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第四章 ルインズガル大陸

第二十二話 お帰りと言わせて

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 デシウスとギールは街の中央の広場で剣を交えていた。その戦いはギールに分があるのだがギールは手加減をしているように見えた。

「守ったとはどういうことだ?」
「気にするなお前は俺へ不満をぶつければいいんだ」

 デシウスの攻撃を難なく受け流すギール。実はこんなに強かったんだね。瞬時にのした僕が強すぎたみたい。

「ぐ、勝手なことを言って!私の不満をぶつけろだと!。私はあの戦争のあと奴隷に落ちたんだぞ。大陸を渡りそこの!ロクーデの奴隷にされたんだ」
「ロクーデの...」

 ギールはロクーデを見る。ロクーデはキョロキョロしていたのをやめてギールを見つめた。

「それは本当か?」
「...デシウスは元、私の奴隷だ」

「...そうだったか」

 ギールは残念そうに俯いた。デシウスも剣をおろして成り行きを見守る。

「ロクーデ、俺はお前とシュミットからこのアステリアまで一緒に旅をしてきて少し楽しいと感じていたんだ。だがエルフを奴隷にしている奴とは思わなかった。それにロクーデお前は金を持っていないんだろ?」
「・・・・金は..ない。だが」

「もういい!。お前はここで奴隷になるんだ。過去を悔い改めろ」

 ギールは悲しいのか俯いてそう言い放った。そしてアステリアの北門へと歩き出すがそれをデシウスに止められる。

「お前達の事情なんか興味ない!。私と勝負しろ」
「・・・黙っていかせてくれないのか」
「それは無理だよ。ギール...」

「な!お前は!!」

 僕はギールの前に姿を現した。するとギールは驚き戸惑い剣を僕に向ける。

「いやだな~、久しぶりにあったんだからここはハグくらいあってもいいんじゃないかな?」
「何を白々しい。お前は俺を肥溜めに放り込んだ犯人だろ」

 ギールは怒りで剣を握る手がプルプル震えていた。それほど屈辱的だったんだろうね。

「今までは黙って見ていたけど僕は怒っているんだよ。ここは僕のお父様の国。こんな往来で剣の稽古何て許したつもりはないよ」

 僕の言葉にデシウスは俯く。ギールは周りをみやりニヤリと笑った。

「お前があの有名なアステリアのジーニだったのか。それを捕まえようとした私は滑稽だったな。だが俺はまだ捕まるわけにはいかない」
「何か事情がありそうだけど、言う気はないの?」

「ああ、これは俺がなす事だ。その為に金が必要だったんだがな。失敗した」

 何だか色々事情がありそうだけど、言わないなら聞かないよ。だって今僕はフローラちゃんの事を考えるだけでせいいっぱいだもん。

「ジーニ様、そんなことはどうでもいいんです。私はエルフを代表してギールを討たないといけないんです」
「デシウス、僕は君のそんな顔は見たくないよ。いつもの笑顔のデシウスでいて」

「...ジーニ様。でも今回はそうもいきません」

 デシウスは唇を噛んで血を流した。僕を抱きたい心に負けないように我慢しているみたい、でも僕を抱きしめたい心は下唇を噛まないとダメなくらいなんだね、僕って愛されてるな~。それだけデシウスの怒りは深いんだろうね。ギールに対して睨みをきかせてる。

「怒りはごもっともだ。だがここで私は討たれるわけにはいかん」

 ギールはそう言い放つと野次馬の子供を人質に取り北門へとあるきだした。

「ギール...それはやっちゃダメだよ」
「黙れ。私は手段を選んでいる暇はないんだ」

 人質の子供が泣き出しているがギールは子供を脇に担ぎ剣を這わせる。

 北門の前まで歩きつくとギールは子供を解放した。

「ではアステリアの者達よ。さらばだ」

 ギールはそう言って[フラッシュ]の魔法を放ち閃光と耳鳴りのような音が辺りを包む。その隙に一瞬にしてその場からいなくなったギールは北のアドスバーンへの道を少し外れて身をひそめる。

「何とか撒けたか」

 デシウスがキョロキョロと辺りを見回している姿を見ながら呟くギール。ギールはデシウスが感知スキルを持っていることも考慮して隠密の魔法の[ハイド]を唱えてある。

「これで本当にさらばだ」

 ギールは道なき道を歩いて行く。しばらく歩くとギールは装備を軽装に変えて歩き出していった。

 だけど僕はそのまま行かせるわけにいかない。

「遅かったね」
「な!お前は....」

 すでにギールには[コンパス]の魔法でマーク付けしてるので僕はギールがどこにいるのかわかっちゃうんだよね。

「ギールが食べ物とかを買っている所にデシウスが見つけちゃったから買えなかったでしょ?。それに先立つ物もないんでしょ。貸すよ。だから帰ってきて罪を償いな」
「....小さい癖によく喋る。だが正直助かる。子憎たらしいだけの子供かと思ったが何とも」

 ちょっと口の悪いギールは悪びれもなく僕の悪口を言ってくる。だけど僕の出した革袋と少しの燻製肉を手に取ると嬉しそうに涎を見せる。

 相当お腹が空いてたみたい。この世界のエルフは残念さんが多いね。折角美形なのに。

「エルフってみんな残念さんなの?折角の美男子何だからもうちょっと」

 僕がそんなことを言っているとギールが首を傾げて口を開いた。

「何を言っているんだ?俺は女だぞ」
「ええ!?」

 僕はギールの言葉に驚愕した。僕は女の子を肥溜めに落としちゃったのか....反省しよう。でもデシウスもそうだけど美形すぎて正直どっちかわからないんだよね。

「ははは、そういえばデバイアも驚いていたな。しかしそんなにへこんでくれると一矢報いたような気になれて爽快だな」

 ギールは豪快に高笑いしている。何だか僕は負けた気分になったけど思ったよりもいい人みたいだね。

「所で俺はアドスバーンにいくつもりなんだが、こっちで合ってるか?」
「え?ああ、大丈夫だよ。この道沿いに行けば行けるはずだよ」

「そうか。いやなに、俺はこう見えて方向音痴でな。助かる」
「ブフ!、方向音痴ってエルフが...プッ!クスクス」

「笑うな。全く最後までむかつく子供だ。だが食べ物の礼をしないとな。金に換えられなかったアイテムだ、とっておいてくれ」

 ギールは僕へと革袋を放り投げた。僕はその革袋をキャッチすると首を傾げる。

「これは?」
「入る量の少ないアイテムバックだ。そのバックの5倍ほどしか入らない。中途半端なレアアイテムだから売れなかったんだ。この食べ物と金の礼だ。とっておいてくれ」

 どうやら袋に入る量が中途半端で冒険者には高くて貴族にとっては入る数が少なくとても半端な値段になってしまったみたい。このバックの5倍って事は2メートルほどの物かな。天雷の剣とあと数個しか入らなさそう。天雷の剣って切っ先が錨のように広がってるからかさばるんだよね~。

 それでどちらにも売れないから使ってたらしい。もっと入るアイテムバックを持っているから要らないんだってさ。何だか凄い事言ってるね。

「何だ....デシウスを守ってもらったようだしな。その礼でもあるんだ。受け取ってくれ」
「結構高価な物だけどそう言う事なら受け取らせてもらうね。でも必ずやる事をやったらうちに来てよね。今度は剣で迎える事はさせないからさ、お帰りと言わせてね」

 ギールは僕の言葉を聞いてすぐに頷いた。僕へと背を向けると腕で目を擦るような仕草をしていた。

 ギールは嬉しかったのだ。裏切り者と言われてきたギールは仲間を持てなかった。彼女はジーニの言葉が胸に刺さり涙を流した。

 ギールはアドスバーンへと歩いて行く。だが彼女の目的の人物はそこにはいないのだが。
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