ラストダンジョンをクリアしたら異世界転移! バグもそのままのゲームの世界は僕に優しいようだ

カムイイムカ(神威異夢華)

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第二章 支配地

第47話 ミエル

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「呼んでいただき有難うございますランカ様」

 セリスが跪いて挨拶をしてくる。いつの間にか僕は彼女の中で神格化してるのかな? 

「困った様子でもないようですが。もしや! 夜伽によんでいただけたのですか? それならが至上の喜び」

「へ? 夜伽ってこんな明るいうちにするわけないでしょ!」

 セリスが目をハートにして言ってくる。

「君に紹介したい人がいるんだ」

「紹介? それはどういう?」

 セリスに答えると彼女は首を傾げる。城壁の外の馬車のある方角へと視線を向けると一陣の風が頬を撫でる。ヒリッと頬が痛み、触ると血がついてる。

「な、何が?」

 頬を触りながらセリスへと視線を戻すと信じられない光景が広がっていた。

「……ランカ様、私を呼んだのは討伐するためなのですね」

「な!?」

 セリスの声に驚いて駆け寄る。彼女のお腹にロングソードが突き刺さっている。僕の頬をかすめた風はこの剣だったのか。この剣を僕は知ってる。光の剣、勇者の剣とも名高い【エクスカリバー】だ。この剣に選ばれたものが勇者として覚醒できる。大根剣士以外はね。

「セリスこれを飲んで」

「え? 倒すために呼んだのでは?」

「僕がそんなことするわけないでしょ。裏切られたんだよ。あの子にね」

 セリスにポーションを手渡して、剣が投げられたであろう方向へ視線を向ける。

「ありがとうございましたランカさん」

 アビゲールが手を叩きながら近づいてくる。僕はセリスを庇いながら離れると彼女は首を傾げた。

「なぜかばうのですか。そのものは魔王になりうる存在です。滅してしまいましょう」

「アビゲール何を言ってるんだ! まずは対話だって言ってるだろ? 何を聞いてたんだ!」

 アビゲールの様子がおかしい。僕と話していたことを忘れているみたいだ。心なしか口調もおかしい?

「魔物を庇うものそれもまた悪。この土地も不浄な匂いがしますね」

「ど、どうしたんだアビゲール。君はこんなことするような子じゃないでしょ?」

 セリスに刺さっていた剣が光の粒になりアビゲールに帰っていく。光の粒が彼女の周りに纏わりついて神々しい光景を作り出す。神を演出してるのか。

「お前は誰だ! アビゲールじゃないな!」

「分かってしまいましたか? 少し真似していたつもりですが。良いでしょうお教えしましょう」

 光の粒が再度剣の形になりアビゲールの手に、彼女は剣術の型を舞いながら話すとニッコリと口角をあげる。

「私は天使のミエルと申します。この子は私を降ろすための器に過ぎません」

「はっ!? ミエル?」

 ミエルの自己紹介を聞いて驚く。ゲームの時にはミエルは天界から降りてくることはない。ミエルは天の声としてプレイヤーに指示をしてくるだけのキャラクターだ。キャラクター設定はあるけど、ゲームで話しかけることはできない。

「ランカ様。とにかく私は一時逃げます」

「おっと、逃がすわけがないでしょ?」

「ぐうっ!?」

 セリスが逃げようと声をあげると瞬時に移動してきたミエルが彼女の首を掴む。凄い腕力で彼女を浮かせる。

「ミエル。お前は世界の外へ帰れ!」

「はぁ? 何を言ってるんだ人間?」

「お前は物語に関わらないキャラクターだ!」

「ははは、人間がおかしくなったな。ではお前も滅してやろう」

 思わず叫び罵倒する。苛立ったミエルは僕へと手を伸ばしてくる。僕は【装飾された箱】を開けた。

「ほ~、人間にしてはいい音を聴いているな。ん? なんだ体が重く?」

「効いてるね」

 ミエルに効くかわからなかったけど、しっかりとアビゲールとして効いてくれたみたいだ。その場に倒れるミエル、少しすると寝息を立てる。

「今のうちに!」

「セリスダメだ!」

 セリスが爪を鋭く伸ばしてアビゲールを刺そうとしてくる。声で制すると止まってくれる。彼女は僕の言葉で止まってくれる。彼女は話せばわかってくれる。天使は人間を見下しているのかもしれないな。

「ランカ様。どういうことなのですか?」

 セリスはそう言って怪訝な表情を向けてくる。いきなり命を狙われたら怒るよね。

「まさかこんなことになるとは思わなかったんだ。会わせてくださいって言うから会わせたらこんなことに」

「……天使とは何なのですか? わらわよりもはるかに大きな力を感じました。今でも恐怖で」

 弁解すると体を震わせて体を預けてくるセリス。彼女の体を受け止めると見つめてくる。

「アビゲールの体を使うか……」

 セリスを抱きかかえて呟く。天使はプレイヤーのナレーションのようなキャラクターだ。という事はアビゲールがプレイヤー、主人公ってことなのか。少し複雑な心境だ。
 アビゲールがこの世界の主人公ってことだもんな。僕がどんなに頑張っても彼女には勝てないのかもしれない。

「ランカ様……」

「え?」

 セリスが目を瞑って唇を突き出してくる。何故かキスの体勢? どうやら、恐怖を感じていたのは演技だったようだ。流石はラスボスで吸血姫だ。余裕がある。

「冗談はよしてよセリス」

「あん! 冗談ではないですよ。わらわはランカ様に惚れてしまっているのですから!」

「はいはい。もう用は済んだから気をつけて帰ってね。あ、あれ? 体に力が」

 セリスから離れてアビゲールを抱き上げる。セリスと話ながら馬車に戻ろうと思ったら体に力が入らなくなってアビゲールを抱えたまま倒れてしまう。駆け寄ってくるセリスとレッドの姿を最後に僕は意識を手放した。
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