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第二章 支配地

第55話 激しい戦いになるはずなんだけど

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「とうとう来たか」

 ドーシャさんが帰ってきてから一週間。アビゲールと教会が来るというのを聞いて待っていたけれど、とうとうやってきた。城壁上から見下ろすと、騎士団を先頭に司祭の軍隊が後方に見える。数はざっと2000人くらいだろうか。

「ランカ。私が代表で出てくる」

「僕も行くよ」

「いや、私だけで良い。ランカに何かあったら私は自分が許せなくなるから」

 レッドの提案に僕が答えると悲しい表情で彼女は断ってくる。僕が気を失っていた時のことを思い出しているんだろうな。
 レッドを見送って城壁上から見ているとレッドは騎士団と共に帰ってくる。思惑通り、騎士団を仲間に引き入れられたのかな。

「ランカ、無事に終わったよ。騎士団は全員第二騎士団だった。ステファンが手配してくれたのかもしれない」

 レッドの報告に無言で頷く。
 なるほど、流石ステファンだな。ゲームの時も優秀な人だったけど、この世界でもかなり優秀みたいだ。

「レッド団長。話は本当なんですか?」

「ああ、ランカが武具の制作の秘密を暴き。世界に光を灯してくれた人だ。お前達の武具もそのおかげでEランクを超えられたんだ。教会よりもこの王都に貢献してくれてる。勇者といっても過言じゃない」

 レッドは僕を過大評価して騎士団を連れて来たようだ。部下に大きな声で答えると部下達はみんなヒソヒソと話始める。信じるはずないよなこんな話。

「有難うございますランカ様!」

「感謝いたしますランカ様!」

 ダメだろうなと思っていたら騎士団から喝采が上がる。その喝采に答えるようにアスノ君が手を掴んであげると一斉に声量が上がる。思わず手を振ってこたえると更に上がって士気が上がるのが感じられた。

「教会の兵は!」

「はい! 魔法兵1500! うち1000が攻撃魔法兵、500が回復魔法兵です!」

「こちらは騎士団が500と我々という事だな。3倍近くの兵力差、ランカの名声を高めるにはいい戦場だ」

 レッドは初めて会った時の口調に戻って不敵な笑みで声をあげる。3倍の兵力差なのにこんなに余裕なのは流石と言うかなんというか。でも、忘れてることがある。

「レッド、アビゲールがいるでしょ」

「ランカ、忘れるわけないでしょ。アビゲールとあなたの一騎打ち、今から考えるだけで……嬉しくなっちゃう」

 僕の声に何故か光悦な表情になるレッド。そういえば勇者と言っても過言じゃないって僕を褒めていたな。騎士団を説得するための方便だと思っていたけど、本気なのか。

「宣戦布告はすでにした! 一当て行くぞ!」

『応っ!』

 レッドの号令に騎士団が答え城門から出ていった。一つの槍のような隊列を組んで突き進んでいく騎士団。教会の兵士の壁を突き破りUターンしてくる。

「被害状況を報告せよ!」

「はっ! 敵軍300を撃破。わが軍は怪我人が10と言ったところです」

「圧倒的だな」

 城門から帰ってきたレッドが報告を聞く。一当てで300も倒したのか。圧倒的過ぎてやっぱり教会の人達が哀れだ。

「ランカ、心配しなくていい。死者は出していないわ。ただ戦闘が出来ないように負傷させているだけよ」

「あ、そうなの?」

 圧倒的過ぎて考え込んでいるとレッドが心配して声をかけてくる。思いっきり戦っているように見えて手加減してるってことか。それだけ余裕があるってことだよな。流石レッド。

「レッド団長! 教会側が騒ぎになっています」

 城壁上に移動した騎士が声をあげる。僕らも城壁に上がって確認すると内輪もめをしているのが伺える。

「服を脱いで帰ってる?」

 半分くらいの兵士がみんな武装解除してる。来た道を帰っていってる。

「ふふ、わらわの戦略をとくと見よ~」

「あ! セリス。戦略ってことは」

 疑問に思いながら見ているとセリスが空から降りてきた。今回は呼び出してないから取り巻きも一緒だな。

「わらわが潜入して不安をばら撒いておいた。動きが鈍かったでしょうレッドさん?」

「た、確かに。騎士団の被害が怪我人で済んだのは動きが鈍かったことが大きな要因」

 セリスの言葉にレッドが考え込む。急な騎士団の寝返りとセリスの戦略がはまった形になったのか。不安をばら撒くってどういうことをやったのかな?

「ふふふ、わらわ達吸血鬼があの軍の中に入り、少し眷属にして混乱を作っておいたんですよ。あの小娘に刺された恨みはちゃんと晴らさせてもらいますからね」

 赤い目を輝かせて嬉しそうに声をあげるセリス。敵に回したくない子だな。

「ん!? 一人こちらに向かってくるものがいます!」

 再度、騎士の声があがる。指さす方向を見るとアビゲールが剣を引き抜いて振り上げているのが見える。あの剣は!?

「みんな城壁から急いで降りて!」

「え!?」

 僕は叫んでみんなを城壁から降ろす。僕の思った通りの剣ならここまで剣圧が飛んでくるはずだ。その僕の記憶にある剣の名は、

「魔を蹴散らせ! 【エビルブレイカー】!」

 そう、【エビルブレイカー】。二番目に強いと言われている剣だ。勇者じゃなくても持てる聖剣の中じゃ一番強い。まあ、それはアスノシリーズや強化を抜きにしてだけどね。
 アビゲールはエビルブレイカーを振り下ろし、剣圧を城壁にぶつけてきた。剣圧は鋭く飛んできて、城壁を切り裂き人一人が通れるほどの穴をあけた。

「ランカさん。僕と一騎打ちにしてください。そうすれば皆さんの命は保証します」

 切り裂いた穴から入ってくるアビゲールが要求してくる。僕は大きなため息をついて頷く。

「アビゲール。君は間違ってるよ」

「……」

 城門を開けてもらって外へ出る。アビゲールも外に戻り剣を構える。僕の指摘には無関心だな。

「ミエルも戻ってきていない。違う?」

「……それでも孤児院の為に戦わないといけない。間違っているなんて分かってることなんですよ!」

 天使がいないことを指摘するとアビゲールは声をあげて切りかかってくる。剣で受け止めて鍔迫り合いの形になる。彼女の手首や頬がやせていることに気が付いて、再度大きなため息が出た。
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