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第五節 結成、WINGS
#1
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朝から三年五組の教室は騒然としていた。
今までまともに来なかった金髪ヤンキー男が、小さくて可愛い友人に連れられ、朝から大人しく登校してきたからだ。
出席簿を持ってやってきた担任ですら「……え?」と目を丸くする始末。最後尾席の人間が宿題を回収する役目なのだが、それも隣の勝行に言われて見よう見真似で動く。普通に三年五組の生徒として、違和感なく行動できている光に、担任もクラスメイトも「どうなってんだ……」と戸惑うばかりだ。
「音楽室、行きたい」
「気持ちはわかるけど、今はその時間じゃない。我慢して」
ホームルーム中、勝手にフラッと出かけそうになるも、勝行が一度注意すると唇を尖らせながら席でじっとしている。すぐにウトウトして寝てしまうのはいつも通りだが、結局一度も席を立つことなく、勝行の指示が出るまでずっと教室の隅っこに居座っていた。
一学期の間は注意されるたび、勝行の席を蹴り飛ばしたり怒鳴っていたのに、今日はずっと勝行の指示に従い、暇な時間は窓の外を眺めてぼうっとしている。
「ちょっと相羽くん、凄くない? 夏休みの間に何かあったの!?」
委員長の中司藍が、休み時間になるや否や勝行の席にやってきてまくし立てる。
だが本当に凄いのは光の方だ。何も出来なかった人間がきちんと出来るようになったのだから、まずはあちらを褒めて欲しいと思ってしまう。何せ彼はこの年になるまで、小学生ですら知っている学校生活の常識を知らなかっただけなのだから。
「光の場合、できて当たり前の事……じゃなくて、できなくて当然だったんだよ。ただそれだけ」
「どういうこと?」
「夏休みの間に、ちょっとだけ特訓したんだよ。夏休みの宿題も一緒にやったから、全部提出したよ。優秀だろ?」
「えー! じゃあ誘ってよ、私も一緒に勉強したかった!」
「ごめんごめん、引退試合とか塾があって大変そうと思って遠慮してた」
「そういう相羽くんは、塾行かないの?」
「え、うん。そうだね、今のところは。光に勉強教えてたら、けっこう自分の復習になるから」
「くううう、なるほどねえ」
そういうお近づきの方法があったのか、と藍は地団駄を踏んでいた。あまりに悔しがるので、フォローを兼ねて「今日は一緒に勉強しようか」と提案する。
「しようしよう。どうせならお昼も一緒に食べよう、今日は午前授業だし」
「うん。いいよね……光も」
「……ん?」
「あ、聞いてなかったねごめん。放課後、中司さんと三人で一緒に宿題しようって話になって」
「は? なんで」
だが光はあからさまに嫌そうな顔を見せた。まずかったかと思いつつも、勝行は慌てて取り繕った。
「彼女だって、いつもお前の給食持ってきてくれたり、修学旅行一緒に行ったりしたじゃないか。友だちだろ?」
「……そうだっけ」
「えっ忘れたの、ひどすぎ。遊園地で具合悪くなった時、先生呼んできてあげたのに!」
光は誰だっけコイツ、とでも言わんばかりの目つきで、まだ藍を睨みつけている。どうやら藍と光の両方の機嫌を取りつつ、二人が仲良くなれるよう世話をする必要がありそうだ。面倒くさいことになったなと勝行はため息をついた。
「ハンバーガーとポテトとオレンジジュース奢ってあげるから、ね?」
「バンドの曲作りは?」
「宿題が終わってから。中司さんも教えてくれるから、すぐ終わるよ、きっと」
「…………わかった」
若干憮然としたままだが、条件に釣られて頷く光の姿を見てホッとする。まずは第一関門、突破だ。その様子を見ていた藍は、やはり素直な反応を示す光の様子にただただ驚いているようだった。
朝から三年五組の教室は騒然としていた。
今までまともに来なかった金髪ヤンキー男が、小さくて可愛い友人に連れられ、朝から大人しく登校してきたからだ。
出席簿を持ってやってきた担任ですら「……え?」と目を丸くする始末。最後尾席の人間が宿題を回収する役目なのだが、それも隣の勝行に言われて見よう見真似で動く。普通に三年五組の生徒として、違和感なく行動できている光に、担任もクラスメイトも「どうなってんだ……」と戸惑うばかりだ。
「音楽室、行きたい」
「気持ちはわかるけど、今はその時間じゃない。我慢して」
ホームルーム中、勝手にフラッと出かけそうになるも、勝行が一度注意すると唇を尖らせながら席でじっとしている。すぐにウトウトして寝てしまうのはいつも通りだが、結局一度も席を立つことなく、勝行の指示が出るまでずっと教室の隅っこに居座っていた。
一学期の間は注意されるたび、勝行の席を蹴り飛ばしたり怒鳴っていたのに、今日はずっと勝行の指示に従い、暇な時間は窓の外を眺めてぼうっとしている。
「ちょっと相羽くん、凄くない? 夏休みの間に何かあったの!?」
委員長の中司藍が、休み時間になるや否や勝行の席にやってきてまくし立てる。
だが本当に凄いのは光の方だ。何も出来なかった人間がきちんと出来るようになったのだから、まずはあちらを褒めて欲しいと思ってしまう。何せ彼はこの年になるまで、小学生ですら知っている学校生活の常識を知らなかっただけなのだから。
「光の場合、できて当たり前の事……じゃなくて、できなくて当然だったんだよ。ただそれだけ」
「どういうこと?」
「夏休みの間に、ちょっとだけ特訓したんだよ。夏休みの宿題も一緒にやったから、全部提出したよ。優秀だろ?」
「えー! じゃあ誘ってよ、私も一緒に勉強したかった!」
「ごめんごめん、引退試合とか塾があって大変そうと思って遠慮してた」
「そういう相羽くんは、塾行かないの?」
「え、うん。そうだね、今のところは。光に勉強教えてたら、けっこう自分の復習になるから」
「くううう、なるほどねえ」
そういうお近づきの方法があったのか、と藍は地団駄を踏んでいた。あまりに悔しがるので、フォローを兼ねて「今日は一緒に勉強しようか」と提案する。
「しようしよう。どうせならお昼も一緒に食べよう、今日は午前授業だし」
「うん。いいよね……光も」
「……ん?」
「あ、聞いてなかったねごめん。放課後、中司さんと三人で一緒に宿題しようって話になって」
「は? なんで」
だが光はあからさまに嫌そうな顔を見せた。まずかったかと思いつつも、勝行は慌てて取り繕った。
「彼女だって、いつもお前の給食持ってきてくれたり、修学旅行一緒に行ったりしたじゃないか。友だちだろ?」
「……そうだっけ」
「えっ忘れたの、ひどすぎ。遊園地で具合悪くなった時、先生呼んできてあげたのに!」
光は誰だっけコイツ、とでも言わんばかりの目つきで、まだ藍を睨みつけている。どうやら藍と光の両方の機嫌を取りつつ、二人が仲良くなれるよう世話をする必要がありそうだ。面倒くさいことになったなと勝行はため息をついた。
「ハンバーガーとポテトとオレンジジュース奢ってあげるから、ね?」
「バンドの曲作りは?」
「宿題が終わってから。中司さんも教えてくれるから、すぐ終わるよ、きっと」
「…………わかった」
若干憮然としたままだが、条件に釣られて頷く光の姿を見てホッとする。まずは第一関門、突破だ。その様子を見ていた藍は、やはり素直な反応を示す光の様子にただただ驚いているようだった。
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