異世界人生を楽しみたい そのためにも赤ん坊から努力する

カムイイムカ(神威異夢華)

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第二章 見知った大地

第56話 アイコとマリ

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「マリ!」

「ようこそアイコ。お父さん」

 私はアイコ。セリナさん達に墓地に通してもらって敷地に入るとマリが大きな木の上で迎えてくれる。あの木、この間来た時はもっと小さかったと思ったけど。

「マリ。何をしようとしているのか分からないが今すぐやめなさい」

「そうだよマリ! ライト君と戦うなんておかしいでしょ?」

 お父さんと一緒に説得する。マリは兜を脱ぐとその兜をお父さんに放ってきた。

「お父さん知ってる? その兜はここに実際にはないの」

「マリ? 何を言ってるんだ。確かに兜はあるじゃないか」

 マリは兜を指さして話す。お父さんは首を傾げて声をあげる。確かにお父さんは兜を持ってるけど?

「本当はないんだよ。この世界は作られたものなんだから……」

「「マリ?」」

 剣を握って悲しそうに呟くマリ。木から降りてくるとお父さんの持つ兜を貫く。

「確かにここにあるように思える。だけど、それは神の見せている世界ってだけ、ユリカお母さんは神のせいで死んだことにされただけ……」

 マリは貫いた兜をユリカお母さんのお墓に置いて悲しく呟く。

「だから私は神を殺すためにこの世界樹を育てた。人の心で大きくなる世界樹を」

「「世界樹?」」

 確かに大きな木だけど、世界樹ってゲームやアニメで出てくるようなものでしょ? それと比べたら小さすぎると思うけど。

「その木のせいでマリがおかしくなったんだな」

「違うのお父さん。世界樹はお母さんも蘇らせてくれる。世界樹が神になったら」

「ユリカが蘇る?」

「そうだよ! お父さん!」

 マリは目を輝かせて話す。お父さんはそれを聞いて首を横に振った。

「マリ。目を覚ましなさい。その木が神になるなんてありえない。例えなったとしてもマリとの約束を守ると思うかい?」

 マリにゆっくりと近づくお父さん。優しく諭すように話すけれど、マリはどんどん離れていく。

「信じてくれなくてもいい。だって世界樹がすべてを正しい形にしてくれるもの」

「マリ!」

 マリはそう言うと木の上に飛び立つ。抱きとめようとお父さんが声をあげたけど、届かなかった。

「行かせない!」

「アイコ!?」

 何かしようとしていたマリ。私が止める。
 跳躍して抱き着くとマリは私を笑顔で見据える。

「アイコも超能力者になったのね。嬉しい」

「マリ! それなら早く帰ろ。いつものマリに戻って」

 嬉しそうなマリ。それでも私の言葉に首を横に振った。

「私は世界樹の養分になる。ライトのせいで早まってしまったからそうするしかない」

「そ、そんな! そんなことさせない」

「安心して。世界樹が神になったら私も蘇るから」

 瞳に涙を貯めながら話すマリ。蘇る、ならなんで泣いているの。

「マリ! 死んだらおしまいなんだよ! 生き返ったらそれはもうあなたじゃない!」

「アイコ。それは生き返ったことがない人が言うこと。私は帰ってくる安心して」

「だめ! 絶対に行かせない! マリに死んでほしくない!」

「アイコ!?」

 光を身に纏い、水の球を周囲に複数作り出す。 光でマリを包み込んで引き止めると驚いた様子のマリ。私がこんなに強くなってるとは思わなかったみたい。

「これはライトの力ってことね。でも無駄よ」

「え……。な、なんで光が」

 マリが私の頭に手を置くと包み込んでいた光が無くなり、水の球が地面に落ちていく。

「アイコ。あなたの力が弱いんじゃない。私が強いの。私があなたを操りやめさせただけ」

「そ、そんなこと……」

「操られていることに気がつかない。あなたじゃ私を止められない」

 抱きしめていた手からゆっくりと力がなくなっていく。頭では力を入れているはずなのに腕が動かない。自然と涙がこぼれて、木の上に進んでいくマリを見ていることしかできない。

「マリ!」

「マリ! やめて!」

「大丈夫だよお父さん、アイコ。私が二人を幸せにする。ユリカお母さんも」

 お父さんと一緒に声をあげる。それでもマリは頑なで木の上に着くと木に手をかざす。
 みるみるマリの体が木に重なっていく。

「ダメ! マリ!」

 マリが死んじゃう。ダメ、そんなのダメ!
 動かない体を無理やり動かす。骨が嫌な音を立て、痛みが走る。それでも私は無理やり体を動かす。

「アイコさん! 動いちゃダメだ!」

 必死になっていると後ろから声が聞こえてくる。振り返ることが出来ないけど、声でわかる。来てくれたんだ。私は必死に声をあげる。

「ら、ライト君!? マリを止めて! あの木を切って!」

「木? マリさん!?」

 私の声にすぐに反応してくれるライト君。マジックバッグから大きな斧を取り出すと横なぎに木へと切りかかって見事に切り倒す。

「世界樹!? そ、そんな。なんてことを……」

 木に重なりかかっていたマリが涙する。倒れた木を摩り、私達へと睨みを利かせた。

「許さない、許さない!」

 マリが恨みを声に乗せて近づいてくる。その時、私の体が動き出す。ライト君へと魔法を放ちだした。


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