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第一章 誕生

第12話 スノウ

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「ウォーリアどころじゃない。マジシャンまで出来上がってる。それも身分まで作られているみたいだ」

 マジシャンと付き人のようなゴブリンを見てそう思った。貴族の執事みたいに献身的にマジシャンの世話をしているゴブリン。
 これはまずいぞ。身分を作れるほどの知恵を持ってる。人の目につかないところで集落が出来ているのかもしれない。ここら辺で行方不明者の情報はなかったはずだけどな。

「ギャギャギャ」

「ん? まさか!?」

 別のゴブリンが死体を持ってきた。ゴブリンの死体が更に山になっていく。
 それから推測するとこいつら自分たちで戦いあって殺し合って経験値をためている可能性が出てきたぞ。人と戦わなくても自分たちで争えばいいんだから。
 興味津々と見ているとマジシャンがMPを使い始める。死体の一つの山が紫色に輝いていく。

「今度はなんだ?」

 そう呟いた瞬間。山が人型を作り出していく。

「トロール!? なるほど、それで引き連れることが出来るのか」

 なんでゴブリンに従うのか謎だったけど、そういうことか。元は同じ存在ってことなんだな。
 でも、うまい仕組みが出来上がってるな。訓練をしあって死んだらまとめてトロールにする。ん? ってことはゴブリンを無限に作れる仕組みが必要だよな……。ゴブリンの雌、クイーンがいる? そうじゃなかったら……考えたくないけど、人間が捕まってるかもしれない。
 ゴブリンクイーンはかなり特殊な魔物だ。世界でも一匹見られたことがあるかないかってくらいに。可能性的には女性が捕まっている方が現実的だな。

「すぐに助けに行こう」

「ギャ!?」

「あっ!」

 立ち上がって声をあげてしまうとゴブリン達にバレてしまった。すかさず手裏剣を放つ。トロール以外はこれで始末できる。そう思っていたんだけど、トロールがマジシャンを庇うように間に入ってきた。生まれたばかりだって言うのに偉い奴だな。
 とはいえ馬鹿ではあるので胴体辺りに突き刺さった手裏剣をまじまじと見ている。隙だらけだな。

「それは僕のだ!」

 龍光と虎光を構えて振り下ろす。トロールとマジシャンを真っ二つに切り裂く。

「山も燃やしておこう。トロールを増やされると犠牲が増える。【ファイアボルト】」

 ハザードさんのパーティーメンバーだった魔法使いの人の魔法を使わせてもらう。簡単な魔法は一通り使えるはずなので魔法名だけの簡略詠唱で使用できる。ラーシアみたいに魔道具を持っていれば何もなしでも行けるんだろうけど。

「よし。これで」

「旦那様!」

「わっ!? ら、ラーシア」

「酷いです。置いていくなんて! ってトロールとマジシャンのゴブリン!? 流石旦那様です!」

 目をハートにするラーシア。ギルドでツィンさんが追及されて話しちゃったかな。

「ゴブリンの依頼をやると聞いてきたら幼い子供達を見つけて聞き出してきたんですよ! もう! なんで置いていくんです!」

「……だって、君は悪い人でしょ? そんな人と一緒にいたくないよ」

「だ、旦那様! 私は心を入れ替えたのです。今までやってきたことだって償おうとしてるんです。この間の家族だって家を用意してあげてお店まで持たせましたよ!」

 ラーシアが涙を浮かべながら言ってくる。まあ、いいことをしているって聞いてはいたんだけど、やってきたことは本当だからな~。僕も被害者になっていたかもしれないし、許すわけには行かないよな~。
 そんなことを考えていると新しいゴブリンがマジシャンと共にやってきた。死体を焼いたから目立ってしまったかな。

「旦那様が分かってくれないうっぷんをゴブリンに! 炎よ。集まって嵐を起こせ! 【ファイアストーム】」

 頬を膨らませて怒るラーシアがゴブリンへと魔法を放つ。マジシャンが対抗して氷の塊を放ってきた。氷は炎の嵐で小さくなってこちらに向かってきてる。いつも通りスローに感じる僕はラーシアに当たる前に切り落とす。

「旦那様が守ってくれた~! ラーシア嬉しいです!」

「わっ! ちょっと!」

 ファイアストームが無事にゴブリン達を屠ると助けられたと思って嬉しそうに僕に抱き着いてくるラーシア。別に助けようと思って切ったわけじゃないのに。

「離れて! 胸が!」

「当ててるんです。もっと私を感じてください!」

「遠慮します!」

「きゃ!」

 背中に抱き着くラーシアを背負い投げ。まったく、なんでこんなに好かれてるのかわけがわからない。

「旦那様~」

「はぁ~。ついてくるんだったら結構大きな集落になってるゴブリンだから気をつけてよ」

「はぁ~ん。心配してくれているのですね」

「うん、心配だよ。ゴブリンが増えちゃうからね」

 腰をくねくねするラーシア。クイーンはいないだろうから彼女が捕まったら増える要因になるだけだ。まあ、僕がいるからそうはならないけどね。

「旦那様のカッコいいところを見ていたいだけなのよ!」

「ラーシア。黙って戦いに集中」

「はぁ~い!」

 ラーシアと一緒に行動することとなって少しするとゴブリンに遭遇することとなった。ゴブリンの死体が道しるべになるほど戦ってる。
 魔法主体のラーシアはそろそろMPが尽きるんじゃないかな?

「ラーシアMP大丈夫? 魔法使いすぎじゃない?」

「あん! 旦那様が心配してくれてる」

「……」

「心配は無用です。魔道具も複数持っていますからファイアストームを使わなければ当分は戦えます」

 魔道具はファイアボルトだけ、ということは範囲魔法のファイアストームは多様できないってことか。僕だけよりかは動きやすいけど、魔法は期待しない方がいいかもな。ってそうか、僕も魔法を使えば……ラーシアが騒がしくなりそうだからやめておこう。『流石旦那様です!』って抱き着かれるのが目に浮かぶ。

「洞窟か……この中に集落が出来てるのか」

「そのようですわ」

「……近いよラーシア」

「あん。男性に人気の香水をしていますので旦那様に嗅いでもらおうと」

「はいはい」

 まったく、ゴブリンの巣に入るって言うのに香水って……ゴブリンと遭遇しやすくなったのってそのせいじゃないのか?
 ゴブリン達の一番の狙いは女性だもんな。匂いにも敏感なゴブリンだし、その可能性があるな。

「ラーシアは前に出ないようにね。僕が先に行く」

「旦那様カッコいい!」

「……」

 はぁ~。褒められなれていないからラーシアの言葉が心地よくなってきてしまう。白けたふりをしているけど、内心は嬉しい。一応彼女は美人だしね。

 洞窟に入ってしばらく下っていく。骨で出来た松明が所々に設置してあって結構明るい。罠はないみたいだけど、無差別に罠を作ると自分たちが引っかかってしまうから限定しているんだろう。

「旦那様。この穴、ゴブリン達が通れる穴なので塞ぎましょう」

「え? この穴? 流石に無理じゃ?」

「いえ、自然にできる穴ではありませんよ。掘ったということは通れるということです。もしかすると奥に潜んでいるのかもしれません」

 ラーシアが真剣な顔を忠告してくる。ダンジョン以外の知識はそんなにない僕としては助かるな。
 こういう穴に潜んで後ろから襲うってことか。罠はなくてもこういう戦術的な罠を用意しているのか。勉強になる。

「扉か」

 横穴が複数あった通路を抜けてまっすぐ一本道を進むと骨で作られた扉が見える。音を出さないように扉を開けると部屋の中央に骨で作られた鎖につながられてる人が見える。

「異様……」

 松明で明るくなっている人。部屋の壁は穴だらけだ。それに、罠がたくさん張られているのが見える。

「に、逃げて」

「生きてる!?」

 中央の鎖につながられてる人が口を開く。よく見ると足が片足無くなっている。罠とわかっていても行くしかないか。僕ならやれるはずだ。っとその前に。

「【ヒール】」

「「え!?」」

 回復魔法を唱える。この距離でも十分届く回復魔法。二人の驚きの声があがった。
 頑張って声をあげた女性を光が包み込んで回復させていく。足も綺麗に治ってる。よかった。

「ちょ、旦那様!? 回復魔法!?」

「ラーシア! 後ろ!」

 驚くラーシアだったけど、いつも間にか挟み撃ちになっていたようだ。扉をしめて背後のゴブリンを蹴散らしていく。

「よし! 旦那様、終わりました」

「ラーシアあの人は?」

「まだあのままですが先ほどよりも元気になって骨の鎖をちぎったみたいですね」

 扉を開いて部屋を覗くと僕らを見据えている女性がいた。ちょっとした布の切れ端を何とか服にしている。目のやり場に困るな。

「しかし、罠はどうします?」

「う~ん。面倒だ。僕が行くよ」

「え? 行くってどうやって?」

 罠は加圧式、誰かが踏むと矢が飛んでくるようなものばかり。要は踏まなければいいんだ。幸い、中央の女性のいるところにはなさそう。あそこまで飛べばいいんだ。

「よっと~」

「「ええ!?」」

 中央へと跳躍すると再度二人が驚きの声をあげる。僕は構わずに背中に乗るように促す。乗るのを確認してラーシアの元へと戻ると女性を降ろした。

「あ、ありがとうございます賢者様……」

「賢者? 僕は冒険者のアレアって言います」

「アレア様。ありがとうございました。私はスノウと申します」

「スノウさんですね。様はいりませんよ。ってそんなこと言ってる場合じゃないみたい」

 スノウさんがお礼を言ってくれて、照れていると部屋の奥の扉が勢いよく開いてゴブリン達が集まってきた。
 太刀を構えるとゴブリン達近づいてくる。
 ゴブリン達はそのまま入ってきて部屋の罠に数匹絶命してる……馬鹿だな~。
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