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第一章 誕生

第18話 忍び

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「群れがいるって言ってた方角はこっちだよな」

 黒装束に着替えて顔まで隠す。ゴブリンを迎え撃つ草原まで走ってきたけど、正確な位置は分からないんだよな。

「真正面から迎え撃つことになるとしたら方角はそのままで進んでいけば、何かに当たるはずだ。朝までには数を減らすか指揮系統を潰す」

 走り出して考えを口に出す。できればその両方を済ませたいところだ。彼女、彼らを守るためにも。『私は守ってくれないんですか』なんてラーシアは言いそうだな。と変なことを考えて笑みがこぼれる。

「ついでだな」

 苦笑いで独り言、想像でも彼女はわがままだな。
 だいぶ走ってきた時、前方に森が見えてきた。山のふもとと言った森は少し異様な雰囲気をかもしだしていた。

「木がところどころもぎ取られてる。こっちは倒されてるな」

 根っこごととれているところと斧で切ったかのような木が見える。根っこごと取れる力を持っている者と武器を使える知恵のある者、両方いるってことか。ゴブリンとは決まってはいないけど警戒していこう。

「引きずって出来た道が案内してくれてるな」

 根っこごともぎ取った木を引きずったような跡が出来上がっている。何回も往復しているのか、数本引きずったような跡になってる。いっぺんには流石にトロールでも無理だろう。
 そんなことを考えながら山に続く森を進むと登坂になってきた。気配を感じて木陰に隠れる。

「……どうりで。あれはオーガだ」

 木を三本束ねて引きずっている角のある魔物オーガ。人型の魔物でトロールよりも少し小さいけど、強くて知恵のある魔物だ。あんなものまで生まれてるなんて、先に来ていて良かった。あんなのがたくさんいたら冒険者は全滅していたぞ。
 リザードマンが10体くらいいないと勝てない程の魔物だ。新人冒険者なんて100人いても勝てない。

「あれについていけば敵の居場所が。!?」

 オーガについていこうと思って木陰から出るとオーガが向かった方向から同じ魔物がぞろぞろと出てきた。僕は思わず隠れるとやつらは横を素通りしていく。

「す、すごい数だ。バレたらまずい」

「グルルル」

「!?」

 魔物の群れの中に入ってしまったらしい。狼の魔物がいて、僕はバレてしまった。仕方ない、ここで戦いの狼煙をあげる。

「【ファイアストーム】!」

 狼に魔法を放つ。炎の竜巻が魔物達を巻きこんでいく。

「ガア!」

「うっ! オーガ」

 竜巻をものともせずに近づいてくるオーガ。それも一体じゃない。6体も向かってくる。
 炎の竜巻のおかげでオーガ以外は近づいてこない。いやオーガ達は僕を独占したいんだ。彼らも僕の倒して強くなりたいんだろう。知恵があるとこういうことがあるのかな。

「ガア!」

「あまい!」

 大振りでひび割れてる大剣を振るってくる。人から奪った物だと思うその大剣は傷ついている。じいちゃんの【龍光】に勝てるはずない、鋭く大剣を【龍光】で切り裂いてそのままオーガの首をはねた。
 一人倒すとオーガ達は冷や汗をかいて後退する。そして、別の魔物達が一斉に襲い掛かってきた。
 回転して【龍光】が魔物を切り裂く、覆いかぶさる魔物を【虎光】で切り払う。いつ終わるかわからない魔物の波とせめぎ合い、静かになるとオーガ達が笑みを浮かべていた。

「ハァハァ」

 息も絶え絶えの僕、やつらは僕のスタミナが切れるのを待っていた。だけど、待っていたのは僕だ。

「【ヒール】」

『!?』

 頭が良くて仲間を使ってきた。絶対に僕を仕留めたかったはずだ。必ず来ると信じていたよ。
 僕は自分の体を回復させて【龍光】と【虎光】を構える。
 オーガは顔を見合ってひびの入った装備を構えてきた。
 
「はっ!」

 鋭く【龍光】を眼前のオーガに振り下ろす。オーガは袈裟に受けると心臓の手前で止まる。オーガは力んで【龍光】を止めている。

「ガア!」

 動きのとまった僕に残りのオーガが襲い掛かってくる。切りつけたオーガはニヤリと笑い絶命していく。勝った夢を見て死ぬなんて人間みたいなやつだ。でも、そうならない。

「はっ!」

 絶命して力の抜けたオーガから横なぎに払う。そのまま回転してオーガ達の武器を切り裂いた。
 武器をなくしてたじろぐオーガ、周りには仲間はいない。一度顔を見合うと一体が逃げだして残りが襲い掛かってくる。

「石!?」

 距離を取って石を投げてくるオーガ。普通の投石と違って木に穴が開くほどの威力。あんなのまともに受けたらたまったものじゃない。
 普通の冒険者ならやられていた。だけど、僕は普通の冒険者じゃない!

「はっはっ!」

 手裏剣を投げてオーガの頭に命中させる。そのくらいじゃ死なないオーガはなおも投石を続けてくる。
 おかしい、なんでこんな回りくどい。そう思っていると逃げていった一体が魔物を連れてきていた。仲間を呼んだんだ。
 
 そう思っていると逃げた一体のオーガが仲間を呼んで帰ってきた。ゴブリンの群れだ。
 元々ゴブリンの群れを貴族が作り出したという話だった。オーガは副産物だろう。
 人から奪った武器も複数見られる。あれはクロスボウだ。弓は扱いが難しいからエゼストスとかいう貴族はあれを持たせたんだろう。

「ギ!」

 ゴブリンとしては大きい個体が手をあげて合図を送る。一斉にクロスボウが僕に向けられて矢が射かけられる。ゴブリン達は下手で仲間のオーガに矢が刺さっていく。

「ギ! ギャギャギャ!」

 怒るゴブリン。あいつがジェネラルとかいうやつか? 仕留めるチャンスだ! そう思った瞬間。オーガがゴブリンを担いで放り投げてきた。
 ゴブリンを両断して距離を詰める。飛んでくる矢、【龍光】と【虎光】で矢を落とす。

「ガア!」

 オーガの最後の抵抗、大剣を振り下ろしてくる。僕はやつの腕を切り落とし、【虎光】で首を落とした。
 オーガがやられたことで怖気つくゴブリン達。勝手に武器を捨ててジェネラルだけ残して走り去っていくが、逃がすわけがない。

「【ファイアストーム】」

 走っていく方向へ炎の竜巻を放つ。ゴブリンの断末魔が聞こえてくる。
 それを見てジェネラルは剣を構えて僕を睨みつける。
 ジェネラルとは言えゴブリンだ。オーガよりは弱い。そう思っていた、だけどそれは間違いだった。

「ギャギャ!」

「!?」

 石を投げ、四本足で駆けてくるジェネラル。左右に跳躍して投石を繰り返してくる。それだけならまだまだ余裕がある。だけど、奴はオーガの死体の血をかけてきた。
 その場にあるものをすべて使って戦ってくる。下手に知恵の回る魔物は驚異的だ。

「ギャギャギャ!」

 うまくいったと近づいてくるジェネラル。剣を構えて突き刺してくる。剣は僕のお腹に当たり折れて、ジェネラルの首が地面に落ちた。

「来ると思ってた」
 
 顔を拭って死体を確認する。
 じいちゃんからもらったチェーンメイル。見事にジェネラルの剣を折ってくれた。突き刺されているのに折れるなんて異常な装備だ。
 来た方向が分かれば【龍光】で一撃だ。

「あとはヒーローとクイーンか。少なくともあと一つは群れがある。オーガはまだいるのかな」

 マジックバッグから布を取り出して汚れた体を拭う。クイーンは洞窟から出ないはずだ。そのくらい希少な魔物だから。エゼストスとかいう貴族がどう考えているかわからないけれど。
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