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二度目の高校生活 3
しおりを挟む「……ごめん……」
「謝らなくても。俺もともと、母さん怒りっぽいし苦手だったんだ。だから離婚した時も、父さんについていくって言ったんだけど?」
「そうだったな……。だが離婚の理由は他に沢山ある。全部オレが悪かったんだ」
「父さんは悪くないよ。俺は今の生活楽しんでるぜ?」
嘘偽りのない笑顔を見せると、布団の中から安堵したような吐息がこぼれてくる。
父と二人、こうして過ごす時間は幸せそのもの。生前どんなリスクを背負っても、この権利をもう一度手に入れたいと願った。夢はもう叶ってしまったも同然だ。
だが人は強欲で、満足すると次の夢を描いてしまう。
(……父さんとセックスしたいって言ったら軽蔑するかな……)
昔から実直で堅実な男だった。絵にかいたような長男タイプ。しっかり者で頼られると断れない。だが親の刷り込みも激しくて、どんなに愛し合っていても同性同士の恋愛に最後まで踏み込めなかった。同性どころか近親相姦ともなればもってのほか、論外だろう。
滝沢家の長男として、結婚し家庭を持たねばならないという親の圧力に逆らえなかった彼は、男と付き合っている事実を誰にも言えずにいた。
だから良一は自ら別れを告げた。――ただの友だちに戻ろうと。
まさかその直後、永遠の別れがくるとは露にも思わなかったのだが。
(未練がましいなあ、俺)
自分からフッておきながら、好きだった人を諦められないまま、姿かたちをかえていつまでも傍にいる。恋人にはなれないとわかっていても、この気持ちを伝えたくて仕方ない。そして中にいるのは良一なのだと言えたら、どんなに幸せだろう。
享幸は結婚しても尚、まだ良一を好きでいてくれたのだ。
「ねえ父さん、変なこと聞いていい?」
「なんだ?」
「良一と俺、どっちが好き?」
「……本当に変なことを聞くんだな」
皺の増えた相貌。少し小さくなった気がする骨ばった手。闘病で筋肉の落ちた細い腕。どれも全部、良一だった時には見られなかった老いの姿。外してもらえない点滴の中には睡眠作用のある痛み止めが含まれているから、すぐにうつらうつらと眠ってしまう。まだ四十代半ばなのに、まるで隣の病床の老爺のようだ。
子どもだという理由で、享幸の病状や容体については詳しく聞かせてもらえない。もしかしたらの不安もよぎる中、幸一は祈るように呟いた。
「俺は……父さんが好きだよ……だから早く元気になって」
「……ありがとう。もちろん父さんも、幸一が好きだよ」
(その好きって気持ちは、ただの親心だろ)
俺の好きは、次元が違うんだよ。天上界の天使も認める大恋愛なのだから。
幸一はそっとマスクを外すと、すっかり寝入った父の枕もとに顔をよせ、かさつく唇に己を重ねた。
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