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第一章 ゲームの世界へ
第21話 ニールキャニオン
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「とうちゃ~く」
野営を終えて次の日の朝。少し街道を進むと峡谷が現れた。特徴的な赤土の峡谷、いつ落ちるかもわからないつり橋が人里から離れているのを強調してくる。馬車じゃ渡れないな。
「ここなら魔物も来ないかな」
「ん、それでもあまり離れないようにしないとダメだ。馬が襲われないように」
馬車から降りて声をあげるとレッドが答えてくれる。なるべく離れない方がいいってことか。
「峡谷には数多くの横穴が出来てる。昔起きた、人とドラゴンとの戦争で出来た穴らしいわ。ワイバーンはドラゴンの奴隷として戦わされて、戦争が終わってもこの地に縛られてる」
レッドはこの地の歴史も知っているみたいだ。魔物たちは空気中のマナが集まってできてるから、普通は別の魔物が生まれてもいいはず。ワイバーンしか生まれなくなっているって、ことはドラゴンがそうなるように制御してるってことだよな。それって神と言っても過言じゃないのかな?
「凄いですね。この地を支配してるってことですもんね」
「支配!?」
アスノ君の話を聞いてポンと手を叩く。アルステードオンラインではフィールドを支配することが出来る。お金とマナを【フィールドクリスタル】と言われる水晶にその二つを吸収させて土地をいじくることが出来る。まさか、そのシステムまで現実化しているとは……アルステードさんって廃ゲーマーなのか?
「お~い、あの穴か?」
考え込んでいるとルドマンさんがつり橋から下を覗いて声をあげる。魔物が周りに見えないと言っても大きな声は危ないんじゃないかな?
「!? ルドマン! 下がれ!」
「ん? なんじゃ? うお!? ワイバーン!?」
レッドが叫ぶと峡谷の中からワイバーンが飛び上がる。僕らを見下ろすと爪と牙を見せてくる。
「ルドマンさんナイス!」
ドタドタと走って逃げてくるルドマンさんに声をあげる。
わざわざ穴に行かなくてもとりあえず魔物狩りが出来る。本当は寝てるところを一網打尽にしたかったんだけどね。
「待て人間!」
「へ? しゃ、喋れるの?」
話しかけてくるワイバーンに驚愕して声をあげる。
ワイバーンは普通青い色をしている魔物のはず、このしゃべるワイバーンは赤い。フィールドボスのビッグワイバーンでもない。突然変異種はフィールドボスだけのはずなんだけど、どういうことだ?
「私はこの群れを束ねている者だ」
「は、はぁ?」
ワイバーンはつり橋の柱を止まり木にして話しかけてくる。首を傾げるとマネをしてきてワイバーンも首を傾げる。
「私の話を聞いてくれる人を待っていた。話を聞かずに攻撃してきたものもいたが逃げることで争いは防げる。私達は空を飛べるから」
なるほど、僕ら以外にも話しかけようと努力したのか。
「私たちは争いを好まない。人を食べることはない。森には豊富な木の実もあるからな」
「は、はぁ? 肉食じゃないのか」
「肉も食べたいとは思うが争いになるのならいらん」
平和主義者な魔物か、現実になると色んな人や魔物が生まれるんだな……。でも、なんでそれで僕らに話をしに来たんだ?
「えっと、僕らに何を求めて話しかけてきたの? 立ち去れとかそう言う話?」
質問をするとワイバーンは首を傾げる。
「私がお前達に命令できる立場ではない。立ち去れとは言えん」
「え? は、はぁ?」
目的が分からないな~。なんなんだろうか?
「えっと、僕らも忙しいんだけど」
「そうなのか? うむ」
もしかしてこの子は遅延行為をしたいだけなのか? 誰かを逃がしているとか?
「人よ。名前を教えてくれないか?」
「え? 名前ね。ランカだよ」
「ランカか。そっちの人らは?」
名前を聞いてくるワイバーン。僕が答えるとアスノ君達の名前を知りたがり、それぞれ答えると満足するように微笑む。
「君たちの名前は?」
「名? 私達に名はない。ただうっすらと”五十”という文字が見えるのみ」
50? そうか、魔物は個体名に数字が刻まれるだけ。ワイバーンの50番目の個体ってことだ。それ以上の名前はないんだな。少し悲しい話だ。
「それなら師匠が名前を付ければいいんじゃないですか?」
「おお、つけてくれるのか」
アスノ君の声にワイバーンが瞳を輝かせる。純粋でキラキラと光る瞳でお願いされると断れないな~。あんまり名前を考えるの苦手なんだけどな~。
「ん~、変なのでも怒らないでよ?」
ワイバーンの名前か~。ワイバーンって見た目小さなドラゴンだよな~。小さなドラゴン、リトルドラゴン?
「リトル……リトルなんてどうかな?」
「リトル? それが私の名か!」
名前を告げるとワイバーンは嬉しそうに声をあげる。
「私の名を知り、ランカの名も知った。これで我らは友?」
「え? 友?」
「ち、違うのか?」
嬉しそうに話すリトル。聞いてくるものだから首を傾げて答えるとしょんぼりと首を垂れた。もしかして、友達を作りたかったのか?
「友となればともにこの地を荒らす者たちを退治できると思ったのだが、駄目であったか」
リトルは残念そうに呟く。やっぱりそう言う事か。友達を、仲間を作って一緒に戦ってほしかったのか。可笑しな会話を続けていたのはそういうことか、って不器用すぎ。
「では邪魔をしたなランカ。私達はお前たちを攻撃することはない。友だからな」
リトルがそう言って飛び立つ。すると少し遠くからもワイバーンが群れで現れる。
「な! 別の者達か! 皆逃げるのだ。森へ向かえ」
リトルがそう言うと彼の仲間達が【隠遁の森】の方角に逃げていく。リトルはここに残るのか。
「時間を稼ぐ!」
「じゃあ、手伝うよ。僕らは経験値が欲しいからね」
「おお! ありがたい」
まさかの魔物との共闘が実現した。ゲームの中じゃ、一生実現しなかっただろうな。
野営を終えて次の日の朝。少し街道を進むと峡谷が現れた。特徴的な赤土の峡谷、いつ落ちるかもわからないつり橋が人里から離れているのを強調してくる。馬車じゃ渡れないな。
「ここなら魔物も来ないかな」
「ん、それでもあまり離れないようにしないとダメだ。馬が襲われないように」
馬車から降りて声をあげるとレッドが答えてくれる。なるべく離れない方がいいってことか。
「峡谷には数多くの横穴が出来てる。昔起きた、人とドラゴンとの戦争で出来た穴らしいわ。ワイバーンはドラゴンの奴隷として戦わされて、戦争が終わってもこの地に縛られてる」
レッドはこの地の歴史も知っているみたいだ。魔物たちは空気中のマナが集まってできてるから、普通は別の魔物が生まれてもいいはず。ワイバーンしか生まれなくなっているって、ことはドラゴンがそうなるように制御してるってことだよな。それって神と言っても過言じゃないのかな?
「凄いですね。この地を支配してるってことですもんね」
「支配!?」
アスノ君の話を聞いてポンと手を叩く。アルステードオンラインではフィールドを支配することが出来る。お金とマナを【フィールドクリスタル】と言われる水晶にその二つを吸収させて土地をいじくることが出来る。まさか、そのシステムまで現実化しているとは……アルステードさんって廃ゲーマーなのか?
「お~い、あの穴か?」
考え込んでいるとルドマンさんがつり橋から下を覗いて声をあげる。魔物が周りに見えないと言っても大きな声は危ないんじゃないかな?
「!? ルドマン! 下がれ!」
「ん? なんじゃ? うお!? ワイバーン!?」
レッドが叫ぶと峡谷の中からワイバーンが飛び上がる。僕らを見下ろすと爪と牙を見せてくる。
「ルドマンさんナイス!」
ドタドタと走って逃げてくるルドマンさんに声をあげる。
わざわざ穴に行かなくてもとりあえず魔物狩りが出来る。本当は寝てるところを一網打尽にしたかったんだけどね。
「待て人間!」
「へ? しゃ、喋れるの?」
話しかけてくるワイバーンに驚愕して声をあげる。
ワイバーンは普通青い色をしている魔物のはず、このしゃべるワイバーンは赤い。フィールドボスのビッグワイバーンでもない。突然変異種はフィールドボスだけのはずなんだけど、どういうことだ?
「私はこの群れを束ねている者だ」
「は、はぁ?」
ワイバーンはつり橋の柱を止まり木にして話しかけてくる。首を傾げるとマネをしてきてワイバーンも首を傾げる。
「私の話を聞いてくれる人を待っていた。話を聞かずに攻撃してきたものもいたが逃げることで争いは防げる。私達は空を飛べるから」
なるほど、僕ら以外にも話しかけようと努力したのか。
「私たちは争いを好まない。人を食べることはない。森には豊富な木の実もあるからな」
「は、はぁ? 肉食じゃないのか」
「肉も食べたいとは思うが争いになるのならいらん」
平和主義者な魔物か、現実になると色んな人や魔物が生まれるんだな……。でも、なんでそれで僕らに話をしに来たんだ?
「えっと、僕らに何を求めて話しかけてきたの? 立ち去れとかそう言う話?」
質問をするとワイバーンは首を傾げる。
「私がお前達に命令できる立場ではない。立ち去れとは言えん」
「え? は、はぁ?」
目的が分からないな~。なんなんだろうか?
「えっと、僕らも忙しいんだけど」
「そうなのか? うむ」
もしかしてこの子は遅延行為をしたいだけなのか? 誰かを逃がしているとか?
「人よ。名前を教えてくれないか?」
「え? 名前ね。ランカだよ」
「ランカか。そっちの人らは?」
名前を聞いてくるワイバーン。僕が答えるとアスノ君達の名前を知りたがり、それぞれ答えると満足するように微笑む。
「君たちの名前は?」
「名? 私達に名はない。ただうっすらと”五十”という文字が見えるのみ」
50? そうか、魔物は個体名に数字が刻まれるだけ。ワイバーンの50番目の個体ってことだ。それ以上の名前はないんだな。少し悲しい話だ。
「それなら師匠が名前を付ければいいんじゃないですか?」
「おお、つけてくれるのか」
アスノ君の声にワイバーンが瞳を輝かせる。純粋でキラキラと光る瞳でお願いされると断れないな~。あんまり名前を考えるの苦手なんだけどな~。
「ん~、変なのでも怒らないでよ?」
ワイバーンの名前か~。ワイバーンって見た目小さなドラゴンだよな~。小さなドラゴン、リトルドラゴン?
「リトル……リトルなんてどうかな?」
「リトル? それが私の名か!」
名前を告げるとワイバーンは嬉しそうに声をあげる。
「私の名を知り、ランカの名も知った。これで我らは友?」
「え? 友?」
「ち、違うのか?」
嬉しそうに話すリトル。聞いてくるものだから首を傾げて答えるとしょんぼりと首を垂れた。もしかして、友達を作りたかったのか?
「友となればともにこの地を荒らす者たちを退治できると思ったのだが、駄目であったか」
リトルは残念そうに呟く。やっぱりそう言う事か。友達を、仲間を作って一緒に戦ってほしかったのか。可笑しな会話を続けていたのはそういうことか、って不器用すぎ。
「では邪魔をしたなランカ。私達はお前たちを攻撃することはない。友だからな」
リトルがそう言って飛び立つ。すると少し遠くからもワイバーンが群れで現れる。
「な! 別の者達か! 皆逃げるのだ。森へ向かえ」
リトルがそう言うと彼の仲間達が【隠遁の森】の方角に逃げていく。リトルはここに残るのか。
「時間を稼ぐ!」
「じゃあ、手伝うよ。僕らは経験値が欲しいからね」
「おお! ありがたい」
まさかの魔物との共闘が実現した。ゲームの中じゃ、一生実現しなかっただろうな。
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