できそこないの幸せ

さくら怜音/黒桜

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第九章 VS相羽修行

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理不尽で引き千切られ 自分勝手で火にあぶられ
グランドで踏み潰され ぺしゃんこになった僕のわがままは
優しい雨に流されて 大きな水たまりに融合していく
わがまま集めて生まれたのは 夢見る僕の色なし涙
かき集めて すくったそれを もう一度空中に飛ばした
僕らの声を含んで重みに沈むメロディは
幾重にも繋がり 虹色に彩られていく

――WINGS『stepp'd in a puddle』



「急に雨降ってグランドもビッチャビチャだってよ」
「ちぇー。せっかくサッカーしようと思ったのに」

残り少ない高校生活を名残惜しそうに堪能しているクラスメイトたちが、不平不満を零していた。
大学受験シーズンも佳境となり、もう必須の授業というものはない。それでも教室に居残って登校しているメンバーは、卒業のための単位が足りない連中ばかり。クラスの半分がその補習枠に出席しているのは、ここ三年一組特色選抜クラスだけだと教員は愚痴る。
その中に混じって一人イヤホンで音楽を聴いていた光は、ぼんやりと雨の降る外を眺めていた。

「プリント全部終わってから遊びなよ、君たち」
「村上センセー、どうせならこう、思い出に残ることして遊びたいじゃんよ」
「そうそう。俺ら頭使うより身体使う方がメインだから、プリントとかやってらんねえよ。動かないと錆びる!」
「補習するなら体育がいいわー体育!」
「ああそうだなあ、先生も勉強よりは運動のクチだった。こらプリント捨てるな」

この教室で騒いでいるのは殆どが元運動部。既に進学先や就職、契約先が決まっている。健康的な肌色や全体的にむちっとガタイのいい者が多い中、ひとり浮いてるなと自分でもわかる。どう見ても病気が理由で出席日数が危ないのは光くらいだろう。
それに勝行のような典型的優等生も全くいない。彼が必然のように学級委員を務め、この五月蠅い筋肉バカを三年間まとめてきたのかと思うと、彼の気苦労が窺える気がした。
勝行は二次試験の願書提出のため、今日は別行動だ。代わりに教室には自習プリントの出来を確認しながら教室を練り歩く、臨時教員としての晴樹がいる。
教室内の愚痴をへらへら聞き流していた晴樹は、光の机まで来てからふいにこんな提案を告げる。

「そうだな。今西くんも参加できるレクレーションなら、許可しよう。多分体育館なら空いてるし」
「え、今西が参加できる?」

クラスメイトたちはぽかんと口を開けて、後ろを振り返る。自分の話を急に出されても何のことかわからず、光もきょとんと目を丸くした。

「今西っていつも体育いねえじゃん」
「何ならできんの?」
「うーんなんだろう。激しい運動は禁止って聞いてるんだけど、ボール遊びくらいはできるんじゃない?」
「そうなん。どっか故障してんの?」

およそ無縁だと思っていたクラスメイトたちが、今更のように聞いてくる。だが自分が返答に戸惑っている間、晴樹がさらっと適当に話を進めてくれた。

「今西くんは心臓の病気だよ。もしかしてみんな、知らなかった?」
「へー知らなかった」
「三年間一緒にいたのに今更? ウケる」
「あーでもそれで毎回休んでも先公に怒られねえのか。なんか、今更に超納得した。てっきりヤンキーだし先公もビビッてんのかと思った」
「確かに、姫の護衛にしちゃ、細すぎると思ってた」
「最近の今西って、相羽より小さく見える時あるもんな」
「そりゃ、相羽がでかくなったんだって。あいつ、高校の間に変わりすぎ」

その場にいた全員が物珍しそうに光を囲み、わいわいと騒ぎ出した。
中には本気で病気を心配した連中に「早く言ってくれたらよかったのに」などと言われて、更に戸惑う。言って何があったというのか、光にはわからない。別に隠していたつもりはないが、誰ともうまく話せなかったし、勝行もあまりホイホイと他人に個人情報を話すタイプではなかった。

「動けねえならゲームの審判してもらうってのは?」
「体育休んでたのに、ルールとか分かるのかよ」
「うーん。じゃあ僕、バスケなら教えてあげられるから、バスケにする?」

晴樹が思い付きでぽんと手を打つと、全員が満場一致で喜びの雄叫びを上げ始める。

「うわーやりたい! バスケしようぜバスケー!」
「俺知ってるぞ、村上先生って実は全米カレッジバスケの大会出場選手なんだろ」
「え、バレてんのー怖いな。スポーツ強豪校は情報量がすご」

今度は隣に立つ晴樹の方がクラス中の注目を浴びはじめ、光の周りは更に大騒ぎになった。

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