ラストダンジョンをクリアしたら異世界転移! バグもそのままのゲームの世界は僕に優しいようだ

カムイイムカ(神威異夢華)

文字の大きさ
上 下
11 / 57
第一章 ゲームの世界へ

第11話 帰還

しおりを挟む
「お~う。飲んでるか君達~」

「僕は飲んでますけど、アスノ君はまだ未成年なので」

「おいおい、硬いこと言うなよ。飲んでない子を眠らせないなんてどんな拷問だ~い?」

 オスターを救出して帰ってくると、アドラーさん達に飲みの席に連れてこられた。ドーシャさんがウザ絡みしてきてお酒臭い口を近づけてくる。

「気をつけろよランカ。こいつキスの魔物だから」

「あ~? 私からのキスなんだから気をつけろじゃねえだろルッカ~。まずはお前から私の口で黙らせてやる!」

「わ~やめろ。俺には妻が」

 ドーシャさんが詰めよってぶっちゅ~と音が聞こえる程、口を吸われてるルッカさん。妻がいるのに容赦ないな~。泥酔者に近づいちゃダメだな。

「師匠~。もう行きましょう。早く武器を作らないと」

「ああ、そうだね。って僕は少し飲んでるからそんなに急がないで」

 アスノ君が引っ張ってくる。みんなには軽く挨拶をして冒険者ギルドから外に出る。

「師匠~。早く師匠の武器が見たいです!」

「あ、ああ、すぐに作るよ。ってアスノ君もレベルが上がっただろ。君も作らないと」

「え~、僕はいいんですよ。どうせ碌なものできませんから」

 あれ? なんかアスノ君の様子がおかしい。王都で何かあったのか? そういえば、彼は王都の【セントラルアルステード】にいるはずなんだよな。

「アスノ君はなんでオルコッドに来てたんだっけ?」

 手を引っ張ってくるアスノ君に質問する。すると手を離してその場に座り込んだ。

「僕……Fランクの武具しか作れなくて……」

「え? F?」

 武具のランクはEまでしかない。その下があるなんて聞いたことがないぞ。

「僕に作らせる鉄はないって言われて追い出されたんです……」

 なるほど、それでオルコッドのルドマンさんのところに来て一から始めようとしたわけね。

「僕なんかいなくていいんだ……」

「はぁ~。何言ってんだよアスノ君」

 座り込むアスノ君の肩に手を乗せて声をあげる。涙目で僕を見つめる彼にニッコリと笑って見せる。

「オスターを助けたのはアドラーさんだったけど、僕らがいなかったら大変なことになってただろ?」

「……師匠の武器があったからです。僕なんか……」

「はいはい。なんかとか言わない。君には君にしかできないことがあるんだよ。ほら」

「え!? これってミスリル?」

 アイテム合成で作っておいた。近くの森のビッグスライム、やつがいなくなっちゃ困る理由がミスリルにある。
 聖水と鉄をアイテム合成するとミスリルに変化するのだ。その為に近くの森に通っていたといっても過言じゃない。

「ぼ、僕がミスリルを?」

「そういうこと」

「……」

 輝くミスリルインゴットを見て落胆するアスノ君。自分にはもったいないと思っちゃってるのかもな。でも、やってもらわないと困るぞ、なんて言っても君は【ミスリルのアスノ】なんだからさ。

「アスノ君。君が作らないとミスリルがもったいないんだよ」

「……」

「……君だけにしか作れないものがあるんだ。僕に見せてほしい。ダメかな?」

 優しく諭す。だけど、彼は顔をあげることはなかった。トラウマはそんな簡単に払しょくできるものじゃないか。無理にやらせるのも違う、一緒に生活して、やる気になったらやってもらうしかないな。

「分かったよアスノ君。やりたくなったらでいいよ」

「……むにゃむにゃ。ス~ス~……」

「え?」

 ミスリルインゴットがアスノ君の手から落ちて音を立てる。それと同時にアスノ君の寝息が聞こえてきた。どうやら、彼にお酒を飲ませた人がいるみたいだ。通りで様子がおかしいと思った。
 日頃は前しか向かないアスノ君が後ろばかり気にしていたもんな。

「はぁ~、しょうがない。どっこいしょ。ミスリルのアスノの装備は明日だな」

 アスノ君をお姫様抱っこして呟く。よく見ると顔が赤くなってるな。ドーシャさんが飲ませたのかもな。

「ら、ランカ……」

「え? ああ、オスター」

 宿屋へと戻ろうと歩き出すとオスターが後ろから声をかけてきた。松葉杖をうまく使って歩いてきたのか。彼は冒険者は引退になっちゃうだろうな。両脚を傷つけられていたみたいだから。
 ゴブリンは本当に狡猾だった。罠に使うオスターを動けなくして部屋に入ったらすべての通路からなだれ込む。普通のパーティーだったら全滅だよ。
 アドラーさんみたいな一騎当千な人か、僕みたいなからめ手を隠し持ってる人とかがいなかったらね。

「初めて会った時に絡んですまなかった。それと今回の救出に参加してくれてありがとう。そ、それだけだからじゃあな」

「あ、うん……。恥ずかしいのかな」

 素直に謝ってくるオスター。そそくさといなくなる彼の背中に呟くと声は虚空に消える。

「はは、オスターが珍しく素直だ」

 オスターがいなくなるとアドラーさんが声をかけてきた。

「今回助かった。仲間達が全員無事だったのは君のおかげだよ」

「いえ、みんな強くて僕は何も」
 
 彼の言葉に謙遜して俯く。アドラーさんがいればあの場も何とかなったわけだしね。

「君がいなかったらあの場に留まってオスターは殺されていただろう。ありがとう、居てくれて」

「アドラーさん……」

 心優しいアドラーさんはゲームの中でも同じだった。ランダムに話される内容を話すだけの存在だったけれど、その全てが仲間の話だった。
 誰一人かけたくない、そう思った時、僕に頼ってくれたってことか。強い人に頼られるのは悪くない。

「武器も楽しみに待っているよワッカと同じでいいから。ミスリルじゃなくてもいいからね」

「はい……いつから見てたんだ?」

 アドラーさんはそういって冒険者ギルドに戻って行く。アスノ君との会話も全部聞いていたのかな。

「さて、今日は疲れた。僕も寝よう」

「スースー……」

 よっこいしょとアスノ君を持ち上げて宿屋に変える。気持ちよく寝てる彼、王都には見る目のない鍛冶屋がいるんだな。
しおりを挟む
感想 28

あなたにおすすめの小説

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

異世界人生を楽しみたい そのためにも赤ん坊から努力する

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前は朝霧 雷斗(アサギリ ライト) 前世の記憶を持ったまま僕は別の世界に転生した 生まれてからすぐに両親の持っていた本を読み魔法があることを学ぶ 魔力は筋力と同じ、訓練をすれば上達する ということで努力していくことにしました

墓守の荷物持ち 遺体を回収したら世界が変わりました

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前はアレア・バリスタ ポーターとしてパーティーメンバーと一緒にダンジョンに潜っていた いつも通りの階層まで潜るといつもとは違う魔物とあってしまう その魔物は僕らでは勝てない魔物、逃げるために必死に走った だけど仲間に裏切られてしまった 生き残るのに必死なのはわかるけど、僕をおとりにするなんてひどい そんな僕は何とか生き残ってあることに気づくこととなりました

スキル【僕だけの農場】はチートでした~辺境領地を世界で一番住みやすい国にします~

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
旧題:スキル【僕だけの農場】はチートでした なのでお父様の領地を改造していきます!! 僕は異世界転生してしまう 大好きな農場ゲームで、やっと大好きな女の子と結婚まで行ったら過労で死んでしまった 仕事とゲームで過労になってしまったようだ とても可哀そうだと神様が僕だけの農場というスキル、チートを授けてくれた 転生先は貴族と恵まれていると思ったら砂漠と海の領地で作物も育たないダメな領地だった 住民はとてもいい人達で両親もいい人、僕はこの領地をチートの力で一番にしてみせる ◇ HOTランキング一位獲得! 皆さま本当にありがとうございます! 無事に書籍化となり絶賛発売中です よかったら手に取っていただけると嬉しいです これからも日々勉強していきたいと思います ◇ 僕だけの農場二巻発売ということで少しだけウィンたちが前へと進むこととなりました 毎日投稿とはいきませんが少しずつ進んでいきます

巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?

サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。 *この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。 **週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**

社畜おっさんは巻き込まれて異世界!? とにかく生きねばなりません!

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
私の名前はユアサ マモル 14連勤を終えて家に帰ろうと思ったら少女とぶつかってしまった とても人柄のいい奥さんに謝っていると一瞬で周りの景色が変わり 奥さんも少女もいなくなっていた 若者の間で、はやっている話を聞いていた私はすぐに気持ちを切り替えて生きていくことにしました いや~自炊をしていてよかったです

神の加護を受けて異世界に

モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。 その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。 そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

処理中です...