日収穫した分は損してた?」
そう尋ねると、妖精は二人で頷いた。
もっと早く言ってほしかったけど、僕が聞いていればよかったんだよね。
意外と物知りな妖精さんに色々と聞いてみるのもいいと思ったものの、知ってしまったら面白くない気がして思い直した。何も知らないからこそ、攻略し甲斐があるんだよね。焦らずにじっくり行こうじゃないか。
「じゃあ、お願いね。納品したものはポイントに変換しちゃっていいからね」
妖精に木の鎌を渡すと、僕は現実世界へ戻った。
◇
「ウィ~ン! モニカ~、おはよう~」
戻ってすぐにお母様が起こしに来た。モニカと一緒にハグをして、僕は自分のチート能力――【僕だけの農場】について二人に話しはじめた。
「あらあら~。さすが、ギュスタ様と私の子ね~」
「お兄様さすがですわ」
農場の話を聞いた二人は、驚くよりも嬉しそうな様子で僕に抱きついてきた。
「でもそんな力があるなら、わざわざジャガイモをここで育てなくてもよかったんじゃないの?」
「領民のみんなに食べてほしいから、できるだけこっちでも育てたいんです」
お母様は僕の答えに「良い子ね~」と目を潤ませ、ますます強く抱きしめてくれた。
料理長のボドさんにも腕を振るってほしいしね。昨日のトマトソースみたいに、材料さえあれば美味しい料理が作れるんだ。
「ジャガイモと、昨日庭に植えておいたトマトはどうかな?」
【僕だけの農場】では一日で実がなるけど、こっちではどうなんだろう?
着替えを済ませ、急いで庭に向かうと……そこには農場と同じ光景が広がっていた。
しかも、トマトの実一個からとれたたくさんの種が、全部育っている。この調子だと、農場でも実から種をとれば増やせるのかもしれない。
「まあ! 一日で実がなっているわ」
僕の後をついてきたお母様が驚きの声を上げた。
モニカもびっくりしてトマトの実をつついている。
「お兄様! 今日もトマトソースにしましょ。私、あれ大好き!」
トマトを一つもぎ取って、モニカがそう言った。
生のトマトはあまり好きじゃなかったみたいだけど、ソースは好きになってくれたようだ。
ジャガイモも、六個収穫できた。
いつもほのぼのしているお母様も、このジャガイモとトマトを見て真剣な顔になった。
この野菜達を量産できれば、塩しか特産品のなかった僕らの領地が潤う。
「ランディ、これを荒野の村に持っていって、育ててみて」
お母様は、いつの間にか近くに立っていた執事兼護衛のランディさんに声をかけた。
彼はいつもお母様の五歩後ろに控えていて、用がない時は声一つ立てない。空気として扱うようにと、お父様からも言われている。
「心得ました」
いくつかのトマトとジャガイモを渡されたランディさんの背中を見送ったお母様が、僕を見る。
「荒れ果てた土地に配ってもらおうと思ったのだけど、大丈夫よね?」
「もちろんです。食べ物で困っている人は多いですから」
僕らの領地では食べ物はほとんど自給自足できず、外部から買っているので、どうしても満足に食べられない。漁村の干物も配っているんだけど、それだけでは足りないし、どうしても売る方へ回さないと食べ物を買うことはできない。
僕らの屋敷がある海側から少し内陸に進むと、荒野が続いている。その先はもっと作物が育たない砂漠だ。ランディさんはそういった地域に住んでいる領民の所に行っているのだ。
【僕だけの農場】で得た作物は塩害とかそういった影響は受けずに一日で育つみたいだが、枯れた土地ではどうなんだろう。うまくいってほしいな。
「ふふ、じゃあ、私達はトマトソースを作りましょ」
「お母様、私も料理しますわ」
二人はトマトを籠いっぱいに入れて、キッチンへと向かった。
ボドさんの驚く声が聞こえ、少しするとトマトソースの良い匂いが屋敷中に広がりはじめた。
今日の朝食はジャガイモとトマトのスープと、スパゲッティ。モニカは口の周りを赤く染めて美味しそうに食べている。
そんな妹を見て微笑ましい気持ちになったものの、どうやら僕も同じようになっていたみたいで、二人してお母様に優しくハンカチで口元を拭ってもらった。
◇
二人に能力のことを教えた次の日。
【僕だけの農場】に入ると、妖精Dから驚くべき結果が知らされた。
「二万ポイント!?」
僕が来る前に作物を納品していてくれたようで、ポイントが凄いことになっていた。
妖精は僕からの指示を覚えているらしく、暇な時は指示を思い出して自動で行動してくれるみたい。この手のゲームだといちいち指示しないといけないのが億劫だったけど、この子達はすっごく優秀だ。早速、増えた商品を見てみよう!
山エリア:百万ポイント 鉱山:一万ポイント トウモロコシの種:五十ポイント
ブドウの種:五十ポイント イチゴの種:五十ポイント リンゴの種:五十ポイント
オレンジの種:五十ポイント 稲:二百ポイント 小麦:二百ポイント
わ~、凄くいっぱい増えている。
やっぱり、海みたいにエリアが拡大される商品が他にも出てくるんだな~。海の次は山か。なんだか領地をもらった気分だよ。
山が海よりも高いのは、自生している食材を集めやすいからかな? タケノコとかキノコとか……マツタケなんかも採れちゃったりして。う~ん、どれもこれも美味しそう……。
二万ポイントで喜んでいる場合じゃないな~。とにかく、無駄なく作っていこう。
まず、道具は全部買っておかないと。
鉄の道具(各千ポイント)を全部買って五千。買わずに保留していたキャベツの種やその他の種を千ポイント分買って、合わせて六千ポイント使う。
高額な稲と小麦は一つ、それ以外の種は二個ずつ買って、半分はポイント変換に、もう半分は持ち帰って、現実世界で育てる。
残り一万四千で、鉱山(一万ポイント)と妖精C(二千五百ポイント)を買って、さらに良い釣り竿(五百ポイント)を買うと千ポイント余る。それで鶏(五百ポイント)を一羽と、残りはトマトの種に。
僕の家族はトマト中毒になりつつある。なくちゃ生きていけないよ。
鉱山を購入すると、もともとあった小屋の裏手に、木で補強された地下への穴が出現した。地下鉱山の入り口みたいだね。
妖精Cは緑のサンタ服で、顔は他の二人と同じく表情が変わらない。鉱山ができたから無限に納品できそうだ。次の日のポイントが楽しみすぎて、生きているのがつらいです。
鉱山はCとEに任せて、鉄の鎌を渡したDに敷地の整備をお願いした。D君一人で鶏や作物の世話をするのは大変かもしれないけど、彼らは優秀だし、今の量ならまだまだ大丈夫だろう。
今のところ同じランクの妖精は複数雇えないから、人手を増やすにはどんどん次のランクの妖精を雇っていかないといけないんだよね。次はBランクの一万ポイント。鉱山でそれを稼げるかな~。少し心配――と思っていた時期もありました。
◇
毎朝農場に行くのが僕の日課になっているんだけど、今日はなんだか変な予感がして夕方にも入ってみた。
すると――
「二万ポイント? あれ? 朝に使ったよね?」
なぜか朝に入った時と同じ額のポイントが入っていて、思わず目を擦る。
呆然としていると、妖精Eが金色に光輝く鉱石を担いでトコトコやってきて、納品箱に納品した。
……今の、金じゃない?
妖精を引き止めて確認すると「金です」と、頷いた。
納品ポイントを見てみると、二万千ポイントになっていた。
金の鉱石一個で千ポイントか……。改めて思ったけど、【僕だけの農場】はチートでした。
手に入れたポイントで、僕はすぐに新しい妖精、BとAを購入した。
優秀な妖精を増やせば、鉱山での収入もがっぽがっぽ。笑いが止まりません。
Bは青いサンタ服で、Aは赤いサンタ服。これは完全にサンタの服だね。
一万五千ポイントの買い物なので六千ポイント余る。五千ポイントの大鶏を購入しようか、今回新たに商品に加わった銀の道具を買おうか。
悩んでいると、新しく購入した妖精Aが声をかけてきた。
「ツルハシをください」
ああ、そうか! ツルハシはまだ一つしかなかった。妖精を量産しても、道具は一つだったね。
そういえば、納品に来るのは黒の妖精、E君だけだ。C君が掘って、鉱石が出るとE君が運ぶ、という手順でやっていたんだな。ならば買うものは決まった。
銀のツルハシ:五千ポイント 銀の鎌:五千ポイント 銀の斧:五千ポイント
銀の鍬:五千ポイント 銀のスプリンクラー:一万ポイント
銀のジョウロ:五千ポイント 燻製蔵:二万ポイント
マヨネーズメイカー:一万ポイント
増えた商品欄の銀のツルハシにちょちょんと触れると、納品箱の横にツルハシが出現した。
すぐさま妖精Aに渡して、鉱山に行ってもらう。
運ぶのはCとEになりそうだ。何しろAとBの動きは尋常じゃない。二人とも百メートルを五秒以下で走りそうなスピードで鉱山へ走っていった。もちろんAの方が速いとはいえ、Bも凄いスピードだ。この調子なら、買いたいものが一気に買えるようになるだろう。
ふっふっふ……僕は悪の幹部のようにほくそ笑む。
新しく商品欄に加わったマヨネーズと燻製蔵……これもぜ~んぶ手に入れて、この世界の食文化を色々変えてやるぞ~。
とりあえずは、鶏を揃えていかないとね。ということで、トマトの種を残り千ポイント分買って【僕だけの農場】から離脱した。
◇
部屋に戻ってしばらくモニカと談笑していると、ランディさんがやってきた。
「ウィン様、ただいま戻りました」
「お、お帰りなさい」
彼は深くお辞儀すると、話しはじめた。お母様の執事さんなので、僕と直接話すのは珍しい。
「トマトとジャガイモを荒野の村で植えてみましたところ、即座に芽が出て、枯れてしまいました」
「やっぱりダメでしたか……」
報告を聞いてがっかりしていると、ランディさんは首を横に振って話を続けた。
「いえ、違うのです。枯れたは枯れたのですが、植えた所から半径百メートルもの土地が潤ったのです。草が生えて緑の大地になりました」
「ええ!? 荒野が草原になったってこと?」
驚いて聞き返すと、ランディさんはにっこりと笑って頷いた。
「荒野の村は私の故郷でもあります。みんな喜んでくれて、中には涙する人もいました。それもこれも、ウィン様のおかげです。ありがとうございます」
そうか~、ランディさんの故郷だったのか。それは良いことをしたな~。
「残りの種は枯れた土地には蒔かずに、潤った土地に植えたところ、すぐに芽が出てきました。量産して、作物を植えられる土地を増やし、皆様に恩を返したいと思います」
「そんな、恩だなんて」
「いえ、私は執事になって少しでもこの土地を良くしようと、ギュスタ様達をサポートしてきました。ですが私の力など、ウィン様の足元にも及びませんでした。これからはウィン様のお力になれるように、ますます精進していきます」
ランディさんは、改めて深々とお辞儀をすると、目に涙を浮かべながら部屋を出ていった。
少しでもみんなのためになったなら、とっても嬉しい。でも、そんなに改まって言われると恥ずかしいよ。モニカはなぜか得意げにしているけど、まあ、可愛いからいいか。
長い時間をかければ枯れた土地を蘇らせることは可能かもしれない。でも、一瞬で緑化するなんて、神の御業としか言いようがないよね。
ということは、砂漠が緑化した暁には、僕は神として祀られちゃうかも……ってそんなことはないか。
でも、神という単語で、ふと農場ゲームをしていた時のちょっとした〝黒歴史〟を思い出してしまった。……ああ、恥ずかしい。
ストレスを感じたので、モニカをなでなでして発散する。
しかし、【僕だけの農場】で得た野菜は凄い力を持っているんだな~。
一気に成長するってことは、それだけ大地のエネルギーを持っているんだろうね。そんな作物が枯れて土に還った結果、大地が豊かになる……みたいな感じか。
ランディさんの報告について想像していると、モニカが可愛らしく首を傾げて上目づかいで見てきた。
「お兄様、大丈夫? 考え事ですか?」
「はは、まあ、平気かな」
モニカが心配しているので、笑ってごまかす。
「モニカが癒やしてあげます!」
そう言うと、モニカは僕の手を引っ張ってベッドに寝かせた。
彼女は僕の頭を撫でながら子守唄を歌いはじめる。
あまりに心地よくて、僕はすぐに意識を持っていかれて、寝息をたててしまった。
後でお母様に聞いたところによると、どうやらモニカもそのまますぐに眠ってしまったみたい。ちょっと大人っぽくなったかなって思ったけど、まだまだ子供な妹でした。
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