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第二章 明けない曇り空
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光は力いっぱい勝行にしがみつきながらそのキスを享受していた。必死すぎて息をすることすら忘れていたようだ。ぷはっと勢いよく離れた途端、重力に逆らえず倒れ込む。その身体をしっかりと抱きとめ、勝行は彼の汗ばむ猫っ毛を何度も撫でた。ふうふうと肩で荒い息をつき、涎も零したままの光は、ようやく目が覚めたのか自ら抱きついてきた。
「よしよし……もう大丈夫だよ」
今度はすすり泣くような声が聴こえてきた。もしかしたら目覚めた時、隣に勝行がいなくて不安が募ったのかもしれない。
「ごめんね、コーヒー飲んでただけだよ。もうどこにもいかない」
髪、肩、背中、すべてを撫でながら、額にキスを落とす。それでもまだ小刻みに震えている。相当怖い思いをした何かを思い出したのだろう。
そんなもの、思い当たる節がありすぎる。
(あの父親のせいに決まってる……きっとあいつを思い出したからだ)
家族に裏切られ、家族に嬲られた子どもの苦しみは勝行にもわかる。親という生き物は本当に信用ならない。ならば自分はその悲しみの全てを取り除き、彼を真綿で包み込む兄のような存在であらねば。
零れる涙を舐めとり、光の耳元で囁いた。
「もっかいキスする?」
「……する」
涙まじりの小声で返事がかえってきた。身体は勝行の首にしがみついたまま、離れない。
「なら、こっち向いて?」
優しく強請り、頬に顔を摺り寄せながら光の上半身をゆっくり動かす。ようやくはがれた光は、まだぐずぐずと泣いていた。こんな顔、いつもの光だったらきっと見せてはくれないだろう。顔も土色だし、また熱を出してしまわないか心配だ。
(まだ覚醒しきってなさそうだな……)
「勝行……父さんが……血……死ぬ……っ……だ……や、だ……」
「ん……? なんて?」
光はうわ言のように何かを訴えながら、頬に添えられた勝行の手に顔を擦り付け、握り締める。
「ケガは……?」
「……俺はどこもなんともないよ」
(ケガ……血……? 思い当たるとしたら、俺があの男と最後に対峙したホテルでの一件かな。夢で思い出したのかな)
あの時何があったか、勝行の記憶は曖昧で肝心なところが抜け落ちている。けれど桐吾を殺すつもりで奴の部下から拳銃を奪い飛び込んだことだけは覚えていた。あの日殺人罪を犯さずに済んだのは、きっと光が必死に止めてくれたからだろうと思っている。あの時何か怖い思いをさせたのなら、申し訳ないと猛省するより他にない。だが今は、一秒でも早く話題を変えたい。
「大丈夫、俺はくだらないことで死んだりしないよ」
「……でも」
「ていうか、俺が今キスしてるのにさ、他の男のこと考えてるなんて、酷くない?」
半分冗談、半分本気まじりの愚痴を零す。ぐにっと頬を押しつぶし、思わず目を瞑る光にもう一度キスをした。
「どんな夢を視たのか知らないけれど」
「んっ……」
じゅるっと音を立て、舌をもうひと舐めすると、か細くも甘い喘ぎ声が聴こえてくる。その声は桐吾によって仕込まれたものではなく、自分との行為から感じてくれたのだと思いたい。
「俺以外のことなんて考えないで」
「……っ、あ……ふぁっ……」
光の性感帯――耳たぶ、頬のライン、首筋。鎖骨。上から順番に吸い付き、ちゅっちゅと音を立てながら、勝行は捕らえた獲物を味わうようにじっくり食んでいく。
「悪い夢は、俺が全部……上書きしてやるから。眠れるまで、逃がさないよ」
彼の舌を誘い、ぬくもりを舐め合う。顎に舌を這わせ、垂れた蜜を掬うようにざらりと逆走する。半開きになったままの唇に再び侵入を試み、その身に降りかかった悪夢を、過去の畏怖を一粒残らず吸い取ってやろうと言わんばかりの激しさで啜り続ける。
「……んっ……あ……ふぁ……」
トロンとした目で勝行の激しいキスを受け入れていた光が、やがて可愛い声で何度となく喘ぐようになってきた。もっとしろと言わんばかりに、はだけたシャツ襟から首を差し出してベッドにポスンと横たわる。
「首筋のキスが好きなんだよな、お前」
「んんっ……あぅ……そこは……っや、あ……っ……」
「沢山吸ってあげる」
「待っ……やめ……あ、……も……へんなこえ……出る……っ」
気持ちよさそうに勝行のキスを堪能しているくせに、嫌だと言って身を捩る。「変な声、聴きたい」と言いながら勝行は何度も何度も光の上半身を舐め吸い尽くしていく。
「俺のキスを全身で感じてくれてる証拠だろ……? だったらそれでいいんだ。俺は嬉しいよ」
「んっ……んぁあ……っ」
「ね……もっと聴かせて、光……愛してるよ」
「はっ……あ、あ……あぁんっ」
乳首を掌で擦ると、光の身体がぴくんと跳ねる。すっかりディープキスで感度が上がりきっているようだ。もっと可愛がってあげたいけれど、あまりやりすぎると体調に支障をきたしかねない。明日のテストはなんとしても乗り越えてもらわねば。
桐吾に傷つけられたあらゆる痕跡を全て食い尽くしたい衝動に駆られながらも、勝行は慎重に、丁寧に……ねっとりと愛撫を施していく。
(まだ時間はある……そう、俺たちには、未来があるんだ。だから)
君にゆっくり、砂糖仕立ての優しいキスを仕込んで……そのうち、このキスなしには眠れなくしてあげよう。
やがて規則正しい寝息を立てて眠りについた光を、そっとベッドの上に寝かしつけた。
「おやすみ……いい夢を視るんだよ。俺の光」
「よしよし……もう大丈夫だよ」
今度はすすり泣くような声が聴こえてきた。もしかしたら目覚めた時、隣に勝行がいなくて不安が募ったのかもしれない。
「ごめんね、コーヒー飲んでただけだよ。もうどこにもいかない」
髪、肩、背中、すべてを撫でながら、額にキスを落とす。それでもまだ小刻みに震えている。相当怖い思いをした何かを思い出したのだろう。
そんなもの、思い当たる節がありすぎる。
(あの父親のせいに決まってる……きっとあいつを思い出したからだ)
家族に裏切られ、家族に嬲られた子どもの苦しみは勝行にもわかる。親という生き物は本当に信用ならない。ならば自分はその悲しみの全てを取り除き、彼を真綿で包み込む兄のような存在であらねば。
零れる涙を舐めとり、光の耳元で囁いた。
「もっかいキスする?」
「……する」
涙まじりの小声で返事がかえってきた。身体は勝行の首にしがみついたまま、離れない。
「なら、こっち向いて?」
優しく強請り、頬に顔を摺り寄せながら光の上半身をゆっくり動かす。ようやくはがれた光は、まだぐずぐずと泣いていた。こんな顔、いつもの光だったらきっと見せてはくれないだろう。顔も土色だし、また熱を出してしまわないか心配だ。
(まだ覚醒しきってなさそうだな……)
「勝行……父さんが……血……死ぬ……っ……だ……や、だ……」
「ん……? なんて?」
光はうわ言のように何かを訴えながら、頬に添えられた勝行の手に顔を擦り付け、握り締める。
「ケガは……?」
「……俺はどこもなんともないよ」
(ケガ……血……? 思い当たるとしたら、俺があの男と最後に対峙したホテルでの一件かな。夢で思い出したのかな)
あの時何があったか、勝行の記憶は曖昧で肝心なところが抜け落ちている。けれど桐吾を殺すつもりで奴の部下から拳銃を奪い飛び込んだことだけは覚えていた。あの日殺人罪を犯さずに済んだのは、きっと光が必死に止めてくれたからだろうと思っている。あの時何か怖い思いをさせたのなら、申し訳ないと猛省するより他にない。だが今は、一秒でも早く話題を変えたい。
「大丈夫、俺はくだらないことで死んだりしないよ」
「……でも」
「ていうか、俺が今キスしてるのにさ、他の男のこと考えてるなんて、酷くない?」
半分冗談、半分本気まじりの愚痴を零す。ぐにっと頬を押しつぶし、思わず目を瞑る光にもう一度キスをした。
「どんな夢を視たのか知らないけれど」
「んっ……」
じゅるっと音を立て、舌をもうひと舐めすると、か細くも甘い喘ぎ声が聴こえてくる。その声は桐吾によって仕込まれたものではなく、自分との行為から感じてくれたのだと思いたい。
「俺以外のことなんて考えないで」
「……っ、あ……ふぁっ……」
光の性感帯――耳たぶ、頬のライン、首筋。鎖骨。上から順番に吸い付き、ちゅっちゅと音を立てながら、勝行は捕らえた獲物を味わうようにじっくり食んでいく。
「悪い夢は、俺が全部……上書きしてやるから。眠れるまで、逃がさないよ」
彼の舌を誘い、ぬくもりを舐め合う。顎に舌を這わせ、垂れた蜜を掬うようにざらりと逆走する。半開きになったままの唇に再び侵入を試み、その身に降りかかった悪夢を、過去の畏怖を一粒残らず吸い取ってやろうと言わんばかりの激しさで啜り続ける。
「……んっ……あ……ふぁ……」
トロンとした目で勝行の激しいキスを受け入れていた光が、やがて可愛い声で何度となく喘ぐようになってきた。もっとしろと言わんばかりに、はだけたシャツ襟から首を差し出してベッドにポスンと横たわる。
「首筋のキスが好きなんだよな、お前」
「んんっ……あぅ……そこは……っや、あ……っ……」
「沢山吸ってあげる」
「待っ……やめ……あ、……も……へんなこえ……出る……っ」
気持ちよさそうに勝行のキスを堪能しているくせに、嫌だと言って身を捩る。「変な声、聴きたい」と言いながら勝行は何度も何度も光の上半身を舐め吸い尽くしていく。
「俺のキスを全身で感じてくれてる証拠だろ……? だったらそれでいいんだ。俺は嬉しいよ」
「んっ……んぁあ……っ」
「ね……もっと聴かせて、光……愛してるよ」
「はっ……あ、あ……あぁんっ」
乳首を掌で擦ると、光の身体がぴくんと跳ねる。すっかりディープキスで感度が上がりきっているようだ。もっと可愛がってあげたいけれど、あまりやりすぎると体調に支障をきたしかねない。明日のテストはなんとしても乗り越えてもらわねば。
桐吾に傷つけられたあらゆる痕跡を全て食い尽くしたい衝動に駆られながらも、勝行は慎重に、丁寧に……ねっとりと愛撫を施していく。
(まだ時間はある……そう、俺たちには、未来があるんだ。だから)
君にゆっくり、砂糖仕立ての優しいキスを仕込んで……そのうち、このキスなしには眠れなくしてあげよう。
やがて規則正しい寝息を立てて眠りについた光を、そっとベッドの上に寝かしつけた。
「おやすみ……いい夢を視るんだよ。俺の光」
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