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第二章 支配地

第56話 決着

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「孤児院の子供達の体調はどう? 君のように痩せこけていた?」

「!? う、煩い!」

 剣を交えながら声をかけると図星をつかれて声を荒らげるアビゲール。勇者となるアビゲールの攻撃は、普通なら僕じゃ防げないような速さを持っているはずだった。だけど、今の彼女は体調が悪い。勇者と認められていない今の彼女なら僕が勝てる。
 現実となったこの世界では彼女は一生勇者として認められず、教会の奴隷として戦わされてしまうだろう。そんな世界壊してしまった方がいい。僕は彼女を助ける。

「はっ!」

 声と共に力強く剣を振り下ろす。碌に食べていないアビゲールは剣で受け止めるが膝をついて両手で剣を抑えてる。

「アビゲール、もう君たちの負けだ。降参して孤児院の子供達をここに連れてくればいい。君の守りたいものは子供達だろ」

「な!? ま、まだ負けてない! まだ私達を救おうと思っているんですか……。傲慢な人」

 鍔迫り合いの力をこめて声をかける。アビゲールは片膝をついたまま聞き入る。一度目を閉じて再度目を開くと、大きく僕から離れる。

「私はここであなたに勝つか、戦死しなくてはいけません。ですが天使の声があれば教会を止めてくれる」

 アビゲールは剣を自分の首に這わせる。天使の声、ミエルのことか。

「アルステードさん! 聞こえませんか!」

 僕は叫び、助けを求める。すると太陽の光よりも濃い光が舞い降りて人の形を作り出す。

「まったく、人というのは」

 そんな声をあげる光、この声はミエルか? アルステードさんはやっぱりこの世界におりられないのかもしれないな。

「話は聞いている。すぐに教会の者達と話をつけよう。アビゲール、お前の守るべきものは別にあるはず。まあ、私が言えた義理ではないが」

「ミエル様……」

 ミエルはそう言って教会の兵士達の元へと飛んでいく。アビゲールは剣を手放し、剣が地面に突き刺さる。

「ふう、何とか平和的に終わったね。さあ、アビゲール。中に入ってご飯を食べよう」

「う、うう、うわ~ん」

「わわ!?」

 アビゲールの肩を抱き寄せて声をかけると彼女は涙して抱き着いてくる。まるで決壊したダムのように泣きわめいてる。
 こんな小さな体で泣きもせずにみんなをまもっていたんだもんな。無理してたんだろう。

「ふふ、お帰りなさいアビゲール」

「師匠には勝てないんですよ~っだ!」

「す、すみません」

 アビゲールが僕に抱き着きながら城門から入るとレッドとアスノ君に頭を撫でられる。アスノ君はついでに頬をつんつんしてるな。アスノ君はまるで猫が獲物を見つけた時のような目をしてる。これは当分揶揄われるな。

「皆さん、ご飯の用意はできてますよ」

「中にはいって~!」

「さすがアンナさんとノン」

 アンナさんとノンの声を聞いて僕も声をあげて豪邸へ向かう。アビゲールがいつまでも抱き着いてきてて、可愛いったらないな。もう、彼女をいじめる者はいないっていうのに。

「いっただきま~っす」

 アスノ君は大きな声で食べ始める。僕らも席について手を合わせてから食べ始める。なぜかアビゲールは僕の膝の上に乗ってくる。隣の席空いてるんだけどな。

「……アビゲール、行儀が悪いわよ」

「ランカさんと一緒がいい」

 レッドがアビゲールの肩を叩いて𠮟りつける。それをものともせずに答える彼女、レッドとにらみ合いに発展していく。

「ま、まあまあ。アビゲールは今まで我慢してきたからさレッド」

「あら? ランカはこの子の肩を持つのかしら? これは困ったわね。怒る相手が増えちゃった」

「え!? 痛っ!」

 レッドをなだめようと声をかけると彼女は僕とアビゲールの頬をつねってくる。

「痛い! やめてよ!」

「じゃあアビゲールはこっちの席に座りましょうね。ランカはこっちで話し合いましょう」

「ええ!?」

 アビゲールはすぐに開放されて席に座らされる。そして、僕は頬をつねられたまま別室へ。

「まったくランカは……」

 別室に入れられてため息をつかれる。床に座るように促されて座ると睨みつけられる。

「甘やかすことと優しくすることは違う。分かっているでしょ?」

「あ、いや、そうだけどさ。今は甘やかす時かなって」

 教会に酷使されていた体はやせ細っていた。抱き着かれても重さを感じなかったほどだ。20~30キロ程しかなかったと思う。育ち盛りの彼女は今食べないとダメな時だ。この後の成長に関わるからね。思いっきり甘やかせてあげたくなってしまった。

「あなたのいう勇者っていうのは甘やかされてたのかしら?」

「ん~、礼儀作法がしっかりしてる。レッドみたいな人だったかな」

 ゲームの中のアビゲールは貴族の作法をしっかりと身に着けていた。まあ、やせ細っていたのは一緒だったけど。

「……(ほ、褒めても何も出ないんだから)」

「え?」

「な、何でもないわよ」

 レッドが小さな声で何か言ってるから聞き返すと怒られてしまった。顔を真っ赤にして怒るようなことなのかな?

「とにかく、これからアビゲールは私が指導しますから」

「え? ほんと! それは良かった。レッドが指導してくれれば安心だ! 流石レッド!」

 顔を真っ赤にさせたまま提案してくれるレッド。僕は大喜びで彼女の両手を握る。なぜか彼女はそっぽを向いてしまっているけど、これでアビゲールの未来は安心だ。

「ほんとずるい」

「レッド? ん~!?」

 そっぽを向いていたレッドが僕に視線をもどす。すると顔を近づけてきて口を塞がれる。目を見開いたまま見つめ合う僕とレッド。一度顔が離れて再度唇を合わせると僕は自然と目を閉じた。こ、これは夢幻か?
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