上 下
26 / 57
第一章 ゲームの世界へ

第26話 知識

しおりを挟む
「ルガーさん!」

「おお、ランカ君。おかえり」

 ノンナちゃんと出会って街道を一日ほど進んでオルコッドに帰ってきた。傷ついている様子のルガーさんに声をかけると疲れた表情で答えてくれる。やっぱりここにもゾンビの大群が来たんだな。よく見ると城門や壁が傷ついてる。

「ゾンビですか?」

「ああ、よくわかったな。でも安心してくれ。すべて冒険者達と一緒に始末した。アドラーの獅子奮迅の戦うぶりを見せてやりたかった」

 僕の疑問に楽しそうに答えるルガーさん。アドラーさんの戦い方は鉱山で見たから知ってる。動きの遅いゾンビ達じゃ一方的だっただろうな。

「ん? おお、ランカ達は外にいたのか。どおりで見かけなかったわけだ」

 ルガーさんと話していると松葉づえをついて歩いてくるオスターが声をかけてきた。弓を肩にかけて自信が満ち満ちてる。ゾンビ達を沢山倒したのかな?

「ルドマンの弓でゾンビどもを蹴散らしたんだぜ! 結構様になってるだろ?」

「ふむ、自慢しなければ一人前なんじゃがな」

 ルドマンさんに弓を構えて報告するオスター。彼の言葉に頭を掻くオスターは恥ずかしそうに弓をしまった。

「手厳しいな~。流石は職人だ。おっと、ギルドに帰って魔物はいなくなったって報告してこないとな。じゃあなランカ。みんなも無事でよかったぜ。アドラーもミレドも心配してたから無事だって伝えておくからな」

 オスターはそう言って冒険者ギルドへ歩いていく。行く手間が省けたな。

「お母さんやお父さんがいる?」

 ルガーさんに別れを告げて町の中に入る。
 馬車から降りてくるノンナちゃんが、心配そうにあたりを見回して呟く。三人が集まると今以上の死霊が集まっちゃうんだよな。という事はこの町には既にいないかもな。

「悲しすぎるわ。親子が会えないような呪いなんて。どうにかならないの?」

「ん~、できなくもないんだけど」

 レッドが悲しそうに話す。僕は考え込んで呟く。
 ノンナちゃんの呪い【死霊体】はエリクサーで治る。ラストエリクサーでも治るはずだ。だけど、根本的な解決にならない。

「……私の一族は死霊術を使って地位を築きました。沢山の死霊を操って私利私欲の限りを尽くしたらしいです。そして、呪われました……。おじいちゃんもその前のおじいちゃんもずっと呪われてて」

「難儀じゃな」

 ノンナちゃんの説明を聞いてルドマンさんがため息をつく。

「とりあえず、ガーフさんの宿屋に行こう」

「うむ、では儂は店に戻るぞ。早速Aランクの装備を沢山こさえておく。兵士達や冒険者達に作ってやっておかんといかんからな」

 立ち話もなんだから宿屋に戻る。ルドマンさんは早速装備を作るみたいだな。彼も40レベルになったからな。これでまた町の防衛力が上がるな。
 ノンナちゃんの強制クエストには必須だ。すぐにでもやってもらいたいことだな。

「おお、おかえり。どうだった?」

「ただいま戻りました。いや、大変でしたよ……」

 ガーフさんの宿屋について、心配そうに聞いてくるガーフさんに話す。話を聞くとスズさんも心配してくれてアスノ君の頭を撫でてくれる。

「大変だったね~。早速ご飯にするかい?」

「じゃあ、お願いします。それとこの子も泊まる予定なので」

「あいよ」

 銅貨を手渡してノンナちゃんに視線を向ける。スズさんは頷いて受け取るとすぐに厨房に入っていく。
 僕らの部屋は予め多めにお金を払っている。別の部屋になるのも面倒だもんな。一度、部屋に戻って荷物や軽く体を拭う。服の中にも返り血が入っていたみたいで所々赤黒くなってる。

「ランカ。入るわよ」

「あ!? ちょっと!?」

 もう着替えてきたレッドが急に入ってくる。彼女は半裸状態な僕に構わずにベッドに座る。

「ノンナちゃんの呪いはラストエリクサーで治るの?」

「レッドは気づいちゃったか」

 レッドは少し顔を赤くしながら聞いてくる。綺麗な服に着替えながら答えると僕は大きなため息をついた。

「治さないの?」

「治るけど、治らないんだ」

「治らない?」

 レッドの疑問に答えると彼女は首を傾げる。

「あの呪いは一族にかけられているものなんだ。ノンナちゃん達に今もなおかけている者がいる。それを倒さないと少しすると呪いが復活しちゃうんだよ」

「なるほど、ラストエリクサーが無駄になるだけってことね」

 察しのいい彼女に頷いて答える。

「その呪いをかけている者っていうのはどこにいるの?」

「……倒したい?」

「倒したいわ。ダメなの?」

 レッドが握りこぶしを作りながら聞いてくる。僕は表情を歪めて聞き返すと彼女は当たり前と言わんばかりに応えた。僕の表情を見て首を傾げてくる彼女は可愛らしい。
 僕はなんでけげんな表情かというと、その魔物と戦いたくないからだ。まず、経験値が入らない。さらに報酬がもらえないし、戦利品ももらえない。そして、最大の難点がその呪いをかけてきている者だ。

「あと二度の防衛線をしないといけないんだ」

「え? あと二回戦わないといけないってこと?」

 ルドマンさんに早く武具を作ってほしいと思ったのはこのことだ。ルガーさん達兵士達とアドラーさん達冒険者、みんなの装備を強くして僕が戦わなくてもいいくらいの力をつけてほしかった。人死にを出さないようにね。

「でも、それなら簡単じゃない? 私とアドラーが」

「……そんな単純じゃないんだ」

 ただ倒すだけなら僕たちだけで1万のゾンビを倒して見せる。だけど違う……、プレイヤーがみんなこの強制クエストを嫌った理由がここにある。僕もトラウマになってる。

「彼女の一族があの中にいるんだ」

「え!? 一族って……両親?」

「いや、その前の一族だよ」

 僕の言葉に驚くレッド。
 おじいちゃんやその前のおじいちゃんやおばあちゃん。ノンナちゃんの一族に関わった者達の亡骸があのゾンビやグール達。そのゾンビやグールを探し出して倒す。そうすると親玉の、呪いをかけてきている張本人が出てくる。こいつが曲者だ。

「すべてのノンナちゃんの一族のゾンビやグールを倒すと現れるんだ。【グレーターリッチ】がね」

「グレーターリッチ!?」

 驚くレッドを他所に僕は考え込む。今の装備でグレーターリッチを倒せるだろうか? 僕らもすぐに装備を整えた方がいいかもしれないな。特にレッドの装備を、

「……ランカはなんでそんなことまで知っているの?」

「あ!?」

 レッドが僕を見つめて疑問を投げかけてくる。彼女を信頼するあまり、知ってることを全部話してしまった。まるでプレイヤー同士みたいに。

「か、勘だよ勘。だから信じなくていいよ~。さぁ~って食堂に行こう。みんなが待ってるよ~。あぁ~お腹空いた~」

「……」

 冷や汗をかきながら呟く僕。ジト目で見つめてくるレッドを他所に食堂に戻る。食事をしている間もずっと見てきてた。完全に怪しまれてる。どうしよう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

[完結]回復魔法しか使えない私が勇者パーティを追放されたが他の魔法を覚えたら最強魔法使いになりました

mikadozero
ファンタジー
3月19日 HOTランキング4位ありがとうございます。三月二十日HOTランキング2位ありがとうございます。 ーーーーーーーーーーーーー エマは突然勇者パーティから「お前はパーティを抜けろ」と言われて追放されたエマは生きる希望を失う。 そんなところにある老人が助け舟を出す。 そのチャンスをエマは自分のものに変えようと努力をする。 努力をすると、結果がついてくるそう思い毎日を過ごしていた。 エマは一人前の冒険者になろうとしていたのだった。

この世界はバグで溢れているのでパーティに捨石にされた俺はそのバグを利用して成り上がります

かにくくり
ファンタジー
冒険者マール・デ・バーグは、同期の仲間がレベル30まで上昇する中、未だにレベルが10までしか上がっていない落ちこぼれ冒険者だった。 ある日強敵を前に仲間達に捨石にされ、モンスターに殺されかける。 その時マールは走馬灯と共に前世の記憶を思い出す。 その前世はゲーム好きの日本の高校生で、自分は当時プレイしていたバグまみれで有名なRPG、ファンタシー・オブ・ザ・ウィンドの世界に転生してしまった事に気付く。 この世界では原作で発生するバグも完璧に再現されているようだ。 絶体絶命というところを女勇者ユフィーアに助けられるが、何故かそのまま勇者に惚れられてしまう。 これもバグか? どうせ自分は真っ当に経験を積んでもこれ以上レベルが上がらないバグったキャラクターだ。 仕方ないので勇者と一緒にバグ技を駆使して成り上がります。 ※作中で使用したバグ技の元ネタとか当ててみて下さい(@'-')b ※時間差で小説家になろうにも掲載しています。

転生した体のスペックがチート

モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。 目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい このサイトでは10話まで投稿しています。 続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!

貴族に転生してユニークスキル【迷宮】を獲得した俺は、次の人生こそ誰よりも幸せになることを目指す

名無し
ファンタジー
両親に愛されなかったことの不満を抱えながら交通事故で亡くなった主人公。気が付いたとき、彼は貴族の長男ルーフ・ベルシュタインとして転生しており、家族から愛されて育っていた。ルーフはこの幸せを手放したくなくて、前世で両親を憎んで自堕落な生き方をしてきたことを悔い改め、この異世界では後悔しないように高みを目指して生きようと誓うのだった。

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

異世界キャンパー~無敵テントで気ままなキャンプ飯スローライフ?

夢・風魔
ファンタジー
仕事の疲れを癒すためにソロキャンを始めた神楽拓海。 気づけばキャンプグッズ一式と一緒に、見知らぬ森の中へ。 落ち着くためにキャンプ飯を作っていると、そこへ四人の老人が現れた。 彼らはこの世界の神。 キャンプ飯と、見知らぬ老人にも親切にするタクミを気に入った神々は、彼に加護を授ける。 ここに──伝説のドラゴンをもぶん殴れるテントを手に、伝説のドラゴンの牙すら通さない最強の肉体を得たキャンパーが誕生する。 「せっかく異世界に来たんなら、仕事のことも忘れて世界中をキャンプしまくろう!」

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

処理中です...