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第十章 Trust me,Trust you
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指定された現場に急行しようと駐車場に向かう途中、介助を装った護衛に拘束されて、そこから記憶が曖昧だ。嵌められたことに気づいたのも、薬を盛られていることに気づいたのも遅すぎた。情けないにもほどがある。
沙織は入念に仕掛けられた時限爆弾だったというわけだ。黒幕は他に居て、彼らと何らかの契約をしたのだろう。外部犯の誘拐という【事件】を作れば、受験の失敗による相羽家の面目も保たれる。勝行が一人でいる状況だと分かった上での犯行。
頭の固い老人会の仕業かと思いたいが、一番疑いたくない身内がどうしても背後に浮上してくる。勝行は暗がりの中、深いため息をついた。
(財産目当ての犯罪者の方がよっぽど単純で気楽だったのに……)
相羽家の人間にバレないよう、なけなしの理性を振り絞って仕掛けた物がある。片岡か、あるいは光がそれに気づいてくれたなら。何か手立てを考えてくれるだろう。
できれば、光が無鉄砲に飛び込んでこないことを願う。片岡も普段は頼りになるが、肝心な時に限ってどこか抜けているポンコツなのが困る。
ひとまずあの子の命が無事なのであれば、監禁や受験ボイコットなど大した問題ではない。助けを求めようとは思わない。だが彼らの思惑通り、大人しく数日ここで過ごすというのも癪だ。それに相羽家とはおよそ関係がなさすぎるメンツが集まっていることに、新たな不安が過る。
「あいつをマワしていいって、マジっすか」
「依頼主たってのご希望だ」
「うわ、悪趣味ぃ。ハメ撮りサービスします?」
「ヒカルの時のデータも残してあるし、そいつとまとめて動画ファイル売ったらどうです」
「かわいそうに、この年でAVデビューか! きっとバカ売れするよ」
後ろの外野から、下品な笑い声がこだまする。目を凝らしてよく見れば、この部屋は撮影スタジオになっているようで、色んなカメラ機材が床に転がっていた。
(なるほど。光の輪姦動画を横流したのはこいつらだな)
知れば知るほど、この場にいる人間を全員殺したい衝動に駆られる。
眼鏡男は卑猥な笑みを浮かべると、勝行の顎に冷たい小型ナイフの切っ先を当てて持ち上げた。
「そういうことなんだが……いい面構えしてんじゃねえか。世間知らずのくせに、今から自分が何されるのかは理解できているとみた」
「まあ、勉強しましたから」
「はっはっは! 机上の空論と現実の違いもわかんねえガキンチョが。どうせあと三日間、ここでずっと一緒に過ごすんだ。じっくり舐って、チンポ狂いの可愛い雌にしてやるよ」
「待て待て、その前に身代金とどっちがいいか、聞くべきだろう。なにせこちら、相羽家の若かりし総帥だからな」
千堂がおもむろに眼鏡男を制した。直後、外から騒ぎ声が聞こえてくる。
眼鏡男は「何事だ」と外に向かった。「侵入者が」「捕まえますか」という言葉が遠巻きに聞こえてきて、勝行の胸中もざわつく。
(頼む……頼むから、くるなよ……光……!)
だが残念ながらその願いは脆く打ち消された。
沙織は入念に仕掛けられた時限爆弾だったというわけだ。黒幕は他に居て、彼らと何らかの契約をしたのだろう。外部犯の誘拐という【事件】を作れば、受験の失敗による相羽家の面目も保たれる。勝行が一人でいる状況だと分かった上での犯行。
頭の固い老人会の仕業かと思いたいが、一番疑いたくない身内がどうしても背後に浮上してくる。勝行は暗がりの中、深いため息をついた。
(財産目当ての犯罪者の方がよっぽど単純で気楽だったのに……)
相羽家の人間にバレないよう、なけなしの理性を振り絞って仕掛けた物がある。片岡か、あるいは光がそれに気づいてくれたなら。何か手立てを考えてくれるだろう。
できれば、光が無鉄砲に飛び込んでこないことを願う。片岡も普段は頼りになるが、肝心な時に限ってどこか抜けているポンコツなのが困る。
ひとまずあの子の命が無事なのであれば、監禁や受験ボイコットなど大した問題ではない。助けを求めようとは思わない。だが彼らの思惑通り、大人しく数日ここで過ごすというのも癪だ。それに相羽家とはおよそ関係がなさすぎるメンツが集まっていることに、新たな不安が過る。
「あいつをマワしていいって、マジっすか」
「依頼主たってのご希望だ」
「うわ、悪趣味ぃ。ハメ撮りサービスします?」
「ヒカルの時のデータも残してあるし、そいつとまとめて動画ファイル売ったらどうです」
「かわいそうに、この年でAVデビューか! きっとバカ売れするよ」
後ろの外野から、下品な笑い声がこだまする。目を凝らしてよく見れば、この部屋は撮影スタジオになっているようで、色んなカメラ機材が床に転がっていた。
(なるほど。光の輪姦動画を横流したのはこいつらだな)
知れば知るほど、この場にいる人間を全員殺したい衝動に駆られる。
眼鏡男は卑猥な笑みを浮かべると、勝行の顎に冷たい小型ナイフの切っ先を当てて持ち上げた。
「そういうことなんだが……いい面構えしてんじゃねえか。世間知らずのくせに、今から自分が何されるのかは理解できているとみた」
「まあ、勉強しましたから」
「はっはっは! 机上の空論と現実の違いもわかんねえガキンチョが。どうせあと三日間、ここでずっと一緒に過ごすんだ。じっくり舐って、チンポ狂いの可愛い雌にしてやるよ」
「待て待て、その前に身代金とどっちがいいか、聞くべきだろう。なにせこちら、相羽家の若かりし総帥だからな」
千堂がおもむろに眼鏡男を制した。直後、外から騒ぎ声が聞こえてくる。
眼鏡男は「何事だ」と外に向かった。「侵入者が」「捕まえますか」という言葉が遠巻きに聞こえてきて、勝行の胸中もざわつく。
(頼む……頼むから、くるなよ……光……!)
だが残念ながらその願いは脆く打ち消された。
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