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二度目の恋に、さようなら 2
しおりを挟む「以前少しお話しましたが、守護天使の私たちが番うことで、人は何度も転生し、天寿を全うすることができます。しかし十六年前、あなたの魂に守護は存在しませんでした。つまり、転生条件を満たしていない、平凡な魂だったのです」
「は……?」
あの時は不慮の事故で死んだ優良な魂だから好きなところに転生させてくれると言ったのに?
本当は転生なんて、自分の力ではできなかったということだろうか。
「あなたと私がお会いした場所は、朽ちる魂が辿り着く終焉の空――。本来ならばあなたはあそこで消滅する予定でしたが、享幸がどうしても貴方にもう一度会って謝りたい、生き返らせてくれと神に願ったので、声をかけさせていただきました」
「享幸が……? いったいいつ、どこで?」
「以前あなたが亡くなった直後ですよ。彼は出て行ったあなたを追いかけ、事故現場も目撃していた」
「……え……」
それは完全に初耳だ。あんなに良一との思い出を語ってくれたのに、そういえばどうやって死んだことを知ったのか、全く聞いていないことに気づいた。
「じゃ、じゃあ……享幸って、ぐっちゃぐちゃの俺を見た……ってこと?」
こくりと頷く天使の顔は少し意地悪に笑っている。
「私も見ました。首がこう吹っ飛んで、ただの潰れた肉塊と化した貴方の一部を抱きしめ」
「うわああ言うな言うな! 手で再現すんな! まじかよ……!」
想像しただけで吐き気を催しそうだ。今もし自分が享幸のそんな姿を見たら、とてもじゃないが正気ではいられない。享幸の当時の心境を考えるだけでも辛い。
「私は元々彼の魂の守護として番っておりました。番が神に命を懸けて祈る願いは必ず叶える。――我々が番と結ぶ誓約です。私は小池良一の魂と新たに番うことでこの世界への転生条件を満たし、彼の希望を叶えました。代わりに享幸の魂の守護は消え、これから肉体寿命と共に朽ち果てます」
「……じゃあこれから享幸が死ぬのは、俺のせい……」
「いいえ、彼の天命は元より決まっていたことです」
その寿命を操作することは神の仕事ではないという。
一気に老け込んだその外貌をもう一度見つめてみる。良一と死別した後、色んな想いを乗り越えながら築いた家庭を守って生き続けたその男の顔は、とてつもなく強く――同時に、傷つき疲れきった瀕死の戦士のようだ。
子どもの頃、母は良一の話をするなと何度も怒っていた。――彼の話をすれば父は病んで体調が悪くなるから、と尤もらしい理由をつけて。
過去の自分を忘れないでほしかった幸一は、《良一に似た息子》を演じて生きてきた。だが享幸にとってそれは、拷問に近いことだったのかもしれない。いつも澄まし顔でただ静かに笑っているだけだったから、全く気づけなかった。
(あれ……)
よく見れば天使と享幸はなんとなく似ている気がする。お人好しの塊のようなおじさん享幸に反し、スーツ天使は高校時代に惚れた当時の大人びた姿のような――。
「本日は、残り二つの願いを実行すべく地上に降りました」
「なんだよ、残り二つって……」
「幸一……?」
ふいに耳元で名前を呼ばれ、がばっと振り返る。うっすら目を開き、手を伸ばした享幸が幸一の頬を何度も撫でさすってくる。
「もっと一緒にいたかったけど……ダメな父親でごめん、な……」
「……とう、さ……」
言いかけた言葉を思わず飲み込み、幸一は意を決して十六年ぶりにその名を呼んだ。
「たかゆき……!」
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