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第3話

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 アリスが去った後、その場にはエリザベート、アレックス、クリストフ、マルク、ルディが残った。

「私はアレックス殿下の婚約者として、令嬢の中で最も身分が高い自分があの男爵令嬢に注意をしなければならないと思って行動しましたが、殿下達が本気で彼女を気に入っていたのではなかったのなら、そんなことをする必要もございませんでしたわね」

 エリザベートは拗ねたように四人への苦情を述べる。


「エリー、ごめん。調査の件は父上から私達だけで内密にどうにかしろと言われて、エリーにも話せなかったんだ」

「国王陛下からの依頼ということは間違いありません。私達もアレックス殿下の側で陛下からの話を聞いていたので、保証します」

「作戦としては彼女をチヤホヤしていい気分にさせて、情報を取るやり方だったから、僕達が彼女に夢中だと見せかける為に表立って婚約者に会う訳にもいかなかったんだ。あの子に会って癒されたい~!」

「調査の為に彼女に近づいている間、殿下だけではなく俺達も婚約者には会えていなかった。調査もやっと終わったから、俺達はここで解散して、婚約者に会いに行く。国の為の調査とはいえ悲しい思いをさせてしまったから、早く会いに行って説明しなければ」

「……ということで私達はここで失礼します。殿下のことはエリザベート嬢にお任せします」

 クリストフとマルクとルディは、各々婚約者に会いに行く為にこの場からいなくなった。


***

 側近三人が退場した後、アレックスとエリザベートは、エリザベートが元々座っていた席に座り、ランチの仕切り直しをする。


 昼休憩の時間も残りがあまり多くないので、二人はサンドウィッチとサラダと紅茶のセットを注文し、受け取る。

 サンドウィッチは二切れ入っていて、一つはハムとチーズのサンドウィッチで、もう一つはカリカリに焼いたベーコンとトマトとレタスのサンドウィッチだ。

「今回は調査の為にやむを得ず彼女に近づいたということはわかりましたが、本当にアレックス殿下が彼女を気に入っていたのかと思って冷や冷やしましたわ」

「エリーにも説明出来なかったのは悪かったと思っている。……それにちょっとだけ興味があったんだ。もし私が他の令嬢と仲良くした時にエリーがどんな表情をするか。つまりヤキモチ妬いてくれるかな?、と」

「此方は本気で心配したのに、言うに事欠いて私の反応が見たかったですって? アレックス殿下なんてもう知りません」

 エリザベートはぷいっとアレックスから顔をそむける。


「エリーが私のことが好きかちょっと自信がなくて。何だか私ばっかりがエリーを好きな気がして……」

 アレックスは眉を下げ、しゅんとしょげたような表情になる。

 エリザベートは立ち上がり、アレックスの右頬にちゅっと可愛らしいキスをする。

「確かにはっきり言葉にしたことはあまりありませんでしたが、私もちゃんと殿下のことが好きですわよ? ずーっと前から、ね。だから自信を持ちなさ……」

(私の前世での推しはアレクだもの! 前世から数えると好きな年月は私の方が長いはずよ!)

 エリザベスが最後”い”と続ける前に、アレックスはエリザベートにキスをした。

 二人の周囲には生徒達はまだまだいて、二人のキスを目撃した生徒から歓声が上がる。

 いつもは真っ白な頬が淡いピンク色に染まり、恥ずかしそうな顔をしているエリザベートを見て、アレックスは満足げな笑顔を見せる。

「エリーの気持ちはよくわかった。さぁ、クラスに戻ろう」

 エリザベートはアレックスが差し出した手を取り、ぎゅっとしがみつく。

(この様子なら婚約破棄・断罪ルートはもう心配しなくてもいいかな? ヒロインは強制退場で、学園からいなくなるし。アレクをヒロインに取られなくて本当に良かったな)



 ――この時のエリザベートは知らなかった。


 アレックスの方もエリザベートと同じく前世の記憶があることを。

 そして前世の彼は悪役令嬢・エリザベート推しだったことを。

 エリザベートを幸せにする為にヒロインを排除したことを。


 全てを知った時のエリザベートの反応はアレックスだけが知っている――。

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