異世界人生を楽しみたい そのためにも赤ん坊から努力する

カムイイムカ(神威異夢華)

文字の大きさ
上 下
29 / 61
第一章 新しい世界

第29話 最高の隣人

しおりを挟む
 ミアちゃんとグランさんが村にやってきて三日が経った。ネイアさんが帰ってきてダンジョンの成果を報告してくれる。

「エルク君に聞いていた通り、ボスはロックバイソンだった。そこまでは予想通りだったんだけどね……。大きさが普通じゃなかった」

 かなり大変なボスだったみたいだ。よく見ると傷だらけで満身創痍。

「魔法使いのリッカが頑張ってくれたから何とかなったよ」

 魔法使いのリッカさんのおかげみたいだな。あの人って寡黙だからどんな人か分からないけど、ネイアさんは彼女を信頼してるみたいだな。

「じゃあ、私は戻るね。そういえばディアさん、あの空き家をそのまま使っていいのかしら? 宿屋が出来てるから空けたほうがいい?」

「使う人がいないから空き家だったわけだ。大丈夫じゃないか?」

「そうですか良かった。戦利品で買おうか悩んでいるんだけど、その時はまたお話させていただきますね」

 ネイアさんはお父さんに声をかけると嬉しそうに話す。家を買うってことか。ってことはこの村を気に入ってくれたってことかな。
 彼女はいい終わると僕にウインクをして出て行った。

「キャン!」

「ブレイド? どうしたの?」

 窓から顔を覗かせるブレイド。窓に駆けつけると外にゴブリンが見えた。みんなには見つかっていないのか?

「お父さん少し出てくるね。例のゴブリンが来てるから」

「わかった。ネイアさん達に見つからないようにな」

「うん」

 世の中はゴブリンに厳しい。見つけたら根絶やしにしないとダメって言われているからね。女性を拉致監禁して子孫を増やすのはこの世界のゴブリンも一緒だから。

「ギャギャギャ!」

「え? 来て欲しいの?」

「ギャギャ!」

 よく見るとグランさんを追い払っていた見張りのゴブリンだ。耳に動物の骨で作ったピアスをしてる。このピアスで区別しているんだろうな。
 腕を引っ張ってくるから声をかけると頷いて答える。言っていることを理解してるのか分からないけど、とにかく一緒に行くか。

「ギャッギャ~!」

「ははは、楽しそうだね」

 ブレイドに一緒に乗って王の元へ走りだす。ゴブリンが楽しそうにブレイドに跨る僕の肩に乗る。ブレイドは早いからな、風になった気分になれるんだろう。

「よく来てくれたエルク。歓迎する」

 山に上ると王が直々に迎えてくれた。握手を交わして用意された骨で作った椅子に座ると深くお辞儀をしてきた。

「改めて歓迎するエルク」

「そんなに畏まらないでください」

「いや、エルクのおかげでこの地に住めるのだ。そのような恩人に礼を尽くせん我らは無能になってしまうよ」

 王はそういって俯く。

「僕は何もしてませんよ」

「冒険者に言わないというのが一番恩を感じていることだ。この地は動物も魔物も豊富。兄弟達も肉つきがよくなってきた。エルクのおかげだ。ありがとう」

 何もしていないことが一番の恩か。なんだか恥ずかしいな。

「ははは……。それでわざわざ呼んでくれたのは果物をくれる為ですか?」

 僕と王の前に置かれた大きな葉っぱの上に乗る果物を摘まんで聞く。すると王はクーナリア連峰の尾根を指さす。

「この尾根を反対に下ったところにダンジョンがあった。そこでとれる果物なんだが人はダンジョンが好きだろう? 知らせようと思ってな」

 果物の取れるダンジョンか。お城のダンジョンがなくなっちゃったから食べ物の取れるダンジョンはありがたい。だけど僕は行っている暇はないかもな。

「ダンジョンには行けないけど情報は助かります」

「ふむ、では我らが取って献上しよう」

「え? 献上?」

 王はそういって微笑む。

「我らのことを黙ってくれている礼だ。遠慮せずにもらってくれ」

「ん~それは何もしてないのにもらってばかりじゃなんだな~。なのでこれなんかどうですか?」

「これは剣?」

 もらってばかりは何なのでロトナに作ってもらった鉄の剣を見せる。マジックバッグから取り出したけど、既にマジックバッグは見せたことがあるから驚いてない。

「嬉しいぞエルク。これでダンジョンの魔物も簡単に倒せる」

 ジェネラルが抱き着いて喜んでくれる。今までは骨を繋ぎ合わせた剣を使っていたからね。鉄の剣なんて嬉しいだろうな。まあ、僕はミスリルを使っているんだけど。

「じゃあ、そろそろ僕は帰りますね。また何かあったら教えてください」

「友よ、了解した」

 王はそういって跪いて見送ってくれる。王に跪かれると僕が王様になった気分だな。

「エルク! 出かける時は私も連れて行ってよ!」

「み、ミアちゃん……」

 村に帰ってくると頬を膨らませて憤りを見せるミアちゃんに迎えられる。

「エルクのお父様とお母様に紹介してもらったのはよかったのに~」

 お父さんとお母さんに紹介すると嬉しそうに聞いてくれていた。彼女はグランさんに言われた通りにおめかしをしていたっけな。

「ははは~……。それよりも帰らなくて大丈夫なの? 両親が心配するんじゃない?」

「フンっ! 心配すればいいのよ! あんなレーガンなんかと結婚させようとしてくるんだから!」

 ミアちゃんは相当恨んでいるみたいだな。僕から見てもレーガンはあまりいい子には見えなかったな。

「エルク、ミアちゃん。ご飯にしましょ」

「あっ、は~い。エルク行きましょ!」

「はいはい……」

 ミアちゃんは村に来てからずっと一緒にご飯を食べている。お父さんもお母さんも娘のように可愛がっている。
 二人はモテモテな僕を見ていたいといった様子、それを感じ取った僕はジト目で二人の様子を見る。
 こんな忙しい一日になって一か月ほどが経過する。僕は4歳の誕生日を迎えた。
 因みにミアもレーガンも5歳だったらしい。年上だったのか。
しおりを挟む
感想 30

あなたにおすすめの小説

子爵家の長男ですが魔法適性が皆無だったので孤児院に預けられました。変化魔法があれば魔法適性なんて無くても無問題!

八神
ファンタジー
主人公『リデック・ゼルハイト』は子爵家の長男として産まれたが、検査によって『魔法適性が一切無い』と判明したため父親である当主の判断で孤児院に預けられた。 『魔法適性』とは読んで字のごとく魔法を扱う適性である。 魔力を持つ人間には差はあれど基本的にみんな生まれつき様々な属性の魔法適性が備わっている。 しかし例外というのはどの世界にも存在し、魔力を持つ人間の中にもごく稀に魔法適性が全くない状態で産まれてくる人も… そんな主人公、リデックが5歳になったある日…ふと前世の記憶を思い出し、魔法適性に関係の無い変化魔法に目をつける。 しかしその魔法は『魔物に変身する』というもので人々からはあまり好意的に思われていない魔法だった。 …はたして主人公の運命やいかに…

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

最強の赤ん坊! 異世界に来てしまったので帰ります!

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
 病弱な僕は病院で息を引き取った  お母さんに親孝行もできずに死んでしまった僕はそれが無念でたまらなかった  そんな僕は運がよかったのか、異世界に転生した  魔法の世界なら元の世界に戻ることが出来るはず、僕は絶対に地球に帰る

異世界召喚されたら無能と言われ追い出されました。~この世界は俺にとってイージーモードでした~

WING/空埼 裕@書籍発売中
ファンタジー
 1~8巻好評発売中です!  ※2022年7月12日に本編は完結しました。  ◇ ◇ ◇  ある日突然、クラスまるごと異世界に勇者召喚された高校生、結城晴人。  ステータスを確認したところ、勇者に与えられる特典のギフトどころか、勇者の称号すらも無いことが判明する。  晴人たちを召喚した王女は「無能がいては足手纏いになる」と、彼のことを追い出してしまった。  しかも街を出て早々、王女が差し向けた騎士によって、晴人は殺されかける。  胸を刺され意識を失った彼は、気がつくと神様の前にいた。  そしてギフトを与え忘れたお詫びとして、望むスキルを作れるスキルをはじめとしたチート能力を手に入れるのであった──  ハードモードな異世界生活も、やりすぎなくらいスキルを作って一発逆転イージーモード!?  前代未聞の難易度激甘ファンタジー、開幕!

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

墓守の荷物持ち 遺体を回収したら世界が変わりました

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前はアレア・バリスタ ポーターとしてパーティーメンバーと一緒にダンジョンに潜っていた いつも通りの階層まで潜るといつもとは違う魔物とあってしまう その魔物は僕らでは勝てない魔物、逃げるために必死に走った だけど仲間に裏切られてしまった 生き残るのに必死なのはわかるけど、僕をおとりにするなんてひどい そんな僕は何とか生き残ってあることに気づくこととなりました

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい

ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。 強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。 ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。

処理中です...