上 下
20 / 57
第一章 ゲームの世界へ

第20話 旅立ち

しおりを挟む
「じゃあみんな出発するよ~」

「「「は~い」おう」」

 馬車を買って次の日。早起きして馬車に乗り込む。帆馬車の中からルガーさんに手を振って出発。

「朝も早いので、何かあったらすぐに起こしますから寝ててもいいですよ~」

「そう言うわけにもいかないよ」

 御者席からアスノ君が気を使ってくれる。それにこたえて彼の隣に座る。歩くと走るの間位の速度の風が頬をかすめる。いい天気だし、旅日和だな。

「大きな森に入るまでは何もないゆっくり行こう」

 馬車の中でそういうレッド。ルドマンさんも頷いてる。
 ニールキャニオンの方角の森と言ったら【隠遁の森】か。静かだけど視線を感じる森だ。ゲームの時は何もなかったけど、あの視線の正体が拝めるかもな。

「見えてきた」

 しばらく街道を進んでいくと街道を覆い隠す様に現れた森。濃い緑色の森は何か出そうで怖くなってくる。

「フクロウかな?」

「ホ~ホ~」

「ははは、うまいうまい」

 森の中を進む馬車の中。フクロウの鳴き声に反応するとアスノ君が真似して見せる。やっぱり視線を感じるけど、見回しても特に気になるものは見えない。フクロウの姿も見えない、鳴き声だけだ。

「魔物もいない森、不思議」

 森を無事に抜けてレッドが呟く。本当に何もなかったな。そう思っていると街道の先にオークが三体見える。レッドとルドマンさんに視線を送ると頷いて答えてくれる。

「アスノ君は休んでて」

「はい! 皆さん頑張って」

 馬車から降りて剣を構える。二人も剣を構えるとオークたちも僕らに気が付いて片手斧を構えてくる。
 
「一人一体ね」

「「おう」ん」

 人差し指をたてて二人に言うと早々にレッドが駆けていく。彼女がオークたちを通り過ぎるとやつらはレッドに走り出す。女性だから惹きつけられるのかもな。野蛮な奴らだから。

「や!」

「どっこいせ!」

 僕らに背中を見せてきたからすかさず近づいて剣を振り下ろす。一撃で倒し終わるとルドマンさんとハイタッチで喜ぶ。

「難なく倒せたね」

「はは、レッドのおかげだよ」

 二人で喜んでいる間にレッドもオークの首を切り落としていた。流石と言うかなんというか。

「オークは豚の肉を落とすんだよな~」

 戦利品と半透明の戦利品が肉の塊。装備を持っていたのにそれは落とさないんだな。装備を無くそうと徹底してるな。今の所、装備を落としたのはゴブリンのこん棒と木の盾か。共通して言えるのは木っていう所かな。

「野営の時に食べよう」

「ん、美味しいよ。王都ではミノタウロスの戦利品の方が人気だけど」

 僕の提案を聞いてレッドが教えてくれる。
 ミノタウロスって事は牛肉かな? ミノタウロスはかなり上位の魔物だ。Aランクだったかな。近いうちに会いたい魔物だな。

「そろそろ見えてきますよ~」
 
 オークを倒してしばらく街道を進んでいるとオレンジ色の岩肌が見えてくる。草木が急になくなって可笑しな感じだな。ここら辺はゲームの世界を思わせてくる。

「夕日が落ちかかってる。今日はここで野営かな」

 草木が無くなる境界線で野営をすることにした。馬に水とニンジンを食べさせて僕らは焚火をつける。そして、お待ちかねの豚肉をフライパンで焼いていく。お昼はガーフさんに作ってもらったお弁当を食べた、凄く美味しかったけど、それを超えられるかな。

「う、うまいぞ~!」

「ほ、ほんと美味しい」

 ルドマンさんと一緒に声をあげる。
 白米の代わりに白いパンも取り出して、焼いた肉をパンと一緒に口に入れる。塩を振っただけの豚肉はパンともよく合う。まあ本音を言うと白米が欲しい所だけどね。
 ガーフさんには悪いけど、やっぱり出来立ての方が美味しいな。

「え? 私とアスノ君が馬車でいいの?」

「はい。御者をしていたアスノ君と女性のレッドが妥当でしょ」

 豚肉を堪能してお腹いっぱいになると眠る準備をする。レッドが首を傾げて問いかけてくる。僕の話を聞くと悩みだしてしまう。

「騎士になった時から女というのは捨てたんだが……」

 どうやら、彼女のプライドみたいなのを傷つけてしまったみたいだな。ちゃんと言葉を選ばないとダメだったか。

「レッドは僕らの中で一番強いでしょ? だから馬車で万全な状態を保ってほしいんだ。見張りは僕とルドマンさんでやるからさ」

「……そう言う事にしておく。でも、次からは私も見張りをするよ。いいね?」

 僕の説得を聞いて言葉を返すと彼女は馬車に乗り込んでくれる。アスノ君も乗るとルドマンさんが見張りに立った。

「若い頃のようでワクワクするの~」

 ルドマンさんは楽しそうに見張りに立つ。彼にとっては楽しい旅になってるみたいだ。なんか嬉しい。
 僕は地べたに布を引いて仮眠をとる。月が真上に来たら起こしてもらう予定だ。

「ランカ。起きてくれ。交代の時間だ」

「はっ!?」

 その時間はすぐにやってくる。ルドマンさんに起こされて飛び起きる。彼も流石に眠そうに目をこすっている。

「ふぁ~……。現実になると大変だな~」

 ルドマンさんが横になるのを見届けて見張りに立つ。ゲームだとこんな時間もない。夜もレベル上げという狩りを続けていたからな~。ゲーム内の時間なんてあっという間だからね。

「少し冷えてきた。こういうのも現実ならではだな」

 夜は昼よりも気温が低くなる。日本にいるとあまり感じない気温の変化だな。最近は本当に熱いままだったからな~。羽織れる布は多めにインベントリに入れておいてある。旅の準備は万端だ。羽織ってあたりを見張るけれど、何も見られない。

「は~、大きな月」

 ビッグムーンとでも言うべきだろうか。まるで落ちてくるんじゃないかと見まごう月だ。満月というのもあって余計に目立つ。

「月が綺麗ね」

「レッド?」

 月を見上げているとレッドが馬車から降りてきて声をかけてくる。鎧を脱いだ彼女は寝巻に着替えていて、少し寒そうだ。

「眠れないの?」

 声をかけながら布を羽織らせる。彼女は軽く『ありがと』というとその場に座り込む。

「ふふ、アスノ君が眠るのを待ってたんだ。あなたと話したくてね」

「え?」

 クスクスと笑うレッド。その言葉にドキッとしてしまう。

「弟の為にラストエリクサーを作ってくれたんでしょ、ありがと」

 布を羽織って、温かくなったのか彼女は顔を赤くさせてお礼を言ってくる。

「ああ~、そのことでか。ははは、びっくりした」

「え? びっくり?」

 なんだと思って声を漏らすとレッドは赤い顔を近づけてくる。

「ち、近いですレッドさん……」

「あ、ごめんなさい」

 のけぞりながら声を漏らすと彼女は恥ずかしそうにそっぽを向いた。思わず”さん”なんて言ってしまった。

「あなたって不思議な人ね」

 レッドはそう言うと立ち上がる。

「そうかな?」

「そうよ。だって、誰よりもこの世界を知っているみたいなんだもの。私の弟の事とか」

 否定しようと思ったら肯定されてしまう。気のせいかレッドはいつもの口調じゃないな。女の子のような喋り方になっている。って女の子なんだからそりゃそうか。

「今回の【ニールキャニオン】のこともそうでしょ? レベル上げに適しているなんて誰も思わない。来ようとも思わないわ。危険だから」

 彼女の言葉にうなずく。
 ニールキャニオンのワイバーンは確かに危険な魔物だ。群れでいることも多いから、脅威度がランクで記せるならAランクと言ったところか。

「群れでいるからこそレベル上げにいいんだ」

「ふふ、本当に不思議。まるで見てきたみたいに言うのね」

 僕の言葉に彼女は鋭く指摘してくる。何度も見てるんだよな~。洞穴の中に蝙蝠のように逆さで眠るワイバーンの群れをね。

「そろそろ私も寝るね。おやすみなさい」

「おやすみ」

 女性らしく小さく手を振って馬車に戻っていくレッド。可愛らしい彼女に見惚れながら僕も手を振ってこたえた。あこがれのレッドと同じ空間にいるんだな。再度、ゲームの世界が現実になったんだと理解する夜だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

[完結]回復魔法しか使えない私が勇者パーティを追放されたが他の魔法を覚えたら最強魔法使いになりました

mikadozero
ファンタジー
3月19日 HOTランキング4位ありがとうございます。三月二十日HOTランキング2位ありがとうございます。 ーーーーーーーーーーーーー エマは突然勇者パーティから「お前はパーティを抜けろ」と言われて追放されたエマは生きる希望を失う。 そんなところにある老人が助け舟を出す。 そのチャンスをエマは自分のものに変えようと努力をする。 努力をすると、結果がついてくるそう思い毎日を過ごしていた。 エマは一人前の冒険者になろうとしていたのだった。

この世界はバグで溢れているのでパーティに捨石にされた俺はそのバグを利用して成り上がります

かにくくり
ファンタジー
冒険者マール・デ・バーグは、同期の仲間がレベル30まで上昇する中、未だにレベルが10までしか上がっていない落ちこぼれ冒険者だった。 ある日強敵を前に仲間達に捨石にされ、モンスターに殺されかける。 その時マールは走馬灯と共に前世の記憶を思い出す。 その前世はゲーム好きの日本の高校生で、自分は当時プレイしていたバグまみれで有名なRPG、ファンタシー・オブ・ザ・ウィンドの世界に転生してしまった事に気付く。 この世界では原作で発生するバグも完璧に再現されているようだ。 絶体絶命というところを女勇者ユフィーアに助けられるが、何故かそのまま勇者に惚れられてしまう。 これもバグか? どうせ自分は真っ当に経験を積んでもこれ以上レベルが上がらないバグったキャラクターだ。 仕方ないので勇者と一緒にバグ技を駆使して成り上がります。 ※作中で使用したバグ技の元ネタとか当ててみて下さい(@'-')b ※時間差で小説家になろうにも掲載しています。

転生した体のスペックがチート

モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。 目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい このサイトでは10話まで投稿しています。 続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!

貴族に転生してユニークスキル【迷宮】を獲得した俺は、次の人生こそ誰よりも幸せになることを目指す

名無し
ファンタジー
両親に愛されなかったことの不満を抱えながら交通事故で亡くなった主人公。気が付いたとき、彼は貴族の長男ルーフ・ベルシュタインとして転生しており、家族から愛されて育っていた。ルーフはこの幸せを手放したくなくて、前世で両親を憎んで自堕落な生き方をしてきたことを悔い改め、この異世界では後悔しないように高みを目指して生きようと誓うのだった。

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

異世界キャンパー~無敵テントで気ままなキャンプ飯スローライフ?

夢・風魔
ファンタジー
仕事の疲れを癒すためにソロキャンを始めた神楽拓海。 気づけばキャンプグッズ一式と一緒に、見知らぬ森の中へ。 落ち着くためにキャンプ飯を作っていると、そこへ四人の老人が現れた。 彼らはこの世界の神。 キャンプ飯と、見知らぬ老人にも親切にするタクミを気に入った神々は、彼に加護を授ける。 ここに──伝説のドラゴンをもぶん殴れるテントを手に、伝説のドラゴンの牙すら通さない最強の肉体を得たキャンパーが誕生する。 「せっかく異世界に来たんなら、仕事のことも忘れて世界中をキャンプしまくろう!」

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

処理中です...