ラストダンジョンをクリアしたら異世界転移! バグもそのままのゲームの世界は僕に優しいようだ

カムイイムカ(神威異夢華)

文字の大きさ
上 下
48 / 57
第二章 支配地

第48話 アルステード

しおりを挟む
「あ、あれ? ここは……」

 目の前が真っ暗になって意識を手放し、意識を取り戻すと再度真っ暗な空間にいる僕。あたりを見回してみるけど、どこまでも真っ暗な空間が続いているように見える。

「えっと僕はアビゲールを抱えて……」

 レッド達と一緒に馬車に寝かせようと思ったんだったよな。それで意識を失って。

「人間!」

「なんでこんなところに……」

「私を無視するとは、万死に値するぞ!」

「うわっ!? ミエル!?」

 声に気付かなくて呟いていると胸ぐらをつかまれる。ミエルが何故か睨みつけてきてる。って言うかなんでこいつがここに?

「やめなさいミエル」

 睨みを効かせてくるミエルとにらみ合っていると、聞いたことのある女性の声が聞こえてくる。二人で振り返ると金髪に白いローブの女性が現れた。

「「アルステード様!」さん!」

 二人で名前を叫ぶと再度睨みつけてくる。にらみ合いを続けているとアルステードさんが近づいてきて頭を撫でてくる。

「二人とも仲良く」

 まるで子供をあやす様に優しく撫でられる頭。ミエルも撫でられて僕の胸ぐらをつかんでいた手が離れていく。

「明かりをつけますね」

 優しい彼女の声と共に真っ暗だった空間が光に包まれる。まぶしいほどの光に目を瞑り、閉じた目を開けると白い机と椅子が三つ並んでいた。座るように優しく促すアルステードさんにミエルと共に頷いて答える。

「あの、アルステードさん」

「分かっていますよランカさん。今から説明をします。お茶を飲んで落ち着いてください」

「え? お茶なんてどこに? っていつの間に!?」

 椅子に座って声をあげるといつの間にかお茶が人数分入れられていた。とても香りのいい紅茶、心が落ち着く。

「まずはミエル。あなたは何という事をしているのですか?」

 表情は笑顔のままアルステードさんはミエルへと声をあげる。ミエルは狼狽えている様子。

「わ、私はアルステード様の為に魔の者を滅していただけ」

「はぁ~、私は平和な世界を作りたいと伝えていたはずです。その中に、【魔の者がいると大変かもしれませんね】と確かに言いましたが。あなたが言う私の為とはこのことですか?」

 ミエルの返答を聞いて頭を抱えるアルステードさん。顔を青ざめさせて頷くことしかできないミエル。まったく、いい迷惑だな。伝えたいことがしっかりと伝わっていなかったみたいだ。

「ランカさん。すみません」

 深くお辞儀をして謝ってくるアルステードさん。僕は無言で首を横に振った。

「アルステード様が人間などに謝る必要はありません!」

「ミエル! 人間などとは何ですか! この世界も私でさえも人の想像力から生まれているのです! 人間などと侮ることをしてはいけません!」

 ミエルは体を震わせて憤りを口にする。アルステードさんは涙して諭す。彼女は本当に神に相応しい優しくて強い心を持っているな。

「アルステードさん。それよりも現状の説明をしてほしいんですけど」

「あ、すみません。息子も同然な天使が皆さんに迷惑をかけてしまってつい母心をだしてしまいました」

 優しい彼女がいつまでも叱っているのがいたたまれなくなって声をあげるとしっかりと息を整えて話してくれる。

「ランカさんも知っていると思いますが、天使は皆さまプレイヤーの相棒と言われるキャラクターです。アビゲールは勇者の職業を持つキャラクター。現状で一番強い子ですので入っていました。そして、ランカさんは唯一無二のプレイヤー。気を失ったアビゲールの近くで意識を失った事でミエルの意識がどちらに入ろうかと混乱し、意識が繋がってしまったのでしょう。その証拠にアビゲールの記憶がここに」

 アルステードさんは説明しながら丸い水晶を机に置く。中を見るとアビゲールが孤児院で働いている姿が見られる。

「人の記憶や思いは大きな力を生み出します。私やこの世界を作ったように。アビゲールはみんなを守りたいと思って強くなったんです」

「思いの強さか……」

 アルステードさんは涙を流してアビゲールの記憶を覗く。僕も深く水晶へと視線を移すとまるで自分がその場にいるような感覚に陥る。

『神様みんなをお守りください。お父さんやお母さんを守ってくれなかった時のようにできないなら私に力をください。怠けずに剣も魔法の勉強も一生懸命致します。どうか、どうかお願いします』

 願いを唱える幼少期のアビゲール。みんなで眠る大部屋の窓の外へと唱えられる願い。手や足に豆やタコが出来ているのが見られる。冗談でも怠けているとは言えないような跡が涙をさそう。

『孤児よ! そなたは強いらしいな』

 場面が変わり声がかけられる。今の姿になったアビゲールがどこかの城の玉座の間で跪いている。偉そうな王が玉座で頬杖をつきニヤリと笑っている。

『魔の者がオルコッド近辺に現れたようだ。すぐに討伐に迎え。倒した暁には孤児院を街の中に入れてやろう』

『本当ですかセントラル様!? (これでみんな魔物に怯えずにいられる)』

 王、セントラルの声に歓喜にも似た声をあげるアビゲール。孤児院は町を囲う城壁の外に作られている。貴族たちからは【魔物の餌】と揶揄されている。ストーリーが進むとそれは現実となる。
 魔物の群れが王都を襲い、餌に食らいつき極大魔法の的にされる。プレイヤーは関与できないイベントで大きな隕石が孤児院に落ちる。
 僕はそのイベントを直視できずに涙を流した。アビゲールと仲良くなって孤児院の子供たちを守ったり、一緒に遊んだりしたから。それは多くの思い出をくれた場所だったから。

『では行け! 強き孤児よ!』

『はっ!』

 薄気味悪い笑みを浮かべて声をあげるセントラル。何の疑いもせずに声を発するアビゲール。彼女のまっすぐな瞳が痛々しい。

「王都は腐っています。ランカさん、あなたにはこの世界を平和にしていただきたいのです」

 意識が戻りアルステードさんが涙ながらに訴えてくる。セントラルはプレイヤーによって没落する王だ。他にもいろいろとダメなエピソードを持っていた。全てのプレイヤーが倒したい魔物というランキングをやったらトップになる逸材だ。まさか、現実となったこの世界でも倒すことになるとはな。

「……分かりました。何とかやってみます。ですが自分でどうにかできないんですか?」

「私の声は彼に届きません。悪しき者へと変貌しているのでしょう。魔の者よりも深き闇をもっています。ここでも思いの力の凄さを垣間見ました」

「良くも悪くも思いは強いってことですね……」

 セントラルはどんだけ黒い心の持ち主なんだ。

「ミエルはしばらく私の元で勉強です」

「は、はい」

 笑顔なのに怖さを持つアルステードさんの声にミエルは顔を青ざめさせて答える。これでアビゲールは普通に戻るってことかな。ってそんな簡単じゃないのを僕は知ってる。

「では楽しみに待っていてくださいランカさん」

「え? 楽しみって?」

 アルステードさんが嬉しそうに話すと真っ暗な視界に戻ってしまう。そして、次の瞬間。唇に温かさを感じる。
しおりを挟む
感想 28

あなたにおすすめの小説

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

社畜おっさんは巻き込まれて異世界!? とにかく生きねばなりません!

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
私の名前はユアサ マモル 14連勤を終えて家に帰ろうと思ったら少女とぶつかってしまった とても人柄のいい奥さんに謝っていると一瞬で周りの景色が変わり 奥さんも少女もいなくなっていた 若者の間で、はやっている話を聞いていた私はすぐに気持ちを切り替えて生きていくことにしました いや~自炊をしていてよかったです

ぽっちゃり精霊王は推しを幸せにしたい

かわもり かぐら(旧:かぐら)
ファンタジー
地球がある世界とは異なる世界線には、魔法あり精霊あり神様ありなファンタジー世界がある。 そこに、地球生まれ地球育ちそして地球で死んだあるひとりの少女が闇の精霊として生まれ変わった。 闇属性持ちはこの世界では忌避されやすく「マジか〜」なんて思いながら、のんびりと過ごしていつの間にか精霊王となった少女 ―― メディフェルアはある日気づく。 「この世界、私が前世でやってたBLでもなんでもござれな恋愛SLGじゃん」と。 メディフェルアの推しは悪役令息とされるグランツ伯爵家養子、闇属性持ちのリオル。 リオルはもう伯爵家の養子として引き取られる過程からして悲惨だった。 推しにそんな辛い思いをさせたくない!幸せになってほしい!と思ったメディフェルアだったが、精霊王という立場が邪魔をする。 そうだ。 精霊王辞めよう。 そんなメディフェルアの視点から眺める、悪役令息にならなかった少年とその周辺の物語。 ※ R-15程度のBL表現あり、5.5万字ほどの短編+番外編約2.5万字。 ※ 本編は精霊王メディフェルア視点のみ。本人の恋愛ほとんどありません。周囲の話だけ。 ※ 人間の常識≠精霊の常識、な世界です。 ※ 番外編は三人称視点で主にリオルメイン。 ※ カクヨムでも同時公開中

【完結】神スキル拡大解釈で底辺パーティから成り上がります!

まにゅまにゅ
ファンタジー
平均レベルの低い底辺パーティ『龍炎光牙《りゅうえんこうが》』はオーク一匹倒すのにも命懸けで注目もされていないどこにでもでもいる冒険者たちのチームだった。 そんなある日ようやく資金も貯まり、神殿でお金を払って恩恵《ギフト》を授かるとその恩恵《ギフト》スキルは『拡大解釈』というもの。 その効果は魔法やスキルの内容を拡大解釈し、別の効果を引き起こせる、という神スキルだった。その拡大解釈により色んなものを回復《ヒール》で治したり強化《ブースト》で獲得経験値を増やしたりととんでもない効果を発揮する! 底辺パーティ『龍炎光牙』の大躍進が始まる! 第16回ファンタジー大賞奨励賞受賞作です。

レベルアップしたらステータスが無限になった

wow
ファンタジー
レベルが上がるのが遅すぎると追放された主人公にシステムメッセージが流れ驚愕の事実が通達される。

異世界に転生したら?(改)

まさ
ファンタジー
事故で死んでしまった主人公のマサムネ(奥田 政宗)は41歳、独身、彼女無し、最近の楽しみと言えば、従兄弟から借りて読んだラノベにハマり、今ではアパートの部屋に数十冊の『転生』系小説、通称『ラノベ』がところ狭しと重なっていた。 そして今日も残業の帰り道、脳内で転生したら、あーしよ、こーしよと現実逃避よろしくで想像しながら歩いていた。 物語はまさに、その時に起きる! 横断歩道を歩き目的他のアパートまで、もうすぐ、、、だったのに居眠り運転のトラックに轢かれ、意識を失った。 そして再び意識を取り戻した時、目の前に女神がいた。 ◇ 5年前の作品の改稿板になります。 少し(?)年数があって文章がおかしい所があるかもですが、素人の作品。 生暖かい目で見て下されば幸いです。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

処理中です...