上 下
19 / 50
第一章 新たな地で

第19話 強化薬

しおりを挟む
「いました!」

「あれか、オークだな」

 洞窟から出て森の中を進むとすぐに足が黒くなっているオークを見つけることが出来た。足が黒くなっているってことは脚力が強くなってるのかな。

「霧散させずに捕獲できるか?」

「え!? それは難しいですよ」

「HPを削りすぎないようにやればいいんだ。体を調べないと黒くなっている原因がわからないぞ」

「ん~、そうですか。じゃあ、やってみます」

 シャドウさんの無茶なお願いに仕方なく答える。そうしないとわからないって言われたらやるしかない。

「なるべく黒くなっている足は避けるようにな。本体から切断されると霧散して消えていくからな」

 魔物の欠損はしばらくすると霧散して消えちゃうんだよな。魔物は時間で欠損箇所が再生するから問題ないのだろう。

「足を狙わずにか」

 今までは倒せればいいと思って戦っていた。絶命させないようにしないといけないのは難しいな。

「む!? 気づかれたぞ!」

「ええ!? まだ心の準備が!」

 シャドウさんの声にオークを見ると走りこんでくるのが見えた。オークはふくよかな体系だから遅いな。

「む? 遅いな。これなら【シャドウバインド】」

「フゴ!?」

「ええ!?」

 遅いことに気が付いたシャドウさんが魔法を放つ。周りの木や草の影がオークに伸びて行くと縛り付けて行く。

「今だシン!」

「はい! 【ファイアシーク】からの紫炎! 水龍!」

 影の縛りにもがくオークの顔にファイアシークを放つ、痛みにもがいている間に両腕を切り落とす。

「よし! いいコンビじゃないか? 私達は?」

「あ、はい! 魔法ありがとうございます」

 手をあげてシャドウさん、ハイタッチすると顔を見合って笑いあった。
 
「フゴ! フゴフゴ!」

「早めに済ませよう。足の部位から血を抜き取る。血も早めに解析しないと霧散してしまうからな」

 シャドウさんはそう言って少し大きめの注射器で血を抜き始める。科学が進んでいない世界だから注射器の針がでかいな~、痛そう。

「よし! これと持ってきた魔物強化薬の試薬を混ぜる」

 オークの血と薬品を混ぜると赤かった血が黒くなっていく。そして、キラキラと黒光りし始めた。

「ふむ、やはり……。同じ強化薬の反応だな」

「え? ってことは?」

「ああ、この強化薬は空気感染する可能性が出てきた。私の実験は失敗だ。これでは被害者が増えてしまうだけだ」

 従魔の魔物に言うことを聞かせることが出来ても野良の魔物が強くなっちゃったら意味ないもんな。

「人族に被害は出ているか?」

「まだ少し冒険者に怪我人が出たくらいかな」

「そうか……」

 悲しそうに俯くシャドウさん。かなりショックだったみたいだな。

「感染する強化薬とはな。それも薬品を投与した魔物が死んでも消えないとは、厄介なものを作ってしまった」

「シャドウさん……」

 更に表情が暗くなっていくシャドウさん。声もかけられない程の後悔が見える。

「しかし、私は夢を諦めないぞシン! 黒い魔物を全て駆逐するぞ!」

「はい!」

 シャドウさんは顔をあげると声をあげた。僕もそれに答えると歩き出す。

「【シャドウソナー】影が魔物を探す。倒すのはシンに任せるぞ」

「任せてください」

 シャドウさんが魔法の影を森へと放つ。影は静かに森をつき進んでいく。扇状に放たれた魔法がすぐに魔物のいる場所を教えてくれるみたいだ。

「この方角に3、こっちは2だ」

「了解!」

 シャドウさんの指さす方向へ駆ける。今度は手加減なしに片付ける。
 水龍に手をかけて走ってくると体の一部が黒くなっているオークが3体。情報通りだ。

「はっ! 続けて!」

 僕の速度に反応できずにいるオークを水龍で上下に切り分ける。更に返す刃でもう1体の首を切り落とす。
 両者の胴体が土につく前に3体目のオークに向かって紫炎を投げつけると簡単に頭に命中して倒れて行く。
 休んでいる暇もない。紫炎を拾い上げて走りながら紫炎と水龍についた血を払い捨てる。

「いた! 2体」

 新たなオークも情報通り2体。だが、少し様子が違う。

「ん!?」

「ガアァァァ!」

「な!?」

 杖を持っているオークとオークと言うには体が大きい豚人だ。普通のオークは身長が2メートル程が普通、だけどこいつは4メートルはある。
 それに体も異常だ。全身が黒くなっていて杖持ちのオークが小さく見える。って杖持ちってことは。

「【ストーンシーク】」

「わっ!? 危なかった」

 大きいオークを見ていると杖持ちのオークが魔法を放ってきた。ギリギリ躱して木の後ろに隠れる。巨躯のオークが杖持ちを守るように動いてるな。

「まずは巨躯のオークか? え!?」

 考えを口にして整理していると巨躯のオークが素早く動いてきた。
 僕が隠れていた木をなぎ倒してそのまま突撃してきた。避けることはできないと判断した僕は、紫炎と水龍でガードする。
 巨躯のオークは刀を物ともせずに僕をかちあげる。宙に浮かされた僕を巨躯のオークはまるでサッカーボールを蹴るように蹴りつけてきた。それも何とか刀でガードすることが出来たけど、大きく吹き飛ばされる。

「ぐはっ」

 壁に叩きつけられると僕は吐血した。すぐにグミを服用する。美味しい。

「……【ストーンドゥーク】」

「!?」

 グミを食べて満足していると杖持ちのオークが上級魔法を唱えてきた。ファイアドゥークと同じように地面が盛り上がって鋭い土の刃が僕を切り刻む。

「ううっ、まずい!?」

 ファイアドゥークと違う、僕は吹き飛ばされずに盛り上がった鋭い山の上に放置だ。体に突き刺さる土の棘が僕の動きを阻害してきた。このままここにいたら、あいつがくる。

「早く! ってダメだ! 間に合わない!」

「ガアァァ!」

「くる! 何か! 何かないか! ってインビンシブルグミ!」

 そうだよ、こういう時にこれがあるじゃないか! 僕はすぐにインビンシブルグミを口に放り込む。食べると同時に土の棘が体から離れて行く。そして、すぐに僕は巨躯のオークへと走り出す。

「下る速度と僕の脚力で!」

 紫炎をしまい、水龍だけで構える。加速度を増してオーク達へと迫る。

「【ストーンシーク】」

 下降する僕に向かって杖持ちの魔法が放たれる。だけど、今は無敵だ。バチバチと僕に当たる前に弾け飛ぶ石つぶて。そして、

「はっ! そして、お前も!」

 水龍がまるで海を渡るように横なぎに巨躯のオークを横断。鋭く入った刃が巨躯のオークの命を刈り取ると杖持ちが背中を見せて逃げようとしてきた。そんなこと許すはずがない。魔法使いの魔物、上級の魔法使いの魔物を逃がしたら被害がどれだけ増えるか。
 やつを横切るように追い越すと水龍を滑らせた。巨躯のオークの体が地面に落ちるのと同時に杖持ちのオークの首が地面に落ちる。

「レベルが上がりました」

「ふぅ。何とか終わった」

 システム音声を聞いてホッと胸を撫でおろす。
 とりあえず、シャドウさんの探してくれた魔物は退治出来たな。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

お帰り転生―素質だけは世界最高の素人魔術師、前々世の復讐をする。

永礼 経
ファンタジー
特性「本の虫」を選んで転生し、3度目の人生を歩むことになったキール・ヴァイス。 17歳を迎えた彼は王立大学へ進学。 その書庫「王立大学書庫」で、一冊の不思議な本と出会う。 その本こそ、『真魔術式総覧』。 かつて、大魔導士ロバート・エルダー・ボウンが記した書であった。 伝説の大魔導士の手による書物を手にしたキールは、現在では失われたボウン独自の魔術式を身に付けていくとともに、 自身の生前の記憶や前々世の自分との邂逅を果たしながら、仲間たちと共に、様々な試練を乗り越えてゆく。 彼の周囲に続々と集まってくる様々な人々との関わり合いを経て、ただの素人魔術師は伝説の大魔導士への道を歩む。 魔法戦あり、恋愛要素?ありの冒険譚です。 【本作品はカクヨムさまで掲載しているものの転載です】

墓守の荷物持ち 遺体を回収したら世界が変わりました

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前はアレア・バリスタ ポーターとしてパーティーメンバーと一緒にダンジョンに潜っていた いつも通りの階層まで潜るといつもとは違う魔物とあってしまう その魔物は僕らでは勝てない魔物、逃げるために必死に走った だけど仲間に裏切られてしまった 生き残るのに必死なのはわかるけど、僕をおとりにするなんてひどい そんな僕は何とか生き残ってあることに気づくこととなりました

[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~

k33
ファンタジー
初めての小説です..! ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)

荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」 俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」 ハーデス 「では……」 俺 「だが断る!」 ハーデス 「むっ、今何と?」 俺 「断ると言ったんだ」 ハーデス 「なぜだ?」 俺 「……俺のレベルだ」 ハーデス 「……は?」 俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」 ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」 俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」 ハーデス 「……正気……なのか?」 俺 「もちろん」 異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。 たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!

魔人R

モモん
ファンタジー
 冥界の縁で手に入れたスキル”吸収”。単なる肉の塊として転生した主人公が、手に入れたスキルで夢想していくストーリーになると思います。……多分。不定期更新です。

異世界物怪録

止まり木
ファンタジー
現代日本のどこかに、数多の妖怪達が住む隠れ里があった。 幾重にも結界が張られ、人間が入り込むことの出来ない、正に妖怪達の桃源郷。 妖怪達はそこでのんびり暮らしていた。だが、ある日突然その里を地震が襲った。 慌てふためく妖怪達。 地震が止んだ時、空に見た事の無い星星が浮かんでいた。 妖怪達は自らの住んでいた里事、異世界へと飛ばされてしまったのだった。 これは、里事異世界のエルフの森に飛ばされた妖怪達が、生きる為に力を合わせて生活していく物語。 "小説家になろう"様でも重複掲載しております。 不定期更新

処理中です...