異世界転生！ハイハイからの倍人生

第六章 学園都市ブラウディア

第十一話 鴉

　時は少し戻って。

「ダン！いる？」

　エマはローズ達から解放されてすぐにダンと一緒に止まっていた宿屋へ帰ってきた。

　一緒の部屋で寝泊まりしていたのでその部屋の扉を叩いて叫んでいる。

　いくら叩いても扉の向こうからの返事はなかった。エマはその場に座り込んでしまう。

「ダン、もういないの？」

　エマは座ったまま俯き涙が頬を伝った。

「どうしよう....」

　エマは途方に暮れた。この宿屋を離れてしまったらダンと連絡を取る手段はなくなってしまうと思っているのだ。しかしその心配は無用だった。

「キャ！」

　エマはダンがいつと思われていた部屋へと引き入れられた。エマの叫びは宿屋の廊下に響いたがその声は気にも留められないだろう。ここはそう言う宿屋である。

「エ、エマ！！」
「ダン！」

　引き入れられた部屋でダンは途切れそうな声でエマの名を呼んだ。エマはダンの無残な姿を見て叫ぶ。

　ダンは壁に杭で括り付けられている。鮮血が床に血だまりを作っていた。

「ダン、ダン！！」

　エマはダンに駆け寄りダンに寄り添い泣きじゃくる。そんな姿を見て忍者のような黒ずくめの男が口を開いた。

「お前達は約束を破った。グラーフ様の命令で始末する」
「そ、そんな。私達はちゃんと言われた通りあの坊やにハイオーガをけしかけたわ。約束を守ってるはずよ」

　エマはダンに寄り添いながら主張する。しかし機械的な忍者の男には声は届かずに虚空へと消える。

　じりじりと歩きよる忍者の男は短刀を腰から取り出し逆手で構える。エマは恐怖でその場にへたりこんだ。手はダンの服を掴んで離せないでいた。

「お、俺はどうなってもいい。彼女だけは助けてやってくれ」
「ダン～.....私は、私は...あなたがいなくちゃ..」

　ダンとエマは共に見つめ合う。しかしじりじりと死は近づいてきている。

「別れは済んだようだな。仲良くあの世へ行けるのだ。感謝しろ」

　忍者は声と共に短刀を振り上げる。

　振り上げた短刀をエマとダンは見上げてすぐに目を閉じた。もうお終いだと二人は手を握り合う。








「あれ？」

　目を閉じていつまでたっても衝撃が来ない。だが二人は怖くて目を開けることが出来ない。静けさが部屋を支配してキーンという音が聞こえてきた。そしてしばらくその音が響いてから声が聞こえてくる。

「我を見よ」
「「！？」」

　ダンとエマが目を見開くとそこにはローズ達と一緒にいた黒いドレスを着た女の子が立っていた。ダンとエマはさっきまでいた忍者の男が周りにいないこと確認すると黒いドレスの女の子を見据えた。

「何じゃ？助かったのに礼もなしか？」
「え？」
「あの男[鴉]は？」

　ダンはあの黒ずくめの男を知っていた。

　エグバンの闇の部隊[鴉]。彼らは生まれた時から暗殺を生業として訓練される。彼らを元に戻す事はできない。薬により人格をもたない機械のような物になってしまっているのだ。

　ダンはこんな女の子に倒せる[鴉]ではない事を知っていたので女の子を見て汗を垂らす。

「あんたは？何者なんだ？」
「ふむ、我はヘリアじゃ」

　黒いドレスの女の子ヘリアはローズ達がエマを開放した後すぐにエマをつけていた。そして今に至っている。

　ヘリアは人と言うものをわかっている。必ず任務を達成するか見張りを立てていると思っていたのだ。ヘリアはジーニに褒められたいが為にローズ達の穴を探してここにたどり着いたというわけだ。

「お前達の仲間はすでにローズ達が助けている。すぐにファストへと行くのだな。腕は治してやるが我の回復は少々痛いぞ」
「あぐ...」

　ヘリアはダンの腕を噛んだ。すると噛んだところから腕の先の血管が浮き出ていき杭を弾き飛ばした。ダンの手に空いた風穴が見る見る塞がっていく。

「凄い....」
「う...ぐっ」

　エマは唖然としていたがダンは苦痛で顔を歪めた。血管をヘリアの毒が駆け巡ったのだ。ヘリアは破壊の魔神、本来は破壊しかできない。

　なので、ヘリアはジーニに回復を学んだのだがうまく魔法ではできなかった。自分に一番合っている、破壊をうまく使った形がこの光景を生んでいた。

　ヘリアは自分の血を噛んで流し込み、ダンの体を支配して操作したのだ。ジーニだと何の代償も無く治す事が出来るがヘリアの場合、苦痛に顔を歪める事になってしまう。しかしダンは結構血を流している、なのでヘリアは急いだ結果こうなってしまったのだ。仕方ない。

「ありがとうございます」
「俺達はすぐにファストへ向かいます。ほんとにすいませんでした」

　ヘリアにお礼をいってすぐに二人は宿屋を離れていった。しかしあの[鴉]の男はどこへ行ってしまったのか。

「ふむ、もういいか」

　ヘリアは二人が出ていってしばらくして男を取り出した。ヘリアの体はサクリファイスキメラで出来ている。[鴉]の男は音もなく部屋からいなくなった、その答えはヘリアの体の中に入れられていたのだった。

「うぐ..お前は誰だ？」
「お前は人格をもっていないのか？不憫じゃな」

　ヘリアは男を振り上げて嘆く。何とも人間とは残酷何だと。

「お前を救うには殺すしかないか。ジーニに合わせると助けようと頑張ってしまいそうだな」

　ヘリアは困っていると男が舌を噛み切って自害した。ヘリアは俯き首を横に振った。

　自分よりも悪意のあるエグバンの策略に嫌気がさしたのだ。

　ヘリアはすぐに宿屋をあとにしてジーニの元へと戻って行く。

　ヘリアはジーニに頭を撫でられるとジーニに抱き着いた。しばらくするとヘリアは気が済んだのか離れていき静かにチャンスを待つ事にした。