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第一章 新しい世界

第6話 働く

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「ゼックウさんとはどういう関係なの?」

 ゼックウさんを見送って家に入ると疑問を投げかけた。二人は顔を見合ってクスっと笑うと椅子に座って語りだす。

「俺とメイナが駆け出しの冒険者だった時に色々教えてもらった師匠だ」

「もう親みたいなものね」

「おいおい、メイナ。そんなこと言ったらゼックウが喜んで毎日会いに来ちまうぞ」

 お父さんの言葉に付け加えるお母さん。かなり親しい間柄ってことか。

「風の神童ゼックウと言われていた人でね。大陸を風に乗って一瞬で移動できるほどの魔法使いなのよ」

「それでいて水の精霊の眷属で槍の達人。訳が分からないだろ?」

 風の魔法が得意なのに水の精霊の眷属で槍の達人……確かに訳が分からないや。

「精霊って言うのはその属性の達人だからと言って目をつけるわけじゃないの。自分たちに有益な人物を眷属にする精霊もいるのよ」

「そうそう、例えば地の精霊が火の魔法の達人を眷属にしたこともあったんだが、海の上にマグマを呼び出して大地を生みださせたとか。ハチャメチャなこともあった」

 なるほど、精霊のいいように眷属が命令をこなすってことか。あまりいい精霊じゃなさそうだな。

「ゼックウも水の精霊の眷属になって風を使って雲を操り、砂漠にオアシスを作って水の精霊の領域を増やしたとかな」

「な、なんかすごいんだね」

 本当に滅茶苦茶な精霊さん達だな。そんな人のもとに行くのは本当にヤダな。完全に子供な考えだぞ。

「とにかく、これで安心だ」

「と言っても魔法名を言っちゃダメよ。ゼックウさんも言っていたけど、油断しちゃダメ。一度目をつけられたんだからどこからか見ているかもしれないからね」

 お父さんが安心して声をあげるとお母さんが釘を刺してくる。確かにそうだ。強い魔法は使わないようにしなくちゃな。

「私の真似をして小さな魔法を複数放って魔物を狩りましょ」

「うん!」

 お母さんの訓練方法の光をマシンガンみたいに魔物に当てればいいんだ。強い魔法はもっと大きくなってからだな。

「因みに精霊の地ってどこなの?」

「俺もゼックウから聞いた話なんだけどな。この世界とは隔絶された世界らしい。帰ってくるには精霊の試練を終えて、お願いを聞くと帰ってこれるらしい」

 勝手に連れてきて試練とお願いって……精霊は本当にとんでもない人達だな。神様に近いとか書いてあったけど、そんな神は嫌だ。

「日も落ちてきたし、今日はもうご飯を食べて寝ましょ」

「は~い」

 洗濯物をしまって夕食を食べて寝る。精霊の件が済んでよかったけど、精霊の地には行きたくないな~。魔法は当分魔法剣だけにした方がいいかもな。

「キャンキャン!」

「ブレイド、スピード出しすぎだぞ~」

 ゼックウさんと話して次の日。ブレイドと共に村の端の畑を耕し中。ブレイドの角を地面に突き刺して土を掘り返してるんだけど、凄い楽しそうにしてる。土遊びが好きなのかな?

「メイナちゃんのところの子は働き者だね~。ほら、パンをお食べ」

「あ、ありがとうございます」

 おばあちゃんのロカさんが出来立ての白いパンを手渡してくれる。

「これで畑を増やせるよ。今ある畑は土が拗ねてしまってね。いい麦が育たなくなっちまったんだよ。本当にありがとさんね」

 この時代じゃ、土の栄養とかわからないだろうな。同じ畑でずっと同じ麦を育てていたらいい育ち方はしない。休ませたりしないといけないって聞いたこともある。ロカさんに教えてあげたいな。

「ロカさん。土にも僕らと一緒で元気があったりなかったりするんだ。一年休ませるとかしないとダメなんだよ」

「ん~? 一年も育てられなかったらパンが食べられないよ」

「じゃあ、ちょっと待ってて」

 僕はブレイドに跨って森へと走らせる。森の落ち葉が溜まっている地面を掘り返す。【腐葉土】というやつだな。土魔法で固めて、風魔法で浮かせると畑に持ち帰る。

「それは何だい?」

「えっとね。森の落ち葉が溶け込んだ土だよ。これを満遍なく畑にまいてかき混ぜるんだ。そうすると元気になっていい野菜や麦が出来るんだ」

 首を傾げるロカさんに色々教えてあげると首を傾げたまま頷いた。

「……はぁ~。メイナちゃんのところの子は賢いね~。でも、わたしゃこの年だよ。森からそんな沢山の土なんて持ってこれないよ」

「僕がやります。魔法の訓練にもなるし」 
 
 土を扱う魔法は全然やってなかった。ここで土魔法と風魔法を訓練しよう。同時に沢山の魔法を行使すると疲れるけど、疲れれば疲れるだけ魔力は上がる。頑張るぞ~。

「ブレイドも運んでね」

「キャン!」

 角をうまく使って腐葉土を運んでいくブレイド。ブレイドにいつまでも跨っていると訓練にならない。僕は徒歩で訓練!

「腐葉土を丸太くらいの棒状にして。5本……流石にきつい」

 お母さんの訓練のおかげで複数の魔法の制御は身になってきてる。それでもこれだけの重さの魔法をいくつもやるのは骨が折れる。

「ファ~。メイナちゃんのところの子は凄いね~。天才少年だ~」

 ロカさんが楽しそうに声をあげる。丸太状にした腐葉土を出来立ての畑にかき混ぜていく。これも土魔法でかき混ぜる想像をしてかき混ぜていく。200メートル四方の畑をかき混ぜるのはかなりきつい。ブレイドにも手伝ってもらったけどそれでもかなり疲れた。一日では終わらなかったのですでに出来ていた畑は二日後にやらせてもらった。

「ありがとうねエルク坊や。はい、パンだよ」

「あ、ありがとうございます」

 すべての畑に腐葉土を混ぜてかき混ぜ終わると体がくったくた。ロカさんからのお礼を受けて達成感を得ると家に帰る。

「お帰りなさいエルク」

「ははは、俺よりも疲れてるなエルク」

 お母さんに迎えられて、それを見てケラケラ笑うお父さん。3歳児がこんなに働いてるって言うのに笑うとは。でも、いいんだ。ロカさんは嬉しそうにしていたからね。

「土魔法と風魔法をつかって畑仕事とはな」

「見てたんですか?」

「ああ、森の方へ走って言っただろ? 一応護衛をしていたんだぞ。気づかなかったか?」

 お父さんは僕のことを見ていてくれたみたいだ。お父さんは村の用心棒みたいな仕事もしてるから見回り警護をしてるんだよな。

「最近はブレイドやエルクのおかげで魔物がいないからな。暇なんだよな」

「村の近くに来たらすぐに倒しちゃうものね」

 お父さんが頭の後ろで両手をくみ愚痴をこぼす。それを見てお母さんがクスクス笑っている。

「ダンジョンはこの前行ったからな。お父さん暇だぞ」

「間引きのこと?」

「ああ、攻略しちまうのももったいないしな。あ~、新しいダンジョンできないかね~」

 お父さんの話に疑問を投げかけるとつまらなさそうに声をあげた。ダンジョンってそんな簡単に出来るものなのかな?

「ふふ、そんな簡単にダンジョンなんか」

「キャン!」

 お母さんが笑って声をもらすと外からブレイドの声が聞こえてきた。窓から顔を覗かせるとブレイドが首をある方向を指す。

「な、なんだありゃ?」

「……塔?」

 お父さんとお母さんが声をもらして僕の顔を見合う。夕日を真っ二つに切り裂くような大きな塔が僕らの村の前に出来上がっていた。
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