上 下
10 / 19
第一章 誕生

第10話 契約

しおりを挟む
「な、何の用よ! 報復でもしに来たの?」

 顔を青ざめさせてラーシアが声をあげた。そんなに怖がらなくても何もしないのにな。

「もう来ないでほしいって言うのを言いに来たんです。来るようなら報復しますけど」

「ふ、ふん。この世界はね、舐められたらおしまいなのよ。一生つきまとうわよ!」

 僕の言葉に顔が青いまま強がるラーシア。僕は大きくため息をつく。

「あんまり大事にしたくないのでお金は払いますよ。でもこれっきりにしてくださいね」

「さ、最初からそうすればいいのよ!」

 お金を払うと言うとラーシアは腕を組んで顔色が良くなっていく。あんまり乱暴なことはしたくないから仕方ない。いくら払えばいいのか聞こうと思ったら店にいた一人の男がフラフラと僕らに近づいてきた。そして、

「お前のせいだ……お前の。ラーシア! 死ね~!」

「え!? キャ~!」

 男は短剣を振りかざしてくる。ラーシアは急なことで両手でガードすることしかできない。このままじゃ大けがするな。
 僕はいつも通り、ステータスのおかげで男の動きがスローに感じる。虎光をマジックバッグから取り出して男の短剣を弾き飛ばした。短剣は見事に天井に突き刺さって光る。

「捕らえろ!」

「ち、ちきしょ~! 離せ~!」

 しりもちをついて唖然とするラーシアを他所に彼女の部下たちが男を取り押さえる。まったく、アコギな商売をするからだよ。
 ラーシアに手を差し出すと素直に手を取ってたち上がる。

「あ、ありがと……」

 お礼を言ってきて僕の顔を見つめるラーシア。

「これに懲りたら一方的な商売はやめるんだね。それで? ハザードの借金っていくらなの?」

「……」

「聞いてる?」

 僕をずっと見つめてくるラーシア。彼女の目の前で手を振るけど反応がない。仕方なく頬を叩く。

「痛い! 何するのよ!」

「反応がないから死体かと思ったよ」

「だ、誰が死体よ! こんな可憐な死体があってたまりますか!」

「はいはい。それでいくらなの?」

「い、いいわよ。命を助けられてまでお金をむしり取ろうなんて思わないわ」

「あっそ」
 
 あの男の人のおかげで損せずに済んだな。あの人はこの後どうなるんだろう? ラーシアが一方的な取り立てでもしたんだろうに。少し聞いてみるか。

「あの人はこの後どうなるの?」

「ふん! 私の命を狙ったのよ! 死刑でも足りないわ。関係者全員牢屋に入れてやる!」

 ラーシアは顔を赤くして憤りを露わにする。因果応報って知らないのかな。なるべくしてなったと思うけどな。

「無茶な取り立てをしたんじゃないの? 許してあげたら?」

「そうね。娘を借金のかたに奴隷にして、妻を娼館に売ったくらいかしら?」

「!? ……はぁ~」

「な、なによ」

 無茶苦茶だ。そりゃ、命を狙うよ。少しラーシアにはおしおきが必要だな。店の中を見回して高そうな絵を見つめる。

「この絵」

「あら? 見る目あるわね。それは白金貨一枚相当の絵よ」

「もらうね」

「な!? ダメよ!」

「じゃあ、破く」

「!? それはもっとダメよ! 何よ急に!」

 僕の言葉に驚くラーシア。部下達も顔を青ざめさせてる。

「それじゃ、お店全部壊していいかな?」

「ダメに決まってるでしょ!」

「……はぁ~。我がままだな~」

「!? わがままはあなたよ! なんだっていうの」

 ラーシアは僕の言いたいことがわからないみたいで困惑している。

「あなたは彼のすべてを壊した。一方的にね。僕みたいに確認もとられずに」

「そ、それは。でも、お金を貸したのよ。やつの商売がうまくいかなかったから」

「だから一緒でしょ。僕からお金をむしり取ろうと思って取れなくて脅迫されてる」

 ラーシアは僕の言葉に返す言葉がなくなってしまったらしく、歯噛みしてる。僕は再度大きなため息をついて、

「僕はお金をあげるよ。だから、あの人と家族は許してあげて。娘さんが奴隷で売り飛ばされてしまっているんだったらすぐに買いなおしてね」

「……わ、分かったわよ。白金貨一枚で手を打つわ」

「よかった」

「……ただし条件があるわ!」

 ラーシアが素直に聞いてくれたからマジックバッグから白金貨一枚取り出す。マジックバッグに手を突っ込んでいると彼女が条件を突き付けてきた。

「あ、あんた冒険者でしょ。魔物を狩ったらうちに卸すこと! いいわね!」

「え?」

「これでも魔物の解体の仕事もやってるのよ。昔はそれが主な仕事だったの。父さんが死んじゃってから部下達を養うために金貸しをしていたの。元の解体の仕事が出来れば不幸な人を作らずに済むわけ」

 なるほど、冒険者ギルドが解体をしていなかった頃の話かな。今は解体を生業にする人がギルドにいるからな。
 それでもギルドに卸さないと何か言われそうだけどな。って不幸な人を作ってるっていう自覚はあるのか。

「ダメ?」

 なぜか上目づかいで言ってくるラーシア。無駄に美人だな。悪女っていうのは美人と相場は決まっているか。

「全部は無理だけど、一部なら」

「決まりね! あんた達! さっきの人と家族を解放しなさい! 娘もよ! 傷物になってたらダンナがキレるからね!」

 一部了承するとラーシアが部下に指示を飛ばす。男達は一斉に走り去っていく。旦那って誰だよ……。
 まあ、丁度いいや、ギルドで卸せなかった分をここに卸すか。口止めを指示すればやってくれるだろう。ダメならお店を壊すって言えばいいし。

「早速、魔物を卸していいかな?」

「あら! 旦那様。早速お仕事をくれるのですね」

 さっきも言っていたけど、ダンナって僕の事か。早速、媚を売ってきてるな。まあ、とりあえずは無視しておこう。

「サラマンダー5体。まだまだあるけどとりあえずね。どこに出す?」

「!?」

 サラマンダーと言うとラーシアは固まってしまった。よく見ると店に残っていた部下も驚いてるな。

「そ、それではこちらの部屋へ。昔の名残で解体部屋になっておりますので大きな魔物も出せるはずです」

 気を取り戻したラーシアが地下への階段を下っていく。なぜか敬語だ。
 促されるままついていって部屋に入るとサラマンダーが十体は出せそうな部屋になっていた。

「じゃあ、お願いね。お金はいつごろ?」

「い、今すぐ。白金貨5枚と金貨10枚街中で使いやすいように金貨も用意いたします」

 ラーシアは嬉しそうにせかせかと動き出す。一体白金貨1枚と金貨2枚ってところか。サラマンダーの肉は結構美味しいらしいからな~。そういえば、お肉は少し貰おう。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

黒の創造召喚師 ―Closs over the world―

幾威空
ファンタジー
※2021/07/21 続編の連載を別枠としてこちらに移動しました。 ■あらすじ■ 佐伯継那(さえき つぐな)16歳。彼は偶然とも奇跡的ともいえる確率と原因により死亡し、異世界に転生を果たす。神様からの「お詫び」にもらった(というよりぶんどった)「創造召喚魔法」というオリジナルでユニーク過ぎる魔法を引っ提げて。 ――そして、大陸全土を巻き込んだ「世界大戦」の元凶であった悪神・オルクスを死闘の末に打ち倒し、平穏を取り戻した ――はずなのだが……神・ディエヴスの依頼により、ツグナたちは新たな戦いに巻き込まれることとなる。

神スキル[荷物持]を持つ俺、追放されたのでチート村の拡大、神級龍のテイム?とかをします!えっ、王都に住民が居ないから王が泣いてる..で?

トンちゃん
ファンタジー
ロベルは荷物持ちとして勇者パーテイーに所属していたが、全員に無能、クズと見なされパーテイー、王都から追放され魔界において行かれた だがロベルのスキル"荷物持ち"は彼だけの最強のユニークスキルであり彼を失った勇者一行は低レベルのダンジョンでも苦戦し始める、 一方その頃、犬族が住まうチート村に助けられたロベルは龍を飼ったり、美女に結婚を求められたり、その村を便利にしながらどんどん大きくしていく これは勇者パーテイーの最後と追放された荷物持ちが次第に王都よりデカくなる村を拡張していく話だ

異世界あるある 転生物語  たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?

よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する! 土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。 自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。 『あ、やべ!』 そして・・・・ 【あれ?ここは何処だ?】 気が付けば真っ白な世界。 気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ? ・・・・ ・・・ ・・ ・ 【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】 こうして剛史は新た生を異世界で受けた。 そして何も思い出す事なく10歳に。 そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。 スキルによって一生が決まるからだ。 最低1、最高でも10。平均すると概ね5。 そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。 しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。 そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。 追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。 だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。 『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』 不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。 そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。 その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。 前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。 但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。 転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。 これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな? 何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが? 俺は農家の4男だぞ?

社畜おっさんは巻き込まれて異世界!? とにかく生きねばなりません!

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
私の名前はユアサ マモル 14連勤を終えて家に帰ろうと思ったら少女とぶつかってしまった とても人柄のいい奥さんに謝っていると一瞬で周りの景色が変わり 奥さんも少女もいなくなっていた 若者の間で、はやっている話を聞いていた私はすぐに気持ちを切り替えて生きていくことにしました いや~自炊をしていてよかったです

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

元外科医の俺が異世界で何が出来るだろうか?~現代医療の技術で異世界チート無双~

冒険者ギルド酒場 チューイ
ファンタジー
魔法は奇跡の力。そんな魔法と現在医療の知識と技術を持った俺が異世界でチートする。神奈川県の大和市にある冒険者ギルド酒場の冒険者タカミの話を小説にしてみました。  俺の名前は、加山タカミ。48歳独身。現在、救命救急の医師として現役バリバリ最前線で馬車馬のごとく働いている。俺の両親は、俺が幼いころバスの転落事故で俺をかばって亡くなった。その時の無念を糧に猛勉強して医師になった。俺を育ててくれた、ばーちゃんとじーちゃんも既に亡くなってしまっている。つまり、俺は天涯孤独なわけだ。職場でも患者第一主義で同僚との付き合いは仕事以外にほとんどなかった。しかし、医師としての技量は他の医師と比較しても評価は高い。別に自分以外の人が嫌いというわけでもない。つまり、ボッチ時間が長かったのである意味コミ障気味になっている。今日も相変わらず忙しい日常を過ごしている。 そんなある日、俺は一人の少女を庇って事故にあう。そして、気が付いてみれば・・・ 「俺、死んでるじゃん・・・」 目の前に現れたのは結構”チャラ”そうな自称 創造神。彼とのやり取りで俺は異世界に転生する事になった。 新たな家族と仲間と出会い、翻弄しながら異世界での生活を始める。しかし、医療水準の低い異世界。俺の新たな運命が始まった。  元外科医の加山タカミが持つ医療知識と技術で本来持つ宿命を異世界で発揮する。自分の宿命とは何か翻弄しながら異世界でチート無双する様子の物語。冒険者ギルド酒場 大和支部の冒険者の英雄譚。

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

箱庭から始まる俺の地獄(ヘル) ~今日から地獄生物の飼育員ってマジっすか!?~

白那 又太
ファンタジー
とあるアパートの一室に住む安楽 喜一郎は仕事に忙殺されるあまり、癒しを求めてペットを購入した。ところがそのペットの様子がどうもおかしい。 日々成長していくペットに少し違和感を感じながらも(比較的)平和な毎日を過ごしていた喜一郎。 ところがある日その平和は地獄からの使者、魔王デボラ様によって粉々に打ち砕かれるのであった。 目指すは地獄の楽園ってなんじゃそりゃ! 大したスキルも無い! チートも無い! あるのは理不尽と不条理だけ! 箱庭から始まる俺の地獄(ヘル)どうぞお楽しみください。 【本作は小説家になろう様、カクヨム様でも同時更新中です】

処理中です...