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第二章 見知った大地
第54話 閑話ミア
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◇
「キャンキャン!」
「また寝言で鳴いてる……」
私はミア。レネゲード王国のお姫様。
エルクが精霊の地っていうところに行ってもう一か月が経った。彼の従魔のブレイドが寝ながら鳴き声をあげて足をバタバタさせてる。夢の中で彼を乗せて走っているのかも。
私はそれを見て羨ましいと思ってしまう。だって、夢でも彼に会えるから。元気にしてるかな。
「ふふ、毎日一緒に行動していたからエルクと一緒に魔物と戦ってるのかもね」
エルクのお母さんのメイナさんが微笑んで私の頭に手を乗せる。とても温かい手、エルクはこんなに優しいお母さんに育てられたんだな。私とは違う。
「まさか、魔物の友達を助けて精霊の地に行っちまうとはな。ほんと規格外な息子だ」
彼のお父さんはそう言いながらも嬉しそうに笑う。自慢の息子だろうな。ここも私と違う。私は彼に見合う女なのかな?
「メイナ様、夜風は身重な体に悪いですよ」
「それを言うならマリアンもね」
身重な二人の女性が共に気遣って笑いあう。こんな光景、王族じゃ拝めない。自分の息子を王にしようと私に結婚を迫る貴族。もう、あそこには戻りたくない。
「重い表情ですね。どうしたんですかミア様?」
「お母様……」
想い焦がれる彼のお母様が私の心配をしてくれる。
「エルクはずっと遠くに行っちゃった。目の前にいたのに。私は彼の横に立てるのかな」
「ミア様……」
頬杖をついて呟く。メイナ様は後ろから抱きしめてくれる。
「コホンッ! ミア様。横と言わずに前でも後ろでもいいですよ」
「ふふ、そうね。エルクは器が大きいから」
ディア様とメイナ様が面白がって話す。私は真剣なのに……。
「もういいです……」
頬杖をやめて机に突っ伏する。私なんかじゃエルクの隣なんて夢のまた夢。
「……そういえば、リッカさんが精霊の地に行ったらしいわね」
「え!? 冒険者の?」
ディア様から驚きの報告がされた。そんなの聞いてない。
「確か氷の精霊だったかしら?」
「彼女もエルクを追うために頑張っていたからな」
私の驚きの声に答えるようにメイナ様が声をあげる。ディア様もリッカさんの頑張りを見ていたから嬉しそう……。
私も知ってた。彼女がエルクに追いつこうと頑張っていたのを。私だって頑張ってた。だけど、二人に追いつける気がしなかった。
「悔しい……」
歯を食いしばり声をもらす。エルクに追いつけないのが悔しいんじゃない。リッカに追い抜かされたのが悔しいんじゃない。もっと頑張れない自分に悔しい。こんな思い初めて……。
「メイナ様! 本を読ませてください! エルクが読んだ本を!」
「え、ええ。いいわよ。こっちの部屋よ」
「ありがとうございます」
私は彼の辿った道を進む。彼がやった訓練や経験を彼の両親に教わる。元から教わっていた方法も継続した。すぐに追いつくなんて思っていない。だけど、いつの日か私も精霊の地に。そして、言ってやるんだ。
「どうだ! 私に惚れたでしょ」
ってね! 絶対に惚れたと言わせてやるんだから!
「キャンキャン!」
「また寝言で鳴いてる……」
私はミア。レネゲード王国のお姫様。
エルクが精霊の地っていうところに行ってもう一か月が経った。彼の従魔のブレイドが寝ながら鳴き声をあげて足をバタバタさせてる。夢の中で彼を乗せて走っているのかも。
私はそれを見て羨ましいと思ってしまう。だって、夢でも彼に会えるから。元気にしてるかな。
「ふふ、毎日一緒に行動していたからエルクと一緒に魔物と戦ってるのかもね」
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彼のお父さんはそう言いながらも嬉しそうに笑う。自慢の息子だろうな。ここも私と違う。私は彼に見合う女なのかな?
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身重な二人の女性が共に気遣って笑いあう。こんな光景、王族じゃ拝めない。自分の息子を王にしようと私に結婚を迫る貴族。もう、あそこには戻りたくない。
「重い表情ですね。どうしたんですかミア様?」
「お母様……」
想い焦がれる彼のお母様が私の心配をしてくれる。
「エルクはずっと遠くに行っちゃった。目の前にいたのに。私は彼の横に立てるのかな」
「ミア様……」
頬杖をついて呟く。メイナ様は後ろから抱きしめてくれる。
「コホンッ! ミア様。横と言わずに前でも後ろでもいいですよ」
「ふふ、そうね。エルクは器が大きいから」
ディア様とメイナ様が面白がって話す。私は真剣なのに……。
「もういいです……」
頬杖をやめて机に突っ伏する。私なんかじゃエルクの隣なんて夢のまた夢。
「……そういえば、リッカさんが精霊の地に行ったらしいわね」
「え!? 冒険者の?」
ディア様から驚きの報告がされた。そんなの聞いてない。
「確か氷の精霊だったかしら?」
「彼女もエルクを追うために頑張っていたからな」
私の驚きの声に答えるようにメイナ様が声をあげる。ディア様もリッカさんの頑張りを見ていたから嬉しそう……。
私も知ってた。彼女がエルクに追いつこうと頑張っていたのを。私だって頑張ってた。だけど、二人に追いつける気がしなかった。
「悔しい……」
歯を食いしばり声をもらす。エルクに追いつけないのが悔しいんじゃない。リッカに追い抜かされたのが悔しいんじゃない。もっと頑張れない自分に悔しい。こんな思い初めて……。
「メイナ様! 本を読ませてください! エルクが読んだ本を!」
「え、ええ。いいわよ。こっちの部屋よ」
「ありがとうございます」
私は彼の辿った道を進む。彼がやった訓練や経験を彼の両親に教わる。元から教わっていた方法も継続した。すぐに追いつくなんて思っていない。だけど、いつの日か私も精霊の地に。そして、言ってやるんだ。
「どうだ! 私に惚れたでしょ」
ってね! 絶対に惚れたと言わせてやるんだから!
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