上 下
6 / 13

二度目の高校生活 3

しおりを挟む

「……ごめん……」
「謝らなくても。俺もともと、母さん怒りっぽいし苦手だったんだ。だから離婚した時も、父さんについていくって言ったんだけど?」
「そうだったな……。だが離婚の理由は他に沢山ある。全部オレが悪かったんだ」
「父さんは悪くないよ。俺は今の生活楽しんでるぜ?」

 嘘偽りのない笑顔を見せると、布団の中から安堵したような吐息がこぼれてくる。
 父と二人、こうして過ごす時間は幸せそのもの。生前どんなリスクを背負っても、この権利をもう一度手に入れたいと願った。夢はもう叶ってしまったも同然だ。
 だが人は強欲で、満足すると次の夢を描いてしまう。

(……父さんとセックスしたいって言ったら軽蔑するかな……)

 昔から実直で堅実な男だった。絵にかいたような長男タイプ。しっかり者で頼られると断れない。だが親の刷り込みも激しくて、どんなに愛し合っていても同性同士の恋愛に最後まで踏み込めなかった。同性どころか近親相姦ともなればもってのほか、論外だろう。

 滝沢家の長男として、結婚し家庭を持たねばならないという親の圧力に逆らえなかった彼は、男と付き合っている事実を誰にも言えずにいた。
 だから良一は自ら別れを告げた。――ただの友だちに戻ろうと。
 まさかその直後、永遠の別れがくるとは露にも思わなかったのだが。

(未練がましいなあ、俺)

 自分からフッておきながら、好きだった人を諦められないまま、姿かたちをかえていつまでも傍にいる。恋人にはなれないとわかっていても、この気持ちを伝えたくて仕方ない。そして中にいるのは良一なのだと言えたら、どんなに幸せだろう。
 享幸は結婚しても尚、まだ良一を好きでいてくれたのだ。

「ねえ父さん、変なこと聞いていい?」
「なんだ?」
「良一と俺、どっちが好き?」
「……本当に変なことを聞くんだな」

 皺の増えた相貌。少し小さくなった気がする骨ばった手。闘病で筋肉の落ちた細い腕。どれも全部、良一だった時には見られなかった老いの姿。外してもらえない点滴の中には睡眠作用のある痛み止めが含まれているから、すぐにうつらうつらと眠ってしまう。まだ四十代半ばなのに、まるで隣の病床の老爺のようだ。
 子どもだという理由で、享幸の病状や容体については詳しく聞かせてもらえない。もしかしたらの不安もよぎる中、幸一は祈るように呟いた。

「俺は……父さんが好きだよ……だから早く元気になって」
「……ありがとう。もちろん父さんも、幸一が好きだよ」

(その好きって気持ちは、ただの親心だろ)

 俺の好きは、次元が違うんだよ。天上界の天使も認める大恋愛なのだから。
 幸一はそっとマスクを外すと、すっかり寝入った父の枕もとに顔をよせ、かさつく唇に己を重ねた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

こっそりバウムクーヘンエンド小説を投稿したら相手に見つかって押し倒されてた件

神崎 ルナ
BL
バウムクーヘンエンド――片想いの相手の結婚式に招待されて引き出物のバウムクーヘンを手に失恋に浸るという、所謂アンハッピーエンド。 僕の幼なじみは天然が入ったぽんやりしたタイプでずっと目が離せなかった。 だけどその笑顔を見ていると自然と僕も口角が上がり。 子供の頃に勢いに任せて『光くん、好きっ!!』と言ってしまったのは黒歴史だが、そのすぐ後に白詰草の指輪を持って来て『うん、およめさんになってね』と来たのは反則だろう。   ぽやぽやした光のことだから、きっとよく意味が分かってなかったに違いない。 指輪も、僕の左手の中指に収めていたし。 あれから10年近く。 ずっと仲が良い幼なじみの範疇に留まる僕たちの関係は決して崩してはならない。 だけど想いを隠すのは苦しくて――。 こっそりとある小説サイトに想いを吐露してそれで何とか未練を断ち切ろうと思った。 なのにどうして――。 『ねぇ、この小説って海斗が書いたんだよね?』 えっ!?どうしてバレたっ!?というより何故この僕が押し倒されてるんだっ!?(※注 サブ垢にて公開済みの『バウムクーヘンエンド』をご覧になるとより一層楽しめるかもしれません)

涙は流さないで

水場奨
BL
仕事をしようとドアを開けたら、婚約者が俺の天敵とイタしておるのですが……! もう俺のことは要らないんだよな?と思っていたのに、なんで追いかけてくるんですか!

好きなあいつの嫉妬がすごい

カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。 ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。 教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。 「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」 ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

【完結/R18】俺が不幸なのは陛下の溺愛が過ぎるせいです?

柚鷹けせら
BL
気付いた時には皆から嫌われて独りぼっちになっていた。 弟に突き飛ばされて死んだ、――と思った次の瞬間、俺は何故か陛下と呼ばれる男に抱き締められていた。 「ようやく戻って来たな」と満足そうな陛下。 いや、でも待って欲しい。……俺は誰だ?? 受けを溺愛するストーカー気質な攻めと、記憶が繋がっていない受けの、えっちが世界を救う短編です(全四回)。 ※特に内容は無いので頭を空っぽにして読んで頂ければ幸いです。 ※連載中作品のえちぃシーンを書く練習でした。その供養です。完結済み。

振られた腹いせに別の男と付き合ったらそいつに本気になってしまった話

雨宮里玖
BL
「好きな人が出来たから別れたい」と恋人の翔に突然言われてしまった諒平。  諒平は別れたくないと引き止めようとするが翔は諒平に最初で最後のキスをした後、去ってしまった。  実は翔には諒平に隠している事実があり——。 諒平(20)攻め。大学生。 翔(20) 受け。大学生。 慶介(21)翔と同じサークルの友人。

【完結済み】準ヒロインに転生したビッチだけど出番終わったから好きにします。

mamaマリナ
BL
【完結済み、番外編投稿予定】  別れ話の途中で転生したこと思い出した。でも、シナリオの最後のシーンだからこれから好きにしていいよね。ビッチの本領発揮します。

平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。

しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。 基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。 一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。 それでも宜しければどうぞ。

男とラブホに入ろうとしてるのがわんこ属性の親友に見つかった件

水瀬かずか
BL
一夜限りの相手とホテルに入ろうとしていたら、後からきた男女がケンカを始め、その場でその男はふられた。 殴られてこっち向いた男と、うっかりそれをじっと見ていた俺の目が合った。 それは、ずっと好きだけど、忘れなきゃと思っていた親友だった。 俺は親友に、ゲイだと、バレてしまった。 イラストは、すぎちよさまからいただきました。

処理中です...